素敵な大人のラブコメを。   作:ルコ

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扇情的な夜に愛情を

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の勤務が終わり、太陽が薄っすらと登り始めた頃。

 

仲の良い同僚に飲みへ行こうと誘われたが、あーしはもやもやと覆う心の陰りからか断りをいれた。

むすっとする同僚のおデコをごめんねと突きながら、着替えを済ませて店を出る。

早朝の繁華街は、夜の面影を残しつつもどこか物悲しい。

 

今は朝の5時ーー。

 

駅に向かえば始発の電車が動き出す頃合いだろう。

ココから借りている部屋の最寄駅までは4駅で20分程だ。

死ぬほど面倒だとは言わないが、軽く面倒臭い。

 

「…はぁ」

 

ふと、ため息を一つ吐きながら、あーしは無造作にポケットへと手を突っ込む……、む?

 

指に触れる角張った感触。

 

確認せずとも分かる。

それは昨夜にあいつの懐からコッソリ引き抜いた名刺だ。

 

「…むぅ」

 

大きく雑な字で書かれた【バカめ】の一言。

見た時は腹が立ったけど……、なんとなく…、本当になんとなくだけど、ーーー

 

ーーーふんわりとした懐かしい暖かさを思い出していた。

 

「…LINEのIDくらい書いとけし…」

 

などと呟いてみるも、その名刺にLINEのIDが浮かび上がってくるわけもなく。

気付けば改札を通りホームに立っていた。

電車の到着を待ちながら、あーしはおもむろにスマホを取り出す。

新着のLINEの報せに既読のみを付け、流し見しながら300程を数えるLINEの友だち欄に目を移した。

 

グループLINE……。

 

そのグループLINEの一つ、ほとんど使用したことの無いグループ、【奉仕部】の存在に目を見開く。

 

「……」

 

記憶を遡る。

 

そうだ、これは確かバレンタインデーの時、奉仕部へ相談に行った際に結衣が半強制的に作った物だ。

 

悪くない。稀に見る良運。

 

あーしはそのグループLINEの中に存在するヒキオのLINEを開く。

 

LINE、送ってみようかな…。

 

 

優美子ーーーーー

 

覚えておけし。

 

二度と来んなクソ野郎。

 

ーーーーーーーー

 

 

送信っと……。

 

…さ、さすがにクソ野郎は言い過ぎたか?

 

昨夜の件は、ただあーしが自己嫌悪に陥っただけだし…。

 

「…ぅぅ」

 

やんわりと、ヒキオがあーしに向けた暖かな視線は嫌いじゃなかった。

人間味のある喋り方や、取り繕わない物言いも、ちょっとだけ昔の素直だった頃の自分に戻らせてくれたような気がして。

 

ホームでただただ立ち尽くすあーしは、電車の到着を待つ間に、ひたすらスマホを睨みつけていた。

 

既読の付かないメッセージ。

 

今ならまだ、間に合うのかもしれない。

 

 

 

 

優美子ーーーーー

 

ウソ。

 

また来い。

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

ーーー☆

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい!優美子ちゃんにプレゼント!」

 

ギトギトな前頭葉を見せびらかすように、加齢臭を漂わせた中年の客が満面の笑みを浮かべる。

手のひらサイズの四角い箱には可愛らしいリボンが結ばれており、それが中身を開けずとも、指輪であろうと予想が出来た。

 

「なにコレ。くれんの?」

 

「当たり前じゃないか!」

 

鼻息荒く顔を近づけてくるおっさんから自然に距離を取り、あーしは差し出された下心を受け取る。

 

気に入れば身につけよう。

 

気に入らなければ売ればいい。

 

そうやって、部屋に転がる数々のアクセサリーは嫌味に光っていて、貪欲で貧困な想いが込められていた。

 

「ほら!開けて開けて!」

 

嬉々とした中年に、包みを開けるよう促され、あーしは丁寧なリボンで包まれたソレを乱暴に開封する。

ようやく顔を出した黒く小さな箱をパカっと開けると、そこにはやはり銀色に光る指輪が。

 

…へぇ、悪くない。

 

「どう?どう?可愛いだろう?」

 

「うん。まぁまぁ気に入った」

 

「あふん。それはよかった」

 

邪な吐息を吐き出しながら、中年はあーしの肩に手を回した。

お触りが強く禁止されているわけではない。

貢いでくれる客には適度に触らせる。

 

渇いた手のひらに肩を撫でられると、ザラザラとした嫌な感触が直に伝わった。

冷え性なのか、店内の冷房が効き過ぎているのか、中年の手のひらはヒンヤリと冷たい。

 

 

自らの腕時計を見つめる。

時刻は23:00に差し掛かる頃。

今日のシフトは早番のため、こいつが最後の客になるだろう。

 

ちらりと、ホール係に視線を送る。

 

それを受け取ったホール係は、やんわりとこちらに近づき、片膝をついてあーしに声を掛けた。

 

「優美子さん、移動をお願いします」

 

「んー。じゃ、コレありがとね。良かったらまた来て」

 

「あ、優美子ちゃん。うん、また来るよ」

 

肩に回されていた手を優しく解く。

中年は寂しそうな顔を浮かべながらあーしを見つめ続けているが構うことも無く、その足で店裏へと向かう。

 

髪をかきあげながら仕事用のドレスを脱ぐ。

鏡に映る黒のショーツだけの姿。

身体を売っても金になる、そうマネージャーに言われたことを思い出した。

 

引っ込むところは引っ込んでるし、出るところは出ている。

 

金になる程に完璧な身体だ。

 

「……はぁ」

 

何度目のため息だろう。

無意識に出るため息を数えることが出来るのならば、それは千を、万を超えているはずだ。

 

 

……何、やってんだろ。

 

 

帰って、寝て、仕事して。

 

 

金だけはあるから、休日になれば高い買い物をする。

 

 

それだけを繰り返す1年を何度も過ごして。

 

 

退屈な毎日に我慢する。

 

 

「……帰ろ」

 

 

着替えたブランド物に身を包み、裏口から店を出る。

重たい足取りはヒールの高さに比例して重力を強くしているようだった。

 

ふと、鞄の中でスマホが震える。

 

仕事のメールか、それともメルマガか。

 

なんの気無しに開いたスマホの画面に、あーしは思わず脚を止めていた。

 

 

 

ヒキオーーーーーーー

 

店の近くに居る。

 

暇なら飲みに付き合え。

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

.

……

………

 

 

 

 

 

あの再会から1週間。

あいつへ送ったLINEに既読は付いたものの、それに返信が来る事は無かった。

だと言うのに、1週間何の音沙汰も無かったあいつが、途端に誘いのLINEを送ってきたのだ。

 

自分勝手な自己中男。

 

普段のあーしならそう切り捨ててLINE消していたことだろう。

 

……それなのに。

 

あーしの脚は、そいつの指定した飲み屋へと向かって速足に動いていた。

飲み屋の前で軽く前髪を直し、店員に待ち合わせであることを伝える。

 

トクン、と。

 

鼓動が一つ高鳴った。

 

……。

 

 

「…よ。悪かったな、急に誘ったりして」

 

この前と同じスーツ。

ネクタイは前と違うけど、それを抑えるネクタイピンは変わらない。

 

「…ふ、ふん!偶々死ぬほど暇だったから来てやったし!」

 

「え、なにそのツンデレ…」

 

呆れたように目を細めながら、ヒキオは店員を呼びつけビールを2つ注文する。

 

「…あんた、仕事終わり?」

 

「まぁな」

 

特段に口が軽いわけではない男だ。

それでも、場を盛り上げようと詰まらない話をする奴らよりも居心地は良い。

届いたビールで軽く乾杯をし、それを一気に傾ける。

 

やっぱり仕事以外で飲むビールは美味しい。

 

「…ぷはーっ!うまいし!」

 

「!?…急に大きな声を出すなよ」

 

「うっせ!あんた、なんでLINEシカトしたし」

 

「あ?返したろ、さっき」

 

「頭の時差を早く直せ!」

 

ヒキオのジョッキにはまだ半分程のビールが残っていた。

それに比べて幾分か減りの早いあーしは、近くを通った店員にビールを注文する。

 

目の前の男は何を思ってあーしをさそったのだろうか。

ムスッとしたり、へらへらとしたり、一言二言の返答に感じるヒキオの感情がどこか暖かい。

 

「…てか、急に誘うとか、あんたあーしのこと狙ってんの?」

 

「クソお花畑な頭だな」

 

「なにをー!?」

 

鼻で笑わんばかりに、ヒキオは冷めた目で私を睨んだ。

 

「…柴山さんってあそこの常連なんだろ?」

 

「は?…そうだけど…」

 

「おまえ、あの人に気に入られてるの?」

 

「なに?嫉妬?」

 

「……ま、俺には関係ねえけどよ。()()()()()()

 

「は?」

 

「…頭の悪い客ばかりじゃないってことだ」

 

ヒキオはそう言うと、残っていたビールをゆっくり飲み込む。

頭の悪い客。その言葉に、あーしは鞄の中で埋もれる小さな箱を思い出した。

 

優しく接すれば貢がれる。

 

色目を使えば金を出す。

 

それがあーしの常識で、それ以上も以下もなく、普通なのである。

 

そういえば、あの頃から意味深な事を言う奴だった。

その言葉に少しでも耳を傾けていればと後悔したこともある。

これは、コイツなりの表現なのだろう。

 

「…むぅ。あんたって、相変わらずそーゆー感じなんだ…」

 

「あ?なんだよ、そういう感じって」

 

「……別に。はぁ、アルコールが足んないし。赤ワイン頼も。デカンタで」

 

「どれだけ飲む気だよ…」

 

あくせくと働き回る店員を捕まえ、あーしは注文を済ます。

目の前で腕時計を仕切りに確認し、時間を気にしている男の分のグラスも頼んでおいた。

 

「おまえ、時間は大丈夫なの?俺から誘っておいてアレだけど」

 

「は?もう終電無いっしょ」

 

「あらら。…じゃあ俺はこの辺で…」

 

「待てい!!」

 

ガシっと。

席を立とうとするヒキオの頭を掴む。

 

「ぬっ!?」

 

「あーしを置いて帰る気?」

 

「そらそうよ」

 

思わず掴んでいた手に力が入ってしまった。

アホ毛が左右に激しく揺れる。

この男はか弱い女の子を1人、居酒屋に残して帰ると言うのか。

 

……。

 

「…わかった。ならあーしに着いてきな」

 

「あ?」

 

コイツが意味深に何かを伝えると言うのなら、あーしはストレートにコイツを翻弄してやる。

 

手取り早く。

 

どっぷりと深い夜に。

 

初心そうな男を弄んでやる。

 

 

 

 

「ラブホ行くよ」

 

 

 

 

 

 

 

 





見切りで書いてるから更新遅め。
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