名もなき物語   作:鎌太郎EX

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設定は鋭意組んでおりますが、なんと無く感覚をつかむための試し書き。
設定まとまったら連載にしてチラ裏解除という感じです。あまり期待しないように!


出会いは唐突……だったりしなくもない

 

 

 

 

 

 駅のホームというのは、時代、また世界を問わず賑わうものだ。

 そう大きくない街の駅であってもそれは例外ではない。特にこのリィンバウムという世界は空路での輸送手段がないため、この鉄道が、物資輸送の拠点となっている。よって、その荷を受け取る者、さらに別の場所に搬送する者、乗客として降りる者、乗る者によって喧騒は賑やかに響いていた。

 その中に1人、男が立っていた。褐色の肌、白髪の髪、体付きは見る人が見れば武人のそれだと分かるだろう。

 英霊エミヤ。

 とある人間の従者をしている男は、いくつかのトランクや荷物を足元に置き、イライラと周囲を見渡していた。

 その隣には、トランクの上に腰掛け近くで売っていたホットドックをパクついている男がいた。金髪の髪、翠色の目、無骨な紅いコートを身に付けている。

 ヴァッシュ・ザ・スタンピード。

 彼もまた、エミヤと同じ人物に従者として仕えている。

 

「ねぇ、エミヤ。そんなイライラしたってしょうがないじゃないか。

 ここは鉄道がメインだろう? 1時間や2時間乗り継ぎの列車が遅れているのなんて、気にしてたら始まらないよ?」

 

 君も食べなよ、美味しいよとホットドックを差し出すが、エミヤはいつも通りの顰めっ面で手を振り断る。

 

「……ヴァッシュ。君は私が列車が遅れている事に苛立っていると、本気で思っているのか?」

 

「それ以外に何があるの?」

 

「決まっているだろう……マスターがトイレに行ってから30分も戻ってこないから私は苛立っているんだ」

 

 ヴァッシュの適当な返事に、エミヤは頭痛を堪えるように眉間を指先で揉む。

 彼らの主は、この横で美味そうにホットドックを食べている従者仲間と同じく、目を離した隙にフラフラとどこかに行き、何か厄介事を背負ってくる天才だ。しかもその間どこで行動しているのか分からない。

 離れる時は一言言伝でも何でもしてくれというエミヤの言葉を「……出来るだけね☆」とアホな顔で言ったので、あの時は普段は1時間の説教が3倍になった。

 最初に辿り着いた小さな町で路銀と必需品だけ確保し、自分達がなぜこの世界に呼ばれたのかを探す旅に出たのは、ほんの昨日だ。

 どこか目的はあるものの目的地はない旅だ、取り敢えず情報が集まる首都に行こうと決めた道中、列車の乗り継ぎでこの街に辿り着いた。

 自分達が最初にいた時よりも規模が大きく街だ。

 きっと自分達のマスターは好奇心を抑える事が出来ないだろう。そう思い最初に段階で厳重に注意した。マスターは雑な返事だったがちゃんと頷いたので了承したと思うが、それでも心配なのは変わらない。

 エミヤも、相当おかん体質だ。

 そうヴァッシュは思うが、ここで言えば苛立ちをこちらにぶつけられてしまうので言わないが。

 

「ほら、きっと〝大きい方〟なんだって」

 

「……君は食事をしながらよく言えるな。というか、そのホットドックはどこで買ってきた。君にはそれほど路銀を渡していないんだがな、マスターと同じく」

 

 2人はどんな無駄遣いをしてくるか分かったものではないのだ。金の大半は自分が管理している。2人に見つからないような場所に隠してだ。

 

「あぁこれ? さっき露天のおばちゃんと話していたら存外仲良くなっちゃってさ! ツレがケチだって言ったらいっぱいくれたよ、ほら」

 

 横に置いてあった少し大きめな紙袋には、先ほど食べていたホットドックが紙に包まれて入っている。紙袋の内容量を考えれば、一個や二個ではきかないだろう。

 相変わらずの人誑しだなと思い、エミヤは苦笑する。

 

「で? そのケチなツレというのは誰の事かな?」

 

「さぁ誰だろうねぇ……ん?」

 

 お互い悪戯少年のような笑みを浮かべていると、誰かがこちらに近づいてきた。

 おそらく、5歳くらいの少女だ。人見知りをしないのか、大人の男性(しかも他者から見れば見るからに怪しい2人)に躊躇なく話しかける。

 

「えっとぉ、ゔぁっしゅお兄さんと、えみやお兄さんですか!?」

 

「――そうだが、君は?」

 

 エミヤは先ほどの皮肉げな表情を消し、微笑ましそうな笑顔で答える。

 

「わたし、エミィ! お兄さんたちに、でんごんがあるの。ますたーからって言えば分かるって、お兄ちゃんいってた!!」

 

 ……どうやら、彼女は伝言役らしい。

 

「穏やかじゃないなぁ、わざわざ伝言なんて」

 

 身構えるヴァッシュと、真剣な表情を浮かべ、良い? 良い!? と言わんばかりに落ち着かない少女に頷くと、少女は笑顔で口を開いた。

 

 

 

「あのね、『このトレイユってまちにオレ、きょうみしんしんだから、ちょっとかんこうしてくる、れっしゃのじかんまでにはかえるから、☆!!』って」

 

 

 

 なんて事はない。

 ある種の脱走宣言だった。

 

「……っ! っ!!」

 

「え、エミヤ落ち着いて、血管切れそうっていうか顔怖いから」

 

 必死で俯き表情を隠しているエミヤの方を必死でヴァッシュは叩く。

 こんな所で大声を出して良い訳がないし、百歩譲っても目の前の子供が泣く。

 

「まだあるよ!『ちょっとおこづかいもらいました、使わなかったらかえすね!!』って!!」

 

「おこ、づかい……まさか!」

 

 エミヤは顔を上げ、慌てて自分のトランクを漁る。

 1番隅の裏地に穴が空いている部分。そこに隠した路銀を漁ってみるが、

 

「……減っている」

 

 今朝確認した数より少し少ない事を、エミヤの繊細な指は確認した。

 自分がトランクから離れた時間はそう多くないし、その間はヴァッシュが近くにいた。ヴァッシュを睨みつけるが物凄い勢いで首を振っているので、彼はどうやら共犯ではないらしい。

 なんという妙技。

 なんという手際の良さ。

 その長所をなぜ普段活かせないのか不思議なくらい鮮やかな犯行だった。

 勿論、金額はそう多くはないが、問題はそんなことではない。無断で取ったことが問題なのだ。

 

 

 

「――あのっ、阿呆がーーーーーーー!!!!」

 

「あぁ〜あ、怒っちゃった……恨むよマスター」

 

 

 

 駅の待合室に、エミヤの絶叫が響き、ヴァッシュの恨み言が小さく呟かれた。

 

 

 

 ◆

 

 

 トレイユの街の片隅で、青年になりきっていない少年は、少し粗雑な画用紙にクレヨンで絵を描いていた。

 目の前には、完成を待ち望む笑顔の少女が座っており、その周辺には多くの子供、さらにそれを囲むように大人達が興味津々でその光景を見つめている。

 

「――うっし、出来た。さてお嬢さん、ここに描かれている、将来美人になりそうな綺麗な女の子、だーれだ?」

 

 一通り絵を描き終えて、少年はくるりと器用に画板を回して少女の方へ向ける。

 一瞬、少女の目が大きく見開かれたが、すぐに満面の笑みに変わった。

 

「わたし! それわたしだ!! うわぁ〜綺麗」

 

 そこにはまるで虹のような背景を背負っている、その少女本人だ。クレヨンで描いたにしては完成度が非常に高く、周囲の子供の「凄い」という感動の声と、大したもんだという大人達の感嘆の声が、道に木霊する。

 

「アハハ、それでは自他共に認められた美人のお嬢さん、これは君にあげよう。トレイユの楽しい話を聞かせてくれたお礼だよ」

 

「ほんとう!? ありがとう!!」

 

 絵を受け取ると、「お母さんにじまんしてくる!!」と走り出す少女と、それに付き従う子供達がその場をかけて離れれば、次に褒めるのは大人達だった。

 

「大したもんだよあんた、クレヨンなんかであんな絵も描けるんだな! ここら辺じゃ見かけないが、流れの絵描きさんかい?」

 

「う〜ん、ちょっと違うけど……まぁ似たようなもんだよ」

 

 昔取った杵柄というのは馬鹿に出来ないものだと思いながら、少年は立ち上がり道に座っていたためついた土を払う。

 昔絵が好きな友人に付き合って自分もよく落書きをしていたのだが、自分は模写ばかり上手くなってオリジナルの絵はなかなか描けなかったものだと、昔を懐かしむ。

 こんな所で喜んでもらえるなら、嬉しい事だ。

 

「それより、おじちゃん。見物ついでに、どこかオススメの観光地とかないかな? あと美味しいご飯が食べられる場所。

 俺、この街に来るのは初めてでさぁ、ぜひ」

 

 ――少年は、小さな嘘をつきながら話かけてきた中年の男性に話しかける。

 初めてなのは確かだが、ここの事は一応知っている。もっとも、遥か遠くから眺めただけだが、ここで起こった事件の事も。

 

「そうだなぁ、つい1年前は結構な事件が起こって、慰霊碑やらなんやらあるが、若い兄ちゃんが見に行くようなもんじゃないしな……そうだ! 美味いって言えば、この街の外れに美味い料理を出す宿屋があるんだ! 泊まらなくても食えるから、なんだったら行ってみると良い!」

 

「――へぇ、そいつは良い話を聞いた。で、そこはなんて名前だい?」

 

 少年が聞くと、中年の男性は気の良さそうな笑みを浮かべる。

 

 

 

「おう、「忘れじの面影亭」って店だよ!!」

 

 

 

 

 

 

 少年は、ある世界からこの世界に何故かやってきた、こちら的に言えば、名もなき世界から来た召喚獣という事になるだろう。

 それだけならばこのリィンバウムではそれほど珍しい事ではないだろう。だが、実際はもっと複雑だ。

 少年の世界は、まぁそれなりに科学技術が発達しており、ゲームなどVR元年と言われるほど、進化が進んでいた。

 そんな少年の中でも好きなゲームは、「サモンナイト」と呼ばれるゲームだった。

 リィンバウムという世界と4つの世界から特殊な生き物を召喚する魔術「召喚術」を基本にして、主人公達が戦うシュミレーションRPGのシリーズ。

 もっとも、少年は6つ出たゲームの4つまでしかやっていないし、外伝などを読む質ではなかったので、このゲームを知り尽くしているとは口が裂けても言えないが、好きではあった。

 ……だが、自分がこの世界に呼ばれると、どうして思えよう。

 しかも、自分が好きな二次元キャラクター2人を従者にして。

 ありえない。

 ありえないが、実際に起こっている。起こっているものをいくら否定しても現実が変わるわけもなく受け入れるしかない。

 ……1人で。1人でだ。

 ここで2人にこのことを話しても信じてもらえないし、信じてもらえてもどうしようもない。

『ヘイ知ってるか!? 実はお前ら物語の登場人物で俺の世界では架空の人物なんだぜ!?』なんて言おうものなら大混乱。あの2人だから自我崩壊なんて事になならないだろうが、それでもショックだろう。

 自分が架空の存在かもしれないなんて、聞いて気分のいい話ではない。

 だからこそ、自分1人でそれを受け入れ、確認しなければいけないことが山ほどある。だから今回は単独行動なのだ。

 ……いや、そりゃ1人で子供に伝言頼んでトンズラは良くないことだと重々承知しているし、お金をちょ〜と拝借したのはちょ〜と悪いと思うけども。

 必要なことなんだ、うん。

 

「にしても……本当に町外れって、ガチの外れなんだな」

 

 長い道のりで怠くなる足を動かしながら小さく文句を言う。

 ゲーム上のマップではそう広く感じず、スティックをちょっと動かせば目的の場所に着けるのでイメージし辛いがここは現実。

 郊外にある宿屋なんて、そりゃ遠いに決まっている。

 決まっているが、そこそこ体力があり若いとは言え、遠いもんは面倒なのだ。今だってもう視界に入っているから何とか動けているが、それでも自堕落な男にとっては辛いもんは辛い。

 

「……やっぱりエミヤとかヴァッシュに頼んで付き添ってもらえば良かったかなぁ」

 

 そしておんぶとかして貰えば良かったかなぁ……いや断られるが。

 そうぐちぐちと文句を言いながらも、足は止まらない。実際にもう店は目の前――、

 

「――あ、」

 

 声が漏れる。

 画面の向こうの存在。

 平面で描かれた偶像なのだからそりゃ美人だろうなと当時は納得していたが、現実になったとしてもそれは変わらない。

 細く小さな体は女性的、綺麗な白い肌も、淡い桃色の髪の毛も女の子らしい。

 絶世の美女……否、絶世の美少女と言っても過言ではないその姿。

 そりゃああんな可愛い子だったら、皆姫と呼んで慕うに違いない。あれでゲームの中のように性格も良かったら、完全無欠のお姫様。

 その姿を見て、少年の足は先ほどの疲れなど吹っ飛んだかのように、スタスタと歩き始めていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 エニシアは、掃除が好きだった。

 料理のお手伝いや洗濯も好きだが、1番は掃除だ。はっきりと綺麗になった結果が目に見えるし、掃除を終えた爽快感は何よりも変えがたい。

 自分がリーダーを務めた戦いは、すでに一年前の過去となっていた。

 多くの命を失い危険に晒した首謀者である自分がこんな所でこんな平穏な生活を送っていてもいいのだろうか、と不安になりもするが、優しすぎるくらい優しい人達は自分を暖かく迎え入れてくれた。

 今では、この宿屋兼食堂の二大看板娘と呼ばれている。

 自分で言うのは恥ずかしいし、もう1人は「あたしそんなの柄じゃない!」と言って全力で否定するが。

 

「ふう……今日も、いいお天気」

 

 箒を動かす手を止めて空を見上げる

 突き抜けるような蒼。今日も1日、良い日になりそうという予感をエニシアの胸にもたらす、清々しい天気だ。

 

「あぁ、本当だ。さっきまで歩くことばかりに集中していたけど、ここは空が近く感じるね」

 

 見知らぬ男性の声に、驚いて振り向く。

 少年が、そこに立っていた。

 黒髪に、自分よりも少し暗い色の肌。少年と言っても、自分よりも少し年上のように見える。赤いジャケットにラフな格好をしている彼は、ここら辺では見かけない顔だ。

 

 

「……お客様、ですか?」

 

「うんうん、まぁ間違ってないかな」

 

 宿屋か食堂か分からないがそう思って声をかければ、少年は笑顔で頷く。

 不思議な人だ。

 多くの人を今まで見てきたエニシアだが、その立ち居振る舞いはとりあえず戦う者のそれではなく、普通の少年に見える。だが初対面なのに、妙に親しみを覚える。この人は大丈夫という安心感がある。

 

「あ、なら、そろそろ昼食の時間なので、良かったらお席にご案内「その前に、君の名前を聞きたいな」

 

 一瞬。

 いつの間にそんなに近づいてきたんだというほどの近さに少年は立っていて、エニシアの手を握っていた。

 嫌悪感はないが動揺はする。

 

「えぇっと、お客様、手を「君、お名前は?」え、エニシアと申します、それで手を「エニシアちゃんかぁ、いい名前だね。歳は? ちなみに俺17歳なんだけど、2歳以上歳下だったりしない?」し、しません、手「そっかぁ良かったぁ、そうじゃなきゃ口説けなかった」く、口説っ!?」

 

 ぐいぐいだ。

 お酒が入ったお客さんに似たようなことを言われた事はあるものの、彼はどうやらシラフなようだ。おまけに妙に押しが強く、跳ね除けるのが難しい。

 

「そうだよ、君みたいな美人を口説かなくて何が男か!! って思うしね。まるで優しく咲いている花のようだよ」

 

 サラッと言った。

 恥ずかしげも無く言った。

 

「え、えぇっと、お気持ちは嬉しいんですけど……私、貴方の名前も知りません」

 

 自分は名乗っているのに少年が名乗っていない。

 一瞬ポカンとするが、すぐに少年は申し訳なさそうな顔をする。

 

「これは失礼。レディーに対しての態度じゃなかったね。

 僕の名前はま「エニシアになに手出してんのこのスケコマシ!!!」ゔぉげぇ!?」

 

 手を離し、綺麗な姿勢で挨拶をしようとした少年は……ちょうど真横から受けた攻撃で草むらの中に吹き飛んでいった。

 

「ふ、フェアさん!?」

 

 銀髪で、エニシア程ではないが白い肌を持った、見るからに勝気そうな少女が、「どうだ参ったか」と胸を張って立っていた。

 フェア。

 1年前には敵対し、今は雇い主兼家族のような存在。この「忘れじの面影亭」の主人である。

 

「うちのエニシアを口説こうなんて百万年早いのよ!!」

 

「ちょ、ちょっとフェアさん、流石にそれはやり過ぎです!」

 

 いくらエニシアを守るためとは言え、飛び蹴りをする必要性はない。

 しかもあの吹っ飛び具合から見ると、相当の助走をつけていたのが伺える……過剰暴力だ。

 

「良いの良いの、どうせ旅のスケコマシなんだから」

 

「そんな言い方……」

 

 力こぶを作るように袖をまくるフェアに、エニシアも苦笑いだ。

 ……それにしても、

 

 

「……起き上がって、来ないんですけど?」

 

 飛ばされた少年がいつまで経っても起き上がって来ない。

 いくら飛び蹴りとは言え、体重の軽いフェアの飛び蹴りだ。それほどの威力はないと思うが、

 

「ちょ、あ、あんた、大丈夫?」

 

 フェアも流石に心配になったのか、草むらの中に突っ込んでいる少年の様子を見る為に、草むらの裏側に回る。

 

「どうですか?……も、もしかして、死ん」

 

「死んでない死んでない!! こんなんで死んでたらたまったもんじゃないわよ」

 

 エニシアの言葉に、フェアは動揺で声を荒げる。

 しかし、その後すぐに、呆れ顔で草むらの中から顔を出した。

 

 

 

「……こいつ、気絶してる」

 

 

 

 ――忘れじの面影亭の朝は、こうして始まった。

 




あれ、主人公名乗ってない!!?
折角名前決めてやったのに……まぁ、そのうち出るか(適当)
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