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第24話 Pを取り戻せ ~ 集束する二人の世界
ただひたすらに堕ちていくこの感覚。私は、すぐにそれが絶望に呑まれて行っていることだと分かった。
けれど、抗いはしなかった。何故ならこうなることは既に知っていたから。別の世界からやって来た暁美ほむら……悪魔に教えられていたからだ。
ふと悪魔との密約を果たしたときのことを思い出す。
『そう。取るというのね、この得体の知れない自らを悪魔と称している私の手を』
「まどかの為ならば手段は選ばない。それはあなたも分かっていることでしょう?」
『勿論。『私』が生きているのは彼女を幸せなままであり続けることだもの』
「理解しているなら、そのきっかけとやらをさっさと与えなさい」
『はいはい』
あまり時間が残されていなく焦る私とは対称的に、悪魔は余裕綽々としていた。
苛立ちを覚えながら、悪魔が行動を起こすのを待つ。
そして悪魔は、私の胸に手を当てて、禍々しい黒色の光を放った。
「ぐッ……!!」
すると突然、私の身体が悪魔が放ったものと同じ光に包まれる。同時に私の中がナニカに支配されているような感覚を感じた。
気を緩めればあっという間に、全てを持っていかれる。
「な、にを…したの……」
『あなたの中に眠っている力。それを呼び起こしただけよ』
「うそ…よ、私にこん、な力なんて……」
これほどまでの力を持っていたなら、この時間軸のみで起こったあのイレギュラーな事態__私の弱体化が起こるはずがない。
そう思っていた。だけども悪魔はゆっくりと首を横に振る。
『無意識。あなたはこの力を自分の意志とは関係なしに得てしまった。
だから今の今まで気づくことがなかった。たったそれだけのことよ……』
「そんな……」
今、使っているこの力。その正体を私はすぐに気付いてしまった。それと一緒にあのときの出来事が鮮明に甦る。
そうしていると悪魔は、私の頬に手を添えて嘲笑いながら言った。
『あまり時間が残されていないのでしょう? 過去の懺悔よりも
「言われるまでも…ないわよ……」
『なら、行きなさい。あなたの大切な人を救うために……』
悪魔が言い終わるやいなや、空間が裂けて強制的に私の部屋に戻される。
色々と聞きたいことは山ほどあったけどもアイツの言う通り、時間はほとんど残されていない。
私は浸食を抑えながら、まどか達が捕らわれている場所へと向かった。
これはあの時、私がしてしまったことの戒め。だから私はそれを受け入れる。
けど唯一、心残りなのは……
「もうまどかと一緒に居られないことかしら……」
そう呟いて再び意識を深い闇の中へと投じようとした。
「それなら戻って来てよ、ほむらちゃん」
体をギュッと抱きしめられて、耳元に愛おしい声が聞こえてくる。
どうして? あなたはこの場所に来れるはずないのに……
「ま、まどか……あなたどうしてここに?!」
そう問いかけるもまどかは、私の疑問に答えることなかった。
「ほむらちゃん、自分のことを粗末に扱わないでって言ったのに…どうしてこんなことしたの……?」
「それは…こうするしか方法が__」
パンッ!!
言葉を最後まで言い切る前に私の頬に強い衝撃が走る。一瞬、何が起こっているのかがさっぱり分からなかった。
でもすぐに理解した。まどかに叩かれたのだ。
突然の行為に目を白黒させていると、まどかは泣きじゃくりながら腕の力を強めた。
「わだじは…もう、これ以上……ほむらじゃんが…ぐるじぞうにしでるのをもうみだぐないんだよ?!
辛いことがあるなら…相談じでぐれでも、いいのに……どうして分かってくれないの?!
いい加減にしてよ!! ほむらちゃんが失ったら、それを悲しむ人がいるってことにどうして気付いてくれないの?!!」
「その言葉……!」
いつかの時間軸で私が耐えられなくなって、思わずまどかに言ってしまった言葉。
偶然、同じことを言ってしまったのか、と考えてしまう。
だけど、まどかは……こう囁いた。
「ほむらちゃん……もう全部知ってるんだよ?」
「えっ?!」
「ほむらちゃんが何度も時間を繰り返して、みんなを助ける為に一生懸命に頑張っていることも。
わたしのせいでずっと苦しい思いをさせちゃっていることも……」
「なんで……?」
もう訳が分からなかった。この世界に来てから誰にも、インキュベーターにも気付かれていないはずのことなのに、どうして彼女が知っているのか。
でも考えるのは後回し。どうしても訂正しなければならないことが一つだけあった。
「違うわ、あなたのせいじゃない。
私が弱かったから…意気地なしだったから、未来を…あなたを救えなかった……」
「ほむらちゃん……」
「私がこんなことをしたのは、これまで犯した罪の贖罪のためよ。
美国織莉子の魔の手からあなた達を助けることが出来れば、それで良かった。
あの覆しようもない絶望を切り抜けられるのなら私がどうなっても構わなかった」
「でも、こんなのあんまりだよ…あんなに辛い思いして、傷ついてボロボロになったのに、そんなことしたら結局ほむらちゃんは救われないよ……」
「いいの。それで私の罪を償えるのなら、安いものだわ。
それよりもみんなを見捨てて、一人だけ別の時間軸に逃げる方がもっと酷いもの」
すると、まどかは泣くのを止めて力のこもった目つきで私を見る。
そして、かつて自暴自棄になって追い詰められた私の心を救ってくれた『まどか』と同じことを私に言った。
「みんなを助けられずに見捨ててきたことが、ほむらちゃんの罪なら……
『その罪、わたしも一緒に背負うよ』これは…過去に戻ってなんてお願い事をしたわたしにも責任のあることだから……
だからこれからは二人で頑張ろうよ。絶望するときも、破滅するときもずっと傍にいるから!!」
これは一体どんな運命の悪戯なのかしらね?
微笑みながら、私はまどかの顔をじっと見つめた。
「ええ…でも、絶望も破滅なんかも絶対にさせないわ。あなたは必ず私が幸せにしてみせるから……」
「それなら二人とも幸せになれるように頑張ろうよ!!」
「ふふっ、そうね」
「えへへっ」
「じゃあ…戻ろっか」
「ええ、さやかや巴さんもきっと心配しているでしょうしね」
二人で笑い合いながら、お互いの手を取り合う。
そして深い暗闇にいた私達は、桃色と紫色の光によって包まれて……
『絶望』を振り払って『希望』が待っている未来へとゆっくりと進んでいった。
★
その頃、現実世界では……
ほむらの攻撃によって、瓦礫の山に埋もれてしまったさやか達が必死に外へ出ようとしていた。
「よしっ、あと少しよ。美樹さん」
「うぎぎ…ほむらの奴、ムチャクチャにしやがってぇ……」
実はあれを受けてから二人は気絶してしまっていた。
しかし、あの攻撃を撃ち終わった途端に、ほむらの猛攻は止んで二人はなんとか一命を取り留めることが出来たのだ。
最後の瓦礫をどかし、マミは下にいるさやかの手を引っ張って瓦礫の山を抜ける。
「ふーっ、さすがにあれをダメかと思いましたよ……」
「そうね。……ッ! 美樹さん、あれ見て!!」
地上に出られてホッとしていた二人だったが、マミがあるものを見つける。
それは身を寄せ合って、横に倒れているまどかとほむらの姿だった。
「まどか!! ほむら!!」
さやかとマミは急いで二人の元へと走って向かった。
☆
炎に包まれていた見滝原の街は、二色の光によって覆われ、元通りの街並みに戻った。
変化していくその光景を悪魔は空から静かに眺めていた。
「どうやら切り抜けられたようね。お見事だったわ」
悪魔は、もうこの場所にはいない二人の少女に拍手を送る。
「だけども、あなた達二人は大事なことをそれぞれ知らない……」
手を叩くのを止めて、禍々しく輝く宝石__ダークオーブを取り出す。
その輝きをじっと見つめながら悪魔は不気味な笑みを浮かべた。
「まどか。あなたが見た『暁美ほむら』の真実は彼女の真実ではない。
彼女の真の罪の正体を……まだ知らない」
そう呟いて、高度を少しずつ下げていって街に降り立つ。
そして路地裏の方で微かに燃えている黒色の炎を両手ですくい上げる。
「暁美ほむら。まさかこれくらいであなたの『絶望』が終わるなんて甘いこと考えてはいないでしょうね?
残念だけど、この呪いはずっと存在し続ける。あなたは死ぬまで『絶望』と戦い続けなくてはならない……」
すくい上げた炎を手で消して、ゆっくりと後ろを振り返る。そこには……
悪魔が消したものよりも何十倍の大きさの炎が再び街を焦がしていた。
★
「うっ、んん……」
「よかった。やっと目を覚ましたのね」
「全く…心配させんじゃないよ」
目を開けると、安心した様子で私を見ているさやかと巴さんがいた。
戻ってこられたのね、と心の中でホッとしていると左手を誰かに握り締められた。いえ、誰かではないわね……この手は暗闇から私を引っ張り出してくれた大切な人のもの。それは……
「お帰り。ほむらちゃん」
「ただいま。まどか」
「一時はどうなるかと思ったけど、何にせよ二人とも無事でよかったわ」
「ホントですよね~、苦労するあたし達のことも少しは考えて欲しいもんだよ」
「ごめんなさい。心配かけて……」
「二人ともごめんなさい……」
「まっ、こうしてまた四人揃ったから良いっちゃいいんだけどね」
あれだけ大変なことがあったのに、それでもここまで明るく振る舞えるさやかの姿は、正直言って尊敬に値するわね。誉めてるつもりよ……?
「鹿目さん、暁美さん。どこか具合悪かったりしない?」
「わたしは大丈夫ですよ」
「私も……」
「本当に? 特に暁美さんは、一人で突っ走ったりしやすい人っていうのが、今回ので分かったからイマイチ信用ならないわね」
「あなただって大概でしょ……」
「何か言った?」
「いいえ、何も……」
一番最初に突っ走って迷惑かけたのは、あなたなんだけどね……っていうコメントは伏せさせてもらうわ。そんなこと言ったら逆に落ち込んでしまうかもしれないし。
「わぁ……」
なんてやり取りをしていたら、まどかが建物の出口の方を見て、感嘆の声をもらした。
「どうしたの、まどか?」
「ほむらちゃん。さやかちゃんもマミさんもだけど…外を見てみてよ……」
まどかに言われるまま、建物から出る。するとそこには……
地平線の彼方から朝日が昇り、私達を明るく照らしていた。
「わぁお……」
「凄い、とっても綺麗……」
さやかと巴さんもこの景色を見て感動していた。それと同時に私は、この一夜に起こった事件がようやく終わりを告げたのだと確信した。
「それじゃあみんな、これから家に戻って学校へ行く準備をしましょうか」
「えぇ~」
巴さんの出した提案にさやかが不満をもらす。
「文句を言わないの、昨日だって学校に行ってなかったじゃない。さすがに二日も続けて休むわけにはいかないわ」
「あっ、昨日の件なら問題はないよ。
ほむらが寝ている内に学校とまどかの家に電話かけといたから」
「まどかの家?」
学校なら欠席の連絡をしなくてはいけないのは分かるけど、どうして彼女の家にも電話したのかしら?
その疑問には、まどかが答えてくれた。
「うん。ほむらちゃんが風邪を引いて、わたしがその看病をしなくちゃいけないからママに学校を休むって言ったの。
ママは和子先生と仲が良いから上手いこと話をつけてくれらでしょ、ってさやかちゃんから教えられたから」
「それでよく許してくれたわね。鹿目さんのお母さん」
「だって、その時のまどかの演技がガチだったからね。あれは誰だって聞き入れちゃうよ」
「もう! 茶化さないでよ!!」
「あっはっはっ、ごめんごめん。『お願いママ!! わたし、このままほむらちゃんを放っておけないよ!!!』」
「さやかちゃん!!!」
声マネで更にからかうさやかをまどかは顔を真っ赤にして、後を追いかける。
その微笑ましげな光景を私と巴さんはしばらくの間、眺めていた。
「ハイハイ、二人ともその辺にして…早く戻らないと遅刻しちゃうわよ?」
「あっ……ガッコに行くのは確定なんですね……」
「諦めなさい。どうせあなたは行っても、ほとんど居眠りするだけなんだから」
「なんだとー!」
「だーかーらー喧嘩しないの!!」
「よーし分かった。なら、今日一日の授業であたしが寝なかったら何か奢るってことにしない?!」
「じゃああなたが寝たら、私達三人に何かご馳走してくれるのね?」
「あたしの方だけペナルティが厳しい?!」
「あなたが持ちかけた勝負よ、異論はないわね?」
「うぎぎ……」
悔しそう唇を噛み締めているさやかにまどかが、肩にそっと手を置く。
「大丈夫だよ。居眠りをしなければいいんだから」
「この二日間、ほとんど休みなしで動いていたさやかちゃんにまだ働けと申すか!!」
「平気よ、魔法少女なんだから」
私の言葉がトドメとなって、さやかはガクッと崩れ落ちる。そしてすぐに立ち上がってダッシュで走り出した。
「こうなったらさっさと登校して、HRが始まるまでずっと寝る!! 見てろよ、ほむら。最後に笑うのは、このさやかちゃんだぁー!!」
「相変わらずね、彼女は……」
「でもそれが美樹さんの良いところでもあるからね」
「そうですね」
私達三人は、そうして笑い合いながら一緒にそれぞれの帰路へと向かっていった。
☆ to be continued…… ★
※第2章、最終話だと思った? 残念、まだ一話ある。
※このままのほほん(?)としたエンドにはさせませんよ?
※そして次回、遂にあの魔法少女が?!!
Chapter2 epilogue をこうご期待!!