そして決着です。
「そんな平然と突き出すなど……」
そう言って払ってきた腕を掴む。
圧し折るために捻っていく。
ジレンが力づくで外そうとするが抵抗すら許さない。
「ハアッ!!」
逆に風車のように回って回転の反発力でこちらの腕から逃れる。
そして背中を取ると上空へと打ち上げる。
サーフボードのようにオレの上へと乗る。
「『山龍牙』!!」
地面にめり込ませてくる。
そこから抜け出す。
体がぐらりと揺れた。
「オレを目覚めさせるだけはあ……!?」
頭の中で声が響く。
すぐさまあの衝撃から戻ってくるとは。
彼方に居ればいいものを。
「あの男を完全に追いやるなど無理なのだ」
そう言って抱え込まれる。
地面に叩きつけられる。
そして上空へとジレンが飛び上がる。
「俺の責任ではある……」
そう言いながら技を放とうとする。
その構えは、見覚えがあるものだった。
両手で放つ技でこの気の高まりは……
「お前を連れ戻すには関わり合ってきた人間の技で打ち倒すのが最適だ……」
.
.
「あの野郎、俺の技を……」
だがそれはどうでもいい。
あんな状態のあいつを見たくない。
いつもの優しいあいつに戻ってほしい。
皆がきっとそう思っている。
「『ファイナルフラッシュ』!!」
俺より断然太い真紅の光線がガタバルへ直撃する。
それでもあまり効いていないようでむくりと起き上がる。
だがジレンの猛攻は終わらない。
「『ゴールデン・デス・クラウン』!!」
フリーザの技で呑み込まれていく。
地面へ埋もれていき、気の余波がこちらまで押し寄せる。、
そして、あいつは這い出てジレンを睨み付けた。
「『魔穿撃滅波』!!」
ピッコロの技が放たれるが両手で受け止める。
その技だけでは終わらせない。
一瞬、時が止まったような錯覚……
「『時飛ばし』……」
吹っ飛んでいく。
まさか正義の象徴が、一人を戻したいために罪になるような技を使うなど……
お前はそれだけの心を受け止めても何も響かないのか!!
いつまで寝ていやがる!!
「がはっ……」
頭を押さえながら立ち上がる。
その隙を逃しはしない。
腹に手を当てて追撃をする。
「『リベリオントリガー』!!」
吹き飛ばされて観客席の壁にぶつかる。
崩れ落ちずに足をつけてジレンへ向かっていく。
「やはり邪悪なものに機微などないか……」
悲しみに満ちた眼差しでガタバルを見ていた。
弱くなってしまった好敵手に。
己の軽率さがこの戦いへ傷をつけたのだと。
「『爆力魔閃』!!」
悟飯の技でカウンター気味に吹き飛ばす。
それを追いかけるように頭を掴んで叩きつける。
掌に気が集まっていく。
「『ギガンティックミーティア』!!」
ブロリーの技でとどめとなる。
最大級の威力の技を立て続けに放ったジレン。
肩で息をするほどとはな。
まあ、無理もない。
都合、七度の大技。
最後にとてつもない大きさの気弾を頭部へ直撃させた。
地面全体が陥没してしまう一撃。
それが終わるとジレンは背中を向けて歩いていく。
再びガタバルが起き上がる事を確信している。
中心までジレンが行った所で俺の耳にもあの声が聞こえた。
「ぬぐぐ……」
片手をついてよろめくように起き上がる。
気の質が変わっている。
どす黒さは無くなり太陽のような錯覚もない。
本来のあるべき姿に戻っている。
「すまない……」
立ち上がってジレンを見る。
『身勝手の極意:兆』の状態となっている。
やはりピオーネ以外には極めた姿を出せないのか。
「いや、ウォーミングアップをしただけだ、気にするな」
そう言ってさらに気を噴出させるジレン。
こいつ……底なしか。
いや、きっとガタバルが戻った時の為にまだ温存しておいたのかもしれない。
第3ラウンドが始まろうとしていた。
.
.
頭部への一撃を喰らってから遠い彼方に居た。
そこから技をくらい、光が見えてきた。
その光へと進んでいき、何とか自分の意識を取り戻す事が出来た。
戻る間に吹っ飛んでいくもう一つの意識があった。
どこかわからない、俺よりも遥か彼方。
もう二度と目覚めることの無いような場所にまで追いやられているだろう。
「待たせてすまなかった」
必死に向かっていたがそれでもこれだけかかってしまった。
これまでやって絞り切らずに戦うことこそ、敗北こそお前への侮辱。
今出せる全てで、疲弊したお前と相対しよう。
「ハアッ!!」
前蹴りを放つ。
それを回避するが瞬間移動。
頭上に出て『フランケンシュタイナー』で投げる。
くるりと反転させて着地を決めるが追撃も用意してある。
「背中にいるんだぜ!!」
『チョークスリーパー』で絞め落としにいく。
首の筋力で弾きだそうとするが無駄だ。
このまま決め……
「うおおおお!!」
ジレンが雄たけびを上げて走り出す。
その先には観戦席の壁。
すぐに察した俺は離れようとする。
しかし間に合わずにジレンの思惑通りの一撃を喰らった。
「ぐはっ!!」
腕を離してしまい壁からずり落ちるところをジレンは逃さない。
体をこちらに向けて拳を構える。
そして弓を引くように勢いをつけて……
「ふんっ!!」
腹部へもろに一撃が入る。
一気に攻撃を加えてきた。
一撃の重さも速度も変わらず絶え間なく打ち続けられる拳。
腹筋を総動員して軽減するが……
「ぐふっ!!」
血反吐が出る。
内臓へのダメージがかなりあるということだ。
それを延々と打ち続けられる。
僅かな隙を見つけてこの流れを止めないと……
「ふっ……」
呼吸というよりも力を込める瞬間。
この間に両腕を脇に挟んで逃れようとする。
正直『身勝手の極意』でもここから抜け出すような動きなどあるはずもない。
瞬間移動の集中すら不可能なのだから。
「甘い……!!」
グイっとこちらの脇から腕を引き抜く。
そして体勢を変えて足に力がこもっていく。
体重をかけて放とうとしている。
「終りだ!!」
その言葉とともに空気が爆ぜる。
気づくころに足が腹部にめり込む。
これは好機だ。
ここを凌ぎきる。
壁を突き破る。
「終わったか……」
腹部にめり込んでいる足を引き寄せていく。
最後に掴もうとした抵抗。
顔を俯かせて気まで消した。
最後の技を叩き込むために。
「ハァア……」
口から漏れ出るのは気合。
執念にも似た瘴気。
勝利を手繰り寄せるための芝居。
その成就が目の前に迫る。
「ぐっ!!」
危機感からジレンがすぐに振り払おうとする。
しかしもはや手遅れ。
お前の懐に既に入った。
魂を捧げる一撃を、お前に。
「『ソウル・オブ・サイヤン』!!」
腹部に完全に入る。
毛先一本分も残らない一撃を。
全てを捧げる。
ジレンも回避できず喰らっていく。
「がああああ!!」
振り抜いてそのままその場を一回転。
ジレンは吹っ飛んでいきそのまま逆方向の壁を突き破っていく。
俺はそのまま背を抜けている。
俺の全力をかけた一撃。
その一撃は決まったのだ。
それで仕留められていないなどとは思わない。
今まで苦楽を共にした肉体の全てをかけているのだ。
その信頼は微塵も揺るぎはしない。
「……参った」
耳に聞こえた言葉。
それはジレンの降参だった。
何事かと思って皆が視線を向ける。
俺もその言葉を聞き視線を向けた。
「指一本も動かせん……」
這いずってこちらに向かってくる。
全力の一撃が自由を奪って立つことさえ許さない。
このまま踏みつけるなりして気絶させればこちらの勝ち。
それを分かっているからこそ、降参を選んだのだろう。
だが言える事は……
「お前が俺を連れ戻さなければ勝っていただろう」
俺という存在のために戦ったが故の敗北。
放っておけばジレンの勝利だっただろう。
ビルス様や全王様の出番になっていたかもしれない。
「有難う」
その言葉を言ってジレンを抱え込む。
勝利を譲ってもらったような形だ。
もう力なんて欠片程度も残っていない。
だがこれだけしてもらって棄権なんて言えない。
戦うだけは戦って散ってしまおう。
俺は第11宇宙の人たちが集まっている場所にまで運んでいった。
.
.
「ジレンの正義の琴線に触れるほどの邪悪な力……」
俺達は戦いの生末を見届けていた。
一度勝った相手だから優勢に進められる。
ジレンの強さへの信用も有り、そう信じていた。
だが相手の心の反転。
あれは傍から見ても恐ろしいものだった。
利己的故に一回戦のあの状態を任意で引き出す。
きっと俺があの場に居ても同じ決断だっただろう。
もしくは殺してでも……
しかしジレンは力で引き戻した。
「すまない……」
座り込みながら謝罪をするジレン。
今までならば決して俺達にこのような事を言わなかった。
どこかあの男と触れて柔らかくなったような気がする。
俺達がいえる事はこれだけだ。
「謝るな、お前は十分にやってくれた」
俺が残っていればお前が気負う事もなかった。
俺達のふがいなさがお前に背負わせすぎた。
本来であればこちらが謝ってしかるべきなのだ。
「あの男と続けていれば勝てていたか?」
無論、邪悪な方という意味だ。
引き戻すような真似をしなければどうだったのか。
其れゆえに勝利を手放したのかどうかが知りたい。
「いや、負けていた」
その答えに驚愕する。
どうやらジレンは徐々に力を上げているという事に気づいたらしい。
つまりはあのままならばジレンの強さを超えて負けていた。
サイヤ人の特性が一気に溢れてしまったのか。
恐ろしい事だ。
「だからもし負けるとしても納得のいく形を作った」
邪悪なあいつに負けるのであれば、せめて清廉なあいつでと。
結果としては紙一重になってしまった。
そう呟いた瞬間、なんとなくわかった気がする。
負けてもあの優しい目の男ならば納得できてしまう。
「お前らしい形で良かった」
ベルモッド様がジレンに言う。
その声には悲しみもなくただ楽しんだというような喜びの声だった。
「邪悪を許容して勝利するお前など見たくないからな」
助けずに絞め落として一時的に止めることもできた。
それをしないからこそ、お前という存在がある。
「こっちは別に今より上を望んではいない」
消滅があると思っていたから必死であって、そんな地位に執着はしていない。
そう言って肩をすくめていた。
「今日で五分ならば次こそ決着をつければいい」
その時まで錬磨をしよう。
そう言うとジレンは頷いて疲労からか眠りにつくのだった。
ジレンが目を覚まさせるために最大奥義のオンパレードとかいう主人公みたいなことしていました。
なお、今回ジレンが使用した全ての技は今回限りです。
邪悪バージョンは今回ぐらいですね。
頭部ダメージによる覚醒は絶対使う予定でしたので消化できて何よりです。
指摘などありましたらお願いいたします。