[2]魔法科高校の世界にチート転生者がきたようです 作:型破 優位
佑馬が優勝を決めたそのコートで、ジブリールと一色 愛梨との試合が始まろうとしていた。
先の試合で、その場のボルテージは最高潮に達していた。
そして、さらにジブリールと愛梨がコートに出てきたことにより、歓声がさらに上がる。
その様子をモニターで見ている佑馬と五十里。
「佑馬君的に、この試合はどう思う?」
「百パーセント勝てますね」
「さすが佑馬君だね。そこは揺るがないか」
「当たり前です」
会場のボルテージが例のごとく行われている実況の効果もあって、さらに上がっていく。
試合はもう、始まろうとしていた。
◆◆◆
コートに立つ、二人の少女。
二人ともラケットスタイルだが、ジブリールはラケットをコート脇に二つ用意してある。
『先程の男子の決勝戦からそのまま連続する形で行われる女子クラウド・ボール決勝リーグの注目の一戦!第一高校 中田 ジブリールと第三高校 一色 愛梨!先程と同じく、両者ともに無失点でここまで勝ち進んでおります!男子では第一高校が優勝しましたが、今度はどちらがこの戦いを制するのか!注目の一戦が今始まります!』
前評判で優勝はこの二人のどちらかで確実と言われており、三人目の七高の選手のことは誰も記憶に残っていなかった。
そして、会場は段々と静かになる。
ランプが全部点り、ブザーと共に試合が始まった。
球が打ち出させると同時に、凄まじい乱打戦が始まる。
『これは先程の男子の試合を彷彿とさせる試合展開となっております!コート内を目にも止まらない速さでボールが飛び交っております!』
その凄まじい乱打戦は、球が四球に増えるまで続いたが、五球に増えようとしたとき、愛梨が動き始めた。
愛梨の胸元にあるネックレス……いや、ネックレス型のCADがサイオンの光で一瞬だけ光り、ボールのスピードが一気に上昇する。
(なるほど、これが『エクレール・アイリ』の由来でございますか……確かにこれは優勝出来ますね。私がいなければでございますが)
だが、佑馬と本気で打ち合えるジブリールにとって、球が少し速くなって打ちやすくなった程度のことでしかない。
CADでスピードを上げ、壁や天井を使ってジブリールのコートにボールを落とそうとする愛梨に対し、ジブリールは全て直接コートに狙って打っている。
そのため、球のスピードに追い付けなくなってきた愛梨は一点、また一点と失点を重ねる。
ジブリールには、いや、佑馬にも言えることだが、この壁や天井を使うということに疑問を持っていた。
――何故、直接コートに入れないのか。
壁や天井に当てて、不規則にバウンドさせているつもりなのだろうが、よく見れば入射角と反射角は比例しており、弾道は簡単に読める。
魔法で壁や天井をバウンドさせる人もいるが、それも一定の規則があるため、簡単に読める。
つまり、何が言いたいかというと……
――そんな無駄なことをして何故私に勝てると思ったのか。
これだった。
普通の人なら確かにこれで失点するのだろう。
だが、そのスピードに悠々とついていけ、尚且つ自分と同等かそれよりも早いスピードで打ってくる相手には全くの無意味。
直接コートに打ち込んで逆サイドに打ったり、緩急をつけたりした方が余程利口だろう。
(あの魔法は使う必要ありませんでしたか……少し使って見たかったのですが、相手がこれなら仕方がありませんね)
愛梨の球を軽々と打ち返し、八球が打ち出された時点でジブリールのスコアは三十四、愛梨のスコアゼロだった。
ジブリールが圧倒している。
その様子に、観客は盛り上がるどころか、静まり返っていた。
数々の華やかな経歴を持ち、『エクレール・アイリ』としても有名な愛梨が、無名の選手に一ポイントも取れずに一セットが終わろうとしているのだ。
ここまでの実力差に、ただただ唖然とするしかなかった。
そして、ブザーが鳴り、第一セットが終了した。
スコアは圧倒的、ジブリールが五十六で愛梨がゼロ。
少しの休憩を挟むため、コート脇に移動したジブリールに、目の端で悔しがってこちらを睨む愛梨が映った。
その様子を見て、少し考える仕草をし、佑馬の元へと向かう。
「お疲れ、ジブリール。やっぱり余裕だな」
「そうでございますが……少し相談があります」
相談、という単語に首を傾げる佑馬。
「次の試合のことなのですが――」
◆◆◆
第二セットが始まった。
愛梨は最初からCADを起動し、ジブリールを睨む。
(ここで私が負けるわけにはいかない!こんな無名な人に私が負けるわけにはいかない!)
今まで負けたことがない愛梨にとって、第一セットは屈辱的な結果だった。
愛梨自身、まだ本気を出し切っていないとはいえ、八割以上は出している。
そこまで出していて、無失点で抑えられているのだ。
第二セット開始の合図がなり、打ち出された球をコートに打ち込んだ。
愛梨もこれが入るとは思っていない。
そのためにジブリールの動向を冷静に分析し、返球にいつでも対応出来るように構えていた。
しかし、ジブリールはいつまで経っても動く気配は無く、そのままコートにボールが落ちる。
(……?)
愛梨はその事実を訝しげに見て、ジブリールを見る。
そして、愛梨はジブリールから放たれた言葉を聞いた瞬間、意識が無くなった。
「貴女様に一セットの猶予を与えます。第三セットで私を楽しませてくれるように、この時間で手段を考えてくださいませ」
――侮辱されたことによる激しい怒りによって。
◆◆◆
「次の試合のことなのですが、一セット相手に差し上げてもよろしいでしょうか?」
ジブリールは、そんなことを質問した。
その言葉に佑馬は意味がわからない、という表情をしながらも少し考えて、
「……第三セットであいつの本気を見るため……か?」
ジブリールなら言いそうな言葉を答えた。
「はい、彼女はまだ本気を出していませんので、煽って本気を出させようかと思います」
ジブリールの言葉を聞いて、再び考える仕草をしたあと、今度は何故か呆れたような表情をした佑馬。
「……ジブリール。もしかして、本当はあの魔法が使いたいだけか?」
「……はい」
ジブリールはコートの上でさっきした佑馬の会話を思い出しながら、怒りで我を忘れたかのように打ち込んでくる愛梨を見て、笑った。
(いい球が打てるではございませんか……これなら、あれを使ういい機会になれそうでございます)
先程とは明らかに違うスピードで、鬼の形相で打ち込んでくる愛梨に、観客からは声援が送られる。
そのまま第二セット目はジブリールゼロ、愛梨が二百四十八点で終了した。
そして、休憩を挟んで第三セット。
先程よりもかなり目付きが鋭くなった愛梨と、ラケットを自分の足元に二つ置いて、手に一つラケットを持つジブリール。
合図とともに球が打ち出させるが、今度のスピードはさらに凄まじいものだった。
ジブリールもここまでとは思ってもいないほど、超スピードの乱打。
しかも、今度はコートを直接狙ってくるボールのため、打たれてからの時間の猶予がない。
両者点は入らず、二球、三球と増えていった。
そして、次に起きたジブリールの行動に、観客からは声が漏れる。
――ジブリールはいきなり立ち止まって、俯いたのだ。
その間に次々と点が入るが、それでも動かないジブリール。
「体力切れか?」
「疲れたのかな」
その様子に観客がざわつき始めるが、愛梨は攻撃をやめない。
止められなかった。
怒りで我を忘れながらも、俯いている顔から見えた表情に、背中に今まで感じたことのない悪寒が走った。
――あれはヤバイ。
何をするのかも分からないが、本能的にわかった。
十点をとったあたりで、ジブリールが顔を上げて笑顔で愛梨に話しかける。
「ありがとうございます。これで、やっと私も楽しむことが出来ます」
軽く一礼し、感謝を述べられるが、今の愛梨には火に油だった。
さらに目付きが鋭くなって、球のスピードもまた上がる。
「そんな貴女様に敬意を払って、私もやらせていただきます」
ニヤッとした顔を浮かべながらそれを言った瞬間に、ジブリールからサイオンの光が暴走しだす。
周りはさらにざわつきを増すが、愛梨は何かされるまでに本能的に打ち続けていた。
そして、その光が、背中のジブリールの翼がある辺りへと収束されていき……
「……ッ!?そんなバカな!?」
誰かが叫んだ。
愛梨もその光景に、一瞬だけ足を止めた。
ジブリールの背中に、光る腕が二本作られており、その手にはラケットが握られていた。
「それでは、私も本気でやらせていただきましょう」
そして、愛梨に三十点が入り、もうすぐ四球目が出される、というところでジブリールが動いた。
……否、ジブリールの背中に入る光る腕が動いた。
そして、愛梨が打った球をその腕が意思があるかのように、ゆっくりしたスイングで、しかし、そのスイングの速さでどのようにしたらそこまでスピードが出るのかと思うスピードで打ち出された球に、愛梨は追い付けなかった。
観客の誰も、その球は見えなかったが、愛梨には見え、後少しのところまで追い付けた。
その事実にジブリールはさらに口を吊り上げて光る腕を動かし、自分のところにきた球は自分の手で直接打ち返した。
愛梨もなんとか喰いついていくも、次々と失点を重ねていく。
結果、ジブリールの三桁得点でその試合は終了、ジブリールはそのまま優勝を飾り、愛梨はサイオンを使い果たしたため、七高の選手に負けて三位となった。
遅れて申し訳ありませんでした。
次回もジブリール回です。
光る腕ですが、天撃と似ています。
ここで説明しますと、天撃はノゲノラにて、精霊が見えない空と白ですら視ることが出来るほどの精霊が濃縮されたものを撃ち放つ魔法ですが、それをさらに濃縮させ、物を掴めるレベルまでにしたのが今回の腕です。
操作は翼によって行っています。