ふしぎのくにのありんすちゃん ~ALINCE IN UNDERGROUND LARGE GRAVE OF NAZARICK~   作:善太夫

90 / 159
090ありんすちゃんのショー・マスト・ゴー・オン

 ──ナザリック地下大墳墓第九階層アインズの居室──アルベドがそわそわしながらアインズの寝室にいました。

 

「……アインズ様はまだお戻りになっていないみたいね……では、失礼して……そーれ! ……はあはあはあ……今のうちにアインズ様の香りをお腹の中に溜め込んでおかないと……すうはあ、すうはあ……! ……足音? まさかアインズ様がお戻りに!」

 

 部屋の主が戻って来た気配にアルベドはベッドから立ち上がると急いでベッドの下に潜り込みました。

 

「!」

 

 するとそこには既に先客──いつの間にか転移していたありんすちゃんがいたのでした。騒ぎだそうとしたありんすちゃんの口を塞ぐとアルベドはありんすちゃんを宥めました。アルベドの真剣な様子にありんすちゃんも静かになりました。

 

 アインズは部屋に入るとベッドに寝そべりました。

 

「……ん? ……何だか生暖かい?」

 

「しゃっきまでアルベ──」

 

 ベッドの下で喋ろうとするありんすちゃんの口をアルベドが慌てて塞ぎます。幸いアインズは気が付かなかったようです。

 

「……威厳か……確かに大事な事だよな……組織のトップに立つものが弱腰だったら着いていこうとは思わないからな。とはいえ、いつでも威厳があるように振る舞えるとは限らぬ……うーん。もっと演技力があれば良いのにな……」

 

 アインズの独り言を聞いてありんすちゃんの目が光りました。そうです。ありんすちゃんは以前に『赤ずきんちゃん』を演じていますから、演技力には自信があります。

 

 アルベドはベッドの下から出ようとするありんすちゃんを必死に止めます。

 

「さて、仕事に戻るとするか……ん? 気のせいか」

 

 アインズは立ちあがり、ちょっとだけ不審げな視線をベッドの下の空間に向けましたが何事もなかったかの様に部屋を後にしました。

 

 アルベドとありんすちゃんはベッドの下から這い出すと、深くため息をつきました。

 

(アインズ様は演技力を求めていらっしゃるの? ……主君の求めるものを捧げるのが臣下の努め……くっふっふふふ……)

 

 ニヤニヤしながら部屋を出ていくアルベドをよそにありんすちゃんはじっと坐り込んでいました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「アインズ様!」

 

 ナザリック地下大墳墓第九階層の廊下を歩いていたアインズはアルベドに呼び止められました。

 

「アルベド。どうしたのだ?」

 

「はい、アインズ様。あの、先日議題にありました……ふくり? ……」

 

「福利厚生か?」

 

 先日、アインズは各階層守護者を集めてナザリックの今後に関する意見を出させる為、組織における福利厚生の必用性の話をしたのでした。

 

「ナザリックに劇場を建設しては如何でしょうか? ナザリックの住人の中には娯楽を求める者も少なくないと思います。一定の需要はあるのではないのでしょうか」

 

 アルベドは熱く語り続けました。いにしえの為政者が支配の為にいかに娯楽を活用してきたか、といった話を聞いている内にアインズの心も決まりました。

 

「うむ。で、演目はとうするのだ? まずは台本が必要であろう?」

 

 アルベドは胸元に抱えていた一冊の本を差し出しました。

 

「この書物はかつてアインズ様の世界から持ち込まれたもので『ロミオとジュリエット』で御座います。司書のティトゥス曰く、文学的かつエンターテイメント性に溢れた作品との事でして、演目には最適かと」

 

「うむ」

 

 アインズが頷きかけた瞬間──

 

「ちょっと待ちゅでありんちゅ!」

 

 一冊の本を抱えたありんすちゃんが走って来ました。

 

「ありんちゅちゃは赤じゅきん、しゅるでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんは持っていた絵本『赤ずきんちゃん』をアインズに向けました。

 

「ちょっと、ありんすちゃん。こちらに来なさい」

 

 アルベドはありんすちゃんを脇に連れ出すと説得を試みました。ありんすちゃんは以前に演じた『赤ずきんちゃん』に思い入れがあるので、なかなか折れませんでした。それでも最終的にはモンブランケーキ三十個で演目を『ロミオとジュリエット』にする事に同意する事にしました。

 

「で、演目は『ロミオとジュリエット』で良いのだな?」

 

「はい。アインズ様」

 

「仕方ないから良いでありんちゅ」

 

 そこに騒ぎを聞きつけてデミウルゴスがやって来ました。

 

「随分と盛り上がっているみたいですね。で、配役はどうするおつもりですか?」

 

 アルベドが口を開きました。

 

「主人公のロミオ様は高貴な貴族の長子でもありますから、アインズ様にお願いしたく存じます。そして、ヒロインのジュリエットには──」

 

「ありんちゅちゃ!」

 

 ありんすちゃんが手を挙げました。鼻息もとても荒くなっています。

 

「え、えっと……それで良いのかね?」

 

 デミウルゴスが困惑した面持ちで周りを見ます。

 

「よくないわよ! ジュリエットには私が!」

 

 アルベドも一歩も引かないようです。

 

「……では、公平にオーディションで決める、というのはどうでしょう?」

 

 しかし、ありんすちゃんが首を縦に振りません。仕方ないので結局、ヒロインのジュリエットはアルベドとありんすちゃんのダブルキャストにする事になりました。

 

(いろいろ手間取ってしまったけれども劇のラストシーンでアインズ様とキス出来そうだから良しとすべきね)

 

 アルベドは公演までの時を夢見ながら稽古に励むのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 いよいよ公演当日──

 

 ロミオとジュリエットで有名なバルコニーのシーンが始りました。アインズのロミオが庭からバルコニーに呼び掛けると、バルコニーの窓からジュリエットのありんすちゃんが出てきます。

 

「おお、ロミオ……あなちゃはどうちて……」

 

 おやおや? ありんすちゃんがセリフにつまってしまったみたいですね。大丈夫でしょうか?

 

「ロミオ……あなちゃのお口はどうちてちょんなにおっきいの?」

 

 ……ありんすちゃん……そのセリフは『赤ずきんちゃん』ですよ?

 

 仕方ありませんよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

「ふう……何だか今日は疲れたな」

 

 その日、ロミオを演じきったアインズは自分の居室に戻ってきました。

 

「うん? ……何だか濡れている?」

 

 アインズが訝しげに見た場所は先日ありんすちゃんが座り込んでいた場所でした。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。