[2]魔法科高校の世界にチート転生者がきたようです   作:型破 優位

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九校戦は劣等生でも一番盛り上がるところだから、やっぱり長くなると思う。

活動報告にて、今後の方針と来週の更新について書きました。

確認をお願いします。


九校戦前夜

「だから本当は出たくないのよね、これ……。」

 

現在、懇親会が行われており、それに参加している。

 

これから勝敗を競う相手と一同に会するため、プレ開会式の性格が大きく、和やかさより緊張感の方が目につく。

 

生徒会長の真由美はその堅苦しさが好きではないようで、生徒会長としてあるまじき事を言った。

 

九校戦の参加者は三百六十名。

 

裏方を含めると、四百名を超える。

 

佑馬とジブリールは端の方でその光景を眺めていた。

 

「うん、暇だ。」

 

「暇でございますね。」

 

特別話したいと思う人もおらず、他校に知り合いがいるのかといったらいるわけもない。

 

唯一暇が潰せそうな達也は深雪とウエイトレスの格好をしたエリカと喋っている。

 

しばらく見ていると、雫とほのかが達也と深雪のところへ近づいていき、途中でほのかが一高の一年を指差し、達也が呆れたような表情をしているのが見えた。

 

「まぁ、あれは明らかに番犬だよな。」

 

「かなり優秀な番犬ですね。」

 

そして、また別の、

 

今度は二年生のカップルがその輪に近づいていった。

 

花音と五十里だ。

 

そして、達也に手を振って別の一年生のところへ向かった一年女子の三人を見て、佑馬は達也の近くへ行く。

 

「よ、モテ男。」

 

「そんなつもり向こうにはないと思うのだが……。」

 

「千代田先輩と五十里先輩は相変わらずですね。」

 

達也に声だけかけてもらした言葉には触れず、そのまま二年生カップルに話しかけた。

 

「貴方達も変わらないでしょ?」

 

「というより、佑馬君たちの方こそ相変わらずだね。」

 

「まぁ、いつも通りです。」

 

九校戦メンバーということや許嫁がいるという接点で顔は見知っており、佑馬とジブリールが同じ名字とはいえ下の名前で呼ぶほどには親しい。

 

「そういえば、ジブリールさんは棒倒し大丈夫?クラウドは見ていたけど、棒倒しをやってるとこ一度も見たことないよ?」

 

花音がジブリールを見て思い出したように、そう聞く。

 

「ジブリールなら問題ないですよ。CADの調整も既に終わっています。」

 

「へぇ。まぁ、あのクラウド見せられたら、嫌でも実力があるのはわかっちゃうんだけどね。」

 

佑馬とジブリールのクラウドの試合を思い出し、苦笑いしながら言う花音。

 

「そのCADは、佑馬君が調整したの?」

 

「あ、はい。そうです。」

 

「調整、というよりは、製造が正しゅうございますね。」

 

「え!?佑馬君ってCADも作れるの!?」

 

「はい♪性能は保証しますよ♪」

 

花音は、佑馬が完全な魔法師型だと思っていたらしく、CADを作れることに驚きを隠せなかった。

 

そして、当の佑馬は苦笑いしながら達也の方へ向いた。

 

「まぁ、そのCADは深雪対策のようなものなんだけどね。」

 

「ほう……佑馬達に対策されているというのは喜ぶべきことなのか?」

 

「さぁ、どっちだろうね。」

 

達也の困った表情を見て満足してたら、五十里が佑馬に話しかけてきた。

 

「ちょっと相談なんだけど、いいかな?」

 

「あ、はい。なんでしょうか。」

 

「僕たちエンジニアはなんとか数は揃ったけど、それでも足りないと言ってもいい状態なんだ。出来れば、エンジニアの方も手伝って欲しいんだけど……。」

 

それは、お願いだった。

 

エンジニアも兼任してくれということだった。

 

「わかりました。会長に聞いて許可が出たら、是非やらせていただきます。」

 

「助かるよ。」

 

現在、真由美は三校に向かっているため、今の話を忘れないようにするためにも、今三高の役員と話す前に聞いておかなければいけない。

 

少し小走りで真由美の方へ向かって、肩をトントン、っと叩いた。

 

「ん?」

 

「どうも。」

 

「ああ、佑馬君ね。どうしたの?ジブリールさんほったらかしてナンパ?」

 

この人も懲りないな、と思いながらもそこには触れずに用件だけ話す。

 

「五十里先輩と話してきたのですが、やっぱりエンジニアが少し足りてないんですよね?」

 

「軽く無視しちゃうのね……そうよ。なんとか回せるってくらいにしかいないわね。」

 

「というわけで、自分も空いているときにエンジニアとして入ってもいいでしょうか?」

 

「佑馬君がいいなら、是非そうしてくれると有り難いわ。それよりも……。」

 

「どうしました?」

 

変な間が空いたことに不思議に思ったため、聞き返すと

 

「佑馬君、最初会ったときはタメ口だったのに、今じゃ敬語になっちゃったなーって思ってさ。」

 

と、少し残念そうに言った。

 

「敬いは大切だと思ったので。敬語が必要ないなら、タメ口に戻しますが?」

 

「そうしてくれると有り難いわ。ちょっと堅い感じがしてあまり好きじゃないのよ。」

 

「了解。でも、ジブリールは元がこれだからそこは勘弁してね。」

 

「うん、やっぱりこっちの方がしっくりくるわ。」

 

満足げに頷きながら、三高の方へ歩いていく真由美。

 

そのさらに奥から視線を感じたが、来賓挨拶が始まったため、ジブリールと共に再び達也のところへ戻る。

 

達也は一人だった。

 

「よ、ボッチ。」

 

「佑馬か、もう話はいいのか?」

 

「さすがにこの中で目立つようなことはしたくないな。」

 

「そうか。」

 

そして、再び壇上に目を戻す達也。

 

「誰か知り合いでも来てるのか?」

 

「いや、顔を知っている程度だな。」

 

しばらく魔法界の名士と呼ばれる人たちの話を聞いて、暇を潰した。

 

そして、最後の来賓の挨拶。

 

『老師』と呼ばれる十師族の長老、九島 烈。

 

この二十一世紀の日本に十師族という序列を確立した人物であり、二十年ほど前までは世界最強の魔法師の一人と目されていた人物だ。

 

最強のまま第一線を退いたのだが、何故か九校戦にだけは毎年顔を出すことで知られている。

 

司会者がその名を告げ、会場の高校生全員が、息を呑んで、九島老人の登壇を待つ。

 

そして現れた人物に、会場がざわめいた。

 

壇上にいたのは、金髪の若い女性。

 

だが、佑馬とジブリール、達也はすぐに魔法の気配を察知、後ろに老人が立っているのを見た。

 

その老人がこちらを見て、ニヤリと笑った。

 

それは正に悪戯を成功させた少年のような、無邪気なものだ。

 

今回使ったのは、とても弱い『精神干渉魔法』。

 

しかし、それを工夫して、この会場のほとんどの人を騙した。

 

魔法は力だけではなく、使い方、というのを実践した上で、その工夫を期待している、という言葉を残して、烈は去っていった。

 

達也は無表情だが、何処と無く楽しそうな雰囲気を出していたため、烈のことを気に入ったのだろう。

 

九島 烈。

 

佑馬はこの時思った。

 

ジブリールと同等の強敵だと。

 

◆◆◆

 

懇親会が終わった次の日、準備期間として休日になっているが、佑馬はエンジニアとの兼任が認められたため、何処のサポートに入るのかを決めていたが、技術が分からない、ということで一番親しい達也の補佐、という形になった。

 

そのため、部屋でしっかりと日程を組んでいる。

 

そして、ジブリール。

 

深雪と同室というためか、ほのかと雫が遊びに来た。

 

知らない仲ではない、というより、深雪とは比較的よく、ほのかと雫とも関係はいいため、そこまで居心地は悪くはなかった。

 

ガールズトークをしているうちに、気がつけば夜の十時。

 

そこで、扉がノックされた。

 

「あっ、私が出るよ。」

 

全員立ち上がったが、一番近かったほのかが扉を開けた。

 

「こんばんは~。」

 

「あれっ、エイミィ。他の皆もどうしたの?」

 

そこにいたのは、紅い髪が印象的な小柄な少女。

 

チームメイトの明智英美だ。

 

そして、背後には四人の同級生。

 

ここには、第一高新人戦女子チームのメンバーがほとんど揃っているのだ。

 

「うん、あのね、ここって温泉があるのよ。」

 

「……ゴメン、もう少し分かりやすく言って?」

 

「温泉に入ろうってことではございませんか?」

 

英美の言いたいことを代わりに言ったのは、ジブリールだった。

 

「そうそう!さすがジブリールさん!」

 

「……入れるの?」

 

「試しに頼んでみたら、許可くれたよ。十一時までだったら良いって。」

 

「さすがはエイミィ。」

 

ほのかが漏らした呆れ声混じりの呟きも、

 

「言ってみるものよね。」

 

むしろ得意気にしている英美には効果がないようだ。

 

地下にある大浴場は一高一年女子の貸しきりだった。

 

着替えを持ってくるため、少し遅れた深雪とジブリールだったが、それほど遅れてはいない。

 

それほど遅れてはいないはずなのに、中は既に騒がしかった。

 

「一体何を騒いでいるのかしら。」

 

「大人数でお風呂に入るなんて、久しぶりでございますね。」

 

二人ともシャワーブースで身体を洗ってから、中は水着、または湯着着用ということで、深雪は湯着、ジブリールは腹部が紐で編まれたワンピースに大きめのストールをパレオのように巻いた、前の世界の水着を着た。

 

深雪は長い髪纏めて、ジブリールはそのままにして浴室に移動した。

 

その瞬間、湯船に浸かっていたチームメイトの視線が、一斉に深雪とジブリールに向く。

 

「な、なに?」

 

深雪は思わずたじろぐが、ジブリールは気にせず湯船に入った。

 

「いやぁ、ゴメンゴメン。つい見とれてしまったよ。」

 

一番端の縁に腰掛けていたD組の里見スバルという少女に、少年っぽいというか随分ハンサムな口調でそう言われた深雪とジブリール。

 

「チョ……女の子同士で何を言ってるの?」

 

深雪は焦った声を出しながら、内腿あたりに手をやって隠すような仕草をする。

 

そして、ジブリールはというと。

 

(本当に、裸の付き合いは無くなってしまったのでございますね……。)

 

日本の伝統文化、『裸の付き合い』が無くなっていることに、少し残念な気持ちになっていた。

 

◆◆◆

 

しばらくは深雪とジブリールに見とれていた少女だったが、やっといつものようになった。

 

ジブリールは聞いているだけだが、やはり女子が集まれば恋愛話系列になるのは必然らしい。

 

「そういえば、三高に一条の跡取りがいたよね?」

 

「あっ、見た見た。結構いい男だったよね。」

 

「うん。男は外見だけじゃないけどさ、外見も良ければ言うことないよね。」

 

……という具合である。

 

「そういえば、ジブリールって中田君と付き合ってるのよね?」

 

「……あ、はい。そうですが?」

 

いきなり話題を振られて少し戸惑いながらも、肯定の意を返すと、一気に話しかけられた。

 

「ねぇ!何処までいったの?」

 

「一緒に住んでるって本当!?」

 

「実は十師族って話が出てるんだけど、そこんとこはどうなの?」

 

「あ、えーっと。少し落ち着いてくださいませんか?」

 

いくらジブリールでも、さすがにこれには困ったような表現を浮かべた。

 

「えーっと、まず私たちの関係ですが、所謂許嫁っていうやつでございますね。一緒に家に住んでいますが、十師族とは全く無関係ですね。」

 

「佑馬君、カッコいいよねー。ジブリールがいなかったら皆狙ってたんだよ?」

 

「佑馬がカッコいいのは当然でございます。誰にも譲る気はありませんよ?」

 

「ハイハイ、御馳走様。それで、何処までいったの?」

 

惚けたジブリールに笑顔でそう言いながら、さらに深くまで聞くエイミィ。

 

「ちょっとエイミィ!?」

 

「何処までとは?」

 

「いやぁ、一緒に住んでいるんでしょ?男の跡の一つや二つ、あるんじゃないかと思って。」

 

かなり深くまで聞いたエイミィだが、それくらいで恥ずかしがるジブリールでもない。

 

「いえ、誘っても全く反応してくれないんですよ。ベッドで寝てるときも身体を密着させるんですけど……どうしたらいいのでしょうか……って、皆さん、どうかしましたか?」

 

ジブリールが真剣に悩んでいるなか、ふと顔をあげると全員が顔を真っ赤にしていた。

 

「……その……すごいね。中田君もジブリールも。」

 

「勝てる気しないわ……。」

 

「ジブリールはよくそんなこと言えるわよね……佑馬君も前それで困ってたじゃない。」

 

その時、ここにいるほぼ全員が思った。

 

佑馬の理性がよく持っているな、と。




前夜と書きましたが、それが一番雰囲気としてあってるかなっと思いつけたものです。

本当の前夜は休日ですからね。

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