僕はただ、君と

ずっと一緒にいたかった。

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おはよっ!

そうやっていつも、君は僕の方へ駆け寄ってきた。

おはよう。

僕がそう返すと、君は嬉しそうに

うんっ!おはよ!

と笑って、そのままふたりで学校へ行く。

そして帰りは君の家まで送っていって、

また明日っ!

と君が笑顔で言うから、僕も少しつられて、

うん、また。

って少し口角を上げて言う。

そして僕は僕の、君は君の家に帰る。

それが僕の、僕らの日常だった。

こんな日常がずっと続けばいいのに、いや、ずっと続くものだと思っていた。

日常なんて、いとも簡単に崩れ去る。

そんなことも知らず、いや知らないふりをして、毎日毎日君の明るいおはように眠そうに答えていた。

君がおはよう!と駆け寄ってきて、僕が眠そうに返す。そしてふたりで学校へ行く。

この日常が、僕にとっての平和の証だった。

どんな形でもそれさえ守られていれば僕は何かをおかしいなんて思わなかった。思いもしなかった。

だから気付かなかった。気付かないフリをしていた。

服の隙間から見える生々しい痣。

日に日に、目に見えて弱っていく君。

充血した目、折れた小指、隙間だらけの服。

どんな形だとしても、君が僕におはよう!と言う限り、僕の、僕らの日常は守られているはずだった。

終わりは突然に訪れた。

ある日を境に君は、僕の前、いや、世界から姿を消した。

まるで初めから、君なんていなかったかのように世界は廻る。

まるで君がいないことこそが、世界にとって正常であるかのように。

もう二度と会うことはない、もう二度と君がおはよう!と言うことはない。

そして僕は思った。

君がダメになったなら、新しい君を作ればいいんだ。

教室で、前の席にいる僕と家の近い、元気な女の子に声をかける。

 

ねぇ、明日から一緒に学校行こうよ。

 

新しい君は大きく頷く。

 

これで、僕の日常は守られた。

明日からまた、君のおはよう!が聞けると思うと心が踊った。

僕はふと思った。

 

あれ?君は、何人目の君だったっけ?

 

でも、そんなことはどうだっていい。

僕らの日常が守られるのなら、それがどんな形であっても。

 

 

―――ねぇ、どうして私じゃないの?

 

新しい君と一緒に帰ろうと校門をくぐろうとした時、不意に聞こえた声へ振り向けば、君ではない、君には成り得ない女の子がそこには居た。

ずっと側に居たのに、居たはずなのに気付かなかった。

 

―――私は、こんなにもあなたが好きなのに。

大好き、ずっと一緒にいたい。

 

それが引き金だった。

何故か僕は女の子に優しく微笑んだ。

するとペタ、ペタ、と擦り減った靴底を鳴らす音がする。

気が付けば僕は、女の子の方へ歩いていた。

理由は解らない。何故かそうしなければいけない気がした。

女の子の目の前まで来た時、なんとなく、本当になんとなく、初めからそうしなければならなかったかのように。

僕は自分の額を女の子の額に、コツン、と当てた。

その瞬間、総てが終わった。

僕の忘れていた総てを、忘れてはいけなかった総てを思い出して、それを女の子に、いや、女の子の形をしたナニカに流し込んだ。

僕ではない僕が、僕に、僕と僕の世界に、真実を理解させた。

そんなものを突きつけられたら僕は、壊れるしかないじゃないか。

 

この世界も、目の前にいる女の子の形をしたナニカも、総ては僕が創り出してしまったものだ。

総て、この町は総て、僕が創りなおしてしまったんだ。

大好きな君を失ったのを総てに責任をなすりつけて、この町のせいにして、全部を創りなおしたんだ。

 

僕は悪くない。君を大好きだったから。君のためだったんだよ。君を失ってしまったのを認められなくて。君だけは失いたくなくて。

でもダメだった。いくら創りなおしたところで君は戻ってこない。それがやっとわかった。だからもう、おしまいだ。

 

これで本当に、さよならだ。

 


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