お陰様でついにバーに色が付きました!初めに見た時は思わず声が出てしまうくらい嬉しかったです。
────それってさ、小町が死んじゃうってこと?
………え?
「小町、知ってたのか……?」
「まあ、そだね。薬の量の多さとかたまに来るすっごい痛みとかさ。それに何よりも入院期間の長さだよ。病名は教えてくれなくて、でも長いこと入院させられるのなんて死ぬからとしか考えられないよ」
まるでいつもの調子で話すかのような小町に、俺はどこか空虚さを覚えた。
「でもね、小町は一つだけ知らないことがあるの」
「余命、だよな」
「ぶっちゃけさ、小町ってあとどれくらい生きていられるの?」
小町は気丈にこそ振る舞ってはいるが、口から出る言葉は少し震えていた。執拗なまでの笑顔は一層余裕の無さを感じられる。
そんな相手に、あと10日ほどしか生きられないなんて言っていいのか?
こういう時につく嘘は、嘘αなんだよな?相手を思いやっているよな?
自問自答を繰り返し、繰り返し、繰り返し。小町の質問に答えられたのは、それからおよそ30秒の間を要した。
「……12月、12月14日に聞いた余命は、およそ2ヶ月。単純に考えて、あと11日だ」
口から出た言葉は残酷な真実で、結局のところ俺は
「そう、なんだ…。あと11日か……」
その言葉を最後に会話が途切れ、病室を静寂が支配した。
それまで小町の顔は穏やかなものだったのだが、やはり余命というのは重いものなのだろう。こんな言い方はしたくないのだが、どうしても自分以外のことは他人事となってしまうので安易に大丈夫などと声をかけられない。
妹は一番近い他人だ。過去に俺が言った言葉である。他人というと聞こえが悪いように思えるよな。だがそれは他人以外の“友達”を持つ人種にとっては、だ。逆説的に言うと“友達”のいない俺にとって小町はかけがえのない人であり、かけがえのない他人なのだ。
俺にとっての他人事は、自分に起きた事と同意である。故にこの場合とってほしい行動は────
「お兄ちゃん」
俯きながら俺を呼ぶ。なんだ、とは言わなかった。
「しばらく一人にして。というかさ、明日も来なくていいよ」
「…ああ。んじゃまた明後日な」
努めて普通に返事をし、振り返ること無く部屋を出た。
◇◇◇
いつもの並木道。自転車を走らせて帰路につく。来た時よりも速度を上げて歩道を走っていた。その姿はさながら何かから逃げるような仕草だっただろう。自覚はあるんだ。
前に人が見えたので、少しスピードを落とす。このまま車道寄りの歩道を走ればすれ違う。意味もなく、そんなことばかり考えていた。
人を通り過ぎたので再度スピードを上げようとすると、不意に名前を呼ばれた気がして自転車を止めた。
振り返ってみると、そこには手を振って俺の名前を呼ぶ女の姿があった。
「おーい!!せんぱーい!」
そう言ってはこちらへ駆けてくる一色に、俺も自転車を押しながら歩み寄った。
「お見舞いの帰りですか?」
「おう。一色は今からか?」
「そーですねー。もしかしたら先輩に会えるかも!とか思って来ちゃいました!」
満面の笑みを浮かべた一色に、俺はいつものようにあしらうことができなかった。
「お、おう…。それより一色、今から小町のお見舞いに行くんならやめとけ。今は誰とも会いたくなさそうだ」
厳密に言うと俺だけだったのかもしれないが、知りようもないことを懸念しても意味がないだろう。
「もしかして先輩、喧嘩とかしちゃったんですかー?」
「小町に余命のことを話した」
その瞬間、やはりと言ってはなんだが確かに空気が凍った。
「…それで小町ちゃん、誰とも会いたくないんですね」
「ついでに言うと明日も来なくていいらしい。明後日は行くつもりだが、お前も来るか?」
「もちろんです。行かない理由がありません」
「……そう言ってくれると、小町も俺も助かるよ。ありがとな」
出来る限りの感謝を込めて礼を言う。
凍った空気は溶けだし、まるでみぞれのような雰囲気へと変貌した。
「い、いえいえ!わたしも行きたいから行ってるわけですし、感謝なんてとんでもない!」
両手を前に突き出して首を横に振る。なんともわかりやすい意思表示だ。
あ、そういえば小町が知ってた告白の件を聞くのには良いチャンスだな。
「お前この後暇か?」
「え、ええ。小町ちゃんの病室にずっといるつもりだったので」
「なら好都合だ。どっか店にでも入らないか?」
その言葉に一色はわかりやすく頬を朱に染め、頷いた。
これ俺なんで告白断られたんだよ。自惚れ以前にこいつ絶対に俺のこと好きだろ。
◇◇◇
「スタバとはなかなか良いチョイスですね。及第点です!」
俺たちはスタバに寄り、長蛇の列に並んでいた。現在の時刻は11時で、飯を食べるには早すぎるという判断でここに決めたのだ。が、ここで一つ問題が生じてくる。
俺呪文なんて唱えられないぞ?※訳︰注文できない
スタバなんて飲んだことなければ入ったこともない。ただ意識高い系とかJKが好んでいることは情報として知っていたので、少し格好をつけてしまった。
まだ見ぬ未来に恐怖しながら、恐る恐る注文している人を見てみる。
「トールアイスライトアイスエクストラミルクラテで」
………!?
なんだあれ長すぎるだろ!?雷属性と氷属性と光属性の複合呪文じゃねーか、今の。
どうしたものかと冷や汗を滝の如く流していると、その異変に気付いたのか一色が話しかけてきた。
「どうしたんですか、顔色めっちゃ悪いですよ。あ、もしかして頼めないから焦ってるとかー?」
なんだこいつエスパーかよ!?どうして俺の周りは心の内側をガン見してくるようなやつばかりなんだ、いやマジで。
しかしそんな格好の悪いところを見せるのは忍びないので、出来るだけ冷静に返答した。
「べべっ別に頼めるからな?………ふぅ、いや別に頼めるからな?」
「なに言い直してるんですか。ほら、次わたし達ですよ」
ふと前を見ると、いつの間にか前に並んでいた人たちは注文を終えていたようだ。はええよ。てかはええよ。
「ご注文は何にしますか?」
うさぎで。こう言えればどれだけ楽だろうか。
不意に一色がこちらを見てにやりと笑い、そして注文を、
「ベンティノンティーマンゴーパッションティーフラペチーノアドホワイトモカシロップアドホイップクリームで。先輩は?」
したと思ったら長すぎんだろそれえええ!!!!!なんだ今の!?てか何で店員はそれを復唱できんだよ怖えよ!
「あれー?先輩もしかして頼めないんですかー?それって超恥ずかしくないですかー?」
語尾を伸ばすその煽り口調に苛立たないわけでもないが、それよりもまず注文をどうするかだ。最初の三属性複合呪文でも言ってやろうかと思ったが、如何せん覚えていない。覚えられるわけがない。
いや、待てよ?一つだけ、俺にも唱えられる呪文があるじゃないか。
俺は一色を見て同じようににやりとし、呪文を唱えた。
「さっきの二つで」
「ちょっと先輩それずるくないですか!」
知らん。機転が利くと言ってくれ。
◇◇◇
無事注文を終えた俺たちは空いていた席に腰を下ろした。
「ああ、これマンゴーだったのか」
「やっぱ先輩わかんなかったんですね。次来る時は先輩から注文お願いします」
「ピンポイントに俺を殺しにかかるなお前は」
「愛です♡」
んな重い愛いらんわ。ヤンデレかよ。
「それで思い出したわ。お前告白わかってたのかよ。なんだあの返し」
「あ、ああ。昨日のですよね。えーっと、その……」
途端に顔を赤くする一色。自意識過剰でなければ、お世辞にも照れていないとは言えない様子で。
「お前照れてんのか?」
先ほどとは打って変わって今度は俺の方が余裕がある。だからこんなくっさいセリフも吐けるわけだ。まあ俺も死ぬほど恥ずかしいんですけどね。
「な!照れてませんよ!!ばっかじゃないですか!!」
「照れ隠し乙。んで、昨日の何。気付いてたんだろ?」
「まあ気付いてましたけど…」
「けど?」
「あれは保留って意味です!告白されて即OKの女の子なんていませんよ!いるとしたらそれは自分も相手のことが好きってことです!」
矢継ぎ早にまくし立てる一色。でも、そうか。
「なら昨日の話は忘れてくれ」
「え?なんでですか?」
「好きじゃないんなら、まあ、あれだろ。だから忘れてくれ」
惜しく感じるが、振られることには慣れている。嫌な慣れだが、さほどダメージはない。でもそれはそれでどうなんだろうな。まあ今となっては後の祭りか。
「待ってください何勝手に完結しようとしてるんですか!………その、わたしも先輩のこと、好きですよ?」
紅潮した顔を隠すように俯きながら、それでも目線だけは俺に向けている。
俗に言う上目遣いである。
「お、おお。ならなんで」
「保留したのかなんて野暮なことは聞かないでくださいよ?」
不覚にも先読みされ、言いたいことを言われてしまった。聞けないとなるといよいよ意味がわからなくなるわけだが、一体全体どうしたものか。
「ともかく、もう一回告白してください。わたしはOKしますから!」
「……?もう今のでOKもらったみたいなもんj……「いいから!」……おう」
もう一度する意味が全くもってわからないのだが、しろと言われたら逆らえないわけで。
「一色」
一呼吸置き、しっかり相手の目を見据える。
「好きだ。……本当はこんな場所で言うのは忍びないんだが、付き合ってくれないか?」
「はい、喜んで!」
一色は軽く目を潤ませながら、嬉しそうに顔をほころばせている。
え、なんの意味があったんだ?
「ブラボーだよ、マーベラス!」
ビクゥ!?と突然隣の人から声を掛けられたので驚いてしまった。流石の一色も驚いたようだった。
って。
「なんでお前がいるんだよ、玉縄!」
ッタタタタタタッターン!とこれ見よがしにマックを叩き、キメ顔をしてこちらを向いた。
「うん、僕に何か用かい?」
「お前が話しかけてきたんだろーが!!」
「今僕は大学のレポートを纏めていてね。ここはとても良い環境だからよく来るんだ」
話が通じない。ただそれだけのことがとてつもなくイライラさせる。一色の方を見ると、ああいやこいつ、早々に会話を諦めてやがるな。何逃げてんだよ。
「それより君たち、おめでたいね!おめでたくてコングラッチュ
「どうでもいいがコングラッチュ
「ノーノー、僕は留学するために少しでも現地の音に近づけているんだ。だから君が間違ってるよ」
くっそどうでもいいわ。
「ん?僕のレポートかい?」
「何がどうなったらそうなるんだ」
「そういうの、これからの情報社会で苦労するよ?コミュニケーション能力って言うのかな、大事だよ」
余計なお世話だ。
「はあ、じゃあお前はレポートの何をやってるんだ」
「いいね。そういうパラダイムシフト的な考え方の変換。順応性が高いのかな?」
何回考え方変えるんだよ。一周回って考え方戻ってるんじゃねーか。
「で、それ何」
「銃刀法違反に対する考えを纏めてるのさ」
「えらい難しい内容だな。そんなの限られてくるだろ」
一色はスマホをいじっている。会話には入らないスタイル丸わかりだな。
「そうなんだよ。僕はこのお題を自分のオリジナリティーというか、個性を見るものなんだと思うんだ」
考える人のようなポーズをとり、いかにも悩んでいますと伝えてくる。
にしても、この問題は割と難しいな。玉縄の言う通り、こういったよく聞くものがテーマだと恐らくはどれだけ人と違う考えを持っているかが大事になってくるのだろう。身近と言えば語弊が生じそうなものだが、銃刀法違反なんてどこをどう掘り下げればいいのかわからない。
「玉縄は何か考えているのか?」
「僕かい?僕は倫理性を説こうと思っていたんだけどね、それだとやっぱり被っちゃうかな」
「まあ被るだろうな」
銃刀法違反なあ。意味を掘り下げると、法律で禁止されているものは使用、また所持してはならないということだが、ここはどうにかして変えられないだろうか。
法律で禁止、禁止。……別の法だが麻薬とかマリファナもそうだよな。何か変換できないだろうか。
「おい玉縄、麻薬とかを倫理性に絡めるのはどうだ?法律で禁止されているってとこから行けそうな気がするんだが」
「そうだね…。でもそれだと話のベクトルの方向が変わっちゃうんじゃないかな」
まあ、そうだわな。
「あ、なら3Dプリンタの話ならいいんじゃないか?前にそんな事件があっただろ」
言い終えると玉縄は指をパチンとならして俺を指さした。
「グレイツ!それだよ!じゃあ今から書き始めるからさ、書き終わったら見てくれないかい?」
「あーすいません、先輩は今からわたしとデートするので失礼します!ほら、行きますよ!」
「おい、いきなり手を引くなって。まあそういうことらしいから、また会った時に頼むわ」
半分ほど残したマンゴーなんたらをもったいないと思いつつ、俺と一色はその場を後にした。なんだかんだ放置してたからな。これ以上放置されるのは嫌だったのだろう。
……今の話、どこか引っ掛かりを覚えたのはなぜだろうか。
それからデート(?)は
…てか今の言い方だと玉縄に好意を抱いてるみたいに聞こえるな。怖気が走るわ、気持ち悪い。
Life 52/62
◇◇◇
Life 53/62
八幡「月が、綺麗だな」
いろは(え、これって告白!?確かにさっき抱きしめてもらってたけどそれでもいきなりってか先輩わたしのこと好きだったの!?てっきりあの2人のどっちかだと思ってたしあー今すっごいテンパってるな落ち着けわたし!)キャ-!
フウ
いろは「月はまだ出ていませんよ」
いろは(もう一回告白してもらお。嬉しいし!)
という理由でした。今後も話の大筋にあまり関わらない話は台本形式で後書きに書いていきます。