とある一族の落ちこぼれ   作:勿忘草

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前回から10年経過させてますが、その合間の話はきちんと投稿します。
主人公だけではなくヒロインの戦闘力も10年で上がっています。



青年時代
『時は流れ、強き戦士へと』


あの日、セッコ・オロで拳闘士になってから早くも10年近くが過ぎた。

初めの頃は相手との実力が拮抗していたので死にかけるような戦いが多かった。

しかしその都度ピタル製メディカルポットを使い、傷ついた体を癒してきた。

そのおかげで段々と力を伸ばす事が出来て、今やチャンピオンと戦う権利を持つまでになった。

惑星の力自慢、喧嘩自慢が集まるとだけあってその強さは伊達ではなかった。

しかしあの初めて見たときに戦慄さえ覚えた女性。

あれは別次元だろう。

事実、あの日から10年たった今もまだ負けていないのだから。

この惑星の生ける伝説と言われているのも納得できる。

 

「ふぅうう……」

 

息を吐き出して気持ちを落ち着ける。

今までの戦いでも、今日の戦いに勝る事は無い。

ピタルでの豹は死と隣り合わせだった。

挑戦者の権利を得るまでの今までの戦いはそれに加えて、緊張や期待が重くのしかかって苦しい事もあった。

 

今まで格上と戦った経験はあった。

しかし戦闘力では俺の方が高かった。

ここでいう格上とは経験則や引き出しの多さなどで補強されている人達の事を指している。

しかしそれでも一枚、もしくは歩数で言えば半歩先と言った部分だった。

 

初めから自分より遥かに強いと分かっている相手に挑むなどラディッツさん以来である。

しかし、そんな心とは裏腹に沸き立っている。

俺に流れている戦闘民族の血がこれから始まる戦いに対する不安を拭っているのだろう。

今までにない強者との戦い。

その喜びに打ち震えていて、感情の天秤を大きく傾けている。

 

威風堂々と入場してくるチャンピオン。

それを見て俺はこの10年で染み付いた一本拳の構えをする。

気合十分と言った表情でピオーネを見据えていた。

 

.

.

 

「わざわざ戦い見たさにこのような場所にまでくる必要があるんでしょうか?」

 

俺はある人と一緒に『セッコ・オロ』に観戦に来ていた。

フリーザ様からも仮にこの惑星にめぼしい者が居たらスカウトしても構わないと言われている。

 

「キュイさん、これでいいのですよ、一番の娯楽が戦いであるこの場所ならばいいものがみれるでしょう」

 

ルビコラと言われるサイヤ人の女性。

フリーザ軍技術部でもかなり有能かつ敏腕な人材である。

その技量や開発力はサイヤ人でありながらフリーザ様からも信用されているほどだ。

 

「お眼鏡に叶うほどのものになればいいんですがね……」

 

ルビコラは戦いが苦手で自分が前線に立つ事は頑として拒んでいる。

しかし、このように戦いを見る事は好きらしい。

よく部隊内で行われている模擬戦は観戦したりしている。

 

「ちっ……」

 

分からない程度の音で舌打ちをする。

不快感が有るのはたった一つの理由。

サイヤ人と言う種族だからなのだろう、技術系等に力を注いでいるのに戦闘力で下級兵士を超えている。

性格がよく、面倒をよく見るなど非の打ち所がない様な女性ではあるが、唯一この戦闘力の高さが気に食わない。

サイヤ人は戦わないやつでも名門だったらある程度の実力があるらしい。

血筋や才能でいくらでも伸びていく可能性を秘めているのだ。

 

「ほぉ……あの男の戦闘力が7348、仮にフリーザ軍にいたとしてもかなりのものですね」

 

スカウターで戦闘力を測定して選手の強さを見ている。

うまくいけばスカウトできるかもしれないもんな。

 

「そうですね、さて……あの女は?」

 

珍しい外見のやつだがここのチャンピオンだ。

どれほど強いのか興味はある。

 

「ほほぅ、9769とは想像していたよりはなかなかいいじゃねぇか」

 

最初に思った以上に戦闘力がありやがる。

よく見りゃこの試合場にはいないが、建物内の所々に戦闘力3000以上のやつらがぽつぽつといやがる

昔に馬鹿な奴がここにバカンスに来て、調子に乗って試合場に乗り込んだが返り討ちにあった話も納得できる。

因みにそいつはその時にスカウターまで奪われてしまい、そのまま帰った後でフリーザ様に処刑されていた。

そんな事を考えていると戦いが始まりやがった。

 

.

.

 

「はあっ!!」

 

俺は拳を顎に向かって突き出す。

その攻撃をピオーネは首を動かすだけで避けるがそれは想定内。

確かにピオーネの顔や腕は素早く動いている。

しかし流石にピオーネと言えど同時に幾つもの体の部位を連動して動かせはしないだろう。

 

「しっ!!」

 

俺はピオーネの足に狙いを定めて鋭い蹴りを放つ。

この狙いはずばりピオーネの機動力を奪って試合を優位に進める為だ。

ピオーネが顔を動かしたおかげで足に対する攻撃への反応が遅れてしまう。

そして、ピオーネはこの一撃を脛でカットする事が出来ずにそのまま受ける事になる。

ここから俺は攻撃の手を緩めずに仕掛ける事で、ピオーネの綻びを徐々に作っていく。

ピオーネはまだ実力を抑えている可能性はある、その間にピオーネに手痛い一撃を負わせる。

 

「りゃあ!!」

 

俺はピオーネの脇腹に一撃を放つ。

ピオーネがそれを避けて、俺の頭へ蹴りを放ってくる。

頭を下げてそれを回避すると次はこっちの番だ。

 

「ふん!!」

 

上がっている足が地面に着く瞬間を狙って水面蹴り。

足を払ってバランスを崩したならば、接近して間合いに入る。

体勢を整えようとしたその時を狙って、アバラの隙間を縫うように拳をねじりこむ。

 

「がっ…」

 

俺は一瞬ピオーネが呼吸を吐き出した隙を見逃さなかった。

その僅かな時間の合間に追撃で、ピオーネの顎にもう一撃効くやつをお見舞いする。

この一撃で顎を揺らされたピオーネは膝ががくがくと揺れている。

よしっ、この勝負所を逃してはいけない。

ここで攻撃の手をさらに強めていく。

この場面で使えるのは速く出せる技だ。

この技は人の借りものだが、これでいいだろう。

悩んだりした時間がピオーネに立て直しの機会を与えてしまう事に繋がる。

 

「『サタデークラッシュ』!!」

 

ラディッツさんの技を使ってピオーネが立て直す前に畳みかけていく。

ピオーネはどうやら腕で顔に来た一撃を防いだようだが、その間は腹などは無防備になっている。

その無防備な腹部を狙って飛び上がって攻撃を放っていく。

 

「かぁ!!」

 

俺が選択したのは気を宿した強烈な飛び回し蹴り。

ピオーネには腕を交差したり、後ろに飛んで衝撃を軽減する暇は無かったようだ。

その為、ピオーネは俺のこの蹴りを無防備な形で喰らった。

 

そしてその一撃の衝撃で壁際まで一気に吹っ飛んでいく。

俺はここが大技を喰らわせる機会と踏んだ。

 

ピオーネを深追いして機を逸するような真似はせず、冷静に次の一撃の為に気を貯める。

ここで相手の勢いを削ぎ、なおかつ大き目な技を見舞えばピオーネの勢いは落ちるだろう。

強引に突破を図ったとしても流石に唯では済まないはずだ。

 

「喰らえ、『コンドル・レイン』!!」

 

ピオーネに向かって高威力の気弾の雨を降らしていく。

避けるのは今の体勢が悪いから、一瞬遅れてしまうだろう。

今の体勢を立て直す動作をしてからになる為、その時間が生まれるのは普通の事だ。

そしてその一瞬が再び攻撃の手を継続させる事につながる。

 

「くぅっ!!」

 

ピオーネは腕を交差して攻撃を受けざるを得ない。

本来ならば避ける為の時間を今の立て直しで使っているからだ。

そして俺は簡単には立て直させない為に、延々と絶え間なく撃ち続けている。

これでピオーネが終わる訳が無いから俺はさらなる追い打ちの為に気弾を作る。

 

「はああっ!!」

 

俺が最後に大きなエネルギー弾でピオーネを吹き飛ばす。

勢いを削ぐ為の気弾の雨から始まり、最後に大きなエネルギー弾で吹き飛ばすという今に至るまでの一連の動作。

その攻撃には十分な手応えがあったと俺は思っている。。

ピオーネは今避ける事はできていなかったから、かなりの数が命中しているだろう。

 

「……生まれてはじめて、こんな気分は」

 

あれだけの連射を食らっても倒れる事は無かったか。

片膝をついた状態から笑みを浮かべながら立ち上がりそう呟く。

どういった気分なのだろうか?

屈辱なのか、高揚感なのか、それが気になる。

 

「だから生まれてはじめてこの気分にさせてくれたあなたに敬意を表して……」

 

構えるとさっきの状態から一気に威圧感が跳ね上がる。

少しずつではあるが言っている間にも気が高まってきている。

 

「本気で行くわ」

 

その言葉が終わると同時に気が噴き出す。

そしてピオーネの逆襲が始まった。

今までとは段違いの速度でこっちに迫ってくる。

 

「ぬっ!!」

 

俺は速度の変化に一瞬反応が遅れたが、一撃を何とか避ける事はできた。

しかしピオーネの攻撃がその一撃で終わる訳が無い。

その次に来た拳の攻撃も何とか避けるが、さっきとは違い攻撃の後に気弾が続いて襲い掛かってきた。

それを後ろに下がって避けると、驚く事に俺は後ろから頭を掴まれていた。

いつの間にピオーネが後ろに回ったのか、その動きを目で追う事が出来なかった。

 

「くっ……」

 

ピオーネが俺の頭を力強く掴んでいる。

俺はその腕を振り払おうとする。

しかしピオーネの次の行動は速く、空中に投げられる。

 

「はぁっ!!」

 

ピオーネは跳躍をして俺を追い越し、強烈な踵落としを喰らわせてくる。。

俺は回避も防御もできずに、そのまま勢いよく地面に叩きつけられる。

体中がグワングワンと揺さぶられるような衝撃が来る。

 

「くそっ!!」

 

俺はすぐに立ち上がって攻撃を仕掛けにいく。

その頭のすぐそばを強烈な蹴りが紙一重で通り過ぎる。

当たっていたらと思うと鳥肌が立ってしまう。

なんとか反撃を試みるが避けられる。

もしくは平然と捌かれてカウンターを食らいそうになっている。

変化した速度に判断が出来ても体がまだついていけない。

この上がり具合から察するに、さっきまではおおよそ7割ほどの力で戦っていたな。

 

「はっ!!」

 

ピオーネが蹴りを放ってくるから、足を上げて防御をする。

そしてこちらからカウンターを叩き込もうと試みる。

しかしここでも予想を超える事態が起こった。

 

「ぐあぁっ!!」

 

俺は繰り出された蹴りを足を上げて受け止めるが、足を透過するように衝撃が襲い掛かる。

受け止めた足は折れていないが、透過した衝撃はろっ骨を折るには十分なものだった。

防御が意味をなさない奇妙な技術。

その気になれば内臓にだけダメージを負わせたりもできるだろう。

これでは避ける事以外で、ダメージをどうこうする術がない。

 

「はあっ!!」

 

ピオーネが再度蹴りを放ってくる。

俺は受け止めようと腕で防御をする。

しかし痛みで僅かに反応が遅れてしまい直撃してしまう。

踏ん張る事もできずに蹴り飛ばされそうになる。

 

「ぬぐぅ……」

 

しかし俺が蹴り飛ばされる事は無かった。

その代わりに蹴りの痛み以外にじわりと広がるような痛みも感じる。

何故ならばピオーネはその脇腹に自分の足の指を精密に刺していたのだ。

俺の脇腹は血をぽたぽたと落としている。

まさかこんな手を使って動けないようにされるとは、予想外すぎて声も出ない。

 

そんな事を考えていたら再び頭を掴まれ、そのまま地面へ左右に延々と叩きつけられて、意識が遠のいていく。

壁に向かって投げられるが、何とか壁を蹴ってその勢いを活かし大技を仕掛ける。

この技ならば避けられる可能性はあるが当たった時のダメージも期待できる。

 

「喰らえ、『クロスリヴェンジャー』!!」

 

腕をXの形に交差させて放つ大技。

範囲も広いが弱点がある。

その弱点とは放った後、操作ができずに一直線にしか攻撃ができないことである。

 

「こっちの隙も作らずに大技とは焦りすぎたね」

 

ピオーネが飛んで避けるのが見えた。

その拍子に観客席が崩壊してしまう。

確かに大技だし、今の指摘はもっともだがこれは最強の技じゃあない。

それにあんたが避ける事だって織り込み済みの上で今の技は出したんだぜ。

次に仕掛ける技が本命の大技だ。

 

「こっちだ、『アルバトロス・ブラスター』!!」

 

ピオーネが飛んで避けた瞬間に、俺は瞬間移動で後ろを取る。

そして俺はアホウドリの形をした大きな気弾を放つ。

それをピオーネの無防備な背中に喰らわせる。

 

「きゃあぁぁ……!!」

 

ピオーネは防御や回避が間に合わず、無防備なまま気弾に呑み込まれる。

手応えは十分にあった。

そのまま気弾が壁を突き破っていき、建物がさらに崩壊していく。

 

「はぁはぁ……」

 

煙が晴れた時に現れたのはかなりダメージを受けたピオーネの姿だった。

流石にあの距離と威力では無傷と言うわけにはいかず、服が所々破れて銀髪もちぢれたような状態であった。

ピオーネは仕返しの必殺技を放ってきた。

 

「『バニッシュ・ウィップ』!!」

 

ピオーネは両手を前に出して、細長い鞭のような形状をした二本の気弾を放つ。

この一撃は今の俺の状態では受け止められない。

俺は飛び上がってこの攻撃を避ける。

 

「まだまだぁ!!」

 

しかし、ピオーネはそれを予測していたのだろう。

足に力を込めて跳躍をしてくる。

あっという間に俺よりも高く飛び上がって追い越されてしまう。

そしてピオーネはあの技のセットアップへと入っていく。

俺は体を捩って逃げようとするがその早業に抵抗は許されず、瞬く間に体を固められてあの大技の体勢に入る。

 

「『リインカーネーション・オブ・ブレイク』!!」

 

往生際が悪い俺はまだなんとか抜けようとする。

しかし、がっちりと体を固められて動く事すらままならない。

まだ指が2本動かせれば瞬間移動で抜けられたんだが、その指すら抜く事が出来ない状態だ。

俺は骨が折れてもいいから強引に外して受け身をとろうと試みる。

しかしピオーネは本来の着地地点から徐々にスライドしていく。

その瞬間、どこに俺を叩きつけるのかは確信することができた。

 

そしてその予想は外れず、俺の目の前まで別の着地地点が迫っていた。

ピオーネが繰り出した技は俺を壁に向かって叩きつけていく。

轟音が闘技場全体に鳴り響いて、壁中に罅が入ってガラガラと崩れていく。

俺は痛みで頭の中が整理できていないが、意識はなんとかぎりぎりつなぎとめている。

 

ピオーネがこっちにとどめを刺す為にとてつもない速度で接近をしてくる。

ここで俺は逆転の願いを込めて最後の技を仕掛ける。

今のピオーネの速度では気づいても速すぎる為、もはや避ける事はできない。

たとえどんなピオーネにも怯まない、逃げる事のない、強く猛々しいサイヤ人魂。

それをありったけ注いだ一撃をあんたに見せてやる!!

 

「喰らえ、『ソウル・オブ・サイヤン』!!」

 

俺は体中の気をすべて抽出したような大きな気弾を作り出す。

この技の名前はそのまま『サイヤ人の魂』だ。

正真正銘、全身全霊全力全開の気弾を、突撃してきたピオーネに命中させる。

手応えはあったがどうなったのかは分からない。

これで倒せなかったらもう負けは確実だ。

 

「はぁっ……はあっ…」

 

息も絶え絶えにピオーネは目の前に出てきた。

ピオーネの服はもはやほとんど無いも同然だった。

これについては無理もない。

俺の繰り出した気弾系の大技を3発もほとんど無防備のままに喰らっていたのだ。

 

しかしそれでもピオーネを倒す事はできなかった。

俺はもはや精根尽き果てた状態だ。

立ったままで膝や腕は地面についていないがもう指一本動かせやしない。

 

ピオーネが気を掌に集中させて大技を放つ準備を始める。

もう動くことができない俺に止める事は不可能だ。

ピオーネが攻撃を繰り出すのを見ているだけ。

せめて指が二本動けば避けられるが結局攻撃するのができないので、大した意味はないだろう。

 

「『フィナーレ・オブ・パレード』!!」

 

俺は光に包まれて、そのまま途轍もない勢いで場外にまで弾き出される。

立ち上がろうとするも目の前が暗くなっていく。

ピオーネを見ながらその暗闇に視界を覆われる。

意識が徐々に遠ざかっていく、もはや声も聞こえない。

次に目を覚ました時はメディカルルームのベッドの上だった。




闘技場が今回の戦いで半壊したので、しばらくの間は2人とも謹慎という形で惑星の旅を再開させます。
挑戦者にメタモル星人とかでもいいんですが惑星に行っての触れ合いがなくなるので没にしました。

気弾の技は戦闘力に倍率がかかるのでダメージを与える事ができてます。
現在の戦闘力
ガタバル:7348
ピオーネ:9769(普段) 13226(本気)
ルビコラ:2400
キュイ:14000

ラディッツ襲来まで残り10年
原作時間軸:
『悟空が初めて天下一武闘会に出場、レッドリボン軍と抗争』

指摘等ありましたらお願いいたします。

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