前半は悲劇回避のための話。
後半は今後の話の流れといった感じです。
『世話の焼ける弟』
あのピタルでの約束から俺は血の滲む努力をした。
あれからおよそ3年ほどたっただろう。
俺の戦闘力も今は2000ほどになっている。
あいつは今頃どれほどの戦闘力になっただろうか?
俺は技の豊富さに磨きをかけたりなどしてきた。
しかし残念な事にナッパとの模擬戦では相変わらず勝てない。
時々相手をしてくれるベジータなんて、尚更手も足も出ない。
あとほんの少しでも俺の強さになるきっかけがあればいいんだが……
最近は俺の戦闘力もそこそこ高くなってしまった、
そのせいで致命傷を負う機会も減ってしまった。
それは俺たちサイヤ人にとっては死活問題ともいえる。
戦闘力が上昇する機会が著しく減ってしまっているからだ。
今、俺が持っている技の工夫次第では格上でも倒せる可能性があるだろう。
しかし、それだけでは不安だ。
やはり致命傷を負って力の底上げを望みたい。
「おい、ラディッツ」
そんな事を考えているといきなり後ろからドドリアさんに声をかけられた。
自分より年上でなおかつ上司。
礼儀的な意味合いでも『さん』づけで呼んでいる。
一体どういった用なのだろうか?
「どうしましたか、また出撃ですか?」
戦いに行っていいのなら喜んで出撃をしよう。
新しい技や、自分が強くなる機会が目の前に転がってくるわけだからな。
「いや、フリーザ様が最近お前が頑張っているからしばらく休めだってよ」
さすがにそれは予想外だった。
俺は口をあんぐりと開けた間抜けな顔をしていただろう。
ドドリアさんも吹き出しそうになっていた。
「俺、そんなに侵略に精を出していましたっけ?」
ドドリアさんやザーボンさんに比べればそこまで出撃はしていなかったはずだが……
といっても幹部に最近なったからそこの埋め合わせで俺がその分多く出撃していたな。
「俺がどう思ってもフリーザ様の命令だからなぁ……、休んでもいいんじゃねえのか」
確かにフリーザ様の命令だ。
ここでドドリアさんが独断で休ませないという事をしてそれがフリーザ様にばれたら……
うん、考えるだけで恐ろしい。
もれなく首が飛ぶだろう、職場に居られないという意味ではなく物理的な意味で。
「そういえば、あいつは元気にしているだろうか……」
ピタルの時からわずかな時間とはいえ慕ってきたあいつ。
あの笑顔を考えると、無性になぜだかここ何年かカカロットの奴が脳裏にちらつきやがる。
とは言っても赤子ぐらいの時だけどな。
もし、俺とカカロットが年の離れた兄弟じゃなければあんな感じだったかもしれない。
あの日に惑星ベジータが隕石で消えてなければ、あんな日々を毎日のように送れたんじゃないのか?
俺にとっては初めての弟分だったし、俺を信頼してくれた。
俺もそれに答えた形であの豹を退けた。
そんなことを考えながら俺はアタックボールという丸形宇宙船に乗り込む。
そして目的地である『地球』の座標を打ち込む。
「そこそこな距離のようだが、これぐらいなら問題ないな」
画面に必要日数が表示される。
どうやら『地球』へは18日ほどで着くようだ。
その間にコールドスリープを行わずに指や首の筋肉を鍛えよう。
基本座り続ける形だから腕立てとかができないのがこの宇宙船唯一の難点だ。
そして18日後。
予定通りに地球へと入っていく。
眼前に見えるその惑星の美しさに息を呑んだ。
「美しい星だな、今まで赤茶けていたり鬱蒼と生い茂る緑の濃い惑星が多かったから衝撃的だ」
誰の迷惑にもならない場所へ着陸。
どうやらかなりの山奥らしい。
明かりもなくて方向も分かりにくい。
そんな最中に咆哮が聞こえる。
その聞こえた先へ舞空術で行く。
すると見慣れた姿がそこにはあった。
「あれは大猿……まさか!?」
確かにこの星から受ける付きのブルーツ波は1700万ゼノを超えるとあった。
そしてカカロットの奴が何かの拍子で満月を見たのだろう。
理性のない凶暴な状態だから、このまま人里に行くと被害はすごいことになる。
ここは俺が何とかしないといけないぜ。
「がああっ!!」
大きな岩をひっつかんで俺に投げつけてくる。
それを俺は避ける。
なんとかカカロットの足場を崩したり攻撃を避けている爺さんがいるが、体力的にも限界なんだろう。
肩で息をしていやがる、こんな状態で続けたらどこかで踏みつぶされるぞ。
「ちっ!!」
俺は弱い気弾でカカロットの目くらましをした隙に、爺さんを抱え込んで遠ざける。
これで爺さんを気にせず心置きなくやれるぜ。
月を壊せば済む話だが、そんな事をしなくても尻尾を切ってしまえば元には戻る。
「ゴォオオオ!!」
爺さんを遠ざけた後。
カカロットを止める為に向かう途中で、カカロットは俺の居場所を本能でわかったのだろう。
カカロットがいきなり俺の目の前に迫り、叩き落とそうとしてきやがった。
舞空術で動いていたからだろう。
「喰らうわけにはいかねえよ」
まともに喰らったりしてしまうと、戦闘力の差があろうとけがは免れない。
しかし、この遅い攻撃には十分なほどの余裕を持って対応ができる。
俺は真正面からカカロットの繰り出した踏み付けを受け止めて、そのまま回転してカカロットの背中に回る。
随分とあっさりしたがこれで終わりだぜ。
「ウェンズデースラッシュ!!」
俺はこの数年の間に開発した新技で攻撃をする。
手刀に気を纏わせて威力を底上げしたものだ。
カカロットには悪いが根元からすっぱりと尻尾を切り裂く。
すると、尻尾がなくなり大猿化が解けたことで徐々にカカロットの体が縮んでいく。
これで踏みつぶされそうだった爺さんも助かっただろう。
こうして抱えると何とも軽い。
俺は爺さんの近くまでカカロットを運んでおいた。
あとは爺さんが何とかしてくれるだろう。
「おい、聞こえるかラディッツ、急用だ!!」
俺が一息ついて肩を回していると、スカウターから急ぎの通信が届く。
今回は休日なんだから切っておけばよかったな。
どうやらこの声からすると急用の中でもかなり急がないといけないようだ。
「ザーボンさん、どうされました?」
通信相手のザーボンさんに対してできる限り冷静に話す。
この慌てようにつられて俺まで慌ててしまっては元も子もない。
「侵略するのにいい星があってな、今から先発戦闘員として駆け付けてくれってフリーザ様直々の指名だ!!」
どうやら出撃命令のようだが、俺に通信するという事は俺が近いところにいたのだろう。
それにフリーザ様直々の指名とは嬉しい限りだ。
もしかすれば次の惑星は下っ端が手も足も出ないような強敵がいるかもしれない。
つまり強くなれる機会が思わぬタイミングで舞い込んできたというわけだ。
「はい、分かりました、今すぐそちらの惑星に向かいます」
俺は高鳴る鼓動を抑えながらザーボンさんに返答をする。
返答するときの声がもしかしたら上ずっていたかもしれない。
動揺しているのを悟られてしまったか、若干の不安を抱く。
「よし、今からその惑星の座標を送るからな」
そういうと一度、ザーボンさんからの通信が途切れる。
今、至急で技術部に今度攻める惑星の座標をデータにしたものを用意しているんだろう。
数分後、ピピピと宇宙船の中から電子音が聞こえたので、その言葉を解読してアタックボールに打ち込む。
これで、次の惑星に行く準備はできた。
「惑星の奴らが低レベルなら俺が出るまでもなかっただろうに」
戦闘力が100や200程度ならばフリーザ軍の下っ端でもその惑星は殲滅可能だ。
本来特殊な事情がなければ、そんな星には俺やナッパ、キュイもいかない。
もしこれが戦闘力が1000や2000がちらほらいるレベルならば呼ばれるのも無理はない。
それは俺の戦闘力と照らし合わせれば出撃する範囲内だ。
ここで声がかかるのはある意味運が悪いのだろう。
そう思いながら、俺は飛び立つ前にカカロットが抱えられるのを見届ける。
「はぁ…」
せっかく18日間もかけて着いたというのに、あっという間にとんぼ返りとは……
そう思うと自然にため息の一つも出てしまう。
できる事ならば明日まで地球にいて、遠くからカカロットを見ていたかったが……
どうやら、母親と同じ甘ったるい心が俺の心の片隅にもあったみたいだ。
弟に、いずれまた会う時は健やかであってほしいと願って俺は宇宙船に乗り込むのだった。
『これからの予定』
「お前たちは当分謹慎だ」
団長に呼ばれた俺とピオーネはその言葉を受けて肩を落とす。
原因は前の試合で闘技場の半分近くが崩壊してしまったことだ。
そしてその原因を作った張本人が俺たち。
幸いなことに選手は別の闘技場で試合を組めるので辞めなくてもよかった。
しかし、俺たちが戦えばまた闘技場が崩壊する。
しかも今度そうなった場合は自前の闘技場ではなく他人の闘技場だ。
そうなるとさすがに団長も面目を保てない。
その為、この惑星における最強の二人を謹慎させる苦渋の決断をする羽目になった。
団長が測定したところ、この惑星の闘技場で最高水準を誇っているのが自分のところらしく、1万を超えているのは唯一ピオーネだけらしい。
「見積もってもらったら自分たちの闘技場は比べ物にならないほど頑丈になるんだが、あいにくその再建まで時間が大幅に必要でな……
お前らはこの機会にしっかりと休んでくれ」
そういわれて俺達は団長の部屋から出ていく。
「これからピオーネはどうするんだ?」
呼び方としては『さんはつけなくていい』との事で呼び捨てになっている。
ピオーネは俺の事を君と呼んでいる。
「団長もああいってる事だし、少しばかり骨休めに惑星トゾリにでも行こうかと思っている」
惑星トゾリといえば、海や自然が豊かで体を休めるには最高の環境が整っていると噂の惑星だ。
この闘技場のVip席に座ったりするようなそういった人間が行っているとも聞いたことがある。
「そうか、ずっと戦い詰めだったんだから体を休ませてやらないとな」
人の事は言えないが、俺よりも長い間戦い続けた肉体だ。
流石にこういった機会がないと十分に休ませられないだろう。
そのリラックスがさらなる飛躍につながることもある。
「そういう君はどうするんだ?」
これから俺はどこに行くか、それは決まっている。
あらゆる知識を持つ全知の存在が住む星。
「ズノーの星へ行く」
この拳闘士になった10年間の間に一度来訪した事がある。
その時はなんか予約が必要とか言われてちょっと腹が立った。
当時の俺より気は小さかったので、その怒りのままに腹に鉄拳をぶち込んでやりたかった。
しかし、そこはなんとか殴りたい気持ちを抑えて予約をして帰ってきた。
その予約した日まであと少しとなったのだ。
ズノーの星で聞くのはサイヤ人についてだ。
伝説のスーパーサイヤ人だったり、およそサイヤ人の事は俺にとってはあいつを倒すのに重要だ。
あの福助人形みたいなやつが知っている事を洗いざらい聞き出してやる。
それ以外には『惑星スイッツ』で少し甘いものを食べてみたい。
何かに使えるだろうから『メタモル星』などで特殊な技能を手に入れておきたい。
「また、なんか辺鄙な所に行くのね」
確かに、ただ質問の為だけに行くとかいうのもおかしな話だ。
しかし、気になる事をほったらかしにできるものでもない。
「そっちもトゾリに行くとか言ってるが探索している間に辺鄙な所に行ってしまうんじゃあないのか?」
真っすぐ、目的地に着いたからと言ってそのままずっと住むわけではないだろう。
だからどこかへ拠点を移す。
その時に辺鄙な所や変わった惑星に行かないとも言えないのだ。
「まぁ、それはあるわ」
そう言ってほほ笑む。
なんだかんだで復旧するまでどれほどかかるのか、めどがつかない。
その為、色々な惑星に行って時間を使える状態にしておきたいものだ。
「多分、私たちが長年戻らなくてもやっていけるし、本当に骨休めして体を労ってあげないと」
ピオーネはそう言うと首を回しながら、宇宙船発着場を調べに行くのだった。
俺たちがいなくてもやっていけるとしても観客は復帰を心待ちにしているだろうけどな。
俺はその後ろ姿を見送って、行く予定の惑星をメモに残していつに旅立つかスケジュールを立てるのであった。
ちなみに作者が考えたラディッツの技
マンデーリング(単発のスーパードーナツ)
チューズデーレイン(ホーミング気弾を両手を空に向けた状態で延々と打つ)
ウェンズデースラッシュ(気を纏わせた手刀)
ダンシングサースデー(両手繰気弾)
これとゼノバースで出たシャイニングフライデーを加えると全部の曜日がそろいます。
指摘などありましたらお願いいたします