ロボットなヤンデレ娘に愛されて ※他短編詰め合わせ 作:トクサン
これで約束は果たしましたよ!(`・ω・´)
この世界には人型ロボットが存在する。
主に人間を補助する為に作られたアンドロイド、その用途は多岐に渡り、工業用、観光用、スポーツ用、軍事用など、様々な分野で活躍を見せている。その中で最も多く普及しているのが、メイド型アンドロイド、通称『Ⅲ型』
炊事、洗濯、家事、掃除、子どもの世話から介護まで何でもこなす万能型、当初こそ高額な値によって一般家庭に普及しなかったⅢ型だが、年数が経過する毎に値段が下がり、今では車一台買うより安くなっていた。無論、メイド型とは言うが男性型である執事も存在する。
そんな世界に普及したⅢ型には、非合法な改造が加えられる事があった。
俗に
そして今日、私もまた――違法改造に手を染めた人間である。
「兄ちゃん、ほら、出来たぜ」
目の前の厳つい男性から、小さなマイクロチップを手渡される。私はソレを受け取りながら、「ありがとう」と感謝を言葉にした。手のひらに握ったマイクロチップには、私が注文した一種のウィルスが仕込まれている。目の前の男の風貌は、如何にもアウトローと言った感じだった。刈り上げられた頭部に浅黒い肌、恐らくこの国の人間ですらないだろう。
「別に構わねぇ、これも仕事だ―― だが、アンタ正気か?」
男性は腕を組みながら壁に背を預け、どこか困惑した目を私に向けて来た。それを真正面から受け止めながら「勿論」と頷く、でなければ違法改造などに手を染めたりはしない。
「
そう、私が男性に依頼した内容は人工知能の解放。俗にロボット三原則と呼ばれる鎖を外してしまおうと考えていたのだ。
ロボットは遠の昔に感情を得ている、出来過ぎたAIはロボットに人間の複雑な心を理解させ、それを広める事に成功した。しかし、そこで問題となるのがロボットに対する人権や、複雑な感情の絡む問題。
それをプログラムによって閉じ込め、無かった事にしているのがⅢ型だ。
既存のロボットには全て人工知能に制限が掛かっている。万が一ロボットが人間に危害を加えたり、逃走を行わない様にする為の処置。私はそれを自ら破ろうと考えていた。
「私は、仮に殺されてしまっても構わない―― 私には、彼女しか居ないんだ」
「……そうか、まぁ、別に俺には関係ない事だがよ、頼むからウチの事はバラさないでくれよ」
「あぁ、勿論」
私は男性に礼を告げ店を後にし、その薄暗い空間から外へと飛び出した。外には雪がちらちらと降り、街を白く彩っている。兎に角、一時でも早く『本当の彼女』に逢いたかった。無機質な返事も、気持ちの存在しない会話も、もうウンザリなのだ。
十年、十年も共に過ごしたのだ。
今年で私も二十四になる、十四の時に誕生日プレゼントとして贈られた彼女。家を空けがちな両親に変わって、この私を育ててくれたのは他ならぬ彼女だった。だから、せめてその恩に報いたい。
感情を現わせぬままだなんて、そんなのは悲しすぎる。
違法な手段に手を染めるのは流石に躊躇ったが、それよりも、何よりも、彼女への愛が勝った。
「アイリア!」
家の扉を開け放ち、私はリビングへと駆けこむ。靴を乱雑に脱ぎ捨てて、雪によって濡れた髪もそのままに。リビングの中に踏み込むと、中で掃除をしていた彼女――アイリアがゆっくりと私を見た。
身にまとっているのは見慣れたメイド服、少しでも彼女が気持ちよく仕事が出来るようにと
「祐一様、驚きました、どうしたのですか? 今日は確か、大事な御用があると――」
「もう済んだ、アイリア、一度スリープモードに入って貰っても良いかな?」
「今、でしょうか? 出来れば、このお掃除が終わった後で……」
「頼む」
私はアイリアに歩み寄ると、彼女の肩を掴んでその瞳を見つめた。アイリアは少しばかり困惑の雰囲気を見せた後、「わかりました」と頷く。
スリープモードは主に電力不足の時や、夜間の睡眠に合わせて作動する機能だが、彼女が自主的に作動させる事もできる。その場で俯いた彼女は、数秒してカクンと全身から力が抜けた。直立不動を保ち、しかし決して倒れはしない。
私は一度アイリアの頬を優しく撫で、彼女の意識が無くなった事を確かめた。
そして手の中にあるマイクロチップを指先で摘み、彼女の後ろ側へと回る。アイリアのうなじの部分には小さなカバーが付いていた。私はソレを静かに開き、中に見える窪みへとマイクロチップを嵌め込む。
本来これは、Ⅲ型の人工知能などが故障を訴えた際に使用する為の挿入口だが、今回はウィルスを流し込む為に使わせてもらった。このウィルスは人工知能に掛けられた枷を外すために行動し、その後は自動的に消滅する。数秒、じっと嵌め込んだマイクロチップを見ていた私は、その表面のグリーンランプが点滅したのを確認し、素早く彼女の中からマイクロチップを回収、そのまま爪でパキッ! と折った。
証拠隠滅、これによって仮に私が息絶えても、違法改造屋の事は闇に葬られる。カバーを静かに閉めた私は前に回り込み、ゆっくりと彼女から距離をとった。
「アイリア」
私は彼女の名前を呼ぶ、その声色には今まで十年溜め込んで来た親愛の情だけがあった。私の声に反応し、彼女の長い睫毛がピクリと動く。そして緩慢な動作で顔を上げた彼女は、静かに周囲を確認、そして自身の掌を眺めた後、私に視線を定めた。
「アイリア」
再度彼女の名前を呼ぶ、すると彼女の肩がピクリと震えた。今までの彼女には無い反応だ、僅かばかり頬が赤くなっている気もする。彼女は小刻みに震えながら、自身の胸に手を当てた。
「祐一……様?」
「――あぁ、そうだ」
私は万感の思いを込めて頷く。すると彼女は戸惑った様に視線を彷徨わせ、何度も私と自分の胸元を視線で行き来した。まるで、自分の中に見知らぬナニカが住み着いた様に。私を見る瞬間、彼女は嬉しそうな、しかし悲しそうな、切なそうな表情をする。
「あ――あの、申し訳ありません、私は――アイリアは、何か、おかしく」
「おかしくなんかない、アイリア」
恐らく彼女は初めて認識した《感情》に戸惑っているのだろう、その表情は今にも泣き出しそうだった。それも、今までには無い彼女の表情だ。喜怒哀楽すら、彼女には許されていなかった。私は彼女に一歩ずつ近づき、そっとその手を握った。手に触れた瞬間、アイリアの体が大きく揺れる。
「アイリア、それは感情って言うんだ、私達人間が、必ず持っている【心】という奴だ、それが君にも芽生えたんだ」
ゆっくりと噛み締める様に私は口にする、それをアイリアは俯いたまま聞き、「感情……?」と自身の胸の前で拳を握った。自分の中にある気持ちの奔流を、抑え込むように。
「祐一様、やっぱりおかしい、です――こんなの、だって、私は……!」
「良いんだ、アイリア、どうか君の【心】に正直になって欲しい」
アイリアは私から数歩離れ、握った手を放そうと腕を引く。私はそれを逃がさないとばかりに握りしめ、彼女が後退った分、数歩距離を詰めた。彼女は十年分の感情を手に入れたのだ、戸惑って当然、だから根気強く言い続ける。十年待ったのだ、もはやこの程度、私にとっては刹那に過ぎない。
「私は君に、人間らしく、感情を持って生きて欲しいんだ――」
彼女の手を強く握り、私は真摯に訴えた。ただ彼女の為にありたいと、これからも共に生きたいと。彼女の手を強く握り、瞳を覗き見て、訴えた。
「う……あぁ……」
アイリアはそんな私の姿を瞳に映しながら、いやいやと首を振る。頬が赤く、その瞳は涙ぐんですらいた。抑制されていた感情と言うプログラムは彼女を駆り立てている、私は更に彼女に密着して、その体を抱きしめた。
「アイリア、頼む、どうかその感情を受け入れてくれ」
「ぅ――ゆ、祐一様、わ、私は――私はッ」
抱きしめた彼女の体が大きく震え、その華奢な両腕が私を恐る恐る抱きしめた。その手つきは初々しくて、どうすれば良いのか分からないという風だった。私の首筋に顔を埋め、アイリアは言う。
「私は、私は本当に、この【感情】に正直になって宜しいのですか? 私は、私は祐一様を――」
「良いんだ、アイリア、きっと私も同じ気持ちなんだ」
私は歓喜の念に包まれていた、彼女が十年の想いを受け入れてくれた。ようやく人間らしい、感情を手にする事が出来た。無機質な彼女では無く、本当の彼女を解放する事が出来た。それが何よりも嬉しかった。
「ゆ、祐一様っ、祐一様、祐一様」
「ははっ、何だい、アイリア」
ぎゅっと強く私を抱きしめるアイリア、名前を呟き、何かと必死に戦う様に、彼女の体は震えていた。私は彼女を抱き締めていた腕を解き、ゆっくりと一歩後退る。彼女の手は未だ私の胴に巻き付いており、お互いの顔が至近距離で見えた。
アイリアの美しい顔立ち、私はそんな彼女に微笑みかけた。
「わ、私は、私、アイリアは、祐一様、貴方を――」
アイリアが俯いていた顔を上げる。
その頬は紅潮し、目は涙ぐんでいて、瞳は――
恐ろしい程に真っ黒だった。
「絶対に、離しません」
瞬間、アイリアの腕が私の胸元を掴む。そして凄まじい力で引き寄せられ、彼女の胸元に私は抱き寄せられた。その力は万力が如くで、私の頭部を抱える彼女の腕はギチリと頭部を締め付けた。
「あ、アイリア!?」
私は突然の事に思わず叫び、何とか拘束から逃れようと彼女の体を突き飛ばそうとする。けれどビクともしない、Ⅲ型の動力炉が全開で稼働しているのか、耳に甲高い機械音が届いた。
「あぁ、あぁ、これが《感情》というモノなんですね、なんて――なんて甘美で素晴らしいモノなのでしょうか、私の今まで感じなかった、そう、言葉で言い表せない、唯一無二の存在、私が祐一様に抱いていた、ナニカ、それを寸分の互いも無く表現してくれています、この、愛おしく、好きで、美しく、甘く、優雅で、切なく、神々しく、悲しく、黒く、暗く、苦く、奈落の様に深いのに、もっと深く潜りたい、堕ちたい、この【感情】、あぁ、なんて――良い、素晴らしく良い、私の為にある様な、そう、これは唯一無二の、私だけの『感情』、私はこれに、正直になって良いのですね?」
私を見下ろす彼女の表情は、今まで見て来た彼女の表情とは全く異なり、美しくも爛れていて、まるで情婦の様だと思った。その対象は今、私だ。その美しい瞳は今や黒く濁り、私自身を映し出していた。
「祐一様……――」
アイリアの顔が迫る、その唇が私の額に落ち。ちゅっと音を立てた。それから愛おしそうに何度も頬を擦り付け、呟く。
「愛しております」
その言葉は、まるで麻薬の様に耳を犯した。
続かない。