(旧)マギカクロニクル   作:サキナデッタ

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※空前絶後のォ~、超絶怒濤の文字数ゥ!!
※今回の話は、適度な休憩をとりながらご覧なさってください。(約16000字)(予定通り再投稿しました)



第28話 Kは誰の手に ~ 美国織莉子の影

 

第28話 Kは誰の手に ~ 美国織莉子の影

 

 

 

「……詳しく話を聞かせてもらおうか」

 

「今話した通りよ。10日後にこの街に最悪の魔女__ワルプルギスの夜がやって来る」

 

 ワルプルギスの夜。その名が出てきた瞬間、杏子の目が大きく見開かれる。

 

 歴史の中で語り継がれている伝説の魔女。

 彼女がもたらす被害は通常の魔女とは比較にもならないほど強大で、巨大な自然災害にも匹敵するレベルまである。

 

 しかし杏子は、そんな凶悪な魔女がこの場所に襲来することよりも別のことに反応した。

 

「そういうことを言ってんじゃねぇ。アタシが聞きたいのはどうしてアンタがそれを知っているかだ」

 

「……言えない」

 

 恐らく杏子なら私が時間を何度も巻き戻している事実を信じてくれるであろう。

 けど、やっぱり言うのに若干の抵抗がある。

 まどかには時間遡行のことを話したが、それは彼女が既にそれを知っていたから仕方がなく話したに過ぎない。

 

 誰の顔も見ないようにしていると、後ろにいたまどかが私の手をきゅっと掴み、ただ黙って私の顔を見つめてきた。

 批難しているのか、それとも呆れてるのだろうか…彼女の方を見ていたら杏子がわざとらしく咳払いした。

 

「ボケっとしているトコ悪いんだけど、アタシが素性の知れない奴なんかに手を貸すと思ってんのか?」

 

「……あなたの言うことは最もだわ。でも、あなた達の力が無かったら大変なことが起こってしまう」

 

「そうかもな。でもアタシらには関係ない。それに戦力なら十分足りてるんじゃねーか?」

 

「アイツに対抗するにはまだ足りない……」

 

「随分とアタシのことを買うねぇ。それにその言い草、まるでワルプルギスを知っているみたいだな……」

 

 杏子の疑いの目が更に強まる。

 彼女が仲間になってくれる可能性は極めて低い。しかしこちらもそう易々と引き下がれない。

 勝利を確実にするために何としてでも彼女を引き入れなければならないのだ。

 

 何か方法はないか…悩んでいると杏子が千歳ゆまを引っ張り、立ち去ろうとしていた。

 

「ワリィがいつまでもお前らと構っている暇はねぇんだ。アタシらにも用事があるからな」

 

「待って…まだ話は……」

 

「杏子ちゃん、待って!!」

 

 私が彼女達を呼び止めるより先に、まどかが二人の前に回り込んで行く手を塞ぐ。

 

「言ったろ、構っている暇はないんだってな」

 

 不機嫌な顔をしながら乱暴に言われて凄む杏子。しかしまどかは臆することはなかった。

 

「どうしたらわたし達に協力してくれるの?」

 

「だからな…アタシらは……」

 

「お願い!! 杏子ちゃん達の力がないとこの街の人達、みんな死んじゃうよ!!」

 

 その懇願を聞いて杏子の表情がガラリと変わる。

 早足にまどかの元へと歩いて、彼女の胸倉を掴みあげた。

 

「お前もアレか、誰かの為に魔法少女の力を使うっていう輩か。

 ったくこの街の魔法少女はバカばっかだな、そんな生き方をしているとどんな目に遭うのか全く分かっちゃいない」

 

「分かるよ」

 

「どうせつくならもっと分かりずらい嘘をつくんだな。知ってんだぜ、お前はキュゥベえと契約せずとも魔法少女になれるってことをな」

 

 杏子の腕の力が更に強くなる。

 この状態が続くとまどかに危険が加わる。そう不安に感じて止めようとする。

 

「佐倉さん。今すぐ鹿目さんから離れてくれないかしら」

 

 そんな声が流れてきたのは、その時だった。

 私達の所にゆっくりとその人物がやって来る。

 

「巴さん……」

 

「盗み聞きたぁ、趣味が悪いんじゃねぇんか?」

 

「それはこっちの台詞よ。一般人にまで危害を加えようとするなんて、あなたも相当落ちぶれたようね」

 

「あっ?」

 

 表情はお互いに普通だが、両者から漂う明確な敵意がひしひしと伝わって来る。

 何故、巴さんがここに? 思うことは色々とあるけども今はそんな暇なんてない。

 これまで温和な態度を取っていた千歳ゆまも今の彼女の言葉に怒りを露にする。

 まさに一触即発、急いで彼女達の間に割って入ろうとする。だけどその行動を起こすよりも早くまどかは動いた。

 胸倉を掴まれていた腕を振り払い、逆に彼女の手を握りしめた。

 

「何のつもりだ…?」

 

「ダメだよ、杏子ちゃん。マミさんも…魔法少女で戦うなんておかしいよ」

 

「黙れ、遊び感覚でこの世界に首を突っ込んでる奴はすっこんでろ」

 

「そもそも杏子ちゃんは何でそんなに怒ってるの?」

 

 その問いかけに杏子のこめかみ辺りがピクリと動く。これまで表に出さなかった怒りが徐々に表れてきているのが分かった。

 

「何で…だと? 決まってんだろ。

 いつ死ぬか分からない、そんなクソッタレな世界に自己満足の偽善の心を持ち込んでやって来るお前に腹が立ってるんだよ!!」

 

「私…に?」

 

「あなたの言う偽善の心は私にも当てはまるんじゃない? 鹿目さんだけじゃなくて私にもその気持ちをぶつけてみたらどうなの?」

 

「お前とはわけが違うだろうが!!

 コイツは魔女との命懸けの戦いを強いられることなく、自分の気分次第でいつでもそこから抜け出せるんだぞ…それなのに何も感じねぇのか?!」

 

 杏子の怒り方はこれまでの彼女からしては考えられないものだった。

 彼女は確かに正義の為に戦うという偽善者ぶった考え方をする人間を嫌う傾向がある。でも今の彼女からはそういったものがまるでない。まるで八つ当たりのように感じられる。

 そしてその怒りの矛先も単にまどかだけに向けられているとも思えない。

 

 その変わりように驚いていたのは巴さんも同じだった。

 

「どうしたの佐倉さん? あなたらしくもないわ」

 

「うるせぇ…マミお前だって自分から望んでこんな生き方を選んだわけじゃないだろ?」

 

「そ、それは……」

 

「だけどなぁ…お前はどうなんだ?

 甘ったれた正義感で命懸けの戦いに入って来て…アイツみたいな魔法少女を見ても、魔女と命を懸けて戦う覚悟があんのかよ!!」

 

「キョーコ……」

 

「…………」

 

 複雑な顔で事の成り行きを見守る千歳ゆま。その反応を見て、私は杏子が一体何に対して怒っているのかがようやく理解できた。

 一方で激昂する彼女を黙って見つめていたまどかは静かに口を開いた。

 

「あるよ」

 

「!!」

 

「鹿目さん…?」

 

 意外な発言に杏子はギロリとまどかを睨み付ける。しかしまどかは一切戸惑う素振りを見せないまま話を続けた。

 

「わたしはこれまでずっとある人に守られ続けていた。全てを捨てる覚悟を決めて……

 だけどもわたしはそれに気づかないまま生きてた。そんな自分の為に必死で頑張ってくれている人が一番近くに居たのにも関わらずに…」

 

「…………」

 

「でもね、この前ようやくそれに気が付いたんだ。

 確かに前のわたしは杏子の言うようなその甘ったれた正義感で魔女と戦っていたよ。

 けど、今はもう違う…もう誓ったんだ。同じようにわたしも全てを捨てて、その子と共に戦うって」

 

「……それはそいつに対する罪滅ぼしか?」

 

 杏子の問いかけに、まどかはゆっくりと首を横に振る。

 

「ううん…その子がわたしのことを大切に想ってくれているのと一緒で、わたしもその子のことを大切に想っているからだよ」

 

「何だよそれ…お前にとってそいつは何なんだよ…?」

 

相棒(パートナー)だよ。ねっ、ほむらちゃん?」

 

 その言葉を聞いて、目頭が一気に熱くなる。溢れんとする感情を抑えながら、私は頷いてみせた。

 

「どうしても守りたいんだ。ほむらちゃんの未来、ほむらちゃんの周りにいる大切な人達全員……」

 

「バッカじゃねぇの。受けた恩はどれほどのものかは分からないけども、その返済全てを終わらせるまでお前自身はどうすんだよ。

 全てを捨てるってそんなどこぞの正義のヒーローじゃないんだから、アタシから見りゃただの自己満足にしか見えないな」

 

「……その通りだね。わたしがこんなことしても、ほむらちゃんは絶対に認めないね。でもわたしはそれを止める気はない。

 これ以上、ほむらちゃんが不幸になるのは見たくない。苦しむのも、悩むのも嫌。そうじゃないとわたしは納得することが出来ないんだ」

 

「それならお前の周りは…? そいつには縁がなくても、お前にとって縁のある奴がいるよな。そんな奴はどうするんだ見捨てるのか?」

 

「勿論、助けるよ。わたしの周りの人達も全て。

 でもそれは正義のヒーローなんてカッコいいものじゃない、そうすることで自分が満足するから…他人の迷惑なんて考えずに自分勝手に助ける。それがわたしの戦う理由だよ」

 

 全てを話したまどかは溜め込んでいた力を抜いた。

 穏やかな表情に戻った彼女を見て、杏子は無言で頭を掻きむしって大きなため息をつく。

 

「……お前の言いたいことはよく分かったよ」

 

「ごめんね、長々と喋っちゃって」

 

「自分が満足する為に戦うってか…そういうのもまた魔法少女の生き方の一つなのかもな……」

 

「そう…? わたしは凄い欲張りさんだって思ったけど?」

 

 首を傾げるまどかに杏子はニッと笑ってみせた。

 

「それでいいだよ。魔法少女はみんな自分の為に戦って生きていくのが一番だ。

 お前はそれをよく分かっている…悪かったな何も知らないなんて言って……」

 

「優しいね、杏子ちゃんは」

 

「ふん、素直に間違いを認めただけだ」

 

 そっぽを向く杏子をまどかは楽しそうな顔で見つめている。

 二人の様子を見て、巴さんや千歳ゆまの雰囲気も穏やかなものに変わる。

 私は静かにまどかと杏子の所に歩いて行く。

 

「まどか」

 

「なぁに、ほむらちゃん?」

 

「ありがとう。私なんかの為に……」

 

「えへへ、いいんだよ。さっき言ったみたいに全部わたしの自己満足なんだから…寧ろごめんね、ほむらちゃんの迷惑を考えないで勝手なこと言っちゃって」

 

「そんなことない。凄く嬉しかったよ…まどか」

 

 お互いの顔を見つめ合っていると、そこへ杏子がニヤニヤしながらその光景を眺めていた。

 少し離れた場所にいる二人も私達を見る目がとても温かった。

 

「随分と仲がいいな。見てて微笑ましい限りだぜ」

 

「当然だよ。相棒(パートナー)だもん」

「当然よ。相棒(パートナー)なのだから」

 

 見事に声がハモったのを聞いて、杏子は盛大に笑い出した。

 

「はっはっは! こりゃ参ったわ。こんなん見せつけられたらたまんないな!!」

 

「別に見せつけてるわけじゃ……」

 

「う、うん。そうだよ……」

 

「……協力」

 

「「えっ?」」

 

「協力してやってもいいぜ。ワルプルギス討伐」

 

「「!!!」」

 

 その言葉にその場にいる全員が反応する。

 まどかは嬉しさのあまり声を震わせながら必死に聞き返す。

 

「ほ、本当に…?」

 

「あぁ、それでいいよな、ゆま?」

 

「うん!」

 

 躊躇うことなく満面の笑顔で頷く千歳ゆま。彼女も心の何処かで一緒に戦うことを決意してくれたのか、何にせよ仲間が増えることに心強いことに変わりはない。

 

「本当にいいの…? 杏子」

 

「二言はないさ。ただ問題はあっちの奴が受け入れてくれるかどうかだな」

 

「わ、私?!」

 

 いきなり振られて慌てふためる巴さん。そんな彼女にみんなからの視線が集中する。

 居心地悪そうに困った素振りをする彼女だったが、杏子と同じように深いため息をついて頷いた。

 

「ここで拒否したら私が悪者みたいじゃない」

 

「へっ、分かってんじゃん。じゃあ早速……」

 

 杏子が懐から三人分のお菓子を取り出して、皆の前に差し出した。

 

「くうかい?」

 

 それを受け取って共に笑顔を浮かべる。

 杏子は満足そうにした後に自分と千歳ゆまの分のお菓子を出した。

 

「それじゃ、話も纏まったことだし行きましょうか」

 

「あん? 行くってどこへ?」

 

「ゆっくりと話が出来る場所よ。それと一緒に話してあげる、私のこと…全部とはいかないけどね」

 

 さっきまで怖くて言えなかったことけども、まどかのお蔭で勇気をもらった。

 私も守って見せるわ、まどかと…彼女の愛する世界を全て……

 そして遂に私の心にも踏切がついた。この世界が最後だ、何が起ころうとも二度と諦めたりしない。私達全員の力で未来を切り開いてみせる!!

 

 私の言ったことにそこにいるほぼ全員が驚いた顔をする。だけどその中でまどかだけは嬉しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 それから私達は今いる場所から近くの喫茶店へと移動した。

 ちなみに巴さんがここにやって来れた理由は、昼休みに偶然、私達の話を耳にしたらしい。

 それ本当かなのかどうか、疑わしかったけれども今はそんな些細なことを気にしていられない。

 

 彼女達にどういう風に私のことを話そうか…心の準備をしようと大きく深呼吸する。

 

「喫茶店なんて久しぶりにきたね、キョーコ」

 

「あぁ、そうだな」

 

「好きな物一つだけならおごってあげるわよ」

 

「マジか?!」

「ほんとう?!」

 

「ふふっ、私達と一緒に戦ってくれるお礼よ」

 

「やった!」

 

「勿論、鹿目さん達もよ」

 

「ありがとうございます。何だか初めて会ったときのことを思い出しますね」

 

「そうね」

 

「…………」

 

 緊張感の欠片もない四人の様子を見て、私は何とも言えない気持ちになる。

 

「あっ、ほむらちゃんはどれがいい?」

 

「……まどかと同じ物でいいわ」

 

 そんな会話をしている私達と反対側の席では、他の三人が楽しそうにメニューを眺めながら頼むものを選んでいた。

 まあ、思っていた以上に杏子達と友好的な関係を築けたことに今は喜んでおきましょうか。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、本題に入りましょうか」

 

「おっ、待ってました」

 

 私は全員の顔を見渡す。

 それを聞いて、杏子が皿に残ったケーキを頬張りながら不敵な笑みを見せる。

 

「遂に分かるのね、暁美さんのベールに包まれていた正体が」

 

「私は…未来から来た人間なの」

 

「「「…………!!」」」

 

 思っていた通りの反応をしているわね。

 どこまで信じてもらえるのかは分からないけど、そのまま話を続ける。

 

「魔女の強さや現れる場所、杏子達のことを知っていたのは全部それのお蔭よ」

 

「なーるほど、それならキュゥベえが契約した覚えがないっていうのも頷けるな。

 そんで、お前がアタシとの戦いのとき魔法を使わなかった理由も分かった」

 

「どうして魔法をつかわなかったの?」

 

「さっきほむらは未来から来たって言ったろ、コイツの魔法は時間に関係することにしか使えない。マミと違って実践向きじゃないってことさ」

 

 首を傾げる千歳ゆまに杏子が丁寧に説明する。半分正解、半分間違い…といった所かしら。

 この二人には信じてもらえた。後は……

 

「突拍子もない話だってことは思うかもしれないけども、これは嘘偽りない本当のことなの」

 

「マミさん。信じてください!」

 

 あれから全然喋らない巴さんに声をかける。

 まどかと一緒に頼み込んでいると彼女はゆっくりと顔を上げた。

 

「……何となくそうじゃないかって思っていたわ。

 低い戦闘能力を補える豊富な知識、普通の魔法少女であれほどの戦いなんて出来ないものね」

 

「アタシの動きを読んでいたのもそのせいか」

 

「嫌というほど手合わせされたからね、大体のことは挙動を見れば分かるわ」

 

「はっ、こりゃ敵に回したくないタイプだな」

 

「それとさっきのセリフから察するに鹿目さんもこのことを知っていたみたいね」

 

「はい。とはいっても、つい最近まで知らなかったですけど……」

 

「すごーい! じゃあ、お姉ちゃんたちはこれから起きること全部知ってるんだね!!」

 

「全部…というのは正確じゃないわね。どの時間軸も似たような出来事が起きたこともあるけども、一つたりとも同じ結末に至ったことはないわ」

 

 目を輝かせている千歳ゆまの発言に首を振ってみせる。

 すると杏子が何かに気付いたような反応をして、こちらを見つめた。

 

「……って待てよ。お前、今どの時間軸も…って言ったよな?」

 

「えぇ」

 

「もしかしてお前…過去に戻ったのって……」

 

「察しがよくて助かるわね。どの世界のあなたも」

 

「暁美さん。あなた…一体何度繰り返したの?」

 

 遅れて気付いた巴さんのした質問は、美国織莉子が私に対してしたものと同じものだった。

 

「さあね、数えるのも止めてしまったわ」

 

「「!!」」

 

 先程の告白なんかとは比較にならないくらいの驚きが二人の顔に表れる。

 発言と共にまどかも苦しそうに俯いていたが、再び話を続ける。

 

「私が過去に来た理由はただ一つ。これから起きる絶望の未来を…ある大切な人の未来を変える為よ、そしてその大切な人は……」

 

「みなまで言わなくても分かるよ」

 

「そうだね」

 

「一目瞭然よね」

 

 名前を言おうとした所で口を挟まれてしまう。

 それから三人は同時に私の隣に座っているまどかに向かって一斉に指をさす。

 

「まどかって奴の為だろ?」

「このお姉ちゃんのためでしょ?」

「鹿目さんの為よね?」

 

「「えっ?!」」

 

 どうして分かった? みたいな反応をしていたら全員が気付かないと思っていたのか、という顔で呆れていた。

 

「……ま、まあ私の話はこんなところよ」

 

「そう…苦労したのね、暁美さん。今まで迷惑ばかりかけてごめんなさい」

 

「気にしなくていいわ。信じろっていう方が難しい話だから」

 

「こりゃ、お前に対する評価も変えなくちゃいけねぇな。最初はただのバカかと思っていたけども、お前はそれ以上の底なしのバカだ」

 

「それは褒め言葉として受け取っていいかしら?」

 

「あぁ、鹿目まどかといいすっげぇコンビだよ」

 

「「コンビじゃなくて相棒(パートナー)だよ」」

 

 私とまどかは顔を見合わせて、得意げに言ってあげた。

 そのハモりに杏子は目を丸くする。それから隣にいる巴さんにそっと声をかけた。

 

「なあ、コイツらって…もしかして……」

 

「もしかしないのよ、今はまだ…ね」

 

「まだデキてねーのか?! あれで!!」

 

「残念ながら……」

 

「キョーコ。何の話ー?」

 

「お前にはまだ早い話だ」

 

「「??」」

 

 千歳ゆまは意味が分からず、まどかはどんな話をしているのかが分からなくて不思議な表情をする。

 何だかあらぬ誤解をされている気がするわね……

 

「それはともかくして色々と教えてくれてサンキューな。

 でも、こっち側だけ一方的ってのもアレだから、アタシらも話すとするよ。いいか、ゆま?」

 

「へーきだよ」

 

「佐倉さん。何を話してくれるのかしら?」

 

「アタシ達がこの街に来た理由とその経緯をさ」

 

「それって縄張り争いの為じゃなくて?」

 

 私の発言に杏子は頭を振る。

 イレギュラーな事態に驚いていると、巴さんが説明を入れてくれる。

 

「暁美さん達が駆けつけてくる前にその話はしたのだけど違うみたいなのよ」

 

「あぁ…アタシとゆまはある魔法少女を追ってこの街にやって来たんだ」

 

「ある魔法少女?」

 

 杏子の言う魔法少女について私は何となく見当が付いていた。そして同じくまどかも……

 

「杏子ちゃん。その人達って……」

 

「やっぱお前らとも接触してやがったか」

 

「えぇ、かなり危険な目に遭わされたわ__」

 

「こっちも同じだ。危うく死にかけた__」

 

「美国織莉子にね」

「美国織莉子にな」

 

 その名が出た瞬間、巴さんと千歳ゆまがビクッと体を動かす。

 巴さんの反応は仕方がない。恐怖心に付け込まれて彼女らの人形にされていたものね。

 きっと千歳ゆまも似たような目に遭わされたのでしょう。

 

「マミさん。大丈夫ですか…?」

 

「大丈夫…ちょっと嫌なことを思い出しただけだから」

 

「意外だな、お前がやられるなんて」

 

「ちょっと直前にトラウマになることが起こっちゃって」

 

 トラウマになること。言うまでもなくお菓子の魔女に殺されたことであろう。

 あの問題は巴さんは解決したと言っていたけど、やっぱりまだ罪悪感が残っている。

 

「もうそれは平気なのか?」

 

「一応ね…佐倉さん達はいつ頃に襲撃されたの?」

 

「最初にアイツらがやって来たのは10日前だったか、ある目的を達成するために協力して欲しいって頼まれた。

 理由とか色々と聞こうとしたんだが、一向に口を割らないモンだから断ったんだ。

 そしたらアイツらいきなり襲い掛かってきやがて苦戦はしたけど何とか切り抜けたんだ」

 

 偶然だろうか10日前と言えば、ちょうど巴さんが魔女に殺されかけた日と一致している。

 まさかあの段階から既に動いていたなんて……

 

「その後、キュゥベえに奴等について詳しく聞いてみたらよ。とんでもないことが分かった」

 

「とんでもないこと…?」

 

「何かしら…?」

 

 私は無言のままで次の言葉を待つ。

 そして杏子の口から衝撃的な事実が告げられた。

 

「奴等、見滝原や風見野周辺の魔法少女達にも同じようなことをしたらしくてよ、当然そんな怪しい誘いになんか誰も乗るはずがない。

 そしてその断った魔法少女は、奴等の手によって殺された。巷ではこのことを魔法少女狩りって呼ばれていたよ__」

 

「暁美さん。知ってた?」

 

「い、いいえ……」

 

 あまりのショックに口が上手く動かない。

 だけど一番ダメージが大きかったのはまどかだった。体を小刻みに震わせて、目尻に涙をためてて今にも泣き出しそうだった。

 

「酷いよ、どうして…何のために…?」

 

 何のために…勧誘は間違いなく私を殺すための戦力を整えるべく。

 そして殺すのは、恐らく報復を避ける為だろう。自分達の目的遂行の最中に邪魔が入られると厄介だし、勧誘を受けた魔法少女達が一丸となって襲い掛かられたら流石の彼女達もひとたまりもない。

 

 考えとしては正しいのかもしれないけども、明らかにそれは人道的な道を大きく外れた常軌を逸した行為だ。

 だが、杏子の話にはまだ続きがあった。

 

「__だが、ただ一人それから逃れた奴がいた……」

 

「誰なのその人は…?」

 

「優木沙々、アタシと同じく風見野を縄張りにしている魔法少女さ」

 

 全く聞き覚えの無い名前だ。

 それからただ一人を除いて…その言葉が意味することは大体察しがつく。

 

「そいつは美国織莉子の誘いに乗って協力する道を選んだのさ」

 

「その優木沙々という魔法少女について詳しく教えてくれないかしら?」

 

「お前、過去のことならある程度知ってるんじゃなかったのか?」

 

「残念ながらこの時間軸は美国織莉子達のお蔭でイレギュラーのてんこ盛りなのよ。

 だけどまさかここに来て新たな魔法少女が出てくるなんて……」

 

「しかも敵っていうね…佐倉さん。彼女の魔法とかって分かっていたりする?」

 

「前に一度、関わった程度だからな…でも奴はグリーフシードから魔女をわざと孵化させ使役して戦っていた。多分だが、奴の魔法は洗脳系の類だろう」

 

「せ、洗脳……」

 

 巴さんの顔色が悪くなる。これまでの出来事全てが綺麗に当てはまっていくわね。

 彼女が操られていたのも、その時期に限定して魔女の動きがおかしかったのも全部、優木沙々って奴の仕業なのね。

 

「そいつを仲間に引き入れた後、アイツらはまたアタシの元へやって来た。だけどそんな危険な奴等の仲間になる気なんて微塵もなかった。

 まあ当然、戦いになるわけだ。三対一で相当不利な戦いを強いられたよ、とんだ災難だよ__」

 

 今までやれやれと言った感じに喋っていた杏子だったが、徐々に口調が荒くなっていくのが分かった。それと共に千歳ゆまの顔も影も濃くなる。

 

「でも、一番の被害者はゆまだった……」

 

「「「えっ…?」」」

 

「戦いが激化していく中で優木沙々が操っていた魔女の内の一体が奴の管理から抜け出した。

 ゆまとその母親は偶然、その魔女の通り道を通っちまった。それを見ちまったアタシは急いで魔女の後を追ったが……

 だけど間に合わなかった…ゆまの母親はわけも分からないまま魔女に襲われて殺されて、残ったゆまは…生き残るためにキュゥベえと魔法少女の契約を結んだ」

 

 そこまで聞かされて、さっきの杏子の激昂の理由が分かった。

 彼女の横では千歳ゆまが悲し気な顔をしている。この子も巴さんと一緒の境遇に立たされていたのね…魔法少女になるかならないか、その選択の権利が与えられないまま強制的にこの世界に入ってしまった。

 

「じゃあ佐倉さん、あなたがこの街に来たのは……」

 

「ゆまを魔法少女の道へ引きずり込んだアイツらに借りを返すのと、それを止められなかったアタシ自身にけじめをつける為だ。

 そんなことをしてもゆまの人生は返ってこないが…それしかアタシには出来ないからな……」

 

「佐倉さん。あなた変わったわね……ううん、戻って来たかしら?」

 

「戻って来たって何だよ…?」

 

「昔、一緒に戦ってた頃のあなたによ。誰かの為に戦う魔法少女、私はカッコいいと思うわ」

 

「……そんな慰めなんていらねぇ」

 

「あっ、キョーコ照れてる!」

 

「バッ…照れてねーよ! 変なこと言うな!!」

 

 乱暴な言葉遣いだけども顔で台無しね。

 まどかも暗い顔をしていたけども、今のやり取りで少し元気を取り戻したみたいだ。

 

「もういいだろアタシの話は! ほむら。さっさと切り上げろ!!」

 

「はいはい。これからの方針は大体分かったわね。

 現状一番注意すべきことは美国織莉子、呉キリカ、優木沙々の三人。特にまどかや千歳ゆまは必ず私達の内の誰かが一緒にいなくちゃいけない」

 

「暁美さんと佐倉さんがいれば問題無しね」

 

「でもなるべくマミさんも一緒に居ましょうよ! やっぱり一人だと危ないですから」

 

「ありがとう。鹿目さん」

 

「取り込み中悪いけどよ、もう一人伝えとかなくちゃいけない奴がいるんじゃねーか?」

 

「それってさやかちゃんのこと?」

 

「ああ、あのボンクラにもしっかり言い聞かせとかなきゃ何しでかすか分かったモンじゃないだろ」

 

「佐倉さん。あまり彼女のことを悪く言わないで」

 

「別に悪いとは言ってねーさ、危なっかしい奴だって思ったからさ。念には念を…ってな」

 

「確かにさやかにはそういう一面もあるけれども、その真っ直ぐさが彼女の良いところなのよ」

 

 ほむらの言葉にマミも頷く。

 

「そうね。彼女のお蔭で私達もたくさん助けてもらったわ」

 

「随分と信頼してるんだな。アイツのこと」

 

「うん。だってさやかちゃんはわたし達の大切な友達で仲間だもの」

 

「……そっか」

 

 どこか寂しげな表情をしながら杏子は言う。

 まどかはそんな様子が少しだけ気になったが、まずはさやかに電話することが先だと思い、携帯を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡り……

 

 美国織莉子の使いとして現れた優木沙々。

 さやかはそんな得体の知れない不気味な少女の後ろを黙って付いて行っていた。

 それから歩き始めて数分後、さやかの視界に塀に囲まれた屋敷が映り込んだ。その外見は周りの家々と比較しても段違いで、まるでその部分だけ別の世界から持ってきたようにも思える。

 屋敷に圧巻していると不意に前方を歩いていた沙々の足が止まる。

 

「着いたよ。ここが美国織莉子の家だ」

 

「えっ?」

 

「まあ、無理もないよね。私だって初めて見たときアンタとおんなじ顔をしていたし」

 

 ケラケラと愉快そうに笑いながら再び歩き出す。

 すると今度は屋敷とは違う意味で衝撃的なものをさやかは発見した。

 それは曲がり角を曲がった瞬間に現れた。

 

「何よ…これ……」

 

 目に入ったのは壁一面に書かれた落書きだった。

 落書きといっても近所の子どもがするような可愛らしいものなんかではない。書かれているのはこの家の住人に対する暴言の数々であまり口には出したくない強烈な言葉もあった。

 

「美国久臣って名前をどっかで聞いたことない?」

 

「それって確か前にニュースで出てた政治家の……」

 

「美国織莉子の父親なんだってね。そいつの失脚と自殺からあの人の環境が劇的に変化しちゃってこんな有様になってるんだって」

 

「…………」

 

 自分には全く関係のない話だと面倒そうに語る横でさやかは無言で塀を見つめていた。

 同情の眼差しを送っていることに沙々は気付いたが、敢えてそのことには突っ込まないでさやかを軽くどついた。

 

「ボーっとしてないでさっさと行くよ」

 

「……う、うん」

 

 塀を横切り、屋敷の門を抜けて進んでいく。

 扉を開けて中に入ると、織莉子が玄関の前で待ち構えていた。

 

「美国織莉子……」

 

「お帰りなさい優木さん。ちゃんと彼女を連れて来てくれたみたいね」

 

「まあね、って言ってもコイツに何の用があるの?」

 

「それは秘密。これから彼女と話すことがあるから優木さんは二階へ行っててくれないかしら?」

 

「またそうやって私を除け者にする。あの黒い奴と話すときもそうだよね」

 

 織莉子のお願いに沙々は不服そうにする。

 そんな彼女に織莉子は平坦な口調でこう答えた。

 

「あなたが聞いても全く得にならない話よ。どうしても聞きたいのなら同席しても構わないけど?」

 

「ふん、分かったよ」

 

「部屋に紅茶とお菓子を置いておいたから好きに食べてていいから」

 

「……礼は言わないからね」

 

 素っ気なくそう答えて階段を上がっていく。

 そんな彼女の後ろ姿を一瞥してから織莉子はさやかを見る。

 

「改めて…ようこそ美樹さやか。今日はあなたに話があって来てもらったの」

 

「アンタなんかと話すことなんか何もない」

 

「確かに私とキリカはあなた達のことを襲い、殺そうともした…そう警戒するのも無理もない。

 だけど知って欲しいのよ。どうして私達が何故こんなことをするのか…特にあなたにはね」

 

「あたしに?」

 

 その言葉に眉を寄せる。怪訝そうな目つきを向けられながら織莉子は理由を語り始める。

 

「暁美ほむらや鹿目まどかは論外として、巴マミは恐らくこの事実を話したらまともな精神でいられなくなってしまう。

 あなたくらいしかいないのよ私の話を聞いてしっかりと聞いてくれる人は……」

 

「…………」

 

「でも、まずは上がって頂戴。客人をこんな所で立ち話させるわけにもいかないからね」

 

 織莉子に促されるままにさやかは奥の部屋へと連れていかれる。

 いつ襲われてもいいように常に警戒を怠っていなかったさやかだったが、織莉子はそんな素振りを全く見せることはなかった。

 

 

 

 

「どうぞ」

 

「…………」

 

 椅子に腰かけるやすぐに美国織莉子から紅茶を出される。

 もしかしたら毒を入れられているかもしれないと一瞬だけ警戒したけど、それはないと考え直してカップに口をつけた。

 マミさんの淹れる紅茶とは違った味だな…そう思っていると美国織莉子もあたしと同じように椅子に座った。

 

「まず最初に聞かせてくれないかしら、あなたは一体どこまで知っているのかしら?」

 

「何をさ…?」

 

「ソウルジェムの秘密、魔女の正体。それから暁美ほむらについてよ」

 

 後半の二つを聞いた瞬間、体に謎の悪感が走った。

 

 以前ソウルジェムの秘密については、ほむらに聞かされたけどその内容はかなり衝撃的なものだったことを覚えている。

 魔法少女として契約すると同時に魂をソウルジェムに変えられてしまう。

 これを上回る残酷なことなんてそんなにないだろうと勝手に思い込んでいた……

 

「そ、ソウルジェムのことなら知ってるけど……」

 

「あなたはソウルジェムが穢れで完全に濁り切ってしまったら何が起こると思う?」

 

「えっ、魔法が使えなくなる…でしょ?」

 

「30点。あながち間違いではないけど、実際は…濁り切ったソウルジェムはグリーフシードへと変化して私達、魔法少女は魔女になる」

 

「!!!」

 

 ふと、あたしはポケットから青色に光る自分の魂を取り出してみる。気のせいかソウルジェムの濁りが少しだけ増えたような気がした。

 

「で、出鱈目を言うな! そんな嘘なんかであたしを騙せるとでも…!!」

 

「嘘じゃないよ」

 

 声を荒げて反発しようとすると誰かがそれに被せるように話してきた。

 出来ればソイツの姿は二度と見たくなかった。

 

「キュゥベえ、アンタ何でここにいんのよ……」

 

「利害の一致さ。美国織莉子達の目的は僕にとっても都合がいいからね」

 

「つまり…あたし達を裏切ったのね」

 

「裏切る? 僕はあくまで君達、魔法少女にとっては中立の立場でいるつもりでいたけど」

 

「アンタね…!!」

 

「ムキになるだけ無駄よ、どうせ私達のこともただのエネルギー源としか思っていないのだろうし」

 

 胸倉を掴もうとするのを美国織莉子に制される。

 癪ではあったけど素直に言うことを聞いて、さっき彼女が言っていたあることについて尋ねる。

 

「で、今のエネルギー源って何のこと?」

 

「それについては彼の方がよく知ってるわ」

 

「やれやれ…じゃあ説明するよ。元々僕達は__」

 

 そこからしばらくの間、キュゥベえの話は続いた。

 現実味を全く帯びていなくてにわかには信じられなかったけれど、それが嘘であろうが本当だろうがコイツに対する印象は最底辺に位置づけられることに変わりはない。

 

「__ということなんだ。美樹さやか、君もこの宇宙の為に犠牲になるつもりがあるのならいつでも言ってくれて構わないからね」

 

「ふ、ふざけんな! そんなのあたし達には何も関係もないじゃない!!」

 

「広い視点で考えてみれば、君達にとっても有益なことじゃないか。何をそんなに怒っているんだい?」

 

「もうあなたは黙ってなさい」

 

「酷いなぁ」

 

「美樹さやか。今の話を理解したという体でもう一つ話さなくてはならないことがある」

 

「……何よ」

 

「暁美ほむらについてよ」

 

「!!」

 

 魔女のインパクトが大き過ぎてすっかり忘れていたけど、一緒に美国織莉子はほむらについても何か言おうとしていた。

 ゆっくりと後ろに下がっていくキュゥベえを視界から外して、彼女と向き合う。

 

「私達がこうしてあなた達を襲っているのはしっかりとした理由がある。それは世界を守る為よ」

 

「世界を…守る…?」

 

「そう、世界の全てを滅ぼすほどの強大な力を持った怪物がいつかこの地に現れる。私の予知がそれを教えてくれた」

 

「予知……」

 

「暁美ほむらから聞いているのでしょう?」

 

「初めは何かの間違いだと思っていた。だけど次第に予知は鮮明になって、よりその怪物の恐ろしさを感じさせられた。

 私とキリカはその怪物を倒す手がかりを掴むのと同時に共に戦ってくれる仲間を探した。でもそう簡単にはいかなかった。

 まずその怪物自体が何者なのかすらも分からなかったし、仲間になろうとする魔法少女もいなかった。それどころか逆に目をつけられて命を狙われ続けるなんてこともあったわ。

 ところがある日、私達を襲ってきたある魔法少女が魔力を尽きさせて突然苦しみ始めた」

 

「…………」

 

「残念なことにその魔法少女の犠牲によってようやく私達は真相に近づくことが出来た。

 それからキュゥベえを捕まえて魔法少女の全てを語らせて怪物の正体を遂に見つけた……」

 

「それって…もしかして……」

 

 頭が悪いと自覚しているあたしでもここまで来ると流石に分かってしまう。

 

「暁美ほむらよ。彼女の存在はいずれ、世界を滅ぼす…そう予知は教えてくれた」

 

「そんな……」

 

「残念だけど、これは紛れもない真実よ。それからある魔女結界で彼女の姿を発見して、私達は暗殺の機会を伺っていた。

 そして決行したのが…後はあなた達も知っての通りよ」

 

「どうして襲う前に話そうとしなかったんだよ? ほむらならきっと話くらいは聞いてくれるんじゃ……」

 

「あなたは突然見知らぬ人間に『あなたは世界を滅ぼす怪物になるから死んでくれ』なんて言われたらどうする?」

 

「それは……」

 

「仮に信じて貰えたにしても、潔く暁美ほむらが命を差し出すとでも?」

 

「じゃ、じゃあ殺さずに世界を救う別の方法を探せばいいじゃないか」

 

「言うのは易し行うは難しよ」

 

「何でだよ! ソウルジェムを濁らせて魔女にさせないようにすればいいだけでしょ?!」

 

 さっきの話からだと、怪物の正体は魔女となったほむらだろう、あたしはそう解釈していた。

 でも実際はそれ以上にもっと複雑な事態だということをすぐに思い知らされた。

 

「魔女の強さはその魔法少女自身の強さに比例する。暁美ほむらが魔女になったところでもたらされる被害は微々たるものよ」

 

「……どういうこと?」

 

「彼女は魔女よりももっと恐ろしいものに変貌できる。その力の片鱗はあなたも見たはずよ」

 

 魔女よりももっと恐ろしいもの…そう言われて咄嗟に浮かんだのは、二日前に見たあの怪物だった。

 たしかあの時は、ほむらがあたしのソウルジェムを持ってきてくれて、美国織莉子達と対峙して、それから……

 

「ちょっと待ってよ。アンタ達と戦った時にほむらは自分のソウルジェムを砕いていたよね…?」

 

「やっと気付いたようね。本来ならソウルジェムが破壊されたら、持ち主の魔法少女は死に至る。

 でも、暁美ほむらは違った…ソウルジェムを砕いた瞬間、彼女の魂の入れ物は別の物に変化したの」

 

「別の物って…?」

 

「それは私にもキュゥベえにも分からない。だけどその変化が終わって、気が付いたら…予知に出てきたあの怪物が目の前に現れていた」

 

「…………」

 

「後はこの前に見た通りよ。圧倒的な力で私とキリカはやられて、鹿目まどかのお蔭で暁美ほむらは元の姿に戻れた」

 

「元に戻れたんだったら、もう心配する必要はないんじゃ……」

 

「残念だけど今は一時的に元に戻れているに過ぎないわ。このままだといずれ、またあの怪物が覚醒する。

 その証拠に佐倉杏子との戦いで彼女は何故か変身を強制的に解かれていたでしょう? あくまでこれは私の推測に過ぎないけど、あれは怪物としての覚醒が進行しているせいで起きたもの」

 

「何でそう言い切れる…?」

 

「ソウルジェムが濁る=魔法を使えなくなる。これは魔女化が進行しているのと同じこと。

 暁美ほむらの場合だと…怪物化の進行=魔法を使えなくなる。彼女は魔法少女になる為の魔法すらも使えなくなっているのでは…? ということよ」

 

「そっか…」

 

 ややこしい話だったけど、大体は理解できた…つもりでいる。

 もし美国織莉子の予想が正しいとすれば、ほむらはまたいずれあの怪物に……

 

「な、何か方法はないの?!」

 

「分からないわ」

 

「キュゥベえ、アンタも黙ってないで何か言いなさいよ!!」

 

「黙ってろと言われたり、喋ろと言われたり…君達は本当に理不尽だね」

 

「つべこべ言うな!」

 

「はいはい…結論から言うと解決策は今の所はない。でも、暁美ほむらの怪物化を遅らせることは可能だ」

 

 その言葉を聞いて、あたしと美国織莉子は同時に目を見開く。

 キュゥベえはあたし達の顔をそれぞれ見た後、怪物化を遅らせる方法を語った。

 

「簡単なことさ。美国織莉子が言ったようにあの怪物が魔女と同じシステムで成り立っているのなら、魔女にならないするのと一緒で魔力を使わせたり、精神的なストレスを与えないようにすればいい」

 

「つまり、暁美ほむらをこれ以上戦わせないようにすればいいってこと?」

 

「やった! これで何とかなるんだ!!」

 

「それはどうかな?」

 

 誰かが横からあたしの喜びに水を刺す。

 声のする方を見ると、いつの間に居たのか呉キリカが扉に背中をつけてそこに立っていた。

 

「キリカ。いつから居たの?」

 

「丁度戻ってきたところさ。それで詳しくは聞いてないけど、たとえ暁美ほむらを戦わせないようにしても、結局は解決策が無かったら殺すんだろ? ならさっさと殺っちまった方が楽でいいじゃん」

 

「なっ…!!」

 

 その言葉にカッとなって、呉キリカの肩を掴む。

 だけど呉キリカは冷静な表情のままであたしの腕に手をかけた。

 

「よく考えてみろよ。お前がしようとしているのは、たった一人救うのにこの世界全ての人間を見殺しにしているのと同じことなんだよ?

 暁美ほむらはお前にとってそこまでして守りたい奴なのか?」

 

「くっ…な、何でアンタ達は諦めてんのさ……きっと何かあるはずだ! 誰も死なずに済む方法が!!」

 

「はぁ…佐倉杏子との話を聞いていた時から思っていたけどさ、お前って本当に青いな。

 頭だけかと思いきや、中身まで真っ青だ」

 

「何だと?!!」

 

「止めなさい。キリカ」

 

 挑発する呉キリカを美国織莉子が抑える。

 そして彼女はあたしの方を見て、こんなことを言ってきた。

 

「美樹さやか。そこまであなたがそこまで言うのなら、少しだけ時間をあげます。

 あなたのやり方で暁美ほむらを救ってみなさい」

 

「織莉子…?」

 

「どういうつもり…?」

 

「言葉通りよ。あなたの言う誰も死なずに済む方法は私達では見つけられなかった…けど、あなたならそれを見つけられるかもしれないって思っただけよ」

 

 多分だけどコイツはそんなことは考えていない。

 でも、いずれにせよ好都合だった。

 

「分かった。でも、一つだけ約束して」

 

「何かしら?」

 

「ほむらが怪物になるまでの間はアンタ達は絶対にアイツに手を出すな。上にいる優木沙々もね!!」

 

「……約束する。それとあなたの為に私からアドバイスを送るわ。

 このことは誰にも話さないことをおすすめするわ。それは暁美ほむらも同じ、下手にショックを与えてしまうのもマズいからね」

 

「どうするかはあたしが決める」

 

 美国織莉子にそう言って、あたしは席から立ち上がって、後ろを振り返らずにそのまま屋敷から出ていった。

 

 

 

 

 

 

「あーあ、本当によかったのかい? あんな約束しちゃって?」

 

 織莉子が新しく淹れた紅茶を飲みながらキリカが不満そうに言う。

 

「いいのよ。こうしておけば彼女も必然的に私達に協力せざるを得なくなる。

 少しくらいは希望を抱いてもいいじゃない……」

 

「織莉子…?」

 

 最後の方だけ少しだけ声のトーンが落ちたことにキリカは不思議に思う。

 それについて聞こうとする前に上の方からドタドタと階段を降りてくる音が聞こえてきて、空になった皿とカップを持って沙々が部屋に入って来た。

 

「話終わったー? げっ…もう帰ってきたのか」

 

「ここは元々、私と織莉子の家だぞ。不満か?」

 

「大いに不満ですぅー。あなたが居なかったら美国織莉子は簡単に私のものに出来るのに」

 

 爆弾発言に近い言葉に織莉子は動揺する。

 それを見たキリカは声を荒げながら沙々を睨み付けた。

 

「ちょっ…優木さん?!」

 

「どうぜコイツのことだ。あの時みたいに君を操り人形にするくらいしか考えてなんだろ?!」

 

「さあー、どうでしょうかぁー?」

 

「ぐぐぐ…前々から思っていたけど、やっぱお前はここで殺す!!」

 

 魔法少女の姿になって鉤爪を構えるキリカ。

 それを見ても、沙々はおどけた態度を変えないで更に煽り立てる。

 

「きゃーこわーい(棒)」

 

「待てや、コラー!!」

 

「……二人ともなるべく早く帰ってきなさいよー」

 

 外へと出ていく二人の後ろ姿を見ながら、織莉子はそう告げる。

 彼女の様子からして、キリカと沙々の争いはもう慣れている雰囲気みたいだ。

 

「はぁ……」

 

「美国織莉子。一つ聞いてもいいかい?」

 

「何かしら…?」

 

 屋敷に戻って織莉子が一人ため息をついていると、キュゥベえが声をかけてくる。

 織莉子に億劫そうに見つめられるキュゥベえだったが、そんなことを全く気にしてはいなかった。

 

「さっき美樹さやかにしていた話だけど、どうして優木沙々にも一緒に伝えなかったんだい? 彼女だって君達の仲間なんだろう?」

 

「…………」

 

「何か理由があるのかい?」

 

「……彼女はあくまで協力者に過ぎないわ。そこまで深入りさせる必要はないからよ」

 

「ふぅん」

 

 自分の胸の内を悟られないように答える織莉子にキュゥベえは素っ気なく返事をする。

 そして織莉子に背を向けて、最後にこう言い残して彼女の目の前から姿を消した。

 

「いずれにきても僕は期待しているよ。君がこの宇宙を救ってくれるってね」

 

「…………」

 

 織莉子は無言のまま、キュゥベえがすり抜けていった壁をじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 美国織莉子の屋敷を出た後、あたしの携帯に着信が入った。相手はまどかだった。

 

「もしもし、まどか」

 

『さやかちゃん。大丈夫?!』

 

「うおっ、いきなりどうしたのさ?」

 

 通話ボタンを押すやいなや、大音量で話しかけられたので思わず携帯を落っことしそうになる。

 えらく焦っててるけど、何かあったのかな?

 

『マミさんから聞いたら、さやかちゃん一人で帰っちゃったみたいだから心配になっちゃって……』

 

「おっ、心配してくれたのかー。さっすがあたしの嫁だねー」

 

『もう…さやかちゃんたら…でも何ともなくてよかった』

 

『まどか。変わってもらっていいかしら?』

 

 からかいはしたけども、純粋にあたしのことを心配してくれたのは少しだけ嬉しかった。

 すると今度は通話相手が切り替わって、ほむらの声が聞こえてきた。

 その声を聞いた瞬間、あたしの体が一気に冷たくなる。

 

『さやか、無事なようで何よりだわ』

 

「ほむら…アンタの方こそ大丈夫なの?」

 

『?』

 

 ほむらの声を聞いてしまうと、どうしてもさっき美国織莉子と話したことが思い浮かんでしまう。

 あたしなりに考えたけども、あの話はやっぱり誰にも伝えるべきじゃない。

 

『私は平気よ。そっちも何ともない?』

 

 嘘だよね? そう言いたくなる気持ちを抑えながら、喉の奥から別の言葉を必死に絞り出した。

 

「うん…大丈夫だよ……」

 

 今の一言で、ほむらとの距離が大きく離れたような気がする。胸にチクリと刺す痛みと同時に自分のソウルジェムがまた少し濁ったように感じた。

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





※こういったことはない……と思うのでこれからもよろしくお願いします(笑)

※マギアレコード5月にリリース決定しましたね。まだ1ヶ月ほどあるけども今から待ち遠しいです♪


☆次回予告★


第29話 Rなんてしたくない ~ 逡巡する思い


※次回もお楽しみにッ!!
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