[2]魔法科高校の世界にチート転生者がきたようです   作:型破 優位

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九校戦開幕

九校戦は直接の観客だけでも、十日間で延べ十万人。

 

交通の便が悪いところで行われているにも拘わらず、一日平均一万人のギャラリーが競技を見に来る。

 

有線放送の視聴者は、少なくともその百倍以上になるだろう。

 

開会式は華やかさよりも、規律強く印象付けるものだった。

 

魔法競技自体派手なものだから、セレモニーを華美にする必要は無いのである。

 

来賓挨拶もなく、九校の校歌が順に演奏された後、すぐに競技に入った。

 

一日目の競技はスピード・シューティングの決勝までと、バトル・ボードの予選。

 

「お兄様、会長の試技が始まります。」

 

「第一試合から真打登場か。佑馬、観に行くぞ。」

 

「お、そうか。ジブリールは……いるな。よし、行こう。」

 

「了解。」

 

達也を呼びに来た深雪と、そこにいたジブリールと共に真由美の観戦をすべく、スピード・シューティングの競技場へ向かった。

 

左から、雫、ほのか、達也、深雪、ジブリール、佑馬の順番で、会場内の一般用の席に座る。

 

スピード・シューティングは、三十メートルの先の空中に投射されるクレーの標的を魔法で破壊する競技で、制限時間内に破壊したクレーの個数を競う。

 

いかに素早く正確に魔法を発射できるかを競う。

 

これがスピード・シューティングという競技名の由来。

 

試合は二形式。

 

予選は五分の制限時間内に破壊した標的の数を競うスコア型。

 

準々決勝以降は対戦型。

 

紅白の標的が百個ずつ用意され、自分の色の標的を破壊した数を競う。

 

隣では達也と愉快な仲間たちが雑談しており、前列では青少年、少女が真由美の姿を見ようと押し掛けていた。

 

「スポーツ観戦をするのは初めてだな。」

 

「そうでございますね。あの世界ではスポーツというよりゲームでしたし。」

 

「懐かしいな。盟約とか十六種族とか。」

 

「本当でございますね……試合が始まりそうですね。」

 

ジブリールがそう言ってしばらくすると、観客席は静まり返った。

 

開始のシグナルが点った。

 

軽快な射出音と共に、クレーが空中をかけ抜ける。

 

「速い……!」

 

一番左に座っている雫から声が漏れる。

 

真由美は真っ直ぐ立ってCADを構えているだけ。

 

クレーが次々と、不規則な間隔で撃ち出されるなか、それを一個の取りこぼしもなく、個々に撃ち砕いていき、五分の試技時間は、あっという間に終了した。

 

「……パーフェクトとはね。」

 

身に付けていたゴーグルとヘッドセットを外して、客席の拍手に笑顔で応える真由美を見ながら、達也は呆れ声で呟いた。

 

「しかも、『マルチスコープ』を使ってなかった……。」

 

「それって、肉眼だけであの射撃を行っていたということですか?」

 

「そういうことになるね。」

 

達也と深雪の会話を聞きながら、佑馬は真由美の方を見る。

 

未だ観客の拍手に応えているが、ふと、此方を見つけると、

 

「……あれは佑馬に向かってやってるな。」

 

「……だろうね。」

 

こちらに手で銃を作って、バン、と撃つ仕草をした。

 

回りから痛い視線が集まるが、何故真由美がそんなことをするのか、それは……

 

「佑馬はたぶん、会長のライバルとして目を付けられたんじゃないか?」

 

「……思い当たる節がありすぎて否定できないな。」

 

真由美が佑馬をライバル視していることだろう。

 

九校戦競技を決める際、スピード・シューティングのクレーの代用で真由美のドライアイスの亜音速弾を使っていたが、それを軽々撃ち砕く佑馬を見て真由美がだんだん本気になっていき、最後は『マルチスコープ』まで使ったのに、結果はパーフェクト。

 

クラウド・ボールも真由美が大差で負けたことは既に知れ渡っている。

 

佑馬は真由美が退場をしていくのを見ながら、

 

「負けてられないな。」

 

と、呟いた。

 

◆◆◆

 

黄色い歓声が飛ぶなか、バトル・ボードは行われていた。

 

開幕の他校の自爆戦術を唯一喰らわなかった摩利は、一周目を終えて既に独走状態だった。

 

バトル・ボードは人口水路を、長さ百六十五センチ、幅五十一センチの紡錘形(ぼうすいけい)ボートに乗って走破する競争競技だ。

 

ボードに動力はついていないため、選手は魔法を使ってゴールする必要がある。

 

選手の身体やボードに対する攻撃は禁止されているが、水面に魔法を行使することはルールの範囲内だ。

 

コースは男女別に作られているが、難易度に大差はない。

 

予選は一レース四人で六レース、準決勝を一レースで三人で二レース、三位決定戦を四人で、決定レースを一対一で競う。

 

「硬化魔法の応用と移動魔法に振動魔法、加速魔法……すごいな、常時三から四種類の魔法をマルチキャストしているのか。」

 

達也からは称賛の声がもれた。

 

一つ一つの魔法自体はそれほど強力なものではない。

 

ただ、組み合わせは絶妙だった。

 

佑馬はこの摩利のレースをみて、九島烈の言葉を思い出す。

 

「工夫を楽しみにしている……か。確かに、これは面白いな。」

 

「なら、強力な魔法を工夫して使えば、どうなるのでしょうか。」

 

佑馬の呟きにジブリールが反応する。

 

「強力な魔法を工夫するねぇ。やっぱり、強力な魔法は派手だからフェイント効果は高いんじゃないか?」

 

「フェイントですか……なるほど。」

 

珍しく何か深く考えているジブリール。

 

ウーンウーン言いながら考える姿は可愛いのでほっておくが、何をそんなに悩んでいるのか分からなかった。

 

バトル・ボードは摩利の断然トップで終わった。

 

◆◆◆

 

昼食が終わったあと、達也は秘密裏に旅団の人たちと会っているため、このスピード・シューティングの場にはいない。

 

幹比古も熱気に当てられたらしく、部屋で寝ると言ってホテルに戻っていった。

 

「達也くん、こっちこっち!」

 

エリカの陽気な声が向けられたのは、会場に入ってきた達也。

 

「準々決勝からすごい人気だな。」

 

「会長が出場されるからですよ。他の試合は、これほど混んでいません。」

 

達也の独り言に近い感想を律儀に答えたのは、美月。

 

「……達也、なんか言ってた?」

 

佑馬が気にしているのは、旅団のこと。

 

佑馬もジブリールも旅団に所属しているため、達也も情報を共有する必要はある。

 

「いや、顔を見てみたいから挨拶はしてほしい的なことは言ってたが、それ以外は特になかったぞ。」

 

「了解。今日の夜挨拶に行くからそれを伝えておいてくれ。」

 

「分かった…ほのか、観辛くないか?」

 

話が終わったところで、声のボリュームを戻して後ろにいるほのかを気にかけるが、ほのかは笑顔で顔を横に振った。

 

ここからは紅白のそれぞれ百個の標的から、自分の色の標的を選び破壊した数を競う対戦型になる。

 

開始の合図は、縦に並んだ五つのライトが全部点いたとき。

 

最初のライトが光、下から一つずつ光源が増えていく。

 

光が最上段に到達した瞬間、クレーが空中を飛び交う。

 

真由美が撃ち落とすべき標的は赤。

 

赤く塗られたクレーは、有効エリアに飛び込んできた瞬間、ほぼ同時に撃ち砕かれていく。

 

「『魔弾の射手』……去年より更に速くなっています。」

 

魔弾の射手。

 

遠隔弾丸生成・射出の魔法。

 

スピード・シューティングにおいて、相手の魔法を使用している領域外から死角をついて攻撃出来るため、お互いの魔法が干渉しあうこと起きる。

 

そうすることにより、一人で魔法を使っているのと同じ状況が生まれる。

 

無論、それは相手も同じこと。

 

そうなれば、純粋にスピードと照準の精確さが勝負となるのだが、真由美の魔法力は世界的に見ても卓越した水準にある。

 

高校生のレベルでは、勝負にすらならなかった。

 

◆◆◆

 

一日目の競技は、スピード・シューティングは男女ともに一高の優勝。

 

バトル・ボードも男女共に予選は通過したが、予想よりも男子は苦戦した。

 

そして現在、佑馬とジブリールは旅団の人に挨拶をするために、大佐クラスが使う広い客室に向かった。

 

「こうして会うのは三年前ぶりか。まあ、掛けろ。」

 

中には円卓の上にディナーが人数分準備されており、既に何人か座っていた。

 

「それでは、失礼します。」

 

礼儀上の挨拶を言って、ジブリールと共に座る。

 

「さて、まずは紹介からだな。」

 

風間も対面に座ってから、旅団側の自己紹介が始まる。

 

「それでは、自分から。真田 繁留(さなだ しげる)だ。階級は大尉、よろしく頼む。」

 

柳 連(やなぎ むらじ)だ。階級は大尉、三年前に顔を会わせているのだが、覚えているかな?」

 

「ええ。CADを奪い取りましたから。」

 

「ああ、そこは覚えてなくていいんだよ……。」

 

まずは佑馬から向かって右側の二人、真田と柳が自己紹介をする。

 

藤林 響子(ふじばやし きょうこ)、階級は少尉よ。よろしくね、中田佑馬くん、ジブリールさん。」

 

山中 幸典(やまなか こうすけ)だ。階級は少佐で軍医をやらせてもらっている。」

 

そして、向かって左側の女性、藤林と山中が自己紹介をする。

 

「そして、既に知っていると思うが、私がこの旅団の隊長、風間 玄信(かざま はるのぶ)だ。階級は少佐、これからよろしく頼むぞ。」

 

そして、最後に対面にいる風間が自己紹介をした。

 

「それでは、自分から。『神の使者』の一人、中田 佑馬です。これからよろしくお願いします。」

 

「『神の使者』の一人、中田 ジブリールでございます。争いごとが起きたらすぐに呼んでくださいませ♪」

 

佑馬は普通の、ジブリールはいかにも戦闘狂の言う自己紹介をした。

 

「では、冷めては勿体ないから先に頂くとしよう。」

 

風間の促しで、会食を始める。

 

最初は佑馬たちの魔法についてや軍についてなど事務的なものが大半だったが、話は次第に九校戦へと向く。

 

「佑馬君とジブリールさんは、何か出場されるんですか?」

 

「はい。自分はクラウド・ボールとモノリス・コード。ジブリールがアイス・ピラーズ・ブレイクとクラウド・ボールに出ます。」

 

藤林の質問に、佑馬は答える。

 

年齢が近いこともあって、この二人は既に打ち解けていた。

 

「ほう。佑馬は一条と、ジブリールは達也の妹と戦うことになるのか。どうだ、勝算はあるのか?」

 

「必ず勝ちます。自分の出るモノリス・コードは油断や過信ではなく、必勝です。ジブリールは達也の作るCAD次第ですが、ジブリールが負けることはまずないでしょう。」

 

風間の質問に、佑馬が丁寧に答える。

 

「そこまで自信があるのか。それは、是非とも見てみたいものだ。」

 

「是非見に来てください。楽しませてあげますよ?」

 

その日の初めての会食は、いい雰囲気のまま終わった。




真由美強化。
ルビこれから使っていきます。

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