紅魔館マッサージ   作:yourphone

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藍の場合

ある日、紫様に呼ばれた。

 

「藍、今人里で流行っている噂、知ってる?」

「はい。なにやらあの吸血鬼がマッサージの店を開いたとか」

「そ。だから、調査してきてくれる?」

「分かりました」

 

式にとって、主の命令は絶対。そして、拒否する理由もない。

しかし。

 

「紫様」

「なぁに?」

「紫様ならば、私に頼まなくともあの店の調査は簡単でしょう。なぜ私に?」

「それはね、そのぅ」

 

紫様が次の言葉を躊躇う。

な、紫様が躊躇うなど、一体どんな深い理由が

 

「私があの店に行ったら、BBAって言われちゃうからよ!霊夢に『ぎっくり腰大丈夫?』なんて言われたら、ゆかりん傷付いちゃう!」

「それでは行ってきます」

 

しょうもなかった。と て も、しょうもなかった。

 

 

まあ、それは置いておこう。

紫様の家から走ること数時間。ようやく人里に着いた。

真っ先に紅魔館へ向かっても良かったが、人里での評判を聞いてからでも良いだろうという判断だ。

 

得意の変化で尻尾と耳を隠す。

たまたま目についた人間に話し掛ける。

 

「紅魔館のマッサージ店について?」

「あぁ。今すぐ行っても良いのだが、どうやら吸血鬼の住みかでやっているらしいじゃないか。」

「まあ、そうなんだけどな」

 

村人は頭を掻く。

 

「あー、なんだ。可愛らしかったし、とてもじゃないが危害を加えてくる様にも見えなかったぞ?」

「 フム。成る程」

 

その後も複数の人々に聞いて回ったが、実に見事に魅了(チャーム)に掛かっていた。

 

曰く、マッサージ師は可愛らしい吸血鬼の女の子。

曰く、マッサージ自体は物凄く効果がある。

曰く、代金はお金か少量の血で良いらしい。

 

「かくも人間は愚かなのか」

 

いやまぁ、責めるのはお門違いか。吸血鬼の魅了はなかなかに強い能力だ。一般人に耐えられないのも仕方の無いこと。

 

「しかし、あの吸血鬼も上手いこと考えたものだ。

 村人はマッサージしてもらう。

 吸血鬼は血や食材を買うお金を貰う。

 まさにwin-winというやつでは無いか」

 

さて、そろそろ紅魔館へ向かうか。

 

 

紅魔館に着いた。が、すぐには入れなそうだ。人間が大量に並んでいる。

 

「しかし、並んでいる私が言うのもあれだが。ここで妖怪に襲われる可能性を考えていないのだろうか」

「ダイジョウブ デスヨー」

「む?」

 

メイドの格好をした妖精が一匹やってくる。

 

「大丈夫、とは?」

「ソレハデスネー」

 

妖精の言うことを簡潔にまとめると、ここいら一帯は既にレミリアの領地。故に、紅魔館の客を襲う妖怪は存在しないとのこと。

 

「それはなかなか大変だったろうに」

「タイセツナ イモウトサマノ タメデスシー」

「……成る程。そういうことか」

 

一を聞いて十を知る。成る程成る程。

 

「ではゆるりと待つとしよう」

「オマチクダサイー」

 

 

一刻ほど後。ようやく紅魔館のとある部屋へと通される。

 

「やっと私の番か」

「はいはい、おまたせしました!胸の大きいお姉さん、そこのベッドに寝っ転がって!」

「む?」

 

特徴的な帽子、金髪、マッサージ師の服装、そして服を突き破り生えている宝石の付いた羽。

まさか『悪魔の妹』がマッサージをするのか?

 

「ほら、速く!」

「あ、あぁ、すまない」

 

寝転がる。

 

「リラックスしてくださいね~」

 

吸血鬼は、その小さな手で私の背中を軽く揉んでいく。

 

ふむ、私相手には少々力が弱いが…普通の人間相手ならこのくらいが丁度良い、か。

 

「うわぁ、お姉さん凄く硬い!何の仕事してるの!?」

 

聞きつつ、込める力を増してくる。

おお!上手だ。気持ちいい。

 

「そこそこ我が儘な主の、従者をしている」

「ふーん。やっぱり我が儘の相手は疲れるよね。私もお姉様の相手をしてると凄く疲れるの。そう言うときは、自分で自分にマッサージしてるの」

「ほう?どうやって?」

「分身すれば簡単だよー?」

 

うぅむ、分身か。分身かー。

 

「流石に私には出来そうに無いな」

「そりゃあ、フランにしか出来ないマッサージだもん」

 

そう言うと、背中を揉む手を止める。

 

「リラックスしてる?」

「うん?あぁ、勿論」

「んーーー。駄目だよ」

「は?」

「お姉さん、少し考えすぎ。もっと楽にしてくれないと」

「う、むぅ」

 

なんだ、こちらの正体に気付いた訳では無いのか。

しかし、リラックスか。

 

 

 

うん、たまには良いか。

 

 

 

 

「すまない、主の言葉が頭に残っていてな。・・・ふうぅぅぅ」

「うんうん。そんな感じ。さて、キュ~~~~~~」

 

肩。右肩が、右肩の凝りが、『壊れていく』。

 

「これは、一体?」

「ふふふ、これ、フランの能力なの。凄いでしょ?」

「あ、あぁ」

 

右肩が『壊れる』。しかし、それは『使い物にならなくなる』訳ではなく、むしろ『生まれ変わった』様に感じる。

 

「次行くよ?」

 

左肩。そして、右腕。左腕。下がって、背骨あたり。

 

『壊れていく』

 

無意識の内に僅かに残っていた緊張と、使命感が『壊される』。

 

「ふぅ。次は…あれ?変なところに『目』があるよ?」

 

そう言いながら、フランドールは私の腰の辺りをさする。

 

「あぁ、すまない。それは私が」

 

待て待て待て。危うく正体をばらすところだった。

 

「私が?」

「あー、いや。何でもないんだ。気にしないでくれ」

「うぅん?でも、間違って壊しちゃうかも知れないよ?」

 

それは困るな。

私は、自らの九本の尻尾の手入れは欠かさず行っている。私を私たらしめるアイデンティティだ。

壊されるのは遠慮したい。

 

「コンコン」

「え?うわっ!」

 

変化を解除する。私からいきなり耳と尻尾が生えたので、驚かせてしまったか。

 

「すまないな。お忍びのつもりだったんだが…よろしく頼む」

「うわぁ、狐さんだー。スゴイスゴイ、初めて見た!」

 

パチパチと手を叩くフランドール。

 

「よぉし!じゃあ私、頑張っちゃうよぉ!」

 

フランドールがスペカを取り出す。

 

禁忌『フォーオブアカインド』

 

「お姉さんの『目』」

「私たちが」

「まとめて全部」

「ほぐしてあげる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふはあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁ」

 

こんなにのんびり出来たのは初めてだ。身体中に力が入らない。

今なら、人里の子供でも私を捕まえられるだろう。

 

「美鈴、仕上げはお願い」

「分かりました」

 

ぐぐっと体のツボを突かれる。

 

「あ?体が暑くなってきたな……(チクッ)ああ、成る程」

 

血流を良くして、血を摂取しやすくするためか。

普段なら絶対に怒っていただろうが、まあ、今回は良いだろう。

労働に対する当然の報酬だ。

 

「紅魔の」

「何でしょうか?」

「私の血、自由に使え。それと・・・また、ここに来させて貰おう」

「えぇ、何時でもお待ちしております」

「また来てね、狐さん!」

 

 

 

「・・・と、言ったところです」

「えぇと、幾つか質問があるわ」

「なんなりと」

 

こめかみを押さえながら紫様が質問する。

 

「正体ばらしちゃ駄目じゃない?」

「そうでもしないと、その先を見せてはくれなかったでしょう。私も、この尻尾が大事ですし」

「主の命令よりも?」

「はい」

 

はあぁぁ~~。深い深いため息をつく。

 

「次。狐の血って吸血鬼が飲めるの?」

「さあ?そこまでは分かりません」

「っていうか、ね?」

 

紫様が私の顔に触れる。

 

「貴女まで吸血鬼の魅了に掛かっているじゃない」

「そんなこと……いや、そうかも知れませんね」

「開き直るし。まったく、八雲の名が泣くわよ?」

「まあ!紫様が泣いてしまうのですか?」

「貴女が言うことを聞かないからねぇ」

 

軽口を交え、最後に結論を言う。

 

 

「あれは安全です。紫様も一度、行ってみたらどうですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、藍に言われて来たはものの。流石に恥ずかしいわねぇ」

 

紅魔館の全体が見える場所で紫は呟く。

 

「そもそも、あのカラスやらに見られたら今後三年間はネタにされちゃうわ。あの吸血鬼の姉の方にばれたくもないし」

 

だが、その体はそわそわと動いている。

紫も、本当は行きたいのだ。噂のマッサージがどれだけの効果を発揮するかは藍がその身をはって証明してくれた。

どれだけの物か、分かりやすく例えると。

 

 

 

『月の賢者』の薬要らず

 

 

 

心なしか毛づやが良くなり、笑顔が増え、立ち姿が綺麗に矯正されている。

藍が、マッサージによって自らの真の美しさを呼び起こしたかのようだ。

どれだけ考えても、どんな手を尽くしても、自分の手では再現出来なかった藍の『美しさ』。それを、いとも容易く復活させるなんて。

 

だが、紫は行かない。

僅かな嫉妬と、好奇心。そして、期待と体裁が紫の行動を縛ってしまっている。

 

要するに。

 

恥ずかしいのだ。霊夢を奪おうとする吸血鬼の、妹に、頭を下げるのは。

 

 

紫は今日もマッサージをしてもらわない。

きっと、明日もマッサージをしてもらわない。

 

でも、これで良いのかもしれない。

紫がフランドールの魔の手に堕ちてしまったら、幻想郷を守る者が居なくなってしまうのだから。

 

例え、そのつもりがフランドール自身には無かったとしても、だ。

 




紅魔館マッサージ。
あなたの疲れを癒します。
お代はお金か、あなたの血のどちらかで構いません。
お電話は無いですが、いつでもいらしてください。
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人里から紅魔館へと至る道。その舗装、或いは警護をしてくれる方。紅魔館へ連絡して下さい。
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