「気をつけろ、まだいける、はもう危ない、っつってな……どうした?」
その辺境最強の言葉にクスリ、と笑みが漏れる。
彼の言葉に、ゴブリンスレイヤーの言葉を思い出し、クスリと笑みが漏れる。
「いえ、ゴブリンスレイヤーさんもそんなことを言ってましたので」
むう、と苦い顔をされ、それを見て魔女はクスクスと笑みを漏らした。
ニコニコと十フィート棒で遺跡の通路を検める女神官と同じく緊張した様子もなく神代の時代の書庫とも言われる遺跡を歩く。
「あ、そういえば古代の文字分かるわよね?」
「ええ、大丈夫ですよ」
"豊満なものに呪いを"という張り紙がおどろおどろしい呪符に見えるのだろう、妖精弓手が気味悪げに距離をとる。
――スライムがいましたよねぇ
懐かしい、二人で出かけた遺跡だ。
当時は古代文字が読めなかったからわからなかった事実に、苦笑いが漏れる。
今になって訪れてみれば、確かに貴重な文献が山とある遺跡だ。
これでろくな守護者が居ないというのはまったくおいしい話であると思う、今の自分であるからそこまで問題ではないが、それでもスライムは大半の冒険者にとっては強敵である。
「何かいいの無いかなぁ……」
「文献としては貴重なものも多いのですが……こういったのは術師でないと楽しめないものですし……」
そういいながらポイポイと書籍を虚空へ収めていく。
――いつもはそんなことないのに私たちの前じゃ本当に術師なことを隠さないわよねぇ
あまり深いことを考える口ではないが、自分たちは特別扱いということは何となくよくわかる。
容易く《聖壁》でとらえたスライムを焼き殺してのんびりと探し物をつづける。
「でも急な話よね、水の街からもどってきて」
「《門》の巻物がなくなってしまいましたからね、あの呪文は私も使えませんし」
そういいながら鍵を解除する。今回はあくまで自発的なプレゼントの形だ。
出てくるのは《
鑑定要らずだが、売りに出すには公的な鑑定を経ねばならないので結局は前回の時と実入りはさして変わらない。
「でも巻物って攻撃呪文ってないわよね」
「即座に使えなくては実践に使える呪文ではありませんし、そんなものをいちいち巻物にしよう、という人も少なかったんだと思います。巻物を作れるような時代では、作ってためておくより自分でその場で唱えた方が面倒くさくないですしね」
「そんなものかしら、まぁそうよね」
飛んで跳ねて弓を射っての身からすれば、攻撃呪文は迂遠に思える。
術師が一の呪文を唱えるうちに、自分たちならば十は矢を射ることができる。
では呪いを解けるのか、傷を癒せるのか、となればそんなことは無いので、呪文の大事さはもちろんわかっている。
さてはて、と今回のお宝を検めていて、ぽとり、と《
「あっちゃ、もったいない」
「もう発動してしまいましたね……」
ぶわり、と巻物から広がった霧が、吸い込まれるようにまた巻物へ戻る。
巻物に掛かれた呪文の文字が、宿っていた魔力により魚の群れのように蠢き並びを変えていく。
最後の一片の動きが収まり、魔力が霧散したころには巻物は一枚の地図となっていた。
「……あれ、でもこれおかしくない?」
「……ええ、大きすぎます、ここの書架が、こことするならば……おそらくは下にもう二階層あるはずです」
おそらく閉架書庫のようなものでしょう、というと妖精弓手は目を輝かせた。
「それって前人未到の遺跡ってことよね!? それにここよりもっと
期せずして、冒険の扉は開かれた。
女神官もニコリと頷く。
しかし
「また、出直しましょう」
まだいける、はもう危ないのだ。
日を改めた、別の日。
「ま、実際そんときゃ、引き揚げてよかったの」
「鉱人のいう事にしゃくだけど、確かにねっ!!」
更に下の階層を降りた広間には五体のゴーレムが居た。
痛みを感じぬ堅牢な体に、手にはおそらく魔法のかかったメイスが一本。
体のサイズが只人程度なのは、書庫に賊が逃げ込んだ際に追跡できるようにしたためであろう。
いくら矢を射かけようと刺さるに任せて押し入ってくる戦法は森人が苦手とするものだ。
「膝を砕き、武器を取り上げる」
「まぁ、その辺りが手堅いでしょうなぁ」
いうが早いかゴブリンスレイヤーは武器を棍棒に持ち替え、一気に踏み込み、抜き胴のような膝砕きを見舞う。
振り下ろされたメイスは掲げるように構えた盾でいなし、一気に振り抜く。
相手の左手へ駆け抜けていく一撃は居着きも少なく、離脱も盾を構えて残心を残す。
「《いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らに、破邪の鉄槌をお示しください》」
女神官の手から放たれた《理力》の弾丸がゴーレムを二体まとめて粉砕するのをみやり、構えを解く。
「これで魔法のメイスが5本か、収穫じゃのぉ」
「でも、探索的にはここから、でしょ」
ガコリ、と壁をの一つを押し込むと、最下層がゆっくりと口を開けた。
最下層はやはり、閉架書庫でああった。
「確かに貴重なものが多いですね」
他の者には見分けのつかないものであるが、一つ一つ書架を検める女神官には違いが分かるらしい。
「そいで、何かありそうかのぉ」
とりあえず分かるものだけでも取り纏めておこう、ということになり家探しを始めることになった。
「そうねぇ、魔法の角灯、あたりなら分かるけど……」
「おまたせしました」
とりあえず金目の物を一纏めにした頃に女神官の方も一段落したようだ。
「いくつかの巻物がありましたね《
一同の脳裏に、図書館の主のような、不健康そうで瘦せがちな魔女の姿が思い起こされる、それも仮の想像だ。
「ともあれ、これだけの収穫じゃ、さっさと帰って宴と行こうぞ」
「重畳重畳、一暴れ、一漁り、なればあとは酒と肴で一騒ぎ」
「そうねー、もうくったくた! 次は普通に矢で倒れる相手がいー」
「ゴブリンか?」
「……ゴブリンでもいいけど、もっと普通に冒険したいなぁ、すかっと駆け回って、飛び回って、化物倒してめでたしめでたし、な感じ」
「あはは、そうですねぇ」
そう語り合いながら、冒険の成功を祝う宴に胸を躍らせながら冒険者は遺跡を出る。
彼らは家路へ、着いたのだ。