Fate/Little little earth spider 作:EMM@苗床星人
アイリとセイバーは日本に渡来し準備を終えた切嗣と合流してから
アサシンからの提案を彼に話した。
「同盟・・・こんな早くにか?」
「アサシンにとっての望みは話して貰えなかったけど、まずは参加したサーヴァントとマスター、その全ての願いを聞いてから優先度を決めたいらしいわ」
「それまで、彼女にとって全ての情報がそろうまでは私たちに協力し同盟関係を結びたいと申し出が・・・」
アイリとセイバーの話に、切嗣は呆れたように溜息をついて
その提案の想定しうるメリットとデメリットをまとめようと思考を加速させる。
当然のように、アイリを向いて切嗣は話を進めた。
「論理が破綻している、そもそも優先すべき願いであるならアサシンは願いを譲ると言うことか?
そんな事でこの聖杯戦争は勝ち抜けない・・・そもそもこちらが言うことを聞いてアサシン勢から与えられるメリットは何だ?そしてアサシンはなにを要求するつもりだ?」
「それだけど・・・」
アイリは懐から、アサシンに渡された小さい用紙を切嗣に見せた。
切嗣はそれを見て驚愕に目を見開いた。
「企業の買い取り書・・・魔術師の方が用意したとも考えづらいが、成る程・・・確かにこれがあれば少しは僕たちの行動がやりやすくなる。
メインの拠点を此処にするとして、予備の拠点と社会的な隠れ蓑としても使えるから多少は表向きに対する行動範囲も広がるという寸法か」
「それはアサシン自身が用意したものだと言っていたわ。切嗣の用意した資料が本当なら彼女のマスターは紛れもなくウェイバーベルベット本人、彼にそんなものを用意する手腕も財力もないのは確かよ」
切嗣はアサシンからアイデンティティを直に言い当てられ、二の腕を捕まれたような錯覚がした。
アサシンに切嗣のことはバレていないしバレようもない
事実アサシンも単に同盟の担保としてこれを渡したのだから・・・
しかしこれはアサシン自身の手腕が現代社会に通じることを表している。
おそらくは現代か近代に生きた他の魔術師殺しか、そうでなくともアサシンには自分のような魔術師の思考の裏をかく作戦は通じない事を暗に表していた。
敵に回せばアイリの囮としてのからくりも全てバレかねない。
いや、その上アイリの人となりは既にアサシンに知られているのだからアイリが少しでもアサシンに対して断る際変な部分に気づかれればその場でバレて、他のマスターに同盟を持ちかける際の餌にされかねない・・・
即座につぶすにしても、アサシンとウェイバーの居場所は何故か未だ分からず探せば探すほど巣の主に気付かれ攻撃を受ける可能性も高くなる・・・
まるで蜘蛛の巣のようだ、偶然から始まったとはいえかかったと気付いたときにはもう逃げようがない。
ならこちらもアサシンの情報を安全に集めるために今はおとなしく条件に頷くしかないか・・・
最悪バレても同盟が成されているなら同盟外のマスターに情報を売ることもないしそんな行動にでる前にどうにかしてアサシンの情報も手に入れれば良い。
「・・・・・・・・・アイリ、済まないがこの契約・・・君の名義でサインしてくれ」
「分かったわ・・・ごめんなさい、私が日本を満喫しようなんて言わなければ・・・」
うつむくアイリを、切嗣は優しく抱きしめる。
「謝ることはないよ、初めての憧れた外の世界だ
寧ろアサシンに出くわすを見越して見張りをつけていなかった僕が間違いだった・・・」
「・・・っ」
セイバーは唇を噛みしめた。
切嗣は嫌みを言う男ではない、それは彼の本心から発せられた言葉だ。
彼はもう、セイバーをただの戦力としてしか頭数に入れていなかった。
「それで?セイバーのマスターにはなにを渡したんだよ?」
「ん~?ウェイバーさんへのプレゼントと同じものやよ~」
にやにやと含み笑いをするアサシンにウェイバーは片眉をひきつらせて、いやな予感に冷や汗を垂らす。
「・・・なんだよプレゼントって」
「そんなあからさまにイヤな顔せぇへんでも・・・っじゃ~んこれや♪」
アサシンはウェイバーにアイリに渡した紙と同種のものを見せる。
ウェイバーはそれの持つ深い意味が分からずに一瞬唖然とするが、その表面にかかれた意味をアサシンが翻訳すると
「か、会社を買ったぁ!!?おまえ、そんな金どこから手に入れたんだよ!!」
「名義だけで放置されてる会社って結構あるんやよ?そういう安い会社なら、株で手には入るお金から簡単に手にはいりますえ♪」
ウェイバーは近頃アサシンがパソコンでやっていることの意味にようやく気付いて開いた口がふさがらなくなった。
「まぁもし失敗しとったら一般のこわ~いお兄さんに肝臓狙われる羽目になっとたんやけどな、ウェイバーさんが♪」
「ぶっ・・・な、なに勝手なことしてるんだこのバカー!!!!」
そして話はその前日の夜に遡る。
「お前は馬鹿か」
ロードエルメロイ、降霊課の神童と呼ばれる時計塔きってのエリート中のエリート
ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの魔術工房をみた征服王イスカンダルの第一声がそれだった。
勿論あいては英霊である、自分の使い魔(サーヴァント)とはいえその実力は人間の遙か上をいくということは知っているし
まして相手は王ともいわれる最強クラスのサーヴァントだ、最低限の敬意も持っているとはいえ
あまりにも無慈悲な一蹴に、ケイネスはしばらく思考をストップして呆然とした。
「・・・・・・・・・・・・やれやれ、私の耳が悪かったようだ、よもやサーヴァントがこの私を馬鹿などと・・・」
「あぁ、お前は頭が良かったんだったな」
イスカンダルが納得いったようにいうと、ケイネスは第一声が聞き間違いであることを確認し安心の溜息をつき
「お前は特殊な馬鹿なのか」
またもたたき落とされた、主に心が。
プライドを土足で踏みにじる発言を二度も言い直されて、こめかみに青筋を浮かべたケイネスは
眉間に深くしわを刻みながらライダーに尋ねた。
「・・・・・・それでは聞こうではないか、私のどこが馬鹿だと言うのかね?」
「いや特殊な馬鹿だ、実際このホテルとやらに仕掛けられた幾重もの結界や迷宮、さらに配置した番犬も悉く強力だ
だからこそお前、此処に籠もって敵を待ちかまえるというのだろう?」
イスカンダルの正当な評価に、再び馬鹿と言われたことをどうにか押さえてケイネスは頷く。
「それでは余のアドバンテージが全く生かされないではないか!!」
「いちいち魔術師がサーヴァントのやり方につき合っていられるか!!
攻め入るときは攻め入るが、強力な工房は魔術師にとって最大のアドバンテージなのだ!!
明日にだってお前には港で他のサーヴァントを誘い出す重要な仕事があるわ
暴れたいなら今はおとなしく待っていろ!!!!!!!」
ライダーの余りに勝手な物言いに、ついにケイネスの堪忍袋の尾が切れた。
強いプライドを攻撃された人間はなかなかどうして迫力があるものだ。
しかしそれに全く動じることなくライダーはケイネスに周りを見るよう腕を翻す。
「我に最もふさわしい戦略を立てると言ってのけたのは貴様ではないか。それにほれ、周りをよく見て見ろ
このホテルは周りから見て高すぎる、これではマスターごとこのホテルを爆破してくれと言ってるようなものじゃないか」
「ぐっ・・・!!」
思いも寄らなかった欠点を言い当てられてケイネスは言いよどむが、すぐさま反撃に移る。
「だが魔術師が工房を爆破など優雅ではない、爆弾などと言うものに頼ること事態が魔術師にとってはナンセンスな所行であって・・・」
「はぁぁ・・・お主、相手が魔術師連中でなく余のような戦争屋だったらどうするつもりだ?
貴様は忘れてしまっているかもしれんが、これはどんなに平和であっても英霊を使った戦争だと聞いているが
これではおちおち"てれび"も見ておれんわい」
その戦争に使われるサーヴァントごときが言ってくれる…とケイネスは言いかけた言葉を飲み込んだ。
どれだけプライドを踏みにじられようが、ライダーの言葉はどこまでいっても正論だったのである。
流石にケイネスも現実とプライドを天秤にかけることはしない、だから思わず令呪を掲げようとした手を下げた。
「あまりそんな下らん枢に現を抜かすな、そうまで言うのなら新しく工房を用意してやる…この私にかかれば予備の工房など一日あれば」
「おぉっ、このルーズベルトとかいうやつはダレイオス王以来の強敵になりそうだわい」
さっそく新しい工房の手配に着手しようとしたケイネスを無視してテレビを見ているライダーにキレたケイネスは危うく令呪を使いそうになったところをソラウに止められるのであった。
結果として、ケイネスの当初の計画は約一日の遅れが生じたのだった。
現在、間桐家
間桐雁夜は自室に篭り英気を養っていた。
現在彼の蟲とサーヴァントの一体(・・・)が霊体化して街を見て回っているが戦闘はどこにも起きる気配がない
しかし、アサシンと名乗る少女とセイバーと名乗る女性が喫茶店で邂逅した情報も得ている。
聖杯戦争は間もなく本格的に始まろうとしている…だが今はまだ時ではない、遠坂の魔術師への復讐と大切な人の娘を間桐から救い出すという
雁夜の悲願を達成するには、今はまだ十分に休むべきだというサーヴァントの判断だった。
『アインツベルンの森から魔術師とサーヴァントが出てきましたえ』
「ごほっ…あぁ、そのまま追ってくれ…君の半身もすぐにそっちに向かわせる…ごほっ」
サーヴァントの声に答えようとして咳に阻まれる、その様子を心配するように控えめになりながらも声はさらに提案をかけてくる。
『それと、彼女たちの向かう先から強い魔力の放出を感じましたえ…ここは現地に着く前に合流しとった方がええと思います』
「はぁ…わかった、すぐ行くよ…ありがとう」
一か月に詰め込みすぎた拷問じみた修行で弱り切った体に鞭を打ち立ち上がる。
『それは言わないお約束…ってシャレになってへんな、戦闘には耐えられます?』
「大丈夫、俺は戦えるよ…君たちのおかげだ、むしろ俺のことは心配しないでくれ」
雁夜にとってサーヴァントはもはや頼れる相棒を通り越し、一種の依存心を抱えるほどに頼り切っていた。
ほんのわずかの時間でも、触媒なしで召還した影響か召還されたサーヴァントはこの上なく雁夜の境遇に同情し、同じ目的のために戦ってくれる。
わずかの市場のずれで臓硯がディルムッドの剣の欠片も、ランスロットの聖遺物も手に入れ逃したのは彼にとってこの上ない幸運だったのかもしれない。
心理的に仲間という癒しを得た雁夜は、再び確認するようにサーヴァントの名(クラス)を呼んだ。
「頼むバーサーカー、君だけが鍵なんだ…桜ちゃんを救うたった一つの…だから何に替えても、勝て」
『約束しますえ…雁夜おじさん』
第四次聖杯戦争…真の意味での開戦の刻は、すぐそこに迫っていた
「暗殺者が正面から征服王たる余に覇権を問うか、面白い!!!!」
「同盟成立の祝杯を!!でもお酒は堪忍な♪」
「「勝手に何をしてくれちゃってるんですかこのバカー!!!!」」
「o■■ts■■aaa■■■!!!!!!!!」
次回/4 面影
「第2のアサシン…だと!?」