素敵な大人のラブコメを。   作:ルコ

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眠れぬ夜に会合を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネクタイを外し、第2ボタンまで開けたワイシャツの胸元から、健康そうに色付く肌が見える。

どこか華奢に見えた身体は、しなやかに引き締まった筋肉で男を感じさせた。

 

目の前の男はワイシャツを丁寧にハンガーへ掛けると、一つ、あーしに目配せをし浴室へと消えていく。

 

い、今の視線は……っ!

 

なんだし!?

 

「……っ」

 

ベットの上でぽつんと一人。

しばらくすると、浴室から水しぶきが床に当たる音が聞こえ出した。

 

顔が熱いと触らずとも分かる。

 

強く握った手をゆっくりと解しながら、あーしは自らの膝を優しく抱いた。

 

「ぁぅ…、うぅ…」

 

ピンク色に染まった部屋に置いてあるテレビを見つけ、なんとなくチャンネルで電源を点ける。

 

ぴっ

 

 

『あっ、あっ、いやぁっ……。』

 

 

ぴっ

 

な、なんでだし!?

なんでエロい番組が流れたし!?

おかしい…。

ここは異世界か?

 

ふと、浴室から聞こえていた水音が止まった。

 

ペタペタと、足の裏が床を鳴らし、それがゆっくりと近づいてくる。

 

「っ!ーーっ!!」

 

「……おまえ、何やってんの?」

 

背後から聞こえる声に、あーしの身体は固まった。

 

そっと振り返る。

 

そこには、濡れた髪をタオルで拭き、蒸気で顔を赤らめたヒキオが立っていた。

 

「ば、ば、ば、バスローブ!!」

 

「あ?風呂上がりにスーツなんて着たくねえだろ」

 

「か、か、髪も濡れてるし!!」

 

「…そりゃ洗ったんだから濡れてるだろ」

 

「あ、洗った!?なんで!?何を!?ナニをーー!?!?」

 

不思議そうな瞳をあーしに向けつつ、ヒキオはベットの隣に置いてある椅子に腰掛けテレビのリモコンを取った。

 

「あ!!」

 

「?」

 

ぴっ。

 

と、点けられたテレビから流れる地上波のテレビ番組。

お堅いスーツと眼鏡を身に付けたキャスターが、ニュースをスラスラと読み進めていた。

 

な、なんで…?

 

「…ぁ。ぅぅ…」

 

「…おまえから誘ってきたくせに、なに慌ててんの?」

 

「っ!…べ、 別に慌ててないし!」

 

慌ててない、と言えば嘘になる。

それも当然だろう。

あーしはラブホに入るのが()()()なのだから。

 

「慌てて…、ないし…」

 

「……」

 

本気で誘った訳ではなかった。

遊びで誘うほど軽い女でもない。

 

ただ、あーしは。

 

こいつのことだから、ヘタレそうなこいつのことだから、あーしの誘いに慌てふためき、断られると思ったんだ。

 

それなのに…。

 

『…そうだな。行くか』

 

……。

 

意外にも、ヒキオは誘われたらクールに決めちゃう系だったらしい。

 

「…あ、あの、あーし…」

 

「…はぁ。別に襲ったりしねえよ。そう震えられるとこっちが悪い気がしてならん」

 

「ふ、震えてなんかないし!」

 

「外見に似合わず初心なんだな」

 

ヒキオはポツリと呟きながら、テレビの電源を落とす。

椅子からゆっくりと立ち上がると、あーしを見つめながらベットへと近づいてきた。

 

ふわりと。

 

あーしに向かって腕を伸ばす。

 

「…っ!」

 

ぽん。と。

 

頭に乗っかる暖かな感触。

それは何よりも優しく、あーしの頭を撫でた。

 

「高校生の頃、俺はお前に少し憧れてた」

 

「……へ?」

 

「献身的に一途であり続ける姿や、誰よりも強くあろうとする性格。……叶わぬと分かりながらも突っ走れるお前が、俺は羨ましかった」

 

こそばゆく語られるあーしの評価に、思わず視線を逸らしてしまう。

ヒキオ曰く、献身的に一途で、強いあーしは、叶わぬと分かりながらも突っ走っていたらしい。

叶わぬ……。

それが高校生の頃に経験した苦い恋愛のことだとは言われなくても分かる。

 

「……あ、あーしは、あんた達が羨ましかったし」

 

「…俺たち?」

 

「…。3人共、凄く……」

 

ーー綺麗で素敵だった。

 

互いに想い、互いに理解し、互いに…。

 

「…はは。そっか。それは隣の芝生は青く見えるってやつなのかもな」

 

「な、なんだし、それ…」

 

撫でられていた頭から手が離れる。

ヒキオは笑いながら、そっとあーしから距離を取ると、冷蔵庫からペットボトルの水を2つ取った。

片方をあーしに差し出しながら、そのキャップを開ける。

 

「飲んでる時に、おまえの鞄からリボンが見えた」

 

「それは…」

 

「客から貰ったんだろ?」

 

「…まぁ」

 

「…ん。気を付けた方がいい。いろいろとな」

 

気を付けるとは何に対してか。

このプレゼントを渡してきた中年にか、それとも、先ほど言っていた柴山さんにか。

 

多くは語らない。

 

それでも、ヒキオの言葉は胸に留まる。

 

「……わかった」

 

そう、一言を絞り出すことが精一杯で。

優しさに当てられたせいで熱くなった身体を、モジモジと左右に小さく揺らしながら。

 

 

 

 

「…よし。それじゃあ俺は寝るから。おまえはソファーで寝ろよ?」

 

「へ?な、なんでだし!あんたがソファーで寝ろ!」

 

「ばっかおまえ、ソファーなんかで寝たら風邪引いちゃうかもしれないだろ」

 

「いいいいい一緒に寝ればいいでしょ!?」

 

「待て待て。俺はほら、今日はアレの日だから」

 

 

 

「あ、あ、あーしだってアレの日だし!!」

 

 

 

 

.

……

 

 

 

 

そんな眠れぬ夜に、妥協案として決めたのが、お互いに背中を向けて眠る事だった。

まさか、ヒキオと一つのベットで一緒に寝る日が来ようとは。

 

隣から聞こえる小さな寝息が規則正しく。

 

妥協案を振り絞る時に見せたヒキオの赤い顔が頭から離れない。

 

ヒキオもやっぱり照れたりするんだよね…。

 

なんて、小さな安心を覚えながら、あーしは眠れぬ夜に目を閉じ続ける。

 

結衣や雪ノ下さんは、ヒキオの寝顔を見た事あるのかな…。

 

……。

 

あーしは静かに身体を起こし、静かに眠るヒキオに近寄る。

柔らかそうな髪に触れながら、ヒキオの寝顔を覗こうとーー。

 

「……っ」

 

気付けば、もう少し近寄ればキスが出来るほどの近さにヒキオの顔がある。

 

意外と長い睫毛と綺麗な肌。

 

ほっぺを触ると確かに感じる暖かさ。

 

「…ふふ、可愛い…」

 

 

もっと近くで見ていたい。

 

優しく頭を撫でて欲しい。

 

 

 

……でも今は…。

 

 

 

……今はこうやって、ヒキオの暖かさを近くで感じることが出来れば幸せなのかもしれない。

 

 

 

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