素敵な大人のラブコメを。   作:ルコ

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常識外れに常識を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

……

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『ヒッキーのバカっ!一緒に帰ろうって言ったじゃん!』

 

朝、教室に着くなり聞こえる結衣の声。

結衣はアイツと話す時だけ、いつもより少し幼気な喋り方になる。

大きな瞳、コロコロとした綺麗な表情、天然で可愛げのある素直な性格も相まって、結衣の事を好きだと言う男子は後を絶たない。

それにも関わらず、結衣に浮いた話が無いのは全てアイツのせい。

 

アイツはそんな結衣に話しかけられていると言うのに、視線を合わすこともなくスマホをいじっていた。

 

『…昨日は見たいアニメがあったんだよ』

 

『それ、おとといもその前の日も同じ事言ってたしー!』

 

ぺんぺんとアイツの頭を叩きながら、戯れる犬のように結衣は跳ね回る。

 

そんな2人の姿を席から眺めつつ、あーしは無意識に舌打ちをしていた。

 

何で結衣は、あんな男に構うんだし…。

 

根暗そうで何を考えてるのか分からない。

 

時折見せる、人を見透かしたような目も気に入らない。

 

ふと、あーしはテコテコにデコったスマホを取り出した。

数え切れない人数を抱える連絡帳を開き、先日に合コンで知り合った男のアドレスにメールを送る。

 

結衣も良い男を捕まえれば目が覚めるはずだ。

 

この前に知り合った歳上の男は顔立ちも気前も良かったな。

 

よし…。

 

 

 

From 優美子ーーーー

 

To ***

 

ねぇ、紹介したいコがいるんだけど。

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

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……

………

…………

 

 

 

 

 

ーーーーー★

 

 

 

 

 

繁華街が騒がしくなる時間帯。

あーしはいつものように裏口から店へと入り、鏡が並ぶ衣装室の扉を開ける。

既に出勤していた同僚の子に軽く挨拶を交わしながら、化粧道具を取り出した。

 

「うぅ〜。優美子ちゃん、今日も貧困層しか指名してくれないよぉ〜」

 

「指名されるだけ有難いと思いな」

 

「冷たい!…優美子ちゃんはイイよね。個室指名の柴山さんが付いてるし」

 

彼女は泣き真似をしながらあーしの肩を強めに揺する。

化粧の邪魔だとソレを振り払うも、相変わらず目尻を拭く演技をしながら文句を吐き続けた。

 

「ねぇねぇ、どうやったら常連さんが付くの?やっぱり同伴?」

 

「バカ。同伴なんて絶対にしちゃだめだかんね。…どうやってって言われても、ただあーしは普通に…」

 

「その普通を教えて!」

 

自分で言っておきながら、普通とは何なのかと考えた。

特別な事をしているつもりもないのだが、あーしには割と多くの常連客が付いている。

 

……むむ。

 

なんでだろう…。

 

頭を捻るも答えは出ず。

とりあえず、適当な返答をしておく。

 

「まぁ、話を合わせたり、盛り上げたり、…好きな食べ物を聞いたり?」

 

「それ合コンのテクじゃん!」

 

……好きな食べ物。

 

そういえば、あーしはアイツの好きな食べ物を知らないな…。

好きな食べ物どころか、何処に住んでいるのか、どんな生活を送っているのか……、何も知らない。

 

あーしは話を打ち切りスマホを取り出す。

 

「あ!優美子ちゃんスマホのケース変えたでしょ!」

 

「ちょっと黙ってな。集中するから。話しかけたら打ち飛ばす」

 

「…はい」

 

 

 

優美子ーーーーー

 

おいヒキオ!

 

好きな食べ物は?

 

ーーーーーーーー

 

 

メッセージを送ること数秒。

以前の時差ボケを経て、ヒキオにあーしのLINEは1分以内に返すよう調教したためか、送ったメッセージには直ぐに既読が付き返信が来る。

 

 

ヒキオーーーーー

 

ぶらっくさんだー

 

ーーーーーーーー

 

 

ほぅ…。

それなら今度会うときにぶらっくさんだーを100個買っていってやろう。

 

 

優美子ーーーーー

 

嫌いな食べ物は?

 

ーーーーーーーー

 

 

ヒキオーーーーー

 

パクチー

 

ーーーーーーーー

 

 

優美子ーーーーー

 

顔文字とか無いから

怒ってるみたい。

 

ーーーーーーーー

 

 

ヒキオーーーーー

 

\(^o^)/

 

ーーーーーーーー

 

 

優美子ーーーーー

 

殺す\(^o^)/

 

ーーーーーーーー

 

 

一言だけが返ってくるメッセージ。

ほんの少しだけ物足りなく感じてしまうが、これはこれでヒキオらしい。

無意識に、あーしはスマホを眺めながら笑っていたらしく、隣に座る彼女があーしを不思議そうに見つめていた。

 

「…優美子ちゃん、何か変わった?」

 

「あ?スマホケースなら先週に変えたけど?」

 

「ち、違うよ!…その、なんか…、すごく柔らかい笑顔だったから…」

 

柔らかい笑顔。

彼女はあーしの顔を見てそう言った。

たとえば、接客している時のあーしは可愛い笑顔を貼り付けている。

裏でこうして話している時のあーしは、大人な笑顔を貼り付けている。

 

…ヒキオといる時のあーしは…。

 

きっと柔らかい笑顔を浮かべているのだろう。

 

それは頬が緩んで眉が下がるような、そんなだらしの無い笑顔だ。

 

あーしはスマホを仕舞い鏡を見つめる。

 

…アホみたいにだらし無いし。

 

でも、アホ可愛い。

 

今のあーしはアホ可愛いのだ。

 

あの時の…、高校生の時の結衣のようなアホ可愛い自分がそこに居た。

 

 

「…変わった…、のかな…」

 

 

 

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      ☆

 

 

 

 

「で、ヒキオもそう思う?」

 

「……」

 

ムスッとしながらあーしが買ってきたぶらっくさんだーを食べるヒキオ。

 

「あーしのアホ可愛いさって何レベルくらいだろ…」

 

「……」

 

「ねぇ、何レベだと思う?」

 

「…なんだよ、アホ可愛いさのレベルって…。つか、色々と言いたい事があるんだが…」

 

普段からの定位置であろうソファーに腰深く掛けたヒキオは、ため息を吐きながらあーしをジッと睨みつけた。

 

「なんでウチを知ってる…」

 

「く、黒魔術で…」

 

「…嘘のクセがすごいな」

 

「へへへ」

 

呆れるヒキオを見ながらあーしは笑う。

今朝、オートロックで塞がれた入り口を見たときには青ざめたが、なんとか住人の後を追う形でマンション内に入ることが出来た。

 

玄関先であーしを見て驚いたヒキオの顔は堪らなく間抜けだったな…。

 

「土曜の朝から何なんだよ。ぐーたらさせてくれよ。本当ならまだベットの上でぐーたらぬーぼだったんだぞ?」

 

「お土産も買ってきてやったんだし文句言うな!」

 

「この大量のぶらっくさんだーは嫌がらせだろ!」

 

テーブルの上に山積みになったぶらっくさんだーはまったく減る気配を見せない。

ふと、ヒキオはぶらっくさんだーを幾つか取り、袋に詰め込んだ。

 

「なに?おすそ分けするの?」

 

「こんなんお隣さんに押し付けられるかよ」

 

「こんなん言うなし!返せ!あーしのぶらっくさんだーを返せ!」

 

「おう!持ち帰ってくれ!」

 

「えぇ!?い、いらん…」

 

押し付け合うぶらっくさんだーは悲しそうに袋の中に詰め込まれている。

 

なんだし!

好きだって言うから買ってきてやったのに!

 

「…はぁ。どっちにしろ()()()()じゃ食べ切れんだろう」

 

そう言うと、ヒキオはおもむろに立ち上がり、キッチンへと向かうと、冷蔵庫から何かを取り出し、フライパン、ボール、ホイッパーを用意した。

 

「この手のスナックチョコは砕いて溶かせば有効活用することが出来ます」

 

「ほぉ。例えば沢山のぶらっくさんだーを1つの巨大ぶらっくさんだーにするとか?」

 

「……おまえの頭はドラえもん以下だな」

 

「なにをー!!」

 

水玉模様のエプロンを身に付けたヒキオに手招きされ、あーしもキッチンへと向かう。

 

「おまえはぶらっくさんだーを開けてこのビニールに全部入れろ」

 

「??」

 

「作業工程は順を追って説明するから指示に従いなさい」

 

「…はーい」

 

 

……

.

 

 

 

工程はさほど複雑な物ではなかった。

 

まずは大量のぶらっくさんだーを開封し、それを袋に詰めて粉々に砕く。

この際にスナップを利かせ過ぎて袋が破けてしまった。

 

次にそれをボールに入れ、沸騰した鍋で湯煎する。

この際に、沸騰したお湯へ直接入れようとして怒られてしまった。

 

次に卵と牛乳を混ぜ、その中にホットケーキミックスを投入する。

この際に、味見しようとした現場を取り押さえられて頭を叩かれた。

 

最後に、湯煎して砕け溶けた無惨な姿のぶらっくさんだーを混ぜ込んだホットケーキの元に入れる。

この際に、湯煎されて熱々になったチョコが手に飛び火傷した。

 

 

……

.

 

 

「なーるほどね。ホットケーキwithぶらっくさんだーを作るわけか」

 

「……キミ、いちいち面倒事を起こさないでくれます?」

 

「後はコレをフライパンで焼くだけだし!」

 

「待て待て!慌てんなバカ!強火だと表面が焦げるぞ!」

 

「落ち着けヒキオ。料理の基本は冷静さだかんね」

 

「ぶっ飛ばすぞてめぇ!」

 

弱火で熱しられたフライパンに、あーしはホットケーキの元をゆっくりと垂らす。

じゅーじゅーと鳴る音に加え、香ばしく甘い香りが充満すると、ホットケーキの元はあっという間にこんがりとした焼け色を見せた。

 

「そろそろひっくり返す?」

 

「そうだな。…出来るか?」

 

「当たり前っしょ。あーし、お好み焼きとかめっちゃ上手に作るかんね」

 

「…まぁ、うん。そう、なのか?」

 

ヘラを両手に持ちチャンスを伺う。

躊躇っては失敗する…。

チャンスは1度。

眼光鋭くその機会を待ち続ける。

 

「……!!今だし!!」

 

「っ!?」

 

すっ、ふわ、…くるん。

 

「ほれ見たことか!ね!?ね!?上手いっしょ!?」

 

「うん。…いや、これくらいでそんなに威張られても…」

 

両面が美味しそうに色付いたホットケーキをフライパンから救い、ヒキオが用意したお皿へと移す。

我ながら上手に出来たものだ。

ぶらっくさんだーが醸し出すチョコの濃厚な香りが相まって、あーしは思わずヨダレを垂らしてしまった。

 

「…なにコレ。最強なんですけど…」

 

「ん。あとははちみつとバターを乗せれば完成だな」

 

「早く食うし!」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー☆

 

 

 

 

 

 

「…ふぅ。めっちゃ美味かったし」

 

「あぁ。ふんわりとしたホットケーキとそれに混ざるぶらっくさんだーの食感が最高だったわ」

 

気付けば空になったお皿を眺めつつ、あーしは名残惜しくもお皿に残ったはちみつを指ですくい舐める。

 

甘い…。

 

テレビから聞こえる奇妙な芸人のリズムネタすらも心地の良いBGMになり、ホットケーキの残り香か、それともヒキオから漂う甘い香りか、部屋の中には幸せな空気で包まれた。

 

 

「…こんなんも偶にはいいね」

 

 

そう、小さく呟いてみる。

 

久し振りに再会した同級生と、いつの間にか距離が近付き、緩く流れる空気を共に吸う。

 

再会の場所が場所なだけに、それは少女漫画のように健全なものではないのかもしれない。

 

それでも、こうして感じるヒキオの柔らかさが、酷く固まっていたあーしの何かを優しく溶かす。

 

 

 

不思議……。

 

 

 

どうしてこんなに暖かいんだろ。

 

 

 

どうしてこんなに心地良いのだろう。

 

 

 

どうしてこんなに…。

 

 

 

 

愛おしいんだろう…。

 

 

 

 

お腹が満たされ眠くなったのか、ウトウトと目を細めるヒキオを見つめる。

 

 

 

芽生えた感情が顔を出すように。

 

 

 

「……ねぇ、ヒキオ」

 

 

「…んぇ?」

 

 

「…あーし…」

 

 

「……」

 

 

 

優しく。優しく。

 

それはふわりとーー。

 

 

 

「…っ。つ、次はホットケーキwithパクチーを作るし!!」

 

 

 

またの機会を伺って。

 

そっと身を潜めた。

 

 

 

 

 

 

「…パクチーとか食べ物じゃねえよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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