[2]魔法科高校の世界にチート転生者がきたようです 作:型破 優位
試合は終わった。
しかし、その凄まじさに、誰も声を出すことはない。
佑馬は翼を霧散させ、真由美に近づいた。
そして、そのまま真由美をお姫様抱っこし、透明な箱から出てくるのを見ている観客と、機械の操縦室から見ている者がいた。
「あれが『神の使者』の実力ですか……あれほどの激しい試合だったにも関わらず、息が乱れているだけのようですね。」
「ああ、これは予想以上だったが……七草の令嬢もよく耐えたな……意地というやつか?」
ブザーやボールを出す機械を操作していた藤林と、その隣にいた風間だ。
「最後の転移させたボールに反応したのは、恐らく無意識にでしょう。あれがなければ、引き分けてましたね。」
そう、それがなければ引き分け。
つまり、佑馬は負けたのだ。
コート脇に移動してそこで膝枕をしてジブリールを手招きする佑馬に、ジブリールはすぐに向かった。
何か聞いたと同時にその場から消えた。
「これだけ転移を見せられれば転移魔法も本当だと思わざるを得ないな。……あの時のは幻惑だと思っていたが……。」
何かを持ってすぐに戻ってきたジブリールを横目に、風間と藤林はその場を後にした。
◆◆◆
摩利と十文字、達也が向かってくるなか、佑馬はジブリールから貰ったCADを真由美につけ、自分のサイオンを真由美のサイオンに変換してCADへと送った。
その瞬間、真由美のサイオンは戻る。
「よし、ジブリール、助かった。俺は起きるまで見ておくから、ジブリールは先に戻ってていいよ。」
「わかりました……が、変なことはしちゃダメですよ?」
「ジブリールがいるのに手を出すわけないよ。」
ジブリールは真由美を見ながら、今日だけですよ、という言葉を視線で送って消えた。
「おい!真由美は大丈夫か!」
「はい、やり方は秘密ですが、サイオンは平常時に戻しました。」
そこで摩利が、かなり焦った様子で近寄るも、佑馬は安全を伝えて摩利を安心させる。
「真っ正面から破ろうとしたのですが、予想以上に耐えてきまして……負けるのは嫌だったので、最後の転移魔法でせめて引き分けにしようとしたのですが、まさかあそこに魔法を張るとは思っても見ませんでした。完敗ですよ。」
「それにしても、凄かった。あの黒い翼はなんだ?あれが出てきた瞬間に球が全く見えなくなったんだが……。」
「秘密です……が、あれはこの競技で出せる俺の本気で間違いありません。本当は使いたくなかったのですが……。」
そこで寝ている真由美を見ながら、
「本気で努力した人には、それに見合った礼儀を示すべきだと思いましてね。」
と、いうか、と付け加えて、
「あの防壁魔法を真っ正面から破れなくて転移魔法を使った時点で俺の負けは確定していました。ジブリールにすら負けなかったのに……さすがに悔しいな。」
そこにいた摩利、十文字、達也は見た。
悔しいと言っておきながらも、口元は笑っていたのを。
「……七草はお前に任せても大丈夫か?」
「大丈夫です。もう魔法で保護してあるから、後は起きるのを待つだけだし……少し話したいこともあるから、先に帰ってていいです。」
「分かった。後は頼んだぞ?」
摩利はニヤニヤしながら、そのまま十文字と帰っていった。
「達也、あれがこの競技での俺の本気だ。その眼で何か分かったか?」
「いや、全くだ。その話は後でじっくり聞かせてもらうぞ。」
「九校戦が終わってからにしてくれ。それじゃあ俺はしばらくしたら帰るから、先に部屋に戻っててくれ。」
「わかった。」
そう言って達也は帰っていった。
それを見ながら、佑馬も真由美を抱えて転移する。
自分達の家に。
◆◆◆
知らない天井だ。
それがまず真由美の頭に浮かんだ言葉だった。
病院でもない家みたいなところ。
「……って!ここ何処!?」
ガバッ!っと真由美はベッドから起きる。
「あ、起きたね。ここは俺とジブリールの家だよ。」
「え、あ、え?佑馬君の家?」
頭が混乱しているのか、周りを忙しなく見ている真由美。
「俺が転移でここまで連れてきました。現在は日付が変わったところです。」
「そ、そう……。」
それでも男子の部屋だからか、何処と無く落ち着きのない真由美。
いつもは小悪魔的なお姉さんキャラだが、こういうところは本当に純情なんだな、と苦笑する佑馬。
「……あ!試合!試合はどうなったの?」
そして、思い出したように問い詰める真由美。
「落ちついて……結果から言うと、負けたよ。」
主語を言わずに、負けた、とだけ言う。
「……俺が。」
そして、その言葉を聞いた瞬間、真由美は口を手で覆った。
「……私……勝ったの?……本当に……本当に佑馬くんに……勝ったの?」
「ああ、完敗だよ。」
その瞬間、真由美は布団を顔に手繰り寄せ、そのまま泣いた。
厚いと思っていた壁を、高いと思っていた壁を、真由美は乗り越えたのだ。
今は佑馬も何も言わずに、真由美の頭を撫でることにした。
佑馬は今回、この世界にきて初めて負けた。
ジブリールにすら負けなかった佑馬は負けたのだ。
それが実際は本当に悔しかった。
しかし、自分を目標にして、それを越えるものがいる。
それもまた、一興だな、と笑いながら、真由美が泣き止むまで頭を撫で続けた。
◆◆◆
「……。」
「……あの、そろそろいいですか?」
「……。」
真由美は拗ねていた。
年下の男の子に泣いているのを見られ、あまつさえ頭を撫でられ慰められたのだ。
つまり、これは恥ずかしさの裏返しなのだが、
「……どうしたら許してくれますかね……?」
佑馬にとっては困ったの一言でしかない。
だが、佑馬はやらかしたとすぐに後悔する。
どうしたら許してくれるか、というのは、つまり、それをするから許してくれ、ということだ。
案の定、真由美もいつの間にか小悪魔的な笑みで佑馬を見ていて……
「そうね……今だけは隣に居てくれるかしら。」
「……さすがにジブリールと達也から許可が降りたらでいいでしょうか。」
「勿論、だけど達也君はなんで?」
「部屋が同じだからですよ。」
ポン!っと手をついて納得する真由美に苦笑しながら、目を閉じる。
(ジブリール。)
(なんでございましょう?)
念話だ。
(――という理由で会長が隣に居て欲しいと言われたんだが、大丈夫か?)
(なるほど……それなら仕方がありませんね。)
(そうか、ありが)
(でも。)
そこで、佑馬は嫌な予感がした。
不吉なこと、ではないのだろうが、嫌な予感だ。
(明日は常に私の相手をしてくださいませ♪昨日今日と少ししか相手して貰えなかったので♪)
(まぁ、それくらいでいいなら、いくらでもするよ。)
(本当ですね?)
(勿論だ。)
(それでは許可します。)
(ありがとう。あ、それと、達也にも伝えてくれ。)
(了解でございます。)
目を開けると、目の前にはこちらを覗く真由美の顔があった。
「許可は貰いましたが……どうかしました?」
「え?いや、いきなり目を閉じちゃったからどうしたのかなー、って思っただけよ?」
「はぁ……もう一度言いますが、ジブリールから許可は貰えたので、隣に居ると言っても何をすればいいのか教えて貰えませんかね。」
「ふふふ……私はもう寝るから、一緒に寝ましょ?」
「……は?」
これには佑馬にも予想外。
隣にいて、と言われただけなのに、何故寝ることになるのだろうか。
しかも、自分の家のベッドで。
「いや……それは急にですね。」
「私だって、そりゃ……急にだとは思うし、恥ずかしいけど……私だってたまには甘えたいの!」
顔を赤くして布団にくるまりながら言う真由美は、やはり年相応の純情少女と言ったところだろうか。
「まぁ、会長がいいなら今回だけですが……風呂空いてますけど寝る前に入らないのですか?」
「え……まさか……。」
布団を身を守るようにして身体に寄せて、顔を赤くする真由美に珍しく佑馬は頭が痛くなるのを感じた。
「あんなに汗かいたんですから、当然でしょう。服は洗濯していいならしますが、しなくていいなら自己管理お願いします。」
「……服はさすがに自分でやるわ……恥ずかしいし。」
何故寝るのはいいのかわからないが、そこはもうきかないようにした。
真由美はお風呂に入って、佑馬はとりあえず寝巻きをホテルから拝借し、持ち帰るための袋とともにそれを風呂の前に置いて、自分は魔法で身体を洗ってから飲み物を二人分用意し、ヘアバンド型CADの調整をする。
「随分用意がいいのね……それはCADかしら?」
お風呂から出た真由美が話しかける。
「ええ、あんなにサイオンを使ったのに、何故回復しているのか気になりませんでしたか?」
「そういえば……それがそのCADの魔法だって言うの?」
「そうです。しかし、これは俺とジブリールの世界で二機しか存在しない貴重なものなので、この効果のこともあり、あまり人前で見せられるものではないのですが、まぁ、今回は例外ですかね。」
飲み物を真由美に渡しながらそう言った佑馬。
達也か深雪がいればそんなものを学校に持っていくなと言いたくなるのだろうが、それは別の話。
「それじゃあ寝ますか。」
そう言ってベッドに入る佑馬。
真由美は最初顔を赤くして入ろうとしなかったが、何か意を決したような顔をしてから入ってきて、背中を合わせる形で寝る。
「それじゃあ、おやすみ。」
「え、ええ……おやすみなさい。」
おやすみ、と言ったものの、真由美全く寝付けなかった。
男の子と一緒に寝ることはないし、同じベッドで寝ることなんて皆無だ。
佑馬は女の子と寝るのは初めてではないのだが、妙な緊張感があった。
しばらく時がたっただろうか。
ふと、佑馬は真由美からチョンチョンと背中をつつかれ始めた。
「……どうかしました?」
「起きてたのね……こっち向いてくれるかしら。」
「は、はぁ……。」
言われたので真由美の方を見ると、真由美も顔を赤くしながらこちらを見ていた。
「ジブリールさんにしているようなこと、私にもしてくれないかな……今だけ、甘えさせてほしいの。」
とりあえず頭を撫でるが、意図は全く掴めない。
「……私、十師族だからさ。」
その話は急に始まった。
「お嬢様ということで男は皆近づいてこないの。勿論、好意を受けているのは気づいているわ。でも、皆特別扱いするのよ……ワガママかも知れないけど、私は達也君や佑馬君みたいに普通に接してくれる男の人が一番気楽に話せるのよね。前に図書館でジブリールさんと佑馬君の話を聞いてから、妙に人肌が恋しくなったというか……甘えたくなったの。佑馬君、いや、達也君もだけど、たまにすごい大人びているときがあるじゃない?それで、私も甘えてみようかなって思ったから、今こうやってお願いしているの。本当はしないのよ?恥ずかしいし。」
「……なるほど、そういうことですか。」
つまりは、いつも溜まっていたものを発散しているわけだ、と納得した佑馬は、それならと真由美に背中を向けるよう指示。
首を傾げながらも背中を向けた真由美に、佑馬は後ろから抱きついた。
「ひゃぁ!?」
「今だけですから。こんなこと、ジブリールにも滅多に……いや、ジブリールは常にこっちを向くから出来ないだけか……ですが、普段はこんなこと絶対しないので。」
真由美は何をされたのかわからずに、ただオロオロしている。
「俺は知ってます。会長がいつも元気に振る舞っているのを。」
ただ、佑馬の言葉に、急に動きを止めた。
「俺は知ってます。会長が皆を思っていることを。俺は知ってます。会長が俺に勝つためにこれまで以上に努力してきたのを。そして、俺は今知りました。会長は寂しがり屋だと言うことを。」
真由美は、動かなかった。
「今だけは、甘えてもいいですよ。ただ、この時間が終われば、またいつもの会長に戻ってください。」
その瞬間、真由美はこちらに身体をむけて、佑馬の胸に顔を埋めた。
「……ありがとう……本当に、ありがとう。」
その姿を確認して、頭を撫でた。
佑馬はその作業を、真由美が寝るまで続けた。
なんか、レムみたいなセリフ……というか、これ口説いてるように見える……。
しかし、大事なことなのでもう一度言います。
ルートには入りませんよ?
次はまた九校戦に戻りますが、今週はお休みです。