ふしぎのくにのありんすちゃん ~ALINCE IN UNDERGROUND LARGE GRAVE OF NAZARICK~   作:善太夫

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083ありんすちゃんとからっぽのヨロイ

 今日のありんすちゃんはナザリックの地表部に建てられたログハウスにいました。忙しそうにしている戦闘メイド──今日はソリュシャンとエントマがいましたが──にお構い無しに、窓に顔をつき出した格好でうとうとしています。

 

「どうでもいいんだけどぅ、ここはぁ、託児所じゃあないんだけどぉー?」

 

 エントマがありんすちゃんに聞こえるように愚痴を言いましたが、ありんすちゃんは自分の事を言われたとは気づかないみたいです。気持ち良い春のポカポカとした日射しにありんすちゃんはうつらうつらしています。

 

 と、鼻がムズムズして……

 

「くちゅん!」

 

 小さなくしゃみと共にありんすちゃんの姿が消えてしまいました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 気がつくとありんすちゃんは狭い所にいました。どうやらテレポーテーションでどこかに移動してしまったみたいですね。窮屈な中で懸命にもがいているとピョコンと頭が外に飛び出しました。周りを見回すとどうやら洞窟のようでした。

 

「綺麗な剣でありんちゅね」

 

 洞窟の壁には大きくて綺麗な飾りが一杯ついた剣が飾られていたので、つい、ありんすちゃんはため息をつきました。きっとありんすちゃんはこの剣の持ち主になる為にテレポーテーションしたに違いありません。偶然たまたまテレポーテーションしたら剣があった、なんていう夢のない話では無いと思います。多分。

 

 ありんすちゃんは剣に手を伸ばそうとしましたが、頭を出している場所の他に出口が無いみたいで手を出すことが出来ません。すぐ近くに綺麗で素敵な剣があるのに手が届きません。こんな素敵な剣をアインズ様にプレゼントしたらきっとアインズ様は大喜びしてくれるでしょう。ありんすちゃんは身体ごと倒して剣の側まで転がる事にしました。

 

「ゴオォォン!」

 

 ありんすちゃんが倒れると大きな音がしました。なんという事でしょう。ありんすちゃんが入っていたのは金属製の鎧でした。そして──ありんすちゃんは今まで気がつきませんでしたが、剣のすぐ下に白金の鱗の竜がいました。白金の竜はゆっくりと起き上がり辺りを見回します。

 

 きっとあの剣の番をしている竜王に違いありません。戦えばおそらく勝てない相手ではなさそうですが、今のありんすちゃんは鎧にはまっているので文字どおり手も足も出ない状態です。

 

(……これはみちゅからないようにちないといけないでありんちゅ)

 

 ありんすちゃんはほっぺたを膨らませて鎧のような顔をしました。

 

「なんだ……君か。ずいぶん久しぶりだね。まだ冒険者をしているのかい?」

 

「冒険者はとうに引退したさ。代わりにインベルンの泣き虫に任せて、じゃな」

 

 いつの間にか白金の竜王の隣に老婆が来ていて、仲良さそうに話をしていました。

 

「彼女を泣き虫呼ばわりするのは君位のものだよ。……しかしまあ、よく冒険者になる事を認めたものだね?」

 

「簡単さ。ちょっとばかりボコボコにやっつけてやったのさ」

 

 老婆はニヤリと笑いました。

 

「そうか。それは彼女にとっては良かったかもしれないね。……魔王との戦いでは彼女にも世話になったから幸せになって欲しいものだね」

 

「……ふん。それは難しいじゃろうて。魔王との戦いで儂が一緒に戦った仲間はお主ではなくてあそこに転がっている空っぽの鎧だったがの」

 

 二人はじっとありんすちゃんを見つめました。ありんすちゃんはさらにほっぺたを膨らませて鎧の真似をします。

 

 ありんすちゃん渾身の演技で二人共ありんすちゃんの存在に気がつかないようです。

 

「……昔の事さ。それに別に騙そうとした訳じゃない。」

 

 白金の竜王の言葉を老婆は聞き流して尋ねた。

 

「激しい戦いじゃったみたいじゃな? ……これも揺り戻しかの?」

 

 老婆の鋭い視線は鎧に大きく開いた穴から顔を出しているありんすちゃんを居抜きました。ありんすちゃんは更に更にほっぺたを膨らませて鎧の真似をします。

 

「それはどうかな……確かに強大な力を持った吸血鬼だったけれど。邪悪な存在なのは間違いないみたいだった」

 

「お主が全力で戦えば勝てない相手はいないじゃろうて」

 

 白金の竜王はありんすちゃんをじっと見つめながら答えました。

 

「ところで君に渡した指輪はどうしたのかい?」

 

「あんなもの、小僧めにくれてしまったわ」

 

 老婆の答えを聞いて白金の竜王は少し悲しそうな顔をしましたが、ありんすちゃんは鎧の真似で必死な為、気がつきませんでした。さすがにほっぺたを膨らませ続けてきたありんすちゃんも我慢出来なくなってきたので──

 

「〈テレポーテーチョン〉でありんちゅ!」

 

 初めてありんすちゃんの存在に気がついた白金の竜王と老婆の驚く顔がぼやけ……ありんすちゃんはナザリックの入り口に戻ってきました。

 

「おちっこ!」

 

 そして──ありんすちゃんは大急ぎでお手洗いに向かうのでした。仕方ありませんよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。




ありんすちゃんが挿絵を書いてくれました
【挿絵表示】

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