ふしぎのくにのありんすちゃん ~ALINCE IN UNDERGROUND LARGE GRAVE OF NAZARICK~   作:善太夫

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041特別編・名探偵ありんすちゃん ~消えた三吉君の行方~(プレイアデスな日 より)

 ありんすちゃんはアインズ様の執務室にやって来ました。

 

 ありんすちゃんがありんすちゃんになって初めてご挨拶をするので、少しばかり緊張しているみたいですね。

 

 わずかに頬が紅潮してみえますよ。

 

 トントン、トン。扉をノックすると中から一般メイドのデクリメントが顔を出します。

 

「アインジュちゃまにお会いしにきたでありんちゅ」

 

 デクリメントも何やら緊張した面持ちでアインズ様にお伺いします、と答えて扉を閉めました。

 

 扉の前でありんすちゃんは更に緊張してきました。

 

「……どうぞ。アインズ様のご許可がありましたので、お入り下さい」

 

 

 フンスと鼻から息を出して思いきり胸を張ったありんすちゃんが部屋に入ります。と、部屋の入り口にいたユリとぶつかりました。部屋を見回すとアインズの他にユリ、ソリュシャンがいました。

 

 デクリメントは少し怯えた様子で、部屋の中はなにやら不穏な感じです。

 

 ありんすちゃんはお構いなしでアインズ様の前に進み、口上を述べます。

 

「このたびはありんちゅちゃがありんちゅちゃになりまちたのであいさちゅでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはありんすちゃんになったお礼の挨拶をします。

 

 微妙な空気の中を察して本当なら気を使うべきなのかも知れませんが、何しろありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子ですから仕方ありませんよね。

 

 シーンと静まり返った中、アインズが破顔しました。

 

「……そうか。ありんすちゃんだったな。……うむ」

 

 ありんすちゃんは続いて口を開きます。

 

「アインジュちゃま、何かありまちたんでありんちゃか?」

 

 ありんすちゃんの無垢な瞳がアインズをじっと見つめます。無碍に出来ないアインズはついついありんすちゃんに話してしまいました。

 

「……うむ。実は、私の三吉君がいなくなってしまってな。どうやらソリュシャンが行方を知っているようなのだが」

 

「アインズ様! 私がすぐにも聞き出します!」

 

 ユリが両腕にガントレットを装備して構えるのを、アインズが慌てて止めます。

 

 どうやらここは名探偵の出番です。なんという偶然か、ここには名探偵ありんすちゃんがいるではないですか?

 

 ありんすちゃんはソリュシャンに近づき顔をじっと見つめます。

 

「……チョリュチャはさんちちくん、ちらないでありんちゅか?」

 

 ありんすちゃんは無垢な瞳でじっと見つめます。

 

「……じつは……」

 

 純真無垢な瞳で見つめられてソリュシャンも流石に嘘はつけません。

 

 彼女はポツリポツリと話し出しました。

 

 ──ソリュシャンの話をまとめると、風呂場から三吉君を連れ出したのはソリュシャンでした。

 

 三吉君がいなくなれば、アインズ様の身体を洗う役目につけるのでは、としばらく三吉君を隠しておこうと体の中にしまっていたそうです。その後、うたた寝して目が覚めたら三吉君がいなくなってしまって行方がわからない、というのです。

 

「……もしかして食べちゃった? マジ?」

 

 アインズは思わず呟きます。

 

 ソリュシャンはスライム形態の体内に取り込んで消化してしまうので、スライムの三吉君も消化されてしまったのでしょうか?

 

「……なんて事を……ソリュシャン、覚悟しなさい。これから貴方の中から取り出します!」

 

 ユリがまたしてもガントレットを構えます。

 

「まて! 待つんだユリよ。早まるな」

 

 ありんすちゃんはアインズ様の前に進んで申し上げます。

 

「ここはありんちゅちゃにお任せくだちゃい。きっとちゃんちき君見ちゅけるでありんちゅよ」

 

「……ふむ。よかろう。ここはありんすちゃんに任せる。ユリ・アルファよ、サポートするのだ」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 まずは目撃者探しです。ありんすちゃんとユリは戦闘メイド達の部屋にやって来ました。

 

 ──ポリポリ

 

 何やら音がします。音の方を見るとエントマが何やら黒い物を立ちながら食べていました。

 

 ──ポリポリ

 

「エントマ、貴女は三吉君様について何か知らないかしら?」

 

 ──ポリポリ

 

 ユリがありんすちゃんのセリフを奪ってしまいました。ありんすちゃんは頬を膨らませて抗議をします。

 

 ありんすちゃんにポカポカ叩かれたユリはありんすちゃんに謝ります。

 

 機嫌を取り直したありんすちゃんは胸を張って尋ねます。

 

「エントマは何を食べているんでありんちゅか?」

 

 エントマは答える代わりに食べていた黒い、まだカサカサ動く『おやつ』をありんすちゃんとユリの手のひらに乗せました。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ──ひどい目にあったでありんちゅね……

 

 最初の聞き込みは散々でしたが、それでも有力な情報が得られました。

 

 それは寝入ったソリュシャンの鼻の穴から三吉君がはみ出していた、というものでした。

 

 もしかしたら三吉君はソリュシャンから自分の力で逃げ出したのかも知れませんね。

 

 ありんすちゃん、流石です。ソリュシャンが三吉君を消化してないという視点を最初から持っていたのですから、名探偵の資質が本当にあるかも知れませんね。

 

 ありんすちゃんは腕を組んで考えます。名探偵はこの後に閃いたように犯人の名前を告げると相場が決まっています。ありんすちゃんに出来るでしょうか?

 

「犯人はルプーでありんちゅ」

 

 どうやらありんすちゃんは犯人がわかったみたいです。

 

 ありんすちゃんと他一名はルプスレギナを捜しました。

 

 ルプスレギナは直ぐに見つかりましたが、何かポリポリ食べていたのでありんすちゃんは後にする事にしました。

 

 だって、もしかしたらルプスレギナがエントマと同じ『おやつ』を食べているのかもしれないですから。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ありんすちゃんの推理は外れて、ルプスレギナがポリポリ食べていたのはなんとジャガイモをスライスして油で揚げ、塩を振りかけたものでした。

 

 え? 三吉君の行方はどうなったか、ですか?

 

 三吉君行方不明事件に於いて、ルプスレギナは真犯人ではありませんでした。

 

 しかし、寝ているソリュシャンの枕元に落ちていた三吉君を拾ったのはルプスレギナでした。

 

 彼女が三吉君を片手につまんでウロウロしていると、声をかけて「私がアインズ様のお部屋に戻しておきます」と言って三吉君を持ち去った人物がいたのでした。

 

 おそらく、その人物はアインズの部屋に三吉君を戻さずに自分の部屋に持ち帰ったのでしょう。

 

 真犯人に聞けば事件の全てが明らかになるでしょう。

 

 難事件を無事に解決したありんすちゃんは助手と一緒にアインズの執務室に報告しに向かうのでした。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ありんすちゃんと助手一名はアインズの元に戻って来ました。

 

「アインジュちゃま、真犯人はアル●ドでありんちゅた」

 

「……うむ。その事なのだかな……もう良いのだ」

 

  アインズはいくぶん気まずそうな様子でありんすちゃんに背を向けました。

 

「──あれからすぐに三吉は戻ってきた。この案件は無事解決した、というわけだ」

 

 アインズは何処か遠くを見るようにしています。事件は解決したみたいですね。

 

 でも、ありんすちゃんは納得いかないみたいですよ。

 

「……真犯人はア●ベドでありんちゅ。真犯人なんでありんちゅ」

 

 アインズはありんすちゃんに向きなおり、頭を優しく撫でました。

 

「……うむ。ありんすちゃんよ、ご苦労であった。……そうだな、何か褒美をやろう。何がよいかな?」

 

 途端にありんすちゃんの眼がキラーンと光りました。現金なものですね。

 

「アインジュちゃまにお願いするでありんちゅ。チョリュチャとニグレドとペチュトレワンワンを許ちて欲ちいでありんちゅ」

 

 アインズはしばらく目を閉じて考え事をしていましたが、意を決して口を開きました。

 

「……うむ、わかった。ソリュシャン、並びに謹慎中のニグレド、ペストレーニャを許すとしよう」

 

  ありんすちゃんは嬉しそうです。とてもまだ5歳児位とは思えませんね。

 

 今日も大活躍のありんすちゃんでした。

 

 

 

 

──fin──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ──ふぅ。

 

 『三吉君』は深くため息をついた。

 

 ──今回はもう駄目かと思った。

 

 『彼』がスライム♀だと看破したのはおそらく同じスライム種のソリュシャンだけだろう。

 

 いわゆる同性が故の嫉妬──アインズ様をめぐる女の戦いで危うく『三吉君』は命を落とす所だった。

 

 本来なら単なるPOPモンスターに過ぎない自分が、事もあろうに至高の御方の御寵愛を受けてしまったのだから、怨みを買ってしまうのは仕方ないだろう。

 

 ──ふぅ。

 

 最後の彼女──守護者統括というNPC最高の存在──との約束を思い出すと気が滅入る。

 

 アインズの元に戻すかわりにこれからアインズの入浴後にどのように御方の身体を洗ったかを詳細に報告しなくてはならない。

 

 単なるスライムである彼女にとっては難題である。なにしろ喋る事が出来ないのだから。

 

 ──ふぅ。

 

 彼女のため息は止まる事なく続くのであった。

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

【挿絵表示】

 

 

 

 

 


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