間延びしたチャイムが校内に響く。
ホームルームを終えて、帰り支度を始める1ーEの面々を席から眺めつつ、古峰千里は口元を右手で覆う。
くあっ、と大きな欠伸が漏れた。
「おまえが眠そうとか、珍しいよな?」
かけられた言葉に、千里は欠伸を噛み殺して顔を向ける。
おはよう、登
「いやいや、千里、遅いから。昼間過ぎてるし、そもそも居眠りなんかしないだろ?」
かざしたスマホの文字に、小荒井登がツッコミを入れる。ぼーっとしているようで案外真面目な友人だ。授業中に突っ伏している姿が、全く想像できなかった。
「で?じっさいなんかあったのか?」
諏訪さんたちのとこで、映画の鑑賞会。
小荒井が、ああ、と納得する。
「諏訪隊と仲良いもんなー、おまえら。ナルホドね……余裕で夜更かしコース直行じゃん」
ヒメも一緒だったから、あっちも似たような感じかも
「似たようなってより、姫里は絶対寝てんだろ」
小荒井の言葉に、千里は苦笑いを浮かべる。いつもならこちらに顔を出す頃合い。言われた通り寝ているのだろう。
千里が徐に立ち上がる。
「お迎えか?」
彼女のいるであろう教室。その方向を指差し、小荒井に頷く。
2人は1ーBの教室へと足を向けた。
*
「む〜、あの映画が面白いのが悪いんだぁ〜」
ボーダー本部への道を行くなかで、そう言い、姫里が頬を膨らませる。
弟に揺り起こされ、寝ぼけ顔を数秒キープ。そこから赤面しギャアと絶叫するという流れを見られ、恥ずかしくない人間はあまりいないだろう。
ごめん、ヒメ、配慮がたりなかったね。
姫里の顔からは、未だに赤さが抜けきらない。そんな片割れの様子に、悪いことをしたなと、千里が謝る。
「もう!……まったくだよ、まったくだよ!なんでフツーに起こしてくれないのさ〜」
「いや、あれ以上普通の起こし方ってあるか?」
1ーBで合流した奥寺が首を傾げる。
「ないない」
小荒井がそれにかぶりを振った。
迷惑にならない声量で声をかけ、ほんの軽く肩を揺する。これでダメならどう気を使えというのか。
「コアデラさんもなんか言ってよー」
「「誰がコアデラさんか」」
唐突な姫里からのフリ。妙な呼び方とテンションに、2人が呆れ顔で返す。
暴走気味な彼女の頭に、千里がコツリと拳をあてた。
「にゃっ」
小突かれところを左手で撫で、姫里が片割れへと目を向ける。
もうあんまり怒ってないよね?ふざけすぎだよ。
「あはは、すみませんでした」
姫里が軽い調子で謝り、千里がしかたがないな、といったふうに肩を竦める。
「ところでさ」
双子のひと段落した様子を見て、奥寺が口を開く。
「2人が見た映画って、どんなやつなんだ?」
「あっ、それおれも気になってた。……なんていったっけ?」
続く小荒井の声に、千里がスマホを軽快に叩く。
十年以上前の、コミカルなSF映画だよ。
「十年って、また古いな〜」
奥寺が感想を漏らし、姫里が口を開く。
「小佐野先輩が、ネットで動画漁ってたらなんかみっけたらしいんだけどね……」
4人のたわいもない会話は、ボーダー本部にたどり着くまで続いた。
*
3人と別れた千里は、ランク戦室へと顔を出す。
あたりを見回し、目当ての背中を見つけ駆け寄る。
「……よお、千里」
足音に気づき、振り向いた相手は、キャップのツバを上げて千里に声をかける。
お待たせしました。荒船さん。
荒船哲次に会釈し、いつものように画面をかざした。
「いや、約束の五分前だ、さほど待っちゃいない」
その言葉にホッと息を吐く。
「それじゃ、さっそく始めるか」
荒船の言葉に千里が頷く。
2人はブースへと足を踏み入れるのだった。