比企谷兄妹は、それでも永訣を否定する   作:しゃけ式

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すいません、包み隠さず話すと春の表現が真冬に書けるか!ってなってやる気を喪失していました。ただそのお陰で(そのせいで?)話と季節がマッチしたので書きやすくなりました(笑)




焦燥

「っと、小町の話はここまで。昨日の流れは大体わかった?」

 

 

全てを話し終わった様子の小町は、少し疲れた顔をして確認してきた。

 

まあ、ところどころ端折られている風だったのでよく分からないところもあったのだが(恐らくそれが小町の言う「よかった〜」なのだろうが)、おおよそは理解出来た。

 

ただ、酒を飲んだ辺り、具体的には一色を送っていった辺りからは記憶が全くない。つまり、それの意味するところとは。

 

 

 

 

 

「俺一色と喧嘩した内容全く覚えてねえんだけど!?これかなりやばいよな?」

 

 

「ええっ!?嘘でしょ!?昨日あんなにセンチメンタルになってたじゃん!!」

 

 

「……小町、俺って本当に喧嘩したって言ってたのか?ジェンガしたとかじゃなくて?」

 

 

「お兄ちゃん、いくらなんでも現実逃避は情けなさすぎるよ…。内容は話したくなさそうな雰囲気だったからあえて聞いてなかったし」

 

 

「そうか……。……やばいな、ほんと」

 

 

黄昏て明後日の方向を向く。いっそのこと明後日にワープできたらいいのにな、なんて思う俺は精神的にまいっている証拠だろう。今日と明日で解決して明後日にワープしたら完璧なのに。これが小町の言う現実逃避なのかねえ。

 

 

「ん?てかお前結局昨日俺ん家に住むなんて言ってなくないか?」

 

 

「あれ?そうだっけ。まあそんなことは置いといて、とりあえず学校行くよ!余裕もあんまりないことだし」

 

 

急かされて飯を食い支度を始める。大学では会わないといいなあ。そう思う程度に今の俺は焦っていた。何をするにしても、まずは考える時間が欲しいのだ。

 

 

 

余談だが、少しだけ小町が嬉しそうに見えたのはなんてだ?俺と一緒に住むのがそんなに嬉しいのか?

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

いつもの並木道。そろそろ桜のシーズンも終わりか、と考える程度には時間が経ってしまったんだな。去年は──正確には去年度だが──初めての一人暮らしに初めての大学生活などなど色々なことがあった。

 

ちょうど一年前の春には緊張するあまり俺の返事がほとんど上ずった声になったりしたもんだ。あとサークルに勧誘されることを少し期待したのだが誰ひとりとして俺に話しかけてこなかったりもした。

 

そろそろ慣れ始めた夏もぼっちとしてのもので、無駄に長い夏休みでは何冊本を読んだのだろうか。読書の秋と銘打ってそれまでよりいっそう引きこもったのもいい思い出だ。

 

そして、小町の病気(コルドーマ)が発覚した12月14日。そこからの2ヶ月は今だから言えるが、本当に生きた心地がしなかったな。結果だけ見れば最高のもので、それこそ安堵するべきなのだが、その時に俺も小町で作り上げていた空虚な欺瞞に縋っていた様はさぞ醜かっただろう。

 

離れたら崩れてしまう。お互いが不安定なのだが支える相手がその不安定なやつなのだから危ういことこの上ない。

 

 

例えるなら、眼前にある散りそうな桜とかな。

 

 

 

 

 

小町と分かれた後、俺は道すがら一色との問題について考えていた。

 

 

正直な話、喧嘩をしたのなら素直に謝ってすぐに仲直りをすればいいだけなのだが、俺は自他ともに認めるチキン野郎だ。内容も知らないのに形だけ謝ったとして、うまくいけば良いのだがボロが出た時の対処方法が全くわからない。

 

昨日喧嘩をした、というのはおぼろげに覚えてはいる。しかし内容が全く思い出せないのだ。普通誰かと喧嘩をし、あまつさえそれが彼女となら覚えてるはずなのだがなあ…。

 

これが去年なら会おうと思わなければ会わずに済んだのに、生憎俺と一色は同じ大学なので会う確率は十二分にある。避けているみたいで気が引けるのだか、考えがまとまらないうちに話して怒らせるのも良くないだろう。ならいっそ正直に話すべきか?そうしたら笑って許してくれるかもしれない。

 

ただそれは喧嘩の内容が軽かった場合に限る。これがもしあいつを怒らせて当然のものだったら「何であんな大事なこと忘れてるんですか?馬鹿なの?死ぬの?」となること請け合いである。

 

 

 

そんなことを考えている内に大学に着いた。条件反射で辺りを見回すが、一色はいない。ひとまずの現状に安堵するが、しかしこんなところで

 

「先輩、先輩!聞こえてますか?」

 

楽観視していてはもしもの時に対応が遅れる。

 

…今最悪を想定しすぎて幻聴が聞こえた気がするな。怖えよ。あと怖えよ。

 

 

「……あれ、ホントに聞こえてないのかな。…バーカバーカ!先輩の女たらし!」

 

 

「……」

 

 

普段ならここで異を唱えたのだろうが、生憎今の俺は耳が悪い。何も聞こえてない(eq:イヤホン)。

 

 

「………せんぱーい、聞こえてるなら昨日のこと許してあげますよー」

 

 

聞こえてない聞こえてない。

 

 

「む…、本当に聞こえてない。後ろにいるからかな…?」

 

 

一色が一向に聞き取ろうとしない俺を訝しんでいた時、不幸というのは重なるもので。

 

 

「あれ、比企谷君?どうしたの、音楽も聴かないでイヤホンなんかして。それと一色さん、おはよう」

 

 

無理やりイヤホンを引き抜いて挨拶をしてくる桜内。いつものにこにことした表情で、その顔には純粋な挨拶をしただけとしか読み取れない。いや、本当にそうなのだろう。それよりも目下重大なことは俺が何も聴いていないのに一色を無視していたことがバラされたことだ。

 

だが、このままではマジでヤバイ事になる。今も焦りで語彙力がヤバイが、とりあえずしらを切ることにした。

 

 

「え?いや俺音楽聴いてたから聞こえてなかったよ?それよりおはよう。一色もいたのか。気付かなかったわ、おはよう」

 

 

「比企谷君…、流石に演技下手すぎない?というか焦りすぎ。本当は演技上手じゃない」

 

 

「いやいや、マジで聞こえてなかったぞ?」

 

 

「先輩」

 

 

一色が俺を呼び、見つめ合う形になる。もう数えるのも難しいほど先輩と呼ばれたが、背筋がゾッとする呼ばれ方は初めてだった。

 

 

「何聴いてたんですか?」

 

 

音楽には疎いのでとっさに名前が出てこない。いつも音楽は聴いていないし、わかるものといったらプリキュアのopedくらいしか思い出せない。今日だって周りの雑音を消すためにイヤホンをしていただけで、普段音楽を聴くという習慣がないのだ。

 

 

「えっと…あれだ、しっぽのきもち」

 

 

「それって童謡のですか?」

 

 

「あ、ああ。なんならスマホを見てくれても構わない」

 

 

そう言ってスマホを差し出す。無論そんな曲はメディアプレイヤーには入っておらず、聴いていたと錯覚させるためのブラフだ。

 

 

「…まあいいです。それより、昨日のこと」

 

 

ビクゥ!!と体を身震いさせる。

 

 

「わたしまだ怒ってますからね」

 

 

それだけ言い残して、一色は前を歩いて行った。

 

 

……まずいな。最初に呼ばれた時よりも険悪になっている。ビビらずに反応しておけばこんなことにはならなかったのかもしれないな。

 

 

「比企谷君」

 

 

それまで黙っていた桜内が頃合と見て話しかけてきた。

 

 

「喧嘩でもしたの?」

 

 

「…そうらしい」

 

 

「“らしい”?」

 

 

こいつなら大丈夫かと、ことの顛末を全て話した。願わくば解決方法でも教えてくれると助かるのだがな。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「…え、えっと……。思ってたより比企谷君やらかしてるね…」

 

 

目を泳がせてぎこちなく笑う。喧嘩を終わらせるのに一番簡単な方法は謝ることだ。片方が折れれば相手も落ち着いて自分を客観視できるようになる。すなわちお互いに謝ることが出来るのだ。しかし今回のケースでは俺から謝ることが出来ない。それはさっきも言ったよう『客観視』が重要だからだ。客観的に悪いところを言えば相手も同じようにするのだが、生憎俺はその状況がわからないからな。

 

なら次は一色からの謝ることを期待するのだが、しかしそれも現実的ではない。さっきまではもしかしたらその可能性もあったかもしれないが、誤魔化していたことがバレたことによりもっと怒らせてしまった。

 

 

 

 

はっきり言うと、 詰 み だ(絶望)。

 

 

 

 

「……さて、どうしようか」

 

 

「うーん…、正直に言って謝るのは?」

 

 

「俺って昨日なんでその記憶が無いか話したっけ?」

 

 

「え?急にどうしたの?…話してなかったはずだけど」

 

 

「簡単に言うとヤケ酒だ。昨日親父から上等な酒をもらってな、それで家に来た一色にもちょっとだけ呑ませたんだよ。…俺が無理やりじゃなくて、あいつが呑んでみたいって言ったからだからな?でも俺も未成年な手前、あんまり呑ませなかったんだ。んで俺も未成年だからちょっとだけってことにして家に返したんだよ」

 

 

「だからセーブさせたくせに自分は記憶を失うまで酔う、そんな人の事を信じられるか、ってことだよね」

 

 

「まあ、そんな感じだ」

 

 

「じゃあありのままを説明するのもダメってことね。……続きは教室でしよっか。席取られるのもあれだし」

 

 

 

 

結局、教室でも根本的な解決方法は見つからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

講義も終わり、俺と桜内は帰り道にある本屋へ行くことにした。お互いが別れる帰り道までに建っており、帰るついでに各々の欲しいものを買うということになったからだ。

 

……こんなことをして、一色に見られたらいよいよおしまいだな。

 

 

「そういやお前、なんで俺が曲を聴いてないってわかったんだ?」

 

 

「え?ああ、私ピアノやってるって言ったことあるでしょ?そのおかげか耳いいんだよね」

 

 

なるほどな、と呟く。いつだったか、高校の頃にピアノで挫折したと聞いたことがあったな。職業病みたいなもんか?

 

 

「ちなみに俺の職業病は相手の癖を見抜くことだ。これを応用すれば人のモノマネもできるようになる」

 

 

「突然どうしたの?じゃあ何かやって見せてよ」

 

 

こういった無茶振りにボッチは弱い。人と会話することに慣れていないせいでアドリブが効かないのだ。まあ今のは俺が半ば言わせてしまった風なところがあるので一概に無茶振りとは言えないだろうが。

 

何をすれば盛り上がるのだろうか。いや別に盛り上げなくてもいいが、できると言った手前半端なものをするつもりもない。

 

 

ま、やり慣れてるやつでいいか。

 

 

「なんですかもしかしてモノマネ振ってるんですかごめんなさいぼっち長かったもんでいきなりはできないです」

 

 

「出来てるしかなりクオリティ高くてちょっと引いてるよ」

 

 

「やらせといてなんだその言い草」

 

 

「草も生えないレベルだったからだよ」

 

 

「上手いこと言ってんじゃねえよ…」

 

 

「それと、こういう時咄嗟(とっさ)に出てくるのはやっぱり彼女さんなんだね」

 

 

その言葉に痛いところを突かれたがごとく、何も言い返すことが出来なかった。俺と桜内が共通で知っている相手が少なく、その中に一色がいたという理由もあるのだろうが、言葉が詰まるということはそういうことだろうな。

 

 

 

 

 

そんなやり取りをしているうちに、目的地の本屋に着いた。外観はこじんまりとした一般家屋で、老舗と言うに相応しい年季が入っているように見える。実は桜内と出会う前からも──見つけたのは最近だが──何度かここへ来ているのだが、なんというか雰囲気が良いのだ。俺の厨二心をくすぐる自分だけが知っている隠れた名店を見事に体現してくれており、本を買いに行く時は学校帰りにここへ寄るようにしている。

 

 

中に入ってからは各々の目的のものを探すために分かれた。桜内は最近ハマった小説家の過去作で、俺は有名作家の新刊だ。前評判は血迷ったかなんて言われていたが、果たして内容はどうなのだろうか。タイトルはなんとなくラノベっぽいのでいささか不安ではあるが…。

 

 

視線を巡らせていると、1冊の雑誌が目に留る。それは何年か前から流行り出したスクールアイドルの特集雑誌だった。俺のスクールアイドルの知識は本当に雀の涙程度、にわかもいいとこだがこの表紙のグループは知っている。

 

なんせアメリカでのライブを行ったほどだ。μ'sの名を語らないで他にどのスクールアイドルの名前を語るというのだろうか。

 

なんて言いつつも、知っているメンバーの名前は今もなお歌手として活動している高坂(こうさか)穂乃果(ほのか)だけだがな。しかも活動拠点がアメリカなのでテレビではほとんど見ないから外見も曖昧だ。

 

 

そんなことを考えつつ、雑誌を手に取ってページをめくる。内容はこれまでに注目された数々のスクールアイドルの概要だった。中には都市伝説みたいな特集も組まれていて、特にこの“9位に隠された謎”とかわけわからねえわ。歌詞にも“9”が散りばめられているとか小さな大会でも逃さず9位をとっているとか、読んでいるとちょっと出来すぎな気もしてきて怖くなったけども。

 

少しページを進めると、どこか既視感を覚えたグループがあった。名前は読み方がわからないのだが『Aqours』とあり、ラブライブの舞台には立ったものの結果は振るわず順位もぱっとしないものだった。

 

なぜ俺はこのグループ気になったのだろう。しかしその答えは存外すぐに出た。

 

 

「作曲担当、桜内梨子…?」

 

 

呆気に取られている俺に遠くからでも気付いたのか、桜内がこちらへ寄ってきた。心配した顔もつかの間、驚いたような悲しんだような顔で写真を見ていた。

 

 

「あんまり知られたくなかったんだけどな…。仕方ないよね。……私、昔スクールアイドルやってたんだよ。2年から3年の1年間だけだけどね」

 

 

「そうか。……それとな、もう一つ思い出したことがあったんだよ」

 

 

「なに?」

 

 

「俺があいつと喧嘩した理由だ。昨日送る時にコンビニによったんだよ。そん時にこの雑誌を見つけてな、あいつに桜内もスクールアイドルだったんだなって言ったら嫉妬してか怒り出したんだ。……正直、俺としてはそれくらいで怒るなとも思うんだが、最近どこも行ってなかったからなあ」

 

 

俺は冗談を話すかのように、至って軽い感じで言ったのだが。

 

 

どういうわけか桜内はそんな様子ではなかった。

 

 

「……また、私は友達の輪を乱しちゃったんだね。ごめん、先帰るよ」

 

 

そういって足早に本屋を出ていく。本屋に来たのに、まして目的の本もあると言っていたのに買ってないところを見ると、どこか逃げたようなという表現が的を射ているだろう。

 

 

「…“また”?」

 

 

当然のようにその問いは独り言となり、本に伝播して消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外に出ても疑問は晴れることはなく、しかし同時に喧嘩の内容を思い出せて安堵も感じている。

 

 

そんな中暖かい風に吹かれて桜が揺れる。

 

 

 

桜は、散り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





またいろはの影が薄くなってしまうのですが、飽くまで八幡と付き合っているのはいろはです。この後にちゃんといろはメインの話もございますので、ご心配なさらずに。


それと、アストラエアの白き永遠ってゲーム知ってますかね?最近買ってプレイしてたんですけど、雰囲気が凄い良いんですよね。文章も読みやすくて、なによりbgmが話に没頭させるんですよ。

と、なぜかアス永遠のダイマみたいになってしまいましたがとても面白かったです。かの伝説のくさやゲーであるととの。をプレイして落ち込んでいた自分を慰めてくれた良作です。機会があったらぜひプレイしてみてください。


ちなみにこの作品とは全く関係ありません(笑)
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