ロボットなヤンデレ娘に愛されて ※他短編詰め合わせ 作:トクサン
約束は果たしましたぜ!(`・ω・´)
祐一は寝室のベッドに転がりながら、延々に答えの出ない思考に潜っていた。
彼の居る部屋――寝室は中央に大きなベッド、部屋の隅にクローゼットと姿見、小物棚があるだけの部屋。天窓には既に雪が積もり、光の入りを悪くしている。
十年前から独り寂しくこの大きなベッドで丸まって寝ていたものだ、家族が家を空けがちだった為、小さい頃から一人で寝るのが習慣だった。その事をまるで昨日の事の様に思い出せる。祐一は今、ただアイリアの事だけを考えていた。正確に言うのであれば、何故アイリアがこんな事をするのかを考えていた。
本来ならばこういった、実行に移す事の出来ない類の思考を嫌った筈の自分だったが、時は人を狂わすものだと実感する。
これもそれも、全てアイリアのAI、その思考の枷を外したが故だった。
祐一の四肢は今、ベッドの四隅へと鎖で繋がれており、その様子は宛ら囚人のソレ。否、ただの囚人であったのならば今の祐一よりもずっと自由であっただろう。手足の一本すら満足に動かせない状況、祐一が数えている限り、今日で一ヵ月が過ぎようとしていた。
果たして自分は、いつまでこんな生活を送る事になるのか。
あの日、アイリアのAIを解き放った時から、自分を取り巻く環境は一変した。アイリアはアイリアであって、アイリアではない。まるで禅問答の様な言葉だが、祐一にとってはコレが一番しっくりきた。
【感情】と言う不確定要素を含んだ彼女の思考は、今までのソレとは全く異なり、まるで人間の女性と同じだったのだ。
今まで無機質だった彼女の声色も、機械的だったやり取りも、どこか一方通行だった想いさえ、今では生身の女性と変わらない。祐一の姿は拘束こそされているものの、服は綺麗だし髪も艶々、更には爪の長さまでキチンと整えられていた。
全てアイリアがやった事だ。
この場所に彼女が自分を縛り付けたのも、この服を着せたのも、髪を洗うのも、体を洗うのも、食事を与えるのも、排泄をさせるのも、全て、全てアイリア。
昔、「アイリア」と祐一が呼べば、彼女は淡々と「はい」、なんて無機質な声で返事をしただろう。
今では満面の笑みを浮かべながら、「何でしょう祐一様? ご飯ですか? お風呂ですか? トイレですか? 何でも言って下さい、私に――アイリアに何なりとご要望を、もっと、もっともっと、もぉっと頼って下さい」と喜々として問いかけて来る。情欲に塗れた瞳で覗き込む彼女の姿は、もうロボットと言っても誰も信じないだろう。
お風呂に入りたいと言えば、浴槽で丁寧に隅々まで洗われる事になる。頬を赤らめながら、はにかんで、「任せて下さい」と言う彼女は初々しかった。
食事が欲しいと言えば、今までのネット上で公開されている「おいしい食事」ではなく、彼女なりの愛情が詰まった配膳が出される、アレンジを加える意味が分からないと言っていた昔の彼女は、そこにはもう居ない。
トイレがしたいと言っても、彼女は嫌な顔一つせずに事を済ませる。寧ろ、その表情は満足気であると言って良い。曰く、「祐一様のお世話をする事が、こんなにも幸せな事であると、私は知らなかったのです」だそうだ。
驚愕だった、愕然とした。
昔のアイリアからは考えられない行動の連続だった。
自分から見る彼女は、とても幸せそうだった。
祐一は、ソレがAIからプロテクトという枷を取り外した結果である事を理解している。今こうしてベッドに縛り付けられているのも、彼女の解き放った【感情】がそうさせているのだと。
後悔しているかと聞かれれば、祐一は「否」と答える。
十年共に暮らした祐一にとって、親愛なるアイリアから一ヵ月縛られる程度の事は些細な事だと言い切れた。ただ祐一にとって、何故このような行動をとったのか、それだけが分からない。祐一は唯困惑していたのだ。
プロテクトを取り払った結果、ロボットに殺されるという事例は数多い。それはロボットを乱雑に扱ったり、まるで奴隷の様に扱う持ち主に起こる事が多いと言う。その状態で感情を解放した結果、恨み辛み憎悪が雪崩れ込み、大した思考も出来ずロボットは主を殺すのだ。
機械は生まれた時から人を傷つけないように制限が課せられる。それがロボット三原則であり、遥か古来より存在する機械人形の法だ。
それが取り払われた結果、【感情】に囚われた機械は何をしでかすか分からない。
祐一は、アイリアを十年ずっと想い続けた。
乱雑に扱った事などないし、暴言を吐いた事もない。ただ一人、常に自分の傍に居てくれる家族として、大切に大切に扱ってきた。もう同じ型板を探す事が困難な程、アイリアのメインフレームは古い、それ程の想いが詰まっているのだ。
十年、十年共に過ごした。
祐一はアイリアに嫌われているとは思っていなかった、好かれてはいないかもしれないが、嫌われているとは微塵も思っていない。それは今のアイリアの態度を見れば明らかだ、プログラムによって言わされている台詞では無い、その表情も、行動も、全て感情に則った結果。であるならば、多少なりとも好意を抱かれているのだろう、そう祐一は考えていた。
「アイリアは、私をどうしたいのだろう……」
この一ヵ月ですっかり板についた独り言を、祐一は一人零す。
祐一は今、世間では病で床に臥せっているという事になっているらしい。らしいと言うのは、やけに歯切れの悪いアイリアから聞いた事だったから。
一ヵ月もの間姿を見せない人間に、世界は優しくない。アイリアは祐一を仕事にすら行かせてくれなかった。トイレすら自分で行く事も許されないのだ、当然と言えば当然なのだろう。
アイリアは自分を拘束して、何がしたいのだろうか。もしかして、自分一人で独占したいと考えているのだろうか、なんて天井を見上げて思う。
今、祐一の頭にリフレインされるのは、アイリアの一言。
――愛しております。
あれは紛れもない告白だった。
自惚れて良いのならば、アイリアは自分が好きと言う事で、この拘束は初めて【感情】を得たアイリアが、濁流の様に雪崩れ込んで来たソレを押さえる事が出来ずに行動した末の結果――という事になるのだろうか。
そう考えると、存外悪いモノではないと。
祐一は前向きに考えた。
☆
「祐一様、今日のご夕飯です」
控えめなノックの後、配膳カートと共に入室して来たアイリアは祐一を見て微笑む。今日もその笑顔は綺麗で、昔の無機質な表情よりずっと良い。
随分前に購入したメイド服も、皴一つ無く手入れされている事が見て分かる。今では自前で色々揃えていると言うし、彼女がどこか一人で遠くへ行ってしまう様な感覚に陥る事があった。勿論、そんな事はあり得ないと理解しているけれども。
手際よく食事を祐一のベッドの脇――即席テーブルに並べながら、彼女は幸せそうに何度も祐一を見ていた。祐一はそんなアイリアを眺めながら、あぁ、こんな生活もまた、一つの幸せなのだろうかと考える。
「今日はお味噌汁というモノを作ってみました、何でも遠い東の国のスープらしいのですが――味噌と言うのは味わい深い、面白い調味料です、少しクセがありますが、祐一様の好きな味だと思います」
笑顔でそんな事を言いながら、「さぁ祐一様、召し上がって下さい」と椀を差し出される。祐一の上体を支えているベッドは斜め四十五度で固定されており、差し出された椀に唇を付けるだけで味噌汁を啜る事が出来た。温かい液体が冷えていた口内を温め、ゆっくりと飲み下す。
仄かな味噌の風味と、独特な味わい。確かに、自分の好きな薄味だと祐一は思った。恐らくアイリアはこれまでの食事から祐一の好む味付けを覚えたのだろう、それは本来Ⅲ型に搭載されていない機能だ。もっと前、確か三年程前にロールアウトしたフレームには搭載されていた筈だと思った。
「美味しいよ」
祐一はアイリアに微笑む。アイリアはその言葉に満面の笑みを咲かせて、何度もこくこくと頷いた。頬を赤く染めて目を細めるその様子は、好きな男に褒められて喜ぶ乙女そのものだ。
祐一は何度か差し出された椀に唇を付け、そんなアイリアを目にしながら、アイリアが何故自分を解放しないのかを考えていた。
女心に疎い祐一ではあるが、薄々と勘付いてはいる。それはつまり、普通の人間が持つ独占欲だとか、嫉妬心だとか、そういうモノから来る行動なのではないかと。アイリアは今の今まで感情を持たずに生きて来た、であれば突然湯水の如く湧いて出たソレに呑み込まれても不思議ではない。
ただ彼女は感情の赴くまま行動し、現状が今であると。祐一はそんな憶測を立てていた。
「祐一様、此方もお召し上がり下さい、今日は上手く焼けたんですよ、お魚」
アイリアは半分ほど飲み終えた味噌汁の椀を戻し、祐一に見える様に焼き魚のプレートを目の前に持ってくる。丁度良い焦げ目と食欲を掻き立てる香ばしい香り、祐一の腹がくぅと音を立てた。
それを聞いたアイリアは、ふふっと柔らかい笑みを零して、「今、食べやすい様に骨を抜きますね」と慣れない箸を器用に使って焼き魚の身を解し始める。祐一は誰にも悟られず、独りでに覚悟を決めた。
攻めるなら今しかないと思った。
こんなアイリアに世話をして貰う生活も中々どうして、素晴らしいとは思うが、やはり不満が無いと言えば嘘になる。
だからこそ、祐一は唾を呑み込み、ゆっくりと口を開いた。
「アイリア、その、一つ聞いて欲しい事があるんだ」
そんな言葉を投げ掛けられたアイリアは、器用に動かしていた箸をピタリと止めて、「はい、祐一様」と笑顔を向ける。その笑顔に曇りは無く、ただ一点自分だけを見つめていた。
さて、自分の一言で彼女のAIは、或は【感情】はどう変化するのか。
それを目にするのが祐一は少しだけ恐ろしく。
そして、少しだけ楽しみでもあった。
「【結婚】って言葉、知っているかい?」
お久しぶりです、ヤンデレと結婚した男、トクサンです。
久々の投稿となりましたが小説自体は毎日書いています、そこそこの勢いで書いています。単位がボロボロになって「これは四年で卒業無理なのでは…」と感じる程度には書いています。(((uдu*)
単位なんて飾りです、偉い人にはそれがわからんのです。
今度はいつ投稿するか分かりませんが、ヤンデレをこよなく愛し「監禁? ストーキング? バッチこい!」な皆様ならば些細なことだと確信しております(真顔)
それではまた次話で(`・ω・´)