Side 一夏
「956…957…」
太陽が昇ってきて俺には幼なじみが2人いたんだけど、小4の時に別々の時期に2人が転校した。俺は2人といつか全国大会で再会するために剣道を続けていたけど、俺の通ってる中学には剣道部がなかった。だから俺はなんとなく剣を振るっている日々が1が半年近く続いた。けど、そんな日々はある出来事によってガラッと変わった。
「972…973…」
中学1年の秋にドイツでモンド・クロッゾの第2回大会があったんだけど、俺はそれを見にいっていた。理由は簡単、千冬姉が出ていたからだ。千冬姉は第1回大会での格闘部門・総合部門の優勝者でブリュンヒルデなんてあだ名で呼ばれている。もちろん千冬姉は第2回大会での活躍を1番期待されていたし、千冬姉に敵うやつなんていないから優勝するって思っていた。
実際に格闘部門では楽々優勝した。やっぱり千冬姉はすげぇよ!俺は千冬姉が誇らしかったんだ。俺の姉ちゃんは世界で1番だって!その後にあった総合部門でも千冬姉はなみいる敵をあっさりと倒していき、あっという間に決勝戦までコマを進めていた。決勝戦の対戦相手は第1回大会での決勝戦の相手と同じ人らしく、千冬姉の対策をバッチリ取っているとインタビューで熱く語っていた。けど千冬姉はそれを二言で返した。
「私は寄って斬る。それだけだ」
会場は試合が始まる前のインタビューだけど大盛り上がりだった。俺は千冬姉に試合が始まる前に声をかけに行こうって思って会場の廊下に出た。そして、気がつくと俺は身体中を縛られて椅子に座らされていた。
俺の目の前にいる男が俺が起きたのに気づいて俺の身に起きたことを説明してくれた。何でも千冬姉の優勝を阻むために俺を誘拐したらしい。そして、しばらくすると千冬姉が俺の前に現れた。千冬姉は怒った表情を見せ俺の目には涙が溢れ出ていて、男は嗤いながら千冬姉を罵詈雑言で罵った。
「985…986…」
千冬姉は現役を引退した。俺のせいだ。俺が誘拐されたばっかりに…けど俺が幾ら後悔しようとそれで千冬姉が決勝戦に出られるわけでも、現役を引退することがなくなるわけでもない。俺は自分の部屋を荒らしまくった。どうしたらこのどうしようもない気持ちを晴らせるか分からなかったんだ。本棚をなぎ倒し、窓を椅子で割り、壁を何回も殴った。そんな時だ。壁に飾っていた1枚の写真が足元に落ちてきた。
その写真は俺と幼なじみの2人の俊希とほう…篠ノ之さん、千冬姉に束さんがみんな笑顔で写っている、そんな昔の写真だった。その写真を見ながら俺は昔を懐かしんでいた時、1つのことを思いだした。俊希だ。俊希は確か小4の時から千冬姉と互角に試合をしていた。俊希が千冬姉の弟だったら誘拐なんてされずに済んだのに…そう思って、ひらめいた。そうだ!俺が強くなって千冬姉が誇れる弟になればいいんだ!!そうすれば、千冬姉が決勝戦を棄権してまで俺を守った甲斐があるってもんだ!
そこからの俺は早かった。壁を殴って痛めた拳に包帯を巻いて部屋から竹刀を持って小さな庭に出た。そしていつもやってるようなだらけきった素振りじゃなくて、真剣に素振りに取り組んだ。その日から俺は雨の日だろうと朝には素振りに取り組み、学校から帰ってからは家事をパパッと終わらせて、余った時間で記憶にある俊希や箒、千冬姉の影とひたすら試合をした。試合をする場所を確保するのにけっこう苦労したけど何とか毎日することが出来た。
「999…1000!ふぅー、終わったな」
「朝早くから精が出るな」
「ち、千冬姉!?今日がドイツから帰ってくる日だったのかよ!?」
千冬姉は俺が誘拐された場所をドイツ軍の人から教わった。その恩を返すために1年間ドイツ軍の教官を勤めていたんだけど…今日帰ってくるなら連絡の1本くらい入れてくれよなっ!!
「さっさとシャワーでも浴びて、動きやすい格好に着替えろ」
俺の内心とは裏腹に千冬姉はトンチンカンなことを言ってきた。動きやすい…何でだ?ていうかそれが1年ぶりに会った弟への言葉かよ!?
「疑問や文句は移動中にでも聞いてやる。今はさっさと動け」
「ち、千冬姉って時々俺の心読んでるよな…?」
「お前は顔に出やすいからな。顔を見れば大凡の検討はつくさ」
俺ってそんなに顔に出やすいタイプかなぁ?鈴や弾にだってよく言われたけど、イマイチ俺自身では分からないんだよな…あっ、鈴と弾ってのは同じ中学の友達のことだな。はぁ…とりあえずシャワー浴びよ。
「今から俊希の家に向かうだって!?どういうことだよ千冬姉っ!!」
「五月蝿い黙れ口を開くな」
「うぅぅー!!ぅーぅー!!」
千冬姉に睨まれた俺は口を開けることが出来なくなった。な、何だよこれっ!?千冬姉はドイツで人間でもやめてきたってのかよ…!
ゴチンッ!
「私は人間だ」
いってー!!な、何だよこの痛みはっ!1年ぶりに喰らったけど前よりげんこつの威力上がってないかぁ!?それに改めて千冬姉を見て思ったけど何時になく身体が仕上がってないか!?まさか千冬姉、俊希が言ってた通りマウンテンゴリラになっちーー
ゴンッ!!
「誰がマウンテンゴリラだ?」
「い、いえ…何でもないです……」
さっきより1段階上の痛みが…っ!!もう絶対脳細胞死んだ!俺のバカな脳の少ない脳細胞がマウーー千冬姉に殺されていくぅ!!
「馬鹿なことを考えるのを止めろ。後次にマウンテンゴリラなどと言ったり思ったりしてみろ?お前の馬鹿な脳の少ない脳細胞が死滅する事になるぞ?あゝ゛?」
「は、はい!千冬姉はマウンテンゴリラ何かじゃありませんっ!!」
ゴンッ!!
「言・う・なと言っただろ?」
「は、はヒィ!!」
「話は逸れたな。これを見ろ」
俺は左手で頭を押さえながら千冬姉から右手でクシャクシャな紙を受け取った。これは手紙か?けど何でクシャクシャなんだ?とりあえず読んでみるか。多分読んだら理由は分かるはずだしな。えーっと、何なに…
『千冬さんへ
千冬さん、お元気ですか?僕は元気です。
突然ですが千冬さん、一夏と一緒に僕の家に来ませんか?お二人に会わせたい人が居るんです。ていうかその人がお二人に会わせろ会わせろってウルサイんですよね。だから出来たらで良いんでお願いします。コレのついでに俺と一戦ヤりませんか?千冬さんと別れて成長した俺の姿をとくとご覧にいれるんで。
P.S.今の俺にとってちふーーマウンテンゴリラなんて余裕で討伐出来ますけどね!』
あー、うん。これはだめだ。P.S.の一文が完全に千冬姉を挑発してる…これのせいで今、千冬姉はマウ(ギロッ!!)この言葉に敏感に反応してるんだな。じゃあなんだ?俺は俊希のせいで千冬姉のげんこつを喰らったってのかよ!?あ、あいつ…この恨み、絶対晴らしてやるっ!
「一夏、裏は読んだか?お前宛てのメッセージが書いてあるぞ」
裏?俺は特に覚悟もなく俊希からのメッセージを見てしまった。
『一夏へ
元気でやってるか?俺は元気だ。一夏の名前が去年と今年の剣道全国大会の名簿になかったんだが、まさか何処かのモブ共に負けたのか?俺は今年は出てないが去年は剣道全国大会までは軽くいったぞ。まあ全国大会はとんだがな。
とにかくだ、一夏はどうせ俺や箒がいなくなってからテキトーに剣を振るっていたことだろう。そんなテメェの性根を完膚なきまでに叩きのめしてやるから、千冬さんに引っ張られて俺ん家来い。久々に稽古でもつけてやるよ。
P.S.箒の名前も去年の全国大会の名簿にあったぞ。一夏は…あっ察し』
「俺は中学に剣道部がなかっただけだし!確かに俺はお前達がいなくなってから何となくやってたけど今は違うんだ!!そのことを俊希にガツンと分からせてやる!!」
それに何だよ稽古をつけてやるって!俺は成長したんだよ!何時までも昔のままじゃないんだ、俺だって俊希の気持ちを少し焦せらせることぐらい…ぐらい……
「千冬姉、俺俊希に稽古をつけてもらうよ…小4の時の俊希と試合しても勝てるイメージがまるで湧かないんだったよ」
「そうだな、彼奴は間違いなく強い。何処で鍛えたかは分からんがあの太刀筋は天賦の才などではなく、血が滲むような努力の上でこそ出せるものだった」
俺、思うんだ…あの千冬姉がここまで言わせるほどの実力を小4の時から持ってる俊希ってめちゃくちゃすごいんだなぁって。あっ、確か俊希って束さんに世界で2番目の頭脳の持ち主とか言われてなかったっけ?てことは何だ?俊希は千冬姉と束さんが認める武力と頭脳の持ち主ってことか…?俊希ってチートだなぁ。ますます勝てそうにないな。
「如何した一夏?」
「いや、俊希ってすごいなぁって思ってな。千冬姉だけじゃなくて束さんも俊希のことを認めてただろ?」
「束か…奴は言っていたな。俊希は私に次ぐ天才だとな。私は努力家だと言って束と2、3度程揉めた事もあったな」
「結局俊希はどっちなんだろうな?」
「そうだな、こればかりは俊希にしか分からん事だろう。彼奴は未だ私達に見せてない部分がある筈だからな」
そうだよなー。俺は俊希の幼なじみとか言いながらそこまで俊希を知ってるわけじゃないしな。まあ俊希の家を知ったらちょくちょく行くつもりだったからゆっくり俊希のことを知っていくか。
Side 千冬
私と一夏を乗せたタクシーは目的地である俊希の家に着いた。俊希の家の見た目は1階建ての古い旅館の様だった。隣にいる一夏は鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔をしている。無理もない、私だって驚いている。この建物が家だと誰が分かるだろうか?だが、門に掛かっている表札には加藤という名が書かれている。
「ち、千冬姉…」
「イ、インターホンを鳴らすぞ」
「千冬姉でも緊張するんだな」
「当たり前だ。この様な家に入るのは緊張する…」
私は口に溜まった唾を飲み込んだ。な、何故私が俊希の家に入るのに緊張せねばならん。落ち着くんだ、私達は招かれた客なのだ。堂々としろ。(唯、今日来る事は俊希に伝えてません)
ピーン、ポーン…
『はい、どちら様でしょうか?』
「織斑千冬だ。此方に加藤俊希は居るか?」
『織斑千冬様ですね。其方に迎えの者がやってくるので少々お待ち下さい』
ふぅ…俊希の家には俊希以外の人が住んでいるのだな。やらしい話、この規模の家となると相当な金を持つ家に俊希は引き取られたのだな。
「ち、千冬姉!もっとこう丁寧に言おうぜ?」
「何だ?私の口調に問題があるのか?」
私は公の場では何時もこの様な口調で話していたのだが何処か変だろうか?確かに男勝りというか堅い印象を与えるが別に間違ってはいない筈だ。
「何ていうのかなー、もっとこーお淑やかに言おうぜ?」
ゴリッ!
「余計な御世話だ」
「ひ、ひでぇー!!」
本当にデリカシーのない弟だ。私は何処かで教育を間違えたのだ?まさか私が家事の一切を一夏に任せっきりにしてしまった所為だろうか?その所為で女性に対して誤った知識が付いてしまったのか…そうに違いない。一夏、家事が一切出来ない姉で済まなかった。
バタンッ!!
「ちーちゃああああああんっ!!」
「姉さぁあああああんっ!!」
俊希の家の門が勢いよく開いたかと思ったら、私に向かって飛んで来る2つの人間が居た。1人目の紫色の髪の女は一瞬で分かった。これが何時も奴の挨拶の様なものだからな。唯、問題はもう1人だ。聞き間違いがなかったなら私の事を姉さんと言った黒髪の女だ。生憎だが私には弟しか居ない。妹が居たなど1mmも記憶にない。まさか、此奴が私に会いたがってる奴か?(千冬さんは何て察しが良いんだ!)だが、礼儀がまるでなってないな。
グリグリッ!!
「お前達、人に突然飛び込んだら危ないだろう?」
「い、痛い痛いッ!ちーちゃんの愛が重いよぉー!!」
「お前など1mmも愛していない」
ガリガリッ!!
「ね、姉さんの指がぁ!ず、頭蓋骨にぃ!!あ、あひぃいいいいいい!!!」
「ま、まどちゃんっ!何でビクビクッてなってるの!?まさかイッちゃったの!?」
「束、未だ喋る余裕があるのか?分かった。もっと強くしてやろう」
ゴリゴリゴリッ!!!
「い、痛い痛い痛い痛いッ!!これはもうほんとにダメなやつだよちーちゃん!リアルガチだからぁー!!」
「未だ話せるか?ほぅ…束はギリギリ気絶しないが最高に痛いアイアンクローをお望みか?」
「あひ…あひ……」
「何その悍ましいネーミングは!?ていうかちーちゃん!まどちゃんがもうヤバイよぉー!?それに前会った時より握力が格段に強くなってないッ!?」
「当然だ。私をマウンテンゴリラと中傷した馬鹿者を叩きのめす為に鍛えたからなぁ!」
バギバキバキッ!!!?
「「ふぎゃぁああああああ!!!」」
あっ、間違えて両手の力を強くしてしまった。だが私は気にしない。此奴が私に飛び込んで来たから悪いのだ。私には何の罪もない。
「行くぞ」
「ふ、2人を置いていくのか…?」
「そうだな、束は放っておけ。黒髪の女は私がおぶって行く」
私は黒髪の女をおぶる前に顔が見えた。涎を垂らし頬を緩ませているが間違いなく私に似ている。いや、そっくりと言った方が良いだろうな。どういう事だ?生き別れの妹…はないだろう。私が認知していないって事は多く見積もっても此奴が10歳という事になる。流石にそれは無いだろう。それに私の妹というだけでここまで私に似るだろうか?ぱっと見た感じ顔にある黒子の位置も同じだ。こんな事が有り得るのか?ま、まさか私のクローンなのか?私のDNAなど摂るのは容易い。ドーピング検査などを良くしているからな。(流石は元・超○校級の察し力を持つ千冬さんだぁ!)
まあいい、此奴自身には何の罪もない。此奴が此処に居るという事は此奴を作った施設は地図上から消え、下手をすると施設関係者は皆殺しだろうな。(正解!俊希が丁寧に1人づつ魂ごと燃やしました)
「此奴の名前は何て言うのだ?」
「千冬姉?誰に話しかけたんだ?」
「まどかですよ。織斑まどか」
「さ、俊希ぃ!?一体何時からそこにいたんだよっ!?」
俊希が居たのは私と一夏の右横、つまりは門の横に立っていたのだ。私も門をくぐろうとした時に漸く俊希の存在に気がついたのだが、俊希は
「さっきだ。さっき門から出た俺は2人の目の前を素通りしたぜ?」
「な、んだと…?」
「ち、千冬姉でも気づかなかったのか?」
「あ、ああ。本当に私達の前を通ったのか?」
「通りましたよ。まあ気づかれないように歩きましたから、気づかないで当然ですよ。では、まどかにも対面しましたしヤりますか?」
一夏に比べ背は低く声も高いし顔もまだ幼さを感じるが、成長した俊希は以前よりも増して独特な雰囲気を出す様になったな。これは楽しみだな。私に気づかれないで此処までの行動をした者など初めてだぞ、俊希。
「ああ、よろしく頼むぞ」
私達は俊希の後に着いて行きながら門をくぐり、家に入るととある一室に案内された。その部屋はかなり広く、篠ノ之道場を彷彿とさせる様な造りをしていた。これ程の広さの部屋がある様には見えなかったのだが束が何かしたのだろう。(惜しいです!今回は俊希がしましたね)
「先ず俺と千冬さんの前に1回一夏に戦って欲しい人がいるんだ」
「えっ?俺?」
「そうだ。入ってイイぞ」
「失礼する」
扉を開けて此処に入ってきたのは袴を着た篠ノ之箒だった。確か箒は日本政府の重要要人プログラムの為に地方を転々と暮らしているのではなかったか?それにしてもやはり篠ノ之家は胸がよく育つな。彼奴は本当に中学2年生か?私と同じ位いや、それ以上あるかもしれん…
「ほ、箒か!いやー久しぶりだなぁ!」
「織斑、篠ノ之さんだろう?」
「し、篠ノ之さん…」
そうだったな。一夏は箒との勝負の結果として篠ノ之さんと呼ばなくてはならなかったな。あの時の箒の決勝戦に行きたいと、決勝で俊希と戦いたいといった想いがあまりにも強かったから一夏が終始押され気味だったな。あれからもう4年が経つのか…子供が成長するのは早いものだな。
「ふふっ、冗談だ。別に箒で構わない」
「そうか!じゃあ俺のことも一夏って呼んでくれ!」
「それは断る!」
「何で!ワッツ!ホワーイ!?」
「それは流行らそうとしているのか?」
「口癖だよぉ!!」
「ふふっ、織斑は相変わらずの馬鹿だな」
「久しぶりに再会した幼なじみに向かって馬鹿って何だよ馬鹿って!」
「馬鹿に馬鹿と言って何が悪いというのだ、
馬鹿斑馬夏って…よく思いついたものだな。この名は正にキング・オヴ・馬鹿である一夏に相応しい、という事か。ある方面、色恋沙汰に関してみれば完全に馬鹿だから完全に否定出来ない事が面白い。
「馬鹿斑馬夏は酷すぎじゃないか!?」
「なら、私の言葉を訂正させてみろ。己の剣で、な」
「やってやろうじゃないか!俊希の前に箒をボコボコにしてやる!!」
「ふんっ、やれるものならやってみろ」
話はトントン拍子で進み、一夏と箒が戦う事が決まった。箒はあれ程口が回る奴だったのか?それとも俊希が何かを吹き込んで…やはり、俊希の奴が何かを吹き込んだな。何故なら今の俊希の口元は鋭い三日月の形になっているのだから。