とある一族の落ちこぼれ   作:勿忘草

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未来ガタバル回です。
クローン20号も変わるきっかけの存在としてのものです。
人造人間のナンバリングなどで混乱させてしまいますがすみません。


『庇護なる芽生え』

あれから放浪するように散策をする。

トランクスたちはどうやら目的として合流できたようだ。

あの時、ミクロバンドで忍びこの世界に来た。

だがあの足部分にしがみついてきた奴が居る。

 

「20号の奴が追いかけてくるとは思わなかった」

 

何故に追いかけてきたのか。

わざわざリスクの高い真似は必要ない。

自分たちが壊される危険性を考慮して、今の間につぶすつもりだったのか?

 

そんな事を考えていると町に入っていく。

どうやら大きな都のようだ。

人もたくさんいるしおしゃれな格好をした男女が歩き回っている。

 

街中を歩いているとある男性が店から出てきた。

しかし次の瞬間、後ろから殴られて何かを取られる。

治安が悪いな。

そう思いはしたがそいつを追いかけていた。

切羽詰まった顔で男性は追いかけようとしていた。

頭から血を流しているにもかかわらずだ。

こう考えると都会の奴らは情が薄い。

凶器を持っているからだろうが怯えて誰も近寄らない。

 

「返してもらおうか」

 

俺は追いかけてすぐにその奪った相手の前に立つ。

車に乗り込もうとしたが……

 

「フンッ!!」

 

車を蹴り飛ばしてひっくり返す。

逃げられると思うなよ?

 

「うっ、うわぁ!!」

 

驚きながら攻撃を仕掛けてくる。

随分器用な真似をしてるが、こんなもの避けるまでもない。

 

「シャア!!」

 

蹴りで凶器を切り裂く。

カランカランと音を立てて転がるさまを見て相手は冷や汗をかいていた。

 

「素直に返した方が身のためだぞ」

 

次はもう命はない。

そう、相手は本能的に感じ取ったのだろう。

そそくさと取り出してこちらに渡す。

そのまま後ろを向かずに去っていった。

これにて一件落着か。

 

「さて……渡しに行くか」

 

一体何をとったのだろうか。

気にはなるが上はふんわりというか手触りのいい箱だ。

傷もついていないことだしこれでいいだろう。

 

「ありがとうございます!!」

 

男性が嬉し涙を流している。

そんなに戻ってきて嬉しいのか。

この感謝の言葉で満たされる。

しかし気になるのは一体何なのか?

どうやら殴られた場所は『宝石店』の前だったらしい。

 

「一体何が入っているんだ?」

 

聞くとどうやら男性はプロポーズの予定だったらしい。

その告白のための指輪を宝石店で買ったのだ。

それと同じものがまだ宝石店にあると聞いて、別段結婚の予定があるわけでもないが興味本位で見に行った。

 

「これが『ラピスラズリ』か」

 

男性が買った指輪と同じものを宝石店で見せてもらった。

非常に美しい瑠璃色の宝石だった。

これを送られれば女性も相思相愛であれば受け入れるだろう。

まあ、相思相愛であれば宝石がなくても問題はない。

言葉ではなく形が欲しいという事なのだろう。

 

「いいモノ見たな、どこかへ泊まろう」

 

地味にお金は今回の旅でも不慮の事態がないように持っている。

宿泊施設にとまらないと俺にとっては肩身が狭いだろう。

 

「しかし、そうは言っても多少の調査はしないとな」

 

そう言って、俺は宿泊施設を探す前に険しい岩山や荒野に来ていた。

悪人どもが身を隠すにはうってつけの場所だ。

何より千里眼で人の手で作られた洞窟を見つけた。

そこに行けば何かがわかる。

 

「相手も着実に手を伸ばしていやがるってわけか」

 

そう言っていると気配を感じる。

よく見ると白髪の青年がそこには居た。

見てきた人造人間にあんな奴はいない。

雰囲気も普通の奴らとは違っている。

目には人生の知識を蓄えた光がある。

 

「技術の全てをつめ込んだような奴だ」

 

全力を尽くして作られた存在。

その完成形のために何かを調達しているのか?

アジトに何があるのか?

その確認をする。

今回の敵は間違いなく奴らなのだから。

 

「偉いもんだな、これは……」

 

入った直後、目に飛び込んできたのは異様な数の機械。

その中には人工生命体を作るような試験管などの器具も見受けられる。

そして不自然な地面があった。

 

「地下に何かがあるな……」

 

そう言って地下に潜り込んでいく。

その部屋の中にあったのは夥しい数のコンピューター。

試験管やクローンの作成についての論文。

人造人間についても書かれている。

 

「そして中央にあるのは……」

 

細胞単位から作られる人造人間。

その膨大な演算を行っている。

だが違和感があった。

この時代にそぐわないようなあまりにも高次的な演算がいくつも含まれている。

 

「俺が見た時の人造人間もこの時代に来ていたのか」

 

そうなればこれは壊しておくべきだ。

現代の奴らにとっても厄介な相手をみすみすと生んでしまうからな。

 

「『レオパルド・ストローク』!!」

 

腕に気を宿して一振りする。

すればその風圧で紙は舞い上がり、気で焼き尽くされていく。

その勢いはやまずに最重要な機材を粉砕していき塵一つ残さない。

たった一撃で全壊した。

数瞬前まで『研究所』だった場所の残骸が無残にもちりばめられている。

最後にその残骸からは何も起こらないように念入りに気で消し去っておいた。

 

「上に戻ってきたが……」

 

人が入っているカプセルを見つけた。

さっきの地下で見た論文。

そしてこの中に入っている女性を見て察する。

 

「どうやら20号のクローンのようだ」

 

クローンにして眠らせた状態で改造、機能停止による睡眠状態。

何かしらの機能を組み込むために眠らせたか?

そうでもなければ、即座に目覚めさせても支障はないはずだからな。

 

「これが目覚めさせるボタンか」

 

特に何も考えずに押す。

襲い掛かられても問題ないという自負からだ。

徐々に機械のフタが開いていく。

 

「んっ……」

 

光を遮断するフィルタだったのだろう。

本能的に眩しさに顔を背けながら、子供が目をこするような仕草で目覚める。

目を開けてこちらを見てくるが、何か名前を付けてあげないとな。

人造人間何号というのも可哀想だし…

 

「お前の名前はラズリだ」

 

瑠璃色の目を見た時、不意にあの宝石の名前が頭に思い浮かんだ。

ラピスだと男の名前みたいだからな。

下のラズリの方が女性らしいだろう。

 

「終わったから行かないとな、お前はどうする?」

 

そう言うと服を掴んでくる。

鳥や動物の刷り込みに近い現象だ。

初めて目にした俺に懐いている。

なるほど、クローンで作ることでこの機能を組み込み忠実な存在を作る。

考えたもんだ。

 

「じゃあ一緒に行こうか……」

 

もうこうなると放置するわけにもいかない。

連れて行かないと。

そういって手を取る。

空は飛べるようだ。

一般人をここまでの力にするとは恐れ入ったな。

 

.

.

.

 

折角、完全体になったというのに研究所に戻ってきたらこの惨状。

憤怒が体をこみ上げる。

『現代』のセルは見事に消されていた。

さらには……

 

「20号を連れていきおったな……」

 

せっかくここまで完成させることができた力。

それを目覚めさせたのだろう。

そして創造主であるワシではないものについていった。

従順なものとしても完成していたのだ。

悲願であった強く従順なもの、復讐の力。

それらを盗人にかすめ取られてしまったのだ。

 

「許さんぞ、血祭りにあげてやる!!」

 

叫びながら壁を叩く。

その一撃はすさまじく、洞窟を半壊させてしまった。

生き埋めにはならずに済んだ。

今からはセルのように放浪するまでだ。

盗人を探して殺すためにな。

 

.

.

 

「お前ら……そんなに目くじら立てるなって」

 

現代の俺が、未来の俺がいる事を伝えたのだろう。

そしてトランクスと悟飯が俺を見た後、視線をラズリに向けた瞬間襲い掛かったのだ。

それを食い止めたら、今度はなぜかばうのかという様に俺を睨んでいる。

 

「これはこの現代で別に生まれたものだ、しかもクローン体でな」

 

そう言ってラズリの頭をなでる。

目を細めて気持ちよさそうにする。

まるで小動物のようだ。

 

「ドクターゲロはやはり悍ましい技術者ですね」

 

クローンと聞いて青ざめるトランクス。

確かに地球では倫理問題とやらもある。

宇宙の中でもあまりいい顔はされない。

 

「お前らは刷りこみっていう機能は知っているか?」

 

まさか、こんな動物の本能的なものがあったのは驚きだった。

きっと何かしらの改造を施した際に、自分の言う事を聞くようにしたかったのだろう。

悪人にならないように俺が保護をしたのは間違いではなかったはずだ。

 

「確か動物が最初に見たものを親と認識することですよね」

 

悟飯が言ってくる。

親としての認識か。

まあ、別に構わないのだが。

どういった見方を今後こいつにされるのだろう

あと、これは俺が教育して育てていくしかないのか?

見た目はもうすでに18歳ぐらいだぞ。

この状態のこいつをドクターゲロの奴はどうするつもりだったんだ?

 

「そうだ、俺が目覚めさせたため俺に懐いている、そしてこっちには善悪がいまだにない幼い子供のような存在だ」

 

だが悩んでも仕方ない。

吸収力が高ければ分かっていくだろう。

もしくは知能は水準としてあるが目覚めた直後で脳が働いていないだけかもしれない。

今後に期待というわけだ。

 

「じゃあ、うまくいけばこっちの味方に……」

 

トランクスは笑顔でいってくる。

確かに期待はしたいけれど、そうそううまい話というわけでもない。

 

「実力はまだ未知数だが善の存在としてこちらの戦力になってくれるだろう」

 

未知数というのはあくまで強いというわけではない。

従順になった結果、弱い状態の可能性もある。

いずれにせよ、こいつの面倒を見るのは俺だ。

気を付けないとな。

 

「ちなみにお名前は?」

 

俺が人造人間という様な呼び方をしないように配慮したのをわかっているか。

まあ、名前の区別としては番号よりはるかにましだろう。

 

「ラズリと名付けた、未来に連れて帰る予定だ」

 

このまま、全てが終わった後にこの世界においてしまうと、今の人造人間とごっちゃになってしまう。

そして懐いている以上、引き離すわけにもいかない。

もっと言うと、俺たちの世界の存在だ。

それならば連れ帰るべきだろう。

 

「まあ、現代と混乱があるのでそれでいいかと」

 

そんな事を話していると一つの気配が下りてきた。

どうやら俺達の世界の20号のようだ。

ちなみにこの世界では番号ズレがあって、17号、18号らしい。

 

「あんたら、それが現代の私かい?」

 

20号がラズリを見るなり言ってくる。

そうではないと否定しないとな。

 

「違う、俺達よりもさらに未来の存在が作ったお前のクローンだ」

 

こうしてみると違いがよくわかる。

善の人造人間。

悪の人造人間。

姿、形も同じなのにあまりにもその眼の光には違いがあった。

片や、勝手に改造された絶望に染まった目。

片や、明るい光に満たされた目。

その差は歴然である。

 

「そうかい、まあ関係ないね」

 

そう言ってラズリに気弾を放つ20号

その気弾を俺が庇う様に弾き飛ばしていた。

避ける仕草がまるでない。

本当に無垢な存在なのだろう。

 

こいつを守ってやらないといけない。

そう考えた瞬間、何かの歯車がかちりとはまった音がする。

自分が今までどこかわからないところに迷い込んだままだった中に一筋の光が見えたような感じだ。

 

「俺が何とかしないとこいつは死んでしまうんだ……」

 

今、俺がなんとかしないと本当にラズリは死んでしまう。

トランクスたちのいう事は聞いてくれないはずだからな。

本当に自分が救ってやるべきもの。

それが今ここにいる。

 

「……」

 

無言で気弾を放つラズリ。

さっき弾き飛ばした瞬間に気弾の作り方を身に着けたのか?

 

「くっ!?」

 

20号は飛んで回避をするが、ラズリがそれより速く後ろをとって踵落としを決める。

地面に叩きつけられる20号を見て思った。

ラズリの方が明らかに強い。

徐々に機能的なものが目覚めてきているのだろう。

だが人殺しにはさせない。

 

「大事な人の前で負けるわけにはいかない」

 

機能も頭、身体も完全に目覚めてしまったようだ。

大事な人ってなんだかこそばゆいな。

今までそんな事を言われたこともない。

 

「くっ……」

 

20号は起き上がる。

しかし、その顔には焦りがあった。

まさかこんな差があったのは予想外だろう。

 

「ラズリ、見逃すんだ」

 

俺はラズリに指示を出した。

俺たちが手を下さねばならない。

特にトランクスや悟飯はな。

 

「良いの?」

 

そう言って振り向いてくる。

俺は頷いてこっちへ手招きをした。

 

「あとは俺たちに任せるんだ」

 

そう言った隙に逃げ去っていく。

どうしようもないと理解したのだろう。

 

「あの人は私で、私はあの人なの」

 

そう言って寄りかかってくる。

まさかとは思うが……

俺の額に冷や汗が伝る。

 

「私はあの人と同一化できるの」

 

やっぱりそうだったか。

きっと主人格は強い側になるんだろう。

そうなるとおまえは消えない。

だからあいつと融合することは止めない。

もし、そうでないならばやめてほしいがな。

 

「とにかく、事情を説明して悟空さん達と合流しましょう」

 

まあ、それでいいのか

仮にラズリを壊そうとした瞬間庇う。

その結果で俺だけはずれにされようが構わない。

 

「それじゃあついてきてください」

 

悟飯がそう言って舞空術で浮いていく。

ラズリも浮いていく。

俺はそれを見ながら並び立つように浮き上がった。

全員が同じ目線になった瞬間、一気に目的地へと向かっていく。

風を切る音を四つ伴って、俺は現代のカカロットたちに会いに行くのだった。




今回でゲロ陣営はセルとゲロのみとなりました。
ラズリは公式での18号の名前です。
これから先は修行回などでやっていく予定です。

指摘などありましたらお願いします。

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