[2]魔法科高校の世界にチート転生者がきたようです   作:型破 優位

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劣等生の方が明らかに書きやすい。


エンジニア

次の日、生徒会室で昼食を取っていた佑馬とジブリール。

 

九校戦の準備は生徒会が主体となって行うものなので、話も必然的に九校戦の話になっていく。

 

そして現在、

 

「選手は十文字君が手伝ってくれたからなんとか決まったんだけど、問題はエンジニアよ……。」

 

絶賛、真由美の愚痴タイムだった。

 

生徒会が主体という性質上、会長の仕事量が普段よりも増えることは自明の理。

 

愚痴の一つや二つ言いたくなるの仕方のないことだろう。

 

「まだ数が揃わないのか?」

 

摩利の問い掛けに、真由美は力なく頷いた。

 

「ウチは魔法師の志望者が多いから、どうしても実技方面に優秀な人材が偏っちゃってて……。今年の三年生は、特に、そう。魔法工学関係の人材不足は危機的状況よ。二年生はあーちゃんとか五十里君とか、それなりに人材がいるんだけど、まだまだ頭数が足りないわ……。」

 

真由美が頭を抱えているのは、エンジニア。

 

今年の九校戦は

 

――今年に限ったことではないのだが。

 

エンジニアが圧倒的に不足しているのだ。

 

「私と十文字君がカバーするっていっても限度があるしなぁ……。」

 

「お前達は主力選手じゃないか。他人のCADの面倒を見ていて、自分の試合が疎かになるようでは笑えないぞ。」

 

「……せめて摩利が自分のCADくらい自分で調整出来るようになってくれれば楽なんだけど。」

 

「……いや、本当に深刻な事態だな。」

 

……摩利はやはりというべきか、こういった方面は苦手なようだった。

 

「佑馬君達は……って、佑馬君、CAD使ってなかったわね……。」

 

「いえ、佑馬は日常ではCADを常に着けていますし、それもオリジナルなのでそこは問題ないと思いますよ。」

 

その言葉にバッ!と顔を上げる真由美。

 

それを言ったのは、達也だ。

 

「それ本当なの!?佑馬君!」

 

「本当ですけど、自分が見れるのは自分とジブリールのCADのみです。他の人のなんて一度もやったことがありませんから。」

 

考えてもいなかった方面からのまさかの希望の手に語尾を強めて問う真由美だが、佑馬から出たのは『否定』。

 

その言葉を聞いてしゅんとなっていくが、

 

「それに、CADなら達也の方がいいですよ?風紀委員とかのやつも全部達也がメンテナンスしたらしいですし、選手じゃないですしね。」

 

「っ!?」

 

その言葉を聞いてまた顔をバッ!っとあげた真由美……っと、達也。

 

本当に、いろんな意味で忙しい二人だ。

 

「そういえばそうでしたね。深雪さんのCADも司波君が調整しているそうですし、一度見せて貰いましたが、一流のメーカーのクラフトマンに勝るとも劣らない仕上がりでした。」

 

そして、援護射撃はあずさから。

 

達也はしまった!という表情をしている。

 

佑馬をエンジニアに推して早くこの場から離れたい、という思いでのさっきの発言だったが、逆に自分にスポットライトが当たる結果となってしまった。

 

だが、ここで従うほど達也も大人しくない。

 

「一年生のエンジニアは過去に例が無いのでは?」

 

「なんでも最初は初めてよ。」

 

「前例は覆す為にあるんだ。」

 

「諦めろ、お前が深雪から逃れられるはずがないだろう。」

 

間髪入れず、真由美と摩利から過激な反論と、佑馬から一番痛いとこを突かれた達也は、ゆっくりと横に顔を向けると。

 

――ニコニコととてもいい笑顔で達也を見つめていた。

 

「わたしは九校戦でと、お兄様にCADを調整していただきたいのですが……ダメでしょうか?」

 

「そうよね!やっぱり、いつも調整を任せている、信頼できるエンジニアがいると、選手としても心強いわよね、深雪さん!」

 

かくして、達也のエンジニア入りが内定した。

 

◆◆◆

 

放課後、佑馬とジブリールは再び生徒室にやってきた。

 

中に入ると、準備に翻弄されている生徒会役員共。

 

「あ、佑馬君とジブリールさん、いらっしゃい……ついでに、場所変えよっか。」

 

出迎えてくれたのは、真由美。

 

彼女も忙しそうだったが、その仕事をやめて佑馬の方へと近づき、図書館を指差した。

 

断る理由もないため、了承の意を表すと、顔を綻ばせながら生徒会室を出た。

 

これからするのは、なんでもない、本当にただの雑談。

 

ゆっくりと話す機会がなかったため、こうやって無理矢理作ったのだ。

 

「もう、本当に大変なのよ。」

 

「本当ですね。入試で手を抜いて良かったです。」

 

「そこには私も同意でございますね。佑馬といられる時間が減りますし。」

 

「……貴方達って、いつも一緒なの?」

 

ジブリールの発言と、今までの行動を照らし合わせてなんとなく気になった真由美はそう聞いたが、そこはもう地雷を踏みかけているところまで差し掛かっていた。

 

「はい、家でもずっと一緒でございます。」

 

「外に行くときも?」

 

「一緒でございます。」

 

「ご飯食べるときも?」

 

「一緒でございます。」

 

「お風呂入るときも?」

 

「一緒でございます。」

 

そして、踏んでしまった。

 

「………。」

 

ジブリールを見つめる真由美。

 

恐らく、ノリで言ってしまったのだと思っているのだろうが、実際に風呂は一緒に入っている。

 

ジブリールも訂正しないため、真由美はみるみるうちに顔を赤くしていく。

 

「え……お風呂も一緒……なの?」

 

「はい。もっといえば、寝るときもでございますね。」

 

「…………。」

 

真由美は既に顔を真っ赤にして俯いている。

 

「まぁ、確かにずっと一緒だけど……寝るときと風呂の時に誘ってくるのだけはやめて欲しいな。」

 

「なっ……!?」

 

「いいではございませんか。むしろ、佑馬こそ何故乗ってきてくれないのでございますか。」

 

二人から聞こえるのは、もはや夫婦の会話だった。

 

いつもはお姉さんという立ち位置で振る舞っている真由美。

 

しかし、実際こういうところを目撃すると、やはり純情な一人の少女に戻ってしまっていた。

 

「……ジブリール、会長がいろいろやばそうだからそろそろやめようか。」

 

「本当でございますね。」

 

「……もう、よくそういう話をこんなところで出来るわね。」

 

現在、佑馬達が向かっているのは、図書館。

 

そう、まだ向かっているのだ。

 

つまり、この会話は普通のボリュームで、廊下でされたもので、現在は放課後。

 

当然そこには他の生徒もいるわけで……。

 

後ろを見てみると、数人ほど顔を赤くしていた。

 

「あれま……まぁ、気にしないけど。」

 

「気にしないのね……。」

 

聞いていると恥ずかしい。

 

しかし、真由美は不意に、いいな、と思ってしまった。

 

二人とも愛し合っていて、いつも一緒で、美男美女。

 

自分もこんな恋が出来るようになりたいと、こんな風にバカップルをやってみたいと。

 

自分の立場では到底出来そうにないことをやっている二人に、憧れ、羨望し、嫉妬してしまった。

 

図書館で話したのは、本当に雑談のみ。

 

探りあいなど一切ない(というより、詮索していたのは真由美だけなのだが)純粋なもの。

 

普段の授業、趣味、友達関係、魔法、九校戦など、話題は多種多様。

 

そして、真由美がこの日、二人に受けた印象は『大人』だった。

 

姿形は高校生なのに、中身は何歳も上のような貫禄を感じるときがあったのだ。

 

実際は佑馬は100歳近く、ジブリールも6000歳を越えているのだが、そんなことを知る由もない真由美は、自分が子供なのかもしれない、というなんともいえない不安感に駆られていたのだった。

 

◆◆◆

 

「それでは、九校戦メンバー選定会議を開始します。」

 

真由美の声でそれは始まった。

 

その場にいるのは、既に選手、エンジニアの内定通知を受けている二、三年生のメンバーと、実施競技各部部長、生徒会役員、部活連執行部のメンバーだ。

 

佑馬、ジブリール、達也は内定メンバーと同じオブザーバー席にいるのだが、議論は達也が、一年生の二科生が何故この場にいるのか、という部分から始まった。

 

そして、飛び火という形で佑馬とジブリールにも、テストで不正したのではないか、という反論が出ている。

 

しかも、それが感情的な部分からの反論なため、いつまでも結論が出ない状態になっていた。

 

「要するに。」

 

不意に、重々しい声が議場を圧した。

 

然程大きい声ではなかったが、その場の誰もが発言者である、十文字 克人に視線を向けた。

 

「司波の技能がどの程度のものか分からない点、中田の魔法技能の点が問題になっていると理解したが、もしそうであるならば、実際に確かめてみるのが一番だろう。」

 

広い室内が静まり返った。

 

それは単純で効果的で、誰も文句のつけようがない結果が明らかになる反面、少なからぬリスクを伴うが故に、誰も言い出さなかった解決策だった。

 

「……もっともな意見だが、具体的にはどうする?」

 

「司波には今から実際に調整を、中田には実際に競技をやらせてみればいい。」

 

摩利の問い掛けにたいしても、また単純明瞭なもの。

 

「なんなら俺が実験台になるが。」

 

「いえ、彼を推薦したのは私ですから、その役目は私がやります。」

 

克人が実験台になると言った瞬間、真由美が代役を申し出たが、

 

「いえ、その役目、俺にやらせてください。」

 

それに続いて、春の一件で達也と揉めた、剣術部の桐原が名乗りを上げたのだった。

 

◆◆◆

 

目の前で見せられた高度な技術を理解出来た者は少なかった。

 

しかし、見るものが見れば、正しく達人芸。

 

高校生レベルに収まるとは思えないほど、高度なものだった。

 

当然、達也はエンジニア入りを果たし、誰もその技量に文句をつけるものはいなかった。

 

そして、次は佑馬とジブリール。

 

「さて、次だが、中田佑馬はクラウド・ボールとモノリス・コード。中田ジブリールはクラウド・ボールとアイス・ピラーズ・ブレイクだったな。」

 

「ええ、そうよ。」

 

「それなら、まずクラウド・ボールの実力から見せて貰いたいのだが、誰かやる奴はいないか?」

 

克人が佑馬の相手役をやりたい人を問いかけると、上級生数人の手が挙げる。

 

「……何?」

 

そして、その中には、

 

「私にやらせてくれないかしら。」

 

克人の横で手を挙げる、真由美の姿があった。

 

「リベンジも含めて……ね。」

 

「……何?」

 

そして、真由美の言葉に、同じ聞き返しを、ただ、別の意味で言った。

 

現時点で男子も含めてトップクラスの真由美が、リベンジと言った時点で、克人には佑馬の実力の高さを理解した。

 

「よかろう。それでは、場所を移動するぞ。」

 

◆◆◆

 

九校戦メンバーが透明の箱を囲うようにして、中で向かい合っている二人を見守る。

 

片方はラケット、そしてもう片方は拳銃型のCAD。

 

ラケットは佑馬、CADは真由美だ。

 

「実は、前回の黒星が私の初めての黒星なのよ。」

 

「そうなんですね。じゃあこれで二つ目だ。」

 

「今日は勝たせて貰うわ。」

 

二人の間で火花が散る。

 

コートに立ち、合図を待つ二人。

 

試合開始の合図とともに圧縮空気で射出されたボールは、真由美の方へと飛んで行った。

 

それはネット約10cmのところで、倍の速度となって佑馬のコートに向かっていく。

 

見守っていた生徒はほとんどがこれが決まったと思った。

 

だが、現実は違う。

 

いつの間にか落下点でラケットをテイクバックして打つ体型に入っていた佑馬。

 

そこから打たれた球に、見ていた九校戦メンバーは絶句する。

 

人間が打ったとは思えないほどの凄まじい速さ。

 

真由美はなんとかそれを魔法で倍の速度にして返すが、

 

「さぁ、始めようか。」

 

佑馬のその一言と共に放たれた球に、見ていたメンバーは再び絶句した。

 

佑馬が打ったのは、フレームショット。

 

それはとてつもない速さで何個も分裂して真由美のコートへと向かっていく。

 

しかし、今回はそれが決まることはなかった。

 

真由美はその分裂してい球全てに魔法を放ち、その球は佑馬のコートに落ちた。

 

時間にして、10秒にも満たない時間。

 

「前回よりは強くなったじゃん。」

 

二球に増えた球を打ち続けながら、真由美に話しかける。

 

「私だって、本当に悔しかったんだからね?だから、今日は勝たせて貰うわ!」

 

二球同時に返した真由美。

 

二つとも逆サイドに向かって飛んで行き、どちらか一つは確実に入ると一目見ればわかる状態。

 

「これくらいが点になると思わない方がいいですよ?」

 

しかし、それは一瞬にして返された。

 

消えたのだ。

 

観客の誰一人として、そのスピードは見えなかった、否、見えるはずがなかった。

 

走ったのではなく、空間を移動したのだから。

 

球は人ではあり得ないスピードを出して真由美のコートに迫るも、それを魔法で倍の速度にして返す真由美。

 

前回よりと明らかに強くなっていた。

 

「いいね、すごい面白いよ。」

 

そして、球が三球に増えたころ、現在得点は真由美に一点入っただけ。

 

そこで、佑馬が動いた。

 

「それじゃあ、ちょっと本気でやらせていただきます!」

 

そして、そのまま三球を打った。

 

誰が見てもさっきとは何も変化したところはない速い球。

 

しかし、それは真由美のコートに入る前に起きた。

 

「……え?」

 

ネットを超える前に球がいきなり消えた。

 

(上!!)

 

マルチスコープによって、それが上にポップアップしたものだと見切った真由美は、そこに魔法を放つ。

 

「お、神隠しまで見切るとはさすが。」

 

そして、佑馬がラケットを振った、いや、初めて振り抜いた瞬間。

 

目視することも出来ずに三球の球が真由美のコートに落ちた。

 

「……え?」

 

その言葉は、真由美や観客を含めた全員から漏れた。

 

マルチスコープですら残像を捉えるのがやっとのスピード。

 

ベクトル操作と全力の力で振り抜いた球はその場にいたほとんどの、いや、三人を除いた全員が見えなかった。

 

見えた者は真由美と達也、そしてジブリール。

 

ジブリールははっきりと、真由美と達也は残像で。

 

そこからは7球が出るまでの間、二人の差は127対5となっていた。

 

前者が佑馬、後者が真由美。

 

「さて、そろそろこれも疲れたし、一球増えるごとに楽させてもらうよ。」

 

なんとか食らい付いていっている真由美に対して、再び声をかける佑馬。

 

返球を対処しながら、それを警戒する真由美。

 

8球目が出てきて、それを佑馬が打った。

 

そして、真由美からの返球を含む球は8球全て、文字通りその場から消え、気がついたら真由美のコートに全て落ちていた。

 

「……そんな……いつの間に……。」

 

そう、完全に消えた。

 

達也の眼をもってしても、ジブリールですら見えなかった。

 

それもそのはず。

 

佑馬が使ったのは神威。

 

全ての球を異空間へ移動させ、真由美のコートに全て落とした。

 

種がわかるはずもない真由美はただ集中力を高めて見極めることしか出来ない。

 

そして、9球目が出てきてころ。

 

脈炉も何もなく、佑馬のコートに入る直前で球は様々な場所へ凄まじいスピードで返された。

 

反射膜をコート全域に展開し、コートに入ることすらを拒むこの技。

 

この試合は佑馬の勝利となった。




実は昨日がこの小説が始まって2ヶ月だったりする。

2ヶ月で18話か。

少ないなぁ。

というわけで、今回は増量+チートターンにしてみました。

次回、クラウド・ボール、ジブリールのターン。

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