ふしぎのくにのありんすちゃん ~ALINCE IN UNDERGROUND LARGE GRAVE OF NAZARICK~   作:善太夫

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053番外編 ジルクニフのクリスマス

 バハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは苦々しい思いで城下を見下ろしました。帝国では折から街中にクリスマスソングが流れていて、まさにクリスマス一色でした。

 

「陛下、クリスマスは嫌いでしたっけ?」

 

 帝国四騎士の一人、“雷光”バジウッド・ペシュメルがおどけるように声をかけました。ジルクニフはそんなバジウッドに気がつかないかのように城下を見下ろし続けています。街中にはクリスマスのイルミネーションが溢れ、それらをじっと見つめ続けながらボソッとジルクニフは呟くのでした。

 

「……クリスマスなんてクソ食らえ、だ。なにがサンタクロースだ。なにがクリスマスプレゼントだ……」

 

「……お悩みは魔導国、ですか? ……気持ちはわかりますが、あんなバケモノ相手にしちゃ命がいくつあってもどうしようもないですよ」

 

「……わかっている」

 

 アインズ・ウール・ゴウン魔導国──属国化を決めたもののアンデッドは生者に対して憎しみを抱くものだという。いつ、その歯牙が帝国に向かうかわからない……ジルクニフは頭をかきむしりながら苦悩するのでした。

 

 ──いまいましい。なにがクリスマスだ──ジルクニフはついこの間のハロウィンに起きた惨劇を忌々しく思い出していました。

 

(来る。……きっと奴らはやって来る)

 

 ジルクニフには確信がありました。こういう一般的には幸福の象徴ともいえるイベントを悲惨なものに変えてしまう悪魔のような子供達──双子のダークエルフと舌足らずな女の子──が乗ったドラゴンが今にも現れてくる気がするのでした。

 

(……既に四回だ……二度ある事は三度あるとはいうが、もう四回だ……)

 

 頭をかきむしりながらジルクニフは苦悩します。そしてこの苦悩から解放される事は恐らくないだろう、と確信するのでした。

 

「どうだ? ドラゴンはまだ見えないか?」

 

 ジルクニフのせっかちな叫びに物見の兵士は大きくかぶりを振ります。いち早く彼らの訪問を見つけた所で打つ手はありません。だが、このまま何もせずに手を拱いて蹂躙を待つのは癪だったのでした。

 

(今日はクリスマス・イヴ。彼らはきっとやって来る。ニコニコと満面の笑みを浮かべながら……これも全てあの忌々しい魔導王の差金だろう)

 

 夕方になってもドラゴンはやって来ませんでした。しかしながらジルクニフの心は穏やかではありません。いつ来るともわからない恐怖に心はすっかり憔悴していくのでした。

 

 イライラする気持ちをメイド達にぶつけて自己嫌悪に陥ったり、沈みゆく夕日を眺めながら訳わからず涙ぐんだり、それでもドラゴンはやって来ませんでした。こんなに苦しい思いをするならばいっそのことドラゴンに現れて欲しいとすら思ってしまう程、ジルクニフは追い詰められていくのでした。

 

「……来ませんね? ……ドラゴン」

 

 バジウッドが気の抜けた声を出しました。ジルクニフはそんなバジウッドを忌々しく思いながら吐き捨てるように「わかっておる」と答えます。

 

 どうやら今日災難が訪れる事は無いかもしれない。だが──ジルクニフはまざまざとアインズ・ウール・ゴウン魔導王が嘲笑う様を幻視するのでした。

 

(まだ、安心は、出来ない……今日はあくまでもクリスマスイブ。本番はクリスマスの明日かもしれないな)

 

 夜になりました。

 

「陛下。及ばずながら警護しますから、そろそろお休み下さい」

 

 バジウッドの進言を聞き入れてベッドに横たわってみたものの、ジルクニフの五感は敏感に研ぎ澄まされたままでした。

 

 イライラしながら部屋を歩き回ってみても当然不安は収まる筈はなく、扉の向こうから漏れ聞こえてくる脳天気ないびきを聞くにつけてジルクニフの感情はもはや爆発しそうでした。

 

 と、不意に甘い香りがしたと思った瞬間、ジルクニフは気が遠くなりました。

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 翌日の昼過ぎにようやくジルクニフは目を覚ましました。枕元に大きな靴下が飾ってあり、中になにか入っています。

 

 そっと覗き込むと靴下の中にカツラと頭皮を叩くマッサージブラシとクリスマスカード──メリークリスマス~アインズ・ウール・ゴウン魔導国~と書かれていた──が入っていました。

 

 サンタクロース? いや……間違いない。あの魔導国の子供達の仕業に間違いありません。ジルクニフは思いました。

 

 ──これはアインズからのメッセージなのだ──

 

 かつてジルクニフはイジャニーヤによる魔導王暗殺の可能性を臣下に聞いてみた事がありました。それをアインズは知っていたのでしょう。

 

 きっと、アインズはバハルス帝国皇帝たるジルクニフの生命を奪う事は簡単に出来るのだぞ? という無言のメッセージを靴下に託したのだ、と……ジルクニフは心の底から戦慄するのでした。

 


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