[2]魔法科高校の世界にチート転生者がきたようです   作:型破 優位

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まぁ、ポイント的にそうなりますよね……

森崎君は小説では良い子です。
少なくとも人を助けるくらいには。


知らぬ間の優勝

 夕食会、そこではある事情を知ってる人が見れば驚愕するであろう光景が広がっていた。

 

「いやぁ、森崎のクイックドロウって本当に早いよな。動きに無駄がない」

 

「いくら発動が早くたって中田には敵わないって。CAD無しであの発動速度を可能にしてるとは恐れ入ったよ」

 

 あの森崎が、二科生の佑馬と談笑しているのだ。

 一科生であることに誇りを持ち、二科生を見下していたあの森崎がだ。

 

「ねぇ、どうしよう摩利。朗報を教えに行くだけなのにすごく行きにくいんだけど」

 

「それは私だって同じだ」

 

 春の一件でそのことを知っている摩利と真由美も、その光景にはかなり驚いた。

 雰囲気もかなり良いため、伝えたいことがあるのに間に入ることが出来ず、二人が話終わるまで待たなくてはいけないという状況に陥っている。

 

 朗報を伝えるだけなのにそこまで気を使うことに、若干のもどかしさを感じているが、森崎が佑馬にした質問を聞いてその感情も吹き飛んだ。

 

「中田って、どうやってそんなに強くなったんだ?」

 

 いや、これは摩利や真由美に限ったことではない。

 一高や、今回この九校戦に参加している、観戦している人全員が気になる質問だろう。

 

 周りが一気に静かになったことに戸惑う森崎だが、佑馬は敢えてそれを無視して答えた。

 

「最初から恵まれた力を持っていたというか、貰った(・・・)というのはあるけど、やっぱり一番大きいのは強くなりたいって気持ちだと思う。そして、その気持ちを大きくしてくれるのは、俺からしたらジブリールや会長みたいな『ライバル』の存在だと思うんだ。『ライバル』がいることによって互いに高めあうことが出来るからね。森崎にも確かに強くなりたいって気持ちはあるけど、他の人を見下す傾向があるから、ライバルと思える人を見つけることが出来ないと思うんだよ。……俺にしてはかなり真面目に答えたんだけど、納得したかな?」

 

 「……かなりマトモな答えが返ってきたことにビックリしてはいるが……なるほどな。中田や中田さんがずば抜けて強い理由はわかったよ」

 

 上手くおさまったため、ジブリールの強さの根本的な部分については言う必要もないだろう。

 現在も二人で互いに高めあっているのだから。

 

「そのことについてもう少し知りたいところだが、少しいいかな」

 

 話の区切りを見たのか、摩利が二人に話しかけた。

 摩利が話しかけてきたのは、摩利が風紀委員長のため、風紀委員である森崎とも接点があるからだろう。

 

「風紀委員長!?」

 

「どうぞー」

 

 案の定、森崎はピンッ!と背筋を伸ばしたが、佑馬は何も気にしていないかのように、いや、気にしていないのだろう。

 友達感覚で続きを促した。

 

「まず一つ。君たちは気づいているかい?」

 

「「何をでしょうか」」

 

 摩利の質問に森崎と佑馬は意図が掴めず、それを見た摩利はため息を付きながら真由美に視線を送り、真由美はそれに頷いてから佑馬達の前に出た。

 

「それではお伝えします。佑馬君、森崎君。新人戦優勝おめでとうございます」

 

「……え?」

 

「あー、そういえばそうだったな」

 

 そう。

 原作ではモノリス・コードに優勝したら新人戦優勝なのだが、男女のクラウド・ボールで優勝しているため、早くも優勝が決まってしまったのだ。

 

 森崎はモノリスに意識が行き過ぎたため、佑馬はそもそも新人戦優勝には興味がなかったため、すっかりと忘れていたのだ。

 

「さらに付け加えると、総合優勝も目前なんだがな」

 

「へぇー」

 

「佑馬君は全く興味がなさそうね……それより!お姉さんのことライバルって思ってくれてたのね!」

 

「うん。これ以上伸びしろがないと判断したら即撤回するけどね」

 

「ひどい!……けど、頑張るわよ」

 

「何回も言うけど、負けたままにするのは癪に触るから、また近いうちにリベンジはさせてもらうよ。勿論、全力で」

 

「……どう頑張っても全力で弄ばれてやられそうな気がするのだけれど……」

 

「……なぁ、森崎」

 

「……風紀委員長、言いたいことは分かります」

 

 気がついたら森崎と摩利は蚊帳の外にされて佑馬と真由美が勝手に盛り上がっているが、ふと思い出したように佑馬が森崎に一言言った。

 

「あ、森崎。三高の一条 将輝と吉祥寺 真紅郎の相手はお前がしてみろ。俺はアシストするだけにする」

 

「なっ!?あの二人を相手に俺が主軸で!?」

 

「そうだ。俺もやられない程度に力は貸さないようにする」

 

「いや、それだと僕一人とあまり変わらないじゃないか!」

 

「自分の限界(・・)、試してみないか?」

 

 その言葉に、森崎は止まった。

 同じ学年でも、日本でも有名な二人と全力で戦える日など、一度あるかないかだろう。

 

「……中田はどれくらい力を貸してくれる?」

 

「お前に飛んでくる魔法ぐらい全部弾いてやるよ。だから、攻撃に専念しろ」

 

 つまり、防衛面は全くの無問題。

 あの佑馬が全力でバックアップしてくれるのだ。

 これ以上の好条件、二度と来ないだろう。

 

「感謝するよ、中田」

 

「思いっきり楽しめよ」

 

「ああ!」

 

 二つ返事で答えた森崎の目には、やる気に満ち溢れていた。

 

◆◆◆

 

 決勝リーグは

 第一試合、三高vs八高

 第二試合、一高vs九高

 となった。

 

 そして現在、三高vs八高の試合中である。

 試合展開は一方的、将輝のワンマン舞台だ。

 まるで、力を誇示するかのように。

 

「ほら、森崎。喧嘩売られてるぞ」

 

「いや、どう考えてもお前だろ」

 

 それをしっかりと読み取った佑馬と森崎だが、今回それに答えることはない。

 

「でも、こちらがのる義理はない。もう優勝決まってるんだし、こちらがやりたいようにやれば向こうもそれにあわせるしかない」

 

「何か作戦でもあるのか?」

 

「ああ、任せろ」

 

◆◆◆

 

 一高vs九高の試合場所は『渓谷』ステージ。

 視界が悪いため、普通なら突然の遭遇戦でいかに早く、冷静に魔法を撃てるのかが鍵になる。

 

 そう、普通(・・)なら。

 

『森崎、百メートル先の岩陰から敵が来ている。遊撃手と連携していて、お前の場所はばれているから、目を瞑って五秒たったら前方に魔法を撃て』

 

「了解」

 

 指示通り、森崎は目を瞑る。

 その間に魔法を構築し、すぐに撃てるよう準備。

 三秒まで数えた頃、自分の左後方から魔法の着弾とともに、人が倒れる音がした。

 

 佑馬がやられるわけもなく、十三束がここにいるわけもない。

 よって、相手の遊撃手あたりがやられたのだろうと検討をつけ、言われた通りそのまま目を瞑る。

 

 そして五秒後、指示通りに前方へと魔法を撃った。

 

「ぐはぁ!!」

 

 直後、前方から着弾音とともに人が倒れる音がした。

 目を開けてみると、目の前には九高の選手が倒れており、いつの間にか自分のいた場所が変わっていた。

 

 驚いて固まっているうちに遠くの方で叫び声が上がり、それからまもなくブザーが鳴って一高の勝利となった。

 

◆◆◆

 

「おい!あの森崎(・・)という選手の情報はまだか!!」

 

「ボディーガードの家の者で、クイックドロウという技術を取得していることしかまだ分かっていません!」

 

「早くしろ!」

 

 三高のテントでは、怒号が飛び交っていた。

 理由は簡単。

 

 森崎が(・・・)瞬間移動をしたからだ。

 

「……ジョージ。今のはどう見る?」

 

「遊撃手とディフェンスを倒したのは間違いなく中田 佑馬だよ。何をしたのかは検討もつかないけどね。そして、森崎って子のあの瞬間移動は、もしかしたら幻術かも知れない。幻術なら出てきたと同時に魔法が発動されたことにも納得出来る」

 

「幻術か……めんどうだな」

 

「それに、消える直前に光に包まれていたのも気になるね……いつ発動されたかも分からないし、トリガーらしきものも見つからない……やっかいだね」

 

「中田 佑馬さえ気を付けていればなんとかなると思っていたが……くそ、こんな隠し球を持っていたなんてな」

 

「作戦変更だね。先にあの森崎って子を倒そう」

 

「ああ、そうした方が良いかもしれん」

 

 三高vs一高の試合の時間は、刻一刻と近づいてくる。

 全てが佑馬のシナリオ通り(・・・・・・・・・・・・)とも知らずに。




さぁ、次はいよいよ三高ですよ!
勝てば例のあれです……

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