Fate/Little little earth spider   作:EMM@苗床星人

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それは、この世界のどこにも存在しない島だった。

成層圏のさらに上空、銀色の雨が降りしきる戦場を彼女は駆けた。

敵の…かつて味方だった男の目的は、神秘の根絶と人類の救済だった。

 

「でも、何かを犠牲にしてまで手に入れるもんやない」

 

彼女は宝剣と異形の腕…赤手という兵器を身に纏い、蜘蛛のバッヂのスイッチを入れる。

神秘の影響で科学が乱れるこの空間でも、条件さえそろえば絆を頼りに通話できる彼女達の『仲間の印』

 

…ついにここまで来たんやなぁ…

私も最初はただ生きるためにこの学園に来て

寂しくなったから結社に入って、商会を作って、みんなで楽しく過ごしてきた

クルースニクの人たちとも、吸血鬼の人たちとも、妖狐の人たちとも戦って、皆とも仲間になれた

悲しいことも、助けられへんかった人もいる…必要な犠牲だったとも絶対に思わないですえ。

でも、それも含めて…楽しいことも苦しいことも、酸いも甘いも含めて…

皆強く生きてこその幸せな未来やと私は思いますえ。

せやからいつも通り、皆生きるために戦って、生きて帰りましょうな!!

そしてこれからも、幸せを手に生きるんや!!

 

彼女の回想とともに、夢の景色はめまぐるしく変わっていき、そして再び空の島へと視界は戻ってくる。

彼女は仲間たちに声援を送り、自らも戦場へと駆け出した。

彼女にできることはあまりにも少ない…しかし、だからこそ…彼女は戦った。

 

万に一つ、億に一つでも誰かを救える可能性にかけて…

 

 

「ほっほっほっほ、ようこちゃんは本当に良い子じゃのう」

「にゃはは、ウェイバーさんについてきた居候の身ですさかい手伝うんは当たり前ですえ♪」

 

「んぁ…」

 

一階の談笑の声にウェイバーは目を覚ました。

おそらくアサシンがマッケンジー夫妻の家事を手伝っているのだろう。

 

「まったく、接触は避けろって言ったのにあのガキんちょ…」

 

ウェイバーは痛む頭を押さえながら朝食をとりに一階に降りていった

 

 

 

 

召還から一日目、アサシンはウェイバーに頼んで図書館へと足を運んでいた。

曲がりなりにもサーヴァントである彼女を連れて昼間から行動するのは戦略上よくないと思い、ウェイバーは夜中に行くべきだといったのだが…

どうやらアサシン自身の事情によりそれも無理であることが分かったのでやむを得ず昼に行くことになったのだ。

ウェイバーにとっては信じがたいことだが、この日本が彼女の知る日本なら鎌倉にはかつて彼女が通っていた超巨大マンモス校があるらしい。

しかしアサシンがどれだけ調べても、そんな学校は存在しなかった・・・

 

「ほむほむ…成程なぁ、ほんまに細かいとこは別世界やな」

 

「おい、そろそろ満足したか?ガキンチョ」

 

ウェイバーが投げやり気味に訪ねると、アサシンは頬を膨らませて憤慨した。

 

「もーっ、何度も言うとるやろ?私んことはアサシンもしくは社長呼んでぇな!!」

 

「どこの社長なんだよ!!ていうかお前本当にどこの英雄なんだよ!!

んな子供で、現代で学校に通ってて、自称社長だ!!?そんな英雄見たことも聞いたこともない!!未来の英雄とか言うんじゃないだろうな!!

そんな飛んでも設定僕は願い下げだぞ!!」

 

 

 

「ぶぇっくし」

 

その頃英霊の座でとある錬鉄の英雄がくしゃみをした

 

 

 

「あぁ・・・そやなぁ・・・私自身英雄的なこと下覚えがないんですえ、別の心当たりならあるんですけど・・・」

 

「・・・はぁ?というかお前、本当にサーヴァントなのかよ?全然そんな感じしないというか、信じられないんだけど」

 

実際そんな感じがしないと言うのは嘘だ、このアサシンと名乗る少女は確かに見た目どうりの幼女の形こそしているが

その実アサシンにしておくにはもったいない程に人外じみた雰囲気を持っていた。

寧ろ英雄などではなく吸血鬼や悪魔と言われた方がまだ納得がいくのだ。

 

「い、いやいやぁちゃんと聖杯さんに呼ばれたんですえ!!

勝ったら願い叶えてくれるーっつうからついてったんですえ!!」

 

「飴ちゃん貰えるからついてきた子供か!!」

 

図書館の客達から冷たい視線を投げかけられ、ウェイバーは恥ずかしそうに椅子に座って縮み込む。

アサシンはにゃっはっはと小声で笑いながら続ける。

 

「まぁ気配遮断スキルもありますし、霊体化くらいできへんでも問題は無いですえ」

 

「そこだよ一番疑問なのは!!」

 

ウェイバーは小声で絶叫した。

そう、夜中に図書館へ忍び込めない理由がこれだ、アサシンはなぜか完全に受肉しているのだ。

通常サーヴァントは半霊体で、維持には魔力が必要不可欠でありその代わりに霊体化によって魔力を節約できるし物理的な封鎖をものともしないのだが。

しかしアサシンはどう言うわけか肉体をもって現界しており霊体化こそできないが魔力も殆ど必要ないのだ。

 

「まぁええやん、魔力がぎりぎりになって最終手段でエロゲ的なことせやんで済むんやし♪」

 

「ぶっ!!!・・・するか!!お前僕をバカにしてるだろ!!素人じゃないんだから魔力供給のパスくらい繋げられるっての!!」

 

また座で錬鉄の英雄が以下略

 

「しかし難やな、死んだ覚えも無いんはおかしいやねぇ、確かに一回だけあるけどそん時はまだ"私"やなかったし・・・なんか社長室で平和をかみしめとったら急に座に上げられとって・・・ていうかウェイバーさん、一番確実かつ可能性が高い理由が一つあるんですけど」

 

「・・・なんだよ」

 

ウェイバーが訪ねるとアサシンはらしからぬ言いにくそうなそぶりで言った。

 

「ウェイバーさんが未熟すぎて召還にバグがあったんかも、てか確実にありますえ」

 

ガヅン!!と音を立ててウェイバーは机にあたまを打ちつけた。

頭より客の視線が痛かったという ・・・

アサシンはそれを見て自分も脱力してきたのか、椅子の背もたれに寄っかかって呟いた。

 

「ふいー・・・私にしてもありえへん事だらけなんよ

私かて、異世界から召還されるとは思ってへんかったんやから・・・」

 

「…は?」

 

アサシンから得られた情報に、それからもウェイバーは驚きを隠せなかった。

というよりそれほどのイレギュラーを発生させる程とんでもないバグをやらかしてしまった事に自己嫌悪した。

驚いたことに彼女は厳密にはこの世界の英雄ではなく、別の理によって運営される平行世界(厳密には平行世界ですらないのかもしれない、そもそも理が違うのだから)の住人らしい。

絶えず続く異形や外宇宙からの来訪者との戦争、その戦いに疲れ世界から神秘を完全に放逐した世界…そこから呼び出されたのだというのだ。

 

「この世界でいう第2魔法やっけ?そんなレベルの間違いを素でやれるなんて寧ろすごい才能やと…ウェイバーさん?」

 

「うっ…ぐすっ、どいつも、こいつも…馬鹿に、しやがってぇ…」

 

しかし奇跡的な偶然と魔術は別物だ。それを知るウェイバーは机を涙で濡らすどころかもはや水溜りを作る程泣いていた。

 

「…はあ、ちょおいじめ過ぎてしまいましたなぁ」

 

「もう良いんだ、僕なんか才能すらないダメダメな劣等生なのさ…」

 

完全にいじけたウェイバーを見やってアサシンは溜息をついた。

そしておもむろにウェイバーの頬に顔を寄せると、彼の頬にキスをした。

 

「な、ななななななな!!」

 

「にゃっはっは、少しは元気出ましたかえ?社長流元気注入術ですえ♪」

 

尤も婚約者以外の男相手の口にはしないけど、と付け加えた。

 

「ほな行きましょ、ウェイバーさん♪」

 

「おおおおま、どこへ行くんですか、いや行くんだよ!!腕引っ張るなああああぁぁぁぁ!!!!」

 

アサシンはひらりと椅子から降りるとウェイバーの手を引く。

アサシンの握力は意外にも強く、ウェイバーは成されるがままに連れて行かれるのだった。

 

 

 

 

次にアサシンとウェイバーが寄ったのはとある喫茶店だった。

アサシンの目的は、白いクリームと苺で彩った普通のショートケーキである。

 

「くうぅぅ~~~……座にいる間甘味なんて果物系ばっかりやったからクリームの甘さが染みわたりますえぇ~…♪」

 

「…………ってお前!!ただでさえ昼間動き回るのは良くないってのに何勝手にケーキ頼んでるんだ!!」

 

しばらく放心していたウェイバーも意識を取り戻して机を叩き身を乗り出してアサシンに問い詰める。

 

「にゃ?ケーキ食べたかったからですえ。ウェイバーさんのも頼みましたえ?螺旋マンション二重太局ロールケーキ」

 

「うわデカっ…じゃなくて!!ケーキのために戦況を不利にするつもりかお前!!」

 

「ちょっとお客さん」

 

ポンと肩に手を置かれて振り向くと、恐ろしい三人分の影を携えた恐ろしい喫茶店のマスターがサングラスの向こうからウェイバーを見ていた。

サーヴァントどころか人間、それどころか死徒さえ内包しているかのようなあまりの圧力にウェイバーは言葉を失う。

 

「ちょっと他のお客様に迷惑ですので、お静かにお願いいたします…」

 

「ひっ…ひゃぃ…………」

 

ウェイバーが腰を抜かしたかのようにへなへなと椅子に座ると、恐ろしげなマスターはにこやかにほほ笑んでごゆっくりと残し去って行った。

 

「ほわぁ、知恵の図書館がまともな人も原初の吸血鬼になれる言うとったけど、ああいう人なんかな?ちょぉあの人の周り時空歪んでるますけど」

 

異世界の知識なのだろうか、さすがのアサシンも少し慄きながらそれを見送った。

ウェイバーは疲れた頭に栄養を与えようとロールケーキを一口食べてからアサシンに尋ねた。

 

「…で、結局何がしたいんだよお前は」

 

「元の世界に帰りたい」

 

ウェイバーが驚くほどに、アサシンは即答した。

アサシンは真剣に丸い目を見開いてウェイバーを見ていた。

 

「私はあの世界に大切な人たちを残しとる、私が助けることのできへんかった人達も…でもその末にようやく平和を手にした世界や」

 

ウェイバーはそれを聞いて思い出した、昨夜に見た夢を。

魔法のような能力を駆使し代償として狂った大人の能力者たち、この世の理を外れた世界の敵、時には同じ来訪者でさえ敵対し…

大きな活躍こそできなかったものの幾度も幾度も大戦を戦い歩き、その中には正気を残しながらも歴史の流れに抗えず消えていった少年少女たちも居た…

アサシンは来訪者と、人間の完全な共存を望んでいた…彼女が6年間以上も戦った後も、それは完全には成されていない…

 

「知恵の図書館もいっとった、まだ私たちの知らない来訪者もおるって…せやから私は、此処に何時までも居るわけにはいかへん

たとえ私が仮に、突然死んでもうたんかもしれないとしてもな…」

 

そう言ったアサシンの手は匙を持ちながら震えていた…考えてみれば、彼女はサーヴァントなのだ。

彼女は突然座に上げられたと言っていた…それは何かの事故のようにアサシンは言っていたが、それはつまり…平和な世界でアサシンの生命が突然何らかの形で終わりを告げた可能性も十分にあり得るのだ。

それは何かの襲撃だったのかもしれない、それは何かの呪いだったのかもしれない…それは、何かの病気だったのかもしれない。

いずれにせよ今受肉して現界しているのも…座から召喚された存在なのだ。

 

「…ったく、それなら勝率下げるようなことするなよな」

 

「にゃっはっは、それはそれこれはこれですえ♪そういえば、ウェイバーさんは聖杯に何を願うつもりですえ?」

 

アサシンの問いに、ウェイバーはうぐっと喉を詰まらせた。

 

「…え、なんや願いとか無いん?」

 

「い、いや…時計塔の奴らを見返して、僕の…僕の才能を馬鹿にした奴らに知らしめてやることだ!!それ以外に願なんてないね!!」

 

開き直った、あまりに小さいプライドを掲げてウェイバーはふんぞり返る。

アサシンは一瞬唖然としていたが、しばらくするとプルプルと震えだした。

ウェイバーは恥ずかしさのあまりどんどん顔を赤く染めていく…そしてついにアサシンがため込んでいた何かを爆発させた。

 

「あぁっはっはっはっは!!にゃはははは!!それ以外にないって、どんだけ無欲やねん!!てか、ちっちゃ…にははは!!」

 

アサシンは気配を殺すのも忘れてドッと笑いだした。

これが英雄が英雄ならあまりに小さいと叱責する内容だろうが、アサシンはそれほどに自分が大きいと思っていなかった。

 

「わ、笑うな!!いや笑わないでください…いや笑うなってば!!」

 

「あっはははは、ウェイバーさんホンマ可愛えわぁ…マジヒロイン枠やわぁ…くひひひひ」

 

もう他人にばれるとかどうとか二人は完全に忘れて面白おかしく町を遊び歩くのだった…

 

 

 

 

 

 

その夜、聖杯戦争の最初の戦いが行われた…

否、それは結果として一方的な屠殺である。

使い魔達が見聞きした情報からその顛末を探ると

片や遠坂邸に忍び込んだサーヴァントは女性だった。

黒い長髪に黒いロングコート、一見して現代の魔術師の出で立ちだが

放つ魔力は遠坂の宝石結界を一瞬にして破砕した。

恐らくはキャスターか魔術に深く縁のあるサーヴァントが近代魔術師の偽装をしているのだろう…

黒い女は遠坂邸の芝を踏んだ途端に顔色を変え

その場に跪いた。

 

「ほう…我が威光に気付いたか、雑種の身でありながらその殊勝な振舞い、誉めて遣わそう

…面を上げよ」

 

次に現れたのは何処までも威厳と慢心に満ち溢れた高慢な男。

その声だけだったのが霊体化をといて遠坂邸の屋根の上に姿を表した。

 

「…我が身もまた歓喜に満ち溢れておりますとも

よもや私が早々に正攻法を辞する相手と巡り逢えるとは…」

 

黒い女は芝居がかった言い回しで男を仰ぎ見る。

男は態度を一変して眉を釣り上げた。

 

「下らぬ策がよもや我に通じると思い上がるか

所詮は雑種だな、興が削がれた」

 

次の瞬間、使い魔達は驚くべき光景を目にした

男の背後が水面のように波打ち、そこから浮かぶように切っ先を揃えて立ち並ぶのは紛れもない宝具…

それも一本で国が傾くほどの一撃必殺の威力を持つ物だった…

 

「まったく、勝てる気が…」

 

黒い女がそう言いかけたところで

男の宝具の雨が、滝のように降り注ぎ

黒い女は下半身が消し炭になった所で消滅した…

 

「ちっ…道化が」

 

それでも憤りが収まらないのか

男は舌打ちをしつつ霊体化してその場から消え去った。

 

 

 

遠坂邸

遠坂のマスター…遠坂時臣は男…アーチャーに跪いて戦果を報告していた。

 

「此度の作戦によって、彼女は死んだという情報が使い魔を通し広まったことでしょう

英雄王の御手を煩わせてしまったことは申し訳ありませんが…今宵の作戦によって我等の威光を他のマスターに知らしめ牽制する目的も果たせましょう」

 

時臣の解りきった報告にアーチャーは不機嫌そうに腕を組む。

そう、すべては茶番劇だった…彼女を斥候として働かせるために最も有効な手段としてあえてアーチャーに彼女を殺させたのだ。

 

「座興としてはあの雌豚の駆除は申し分ない

だが時臣、家来の躾はきちんとしておけ」

 

「はっ」

 

「あら、雌豚だなんて嬉し失礼な事言っちゃってぇ

アーチャーったら『あの時』は可愛いのに…その分今の貴方も可愛いんだけどねぇ♪」

 

時臣の背後からコツコツと足音をたてて

にこやかに笑いながら黒い女はアーチャーに言った

 

「綺麗…」

 

「申し訳ありません我が師よ…」

 

時臣が背後に控える黒い女のマスター、言峰を叱責するように睨む。

 

「良い、まったく道化が王を量るか…しかし雌豚よ、あまり『あの我』の話を『我』の前でするな

王を笑うは道化の役目だが、次はその役目の限度をこえたと見るぞ」

 

「あら恐い、残念ねぇ…」

 

本当に残念そうに肩をすくめる黒い女を止めるように、言峰は立ち上がり言った

 

「では師よ、我々は諜報に行って参ります…」

 

そう言い部屋を出る言峰に付き合うように黒い女も出ていった…

アーチャーは彼らを鼻で笑いながら呟く。

 

「マスターと違ってとんだ道化共め…」

 

アーチャーも霊体化してその場を去った。

 

 

 

言峰は不機嫌そうに早足で歩く。

黒い女から距離をおいて、まるで彼女を否定するように。

 

「あらあら、そんなに急ぐと転ぶわよん」

 

対して黒い女の態度は変わらない

言峰は今すぐ令呪で彼女を消し去ってしまいたい衝動に駆られたが

鋼の精神でそれに耐えた。

彼は黒い女を嫌悪していない…それどころか男が当然に女に惹かれるように魅力すら感じている。

しかし惹かれているのは彼女の容姿にではない、夢に見た彼女の生きざまにである。

彼はどうしてもそれを認めることができずにいた。

 

「それで、愉悦を忌避する欠陥神父さん

貴方の望みは叶うかしらねぇ♪」

 

黒い女が嫌味を言う。

 

「我が望みは…貴様が消えることだ、アヴェンジャー」

 

言峰は殺意を隠すことなく答えた。

恐い恐いと肩をすくめた黒い女…アヴェンジャーは、霊体化せずに初めからそこに居なかったかのように消え失せた…




「遊んどるわけやないよ~株取引や♪」

「………アイリスフィール!!!!下がってください!!!!」

「ワー!!ワー!!ワー!!ワー!!」

「…そうね、きっとそれが正常な人間…」


次回/2 アイリスフィールの漫遊


  「  お  客  さ  ん  」
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