ふしぎのくにのありんすちゃん ~ALINCE IN UNDERGROUND LARGE GRAVE OF NAZARICK~   作:善太夫

100 / 159
100ありんすちゃんとルビクキュー

 その日のありんすちゃんは暇でした。ですから部屋の片隅にほったらかしにしていたルビクキューを取り出して遊んでいました。

 

 ルビクキューというのは四角い形のパズルで、それぞれの面が違う色になっています。それが上下左右に回転するようになっていて、色をバラバラにしたりまた色を揃えたり出来ます。……ありんすちゃんには出来ませんでしたが……

 

 それまでは一面ですら揃えられなかったありんすちゃんでしたが、なんと二面が揃ってしまいました。まったくの偶然だっただけなんですが、ありんすちゃんは得意満面です。

 

 誰かに見せびらかして自慢したくなりました。シモベ達を集めてありんすちゃんが如何に素晴らしい偉業を達成したかを褒め称えさせましょうか? ありんすちゃんは静かに首を振りました。ダメです。このところありんすちゃんはやたらとシモベ達を集めて自慢ばかりし過ぎていたので、最近はどうもシモベ達がウンザリしてきているのでした。

 

 では、第六階層に行って双子のダークエルフに自慢してみては如何でしょう? ありんすちゃんはまたしても首を振ります。そもそもアウラもマーレもルビクキュー自体を知りません。ですからありんすちゃんが二面を揃えた事がどれ程凄い事かわからないでしょう。それどころかきっとこう言うでしょう。「面白そうじゃん。あたしにもやらせて」……器用なアウラの事です。たちまち一面はおろか六面を揃えてしまうかもしれません。

 

「……アウアウのばーかばーかばーか!」

 

 思わずありんすちゃんはアウラに悪態をつきましたが、アウラは何も悪くないですよ?

 

「ちょうでありんちゅ。あの子に見せるでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはかつてルビクキューを手に入れた時に会った女の子を思い出しました。名前は知りませんが髪が白黒の変なハーフエルフの女の子です。確かスレイン法国とかいう国でした。すぐさまありんすちゃんは〈グレーターテレポーテーション〉を発動させ──ようとして止めました。そして部屋の本棚から一冊の本を取ってニッコリしました。

 

「これをお土産にあげるでありんちゅ」

 

 そして改めて魔法を発動させたのでした。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 スレイン法国最奥部 神聖執行会議室──最高執機関十二名による会議が行われる場所──の手前の最高神官長の執務室では現在、重要な打ち合わせの為周辺にまで人払いがされていました。

 

 誰もいないその廊下に転移魔法〈グレーターテレポーテーション〉で転移してきたありんすちゃんがやって来ました。

 

「たちかこの辺りの部屋で会ったでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはトコトコと最高神官長の執務室の前にやって来ました。部屋の扉には法国語で『重要秘密会議中 立ち入り禁止』と書かれたプレートが掛けられていましたが、勿論ありんすちゃんには読めません。仮にナザリックで使われている日本語で書いてあったとしても、ひらがなしか読めないので『ち り』しか読めなかった事でしょうが……

 

 ありんすちゃん扉の前でしばらく考えこんでいましたが、すぐに明るい顔で叫びました。

 

「えっと、『ありんちゅちゃ、ようこそ、いらっちゃいまちた』って書いてあるでありんちゅ! 開けるでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは扉を思いきり開けました。勿論、扉には魔法で鍵が掛かっていたのでしたが、ありんすちゃんにはなんの意味もありませんでした。

 

「……な!」

 

 部屋の中では黒の女性用下着を身につけた最高神官長と、下着姿の土の神官長──レイモンがびっくりした顔でありんすちゃんを見ました。

 

「……うーん……違ったでありんちゅね」

 

 二人がパクパクと口を開きありんすちゃんに何か言いかけた瞬間──ありんすちゃんはくしゃみをして姿を消してしまいました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「……あれは転移魔法……恐らく第六位階以上の……」

 

 最高神官長の執務室に残された二人は先程起きた事柄について話し合っていました。

 

「間違いありません。あの少女も恐らくは……」

 

 最高神官長にレイモンも同意しました。ちなみに二人は既に着替えていました。

 

「……さらにこの本……魔導王国で作られたもののようだ。この暴露本がガゼフの命を奪ったのかもしれぬな」

 

「……まさか? ……だとするとかの戦士長は自殺……?」

 

 最高神官長は顔をしかめました。

 

「これだけの醜聞を広められてしまっては、な。聞くところによると蘇生を拒否して死んでいったという」

 

「…………」

 

 部屋には沈黙が訪れました。二人にはこれから自分達の身に起こるであろう事がまざまざと思い描かれたからです。

 

「……恐ろしい……明日は我が身、か。……我らは秘密を握られてしまった……おそらくは、かの邪悪な魔導王に……な」

 

 力なく呟く最高神官長の横顔を見ながらレイモンは項垂れるのでした。

 

 ……かのガゼフのように我々の醜聞が明らかにされた時、自分は死を持って名誉を守れるだろうか? 魔導王の恐ろしさをこうして体験する事になろうとは……

 

 レイモンはただただ震えるのでした。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 結局、ありんすちゃんはルビクキューを自慢する事は出来ませんでした。髪が白黒の変なハーフエルフの女の子の名前すら知らないので結局見つからなかったので諦めちゃったんですって。

 

 仕方ありませんよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。




ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました
【挿絵表示】

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。