自分の遅筆ぶりが嫌になるエルクカディスです。
今回は日常回をお送りします。
【注意】華さんがある方面でキャラブレイクしています
華さんファンで「俺の華さんに何てことしやがるんだ!」と言う人はブラウザバックをお願いします!
天高く馬肥える秋の言葉を表すかのように澄んだ青い空が広がる。そんな気持ちの良い空気の中を幾つもの銀翼たちが飛び交う。高空には旅人たちを乗せた旅客機が、低空には趣味で小型機を乗り回す荒くれ者たちが、それぞれの思いと意味を翼に載せて空を行く。
そんな中に混じって少しずんぐりとしたシルエットの単発複座機がゆったりと飛んでいる。それは高等練習機T‐6 Texanと呼ばれる機体で、特徴的なのは垂直尾翼のペイントだ。ベースの色は白で黄緑色の帯が3本鮮やかに塗られている。この塗装、免許取得の最終実技試験中を意味する法定塗装なのだ。
「それじゃ、試験項目の6つ目のタッチ・アンド・ゴーに行きましょうか」
「は、はい」
後席に座っている試験官がクリップボードの挟まれた紙に何かを記入しながら、伝声管を使って前席の受験者に指示を出す。返ってきた返事はやや震え声で緊張しているのが伝わってくる。試験を受けているのだから緊張するのは仕方ない。白髪で人の良さそうな初老の試験官は苦笑いをしつつ伝声管を使ってもう一度声を掛ける。
「染谷さん、ここまでの項目は順調ですから大丈夫ですよ。緊張していたら普段の実力を出せませんよ。ほら、リラックス、リラックス」
「は、はい! ありがとうございます」
操縦桿を握る受験者は、清澄高校麻雀部副部長の染谷まこ。いままでトレーニングで何度も操縦桿を握ってきてその感触にも慣れたとはいえ、流石に試験ともなれば緊張を隠せない。じんわりとかいた汗が手に嵌めたグローブを湿らせている。
「染谷さん、松本空港の
試験官からの伝言を聞いたまこは試験官に滑走路上の風の情報をリクエスト、そして空路図で自機と空港の位置を確認し、やや躊躇いがちに決断する。
「レディオの情報通り、ランウェイ36から侵入しますけェ」
「
試験官とのやり取りの後、機体を進路に乗せるために操縦桿を右に傾けてフットバーを軽く蹴って機体を旋回させ始めた。
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………………
………
「それにしても、みんな揃って人が悪いなぁ…… ヒコーキを始めたならそれとなく言ってくれればいいじゃないか」
ツモった一萬を河に捨てながら京太郎が少し恨めしそうに零す。
「吃驚したでしょ? ちょっとドッキリを仕掛けるつもりでみんなで内緒にしてたのよ!」
「ええ、それはもう本当に驚きましたよ、部長! ポン!」
小悪魔チックな笑顔でのたまう久に鳴きで返す京太郎。これで京太郎の手牌は純チャンイーシャンテンまで伸びる。
「それにしても勉強嫌いのゆーきがここまで真剣に教本を読み込むとは思いもしませんでした。ねぇゆーき」
「のどちゃん、今話しかけないでほしいじょ…… 覚えたことが零れ落ちちゃうじぇ……」
自分のツモ番が回ってきたので山から牌を引きつつ和が優希に話を振る。その視線の先には操縦教本を射殺さんばかりの視線で読み込む優希の姿があった。頭から煙を出しつつ「染谷先輩の次は私、染谷先輩の次は私……」と呟いて鬼気迫る表情で試験直前の追い込みを図る優希。
「お父さんとお母さんの訓練でOKが出たんですよね、優希先輩。それなら大丈夫ですよ。ウチの親は空のことに関して妥協は絶対しないですから。それに今日は試問試験じゃなくて実技試験ですよ」
ガチガチに追い込まれている優希にアドバイスを送る京太郎の妹の京子。自身も
なんとか優希の緊張を解そうと四苦八苦している京子の耳に卓の方から「槓! 槓! もう一個、槓!」と咲の声が聞こえてきた。こうなった咲は始末に負えない。麻雀を始めたばっかりの京子ですら、それが本当に異常な事態であることはよく理解できる。もはや天災と同レベルで対処のしようがないのだ。京子はひっそりとこの状態の咲を『
卓に突っ伏す自慢の兄と口から魂が抜けかけている和、そしてFXで有り金全部溶かしたような顔をしている久、それらを尻目にない胸を張ってドヤ顔をする咲と何ともカオスな空間があった。
「……お前と打ってると上達した実感が全然わかないのは気のせいか?」
気力を出して起き上がり咲に愚痴を零す京太郎。全く持ってその通りである。
と、その時、低く唸るような音が聞こえてくる。京太郎や京子にとっては馴染の音。そして最近操縦訓練を受け始めた咲の耳にも馴染み始めた音、ヒコーキの発動機のエンジン音だ。
「あー、アレ染谷先輩が試験受けてる機体じゃないかな?」
「だと思いますよ。今日、実技を受けるのは染谷先輩とゆーきだけですから」
少しヨタヨタとしながらも真っ直ぐ滑走路に進入してくる。着陸操作も最終段階でもう高度は100 ftもないだろう、ほんの数秒すると主脚に滑走路の路面がふれ
「中々なタッチ・アンド・ゴーでしたね」
「それにしてもまこと優希に先を越されるとは思わなかったわー」
まこのタッチ・アンド・ゴーを見て感想を口にする京太郎と、少し悔しそうに零す久。それよりも、なぜ麻雀していた場所からヒコーキの離着陸が良く見えるのか……
答えは単純である。松本空港のプライベート機用の整備エプロンに雀卓を持ち込みそこで打っていたのだ。そんな暴挙が良くできたなと思わなくもないが、利用者が少なすぎてガラガラのデッドスペース化していた場所なので使ってくれるならと空港側からの許可が出たのだ。雀卓1つ持ち込んだところで迷惑する人間も全くいないうえ、
「まぁまぁ、君たち5人の中じゃあの2人のセンスは頭1つ分飛び抜けているからね」
久の言葉にエイノが返す。京子曰く、咲達5人の中でまこが一番操縦適正が高いとのこと。その次に僅差で優希が続き咲、和、久の3人は団栗の背比べらしい。
「まぁ、こればっかりは仕方ないわよ。ただ操縦はセンスだけじゃないからそんなに落ち込むことは無いわ。まこちゃんと優希ちゃんのセンスが飛び抜けてるだけで、咲ちゃんと和ちゃんと久ちゃんのセンスがないわけじゃないからね」
そう言ってケイが慰める。
まこのタッチ・アンド・ゴーを見物後、丁度、キリがいいので休憩を取ることにした清澄高校麻雀部。お茶を一服してリラックスした後、麻雀の練習を再開する。優希が試験前なので練習には加わらず、メンツは久と京子が変わったのみだ。
「ふぃー、ぶち疲れたわ。優希、そろそろおんしの出番じゃけェ」
「染谷先輩の次は私、染谷先輩の次は私……」
「わりゃ、わしより緊張しとらんか?」
淡々と麻雀の練習をしていると実技試験を終えたまこが帰ってきた。
「まこちゃん、お疲れ様。楽しかったかい?」
持ち込んだアウトドアチェアに座り込むまこにエイノが声を掛ける。手渡されたミネラルウォーターで喉を潤して答えるまこ。
「ええ、試験中は緊張でそんなこと考える余裕もなかったですけど…… 終わった今考えると楽しかったです」
まこの答えを聞いて「そうか、それなら良かった」と豪快に笑う須賀父、須賀母もニコニコと笑顔だ。
「おおそうじゃ、優希。空の様子じゃがな……」
ふと思いついたような顔をした後、優希に上空の風の様子など自分が感じとったことを伝えていく。当然、相当に有り難い情報なので優希も真剣に聞く。そんな素直な後輩にまこは激励代わりに背中をポンと押して送り出す。
「お疲れ様です、染谷先輩。席、替わります?」
「いや、もうちょい休憩させちょくれ。流石にこの状態で打つんはしんどいわ」
丁度対局が終わったのか京太郎が労いながら、席を進めてくる。もっとも、試験での疲れが出ているのか断られた。それならと再び席について京太郎は咲、京子、久と対局を始める。この頃、メキメキと腕を上げてきた後輩の対局姿を笑顔で見守りつつ、フッと聞きたいことがあったのを思い出したまこは後輩の背中に向かって声を掛ける。
「のう、京太郎。ちょいと京子から聞いたんじゃが…… わりゃ、ニュージーから長野まで本気で紫電改で飛ぶ心算じゃったんか?」
そう、聞きたいこととはニュージーランドから西回りで長野まで帰ってくるという壮大な飛行計画のことだ。距離12,000 km、予定飛行時間3日という無茶苦茶な飛行計画である。まこの疑問に京太郎は「えー、本気でしたけど」と答え、チームメイトを呆れさせる。
「京ちゃん…… いくらなんでもそれは無茶すぎると思うなぁ」
「そうですよ、須賀君。実際に操縦桿を握っているので分かりますが、3日ぶっ続けで飛ぶなんて無謀以外の何物でもないです」
「ほんと兄さんはヒコーキに関してはバカなんだから」
咲と和に続いて京子も中々な毒を吐く。流石に妹のこの言葉にはカチンときたのか顔を引きつらせる京太郎。
「おうおう、わが妹よ。免許取りたての初心者マークの時に
反撃とばかりに妹のお転婆ぶりを大暴露する京太郎。当然、京子も頭に血が上るわけで、
「なによ!」「なにを!」とメンチの切り合いをする須賀兄妹。いきなり始まった
「フフフ、若いっていいわね。それにしても京太郎と京子の無鉄砲さは誰に似たのかしら?」
「ベイルアウトした先の雪山で、小銃担いだ歩兵を拳銃でホールドアップさせた君の血のせいじゃないかな?」
「あら、それを言うならあなたの血の方が強いんじゃないかしら? ねぇ、敵機を見れば真っ先に突っ込んでいって殲滅する隊長さん」
流石は年の功と言ったところだろうか、お互い皮肉を言っているにもかかわらずニコニコと仲の良さを見せつける須賀夫妻だった。ちなみに、免許取りたてでバッファロー戦闘機に練習機で喧嘩を挑んだ京子だが、ちゃっかり勝ち星を挙げていたりするのが何気に恐ろしい。カエルの子はカエルとはよく言ったものである。
………………………………
………………
………
「で、みぽりん、須賀君とどこまで行ったの?」
「ふえ!?」
場所は変わって大洗学園艦にあるみほの部屋。この日は戦車道の練習も午前だけなので恒例の仲良し五人組でご飯会だ。沙織謹製の特製オムライスに舌鼓を打ち、インスタントコーヒーで作ったカフェオレでほっこりしている時にいきなり沙織が切り出した。
「そうですよ、みほさん。もうすでに須賀君と手くらいは繋ぎましたか?」
女三人寄れば姦しいと言うが、5人集まっているのだ、当然雑談で盛り上がる。で、密かに京太郎に思いを寄せているみほが雑談の肴になるのが毎回の流れだ。毎度、同じ流れになるのだから慣れろと言いたいところだが、みほはその度に初々しい反応を返してしまう。その反応が見たくて沙織たちは毎回同じキラーパスを出すのだが……
「あうあうあうあうあうあう……」
「その様子ではまだ手すら繋いでないみたいですねぇ……」
「いくらなんでも奥手すぎないか? 西住さん」
みほの様子を見た優花里が大体の状況を察して溜息をついて、麻子は冷静に突っ込む。
「みぽりん! なに愚図々々してるの!? 須賀君盗られちゃうよ!!」
沙織の言葉にウンウンと頷く優花里、麻子、華。しかし、よくよく考えれば清澄メンバーの中に割り込みを掛けるのはみほの方になるのだが…… 恋は戦争、奪ったもの勝ちだ。こうやって親友たちが発破をかけているにもかかわらず顔を赤くしてもじもじするだけのみほ。普段戦車道で見せる凛々しさや決断力に富む指揮官の面影は微塵も見られなかった。
「ええぃ、じれったい! みぽりん! 須賀君のことが好きなのか、そうじゃ無いのか、はっきりしなさい!!」
みほの余りに煮え切らない態度に焦れてきたのか、沙織が机をダンと叩きつつみほを詰る。その剣幕の強さに怯えて涙目になるみほ、少し可哀そうになったのか優花里が沙織を宥めにかかった。
「まぁまぁ、武部殿。西住殿が完全に怯えてますよ。それに西住殿の性格を考えるとこうなるのも致し方ないと思います」
「でもゆかりん! みぽりんがこのままじゃ須賀君と進展なくお別れに成っちゃうよ!」
沙織の剣幕が優花里にも向くが、当の優花里は涼しい顔。それどころか「まずは西住殿の気持ちを固めるところから始めましょう。そこがあやふやだと二進も三進もいきませんよ?」と逆に沙織を説得にかかった。
「西住殿。実のところ西住殿は須賀殿のことはどう思っています?」
「ううっ…… どう思ってるなんて言われても……」
「それなら具体的に想像して考えてみましょう。 ……そうですねぇ、新婚で須賀殿を玄関まで迎えに出たら抱きしめられたとか?」
優花里に言われるままに目を瞑り、シチュエーションを想像するみほ。エプロン付けて台所で料理をしている自分、玄関からドアが開く音がして「ただいま~」と京太郎の声が聞こえてくる。一旦コンロの火を消してトタトタと玄関に移動するとスーツを着た京太郎が立っている。「おかえりなさい」そう言うと京太郎が再び「ただいま」と言って自分を抱きしめ、接吻を求めてくる……
「すごく…… すごく、いいかも……」
妄想に浸りきってそう独り言をこぼすみほ。途中から下腹部にポカポカと言うかキュンとした何かを感じて無意識に右手を持って行き摩っている。自分の右手がどこに行っているのか、彼女自身は気づいてないが、友人たちはバッチリ気付いている。
「その様子だと確実に須賀のことが好きだな」
「ですよね~」
娘を見つめる母親のような目の麻子と優花里、そして恋愛大好きなせいで瞳が爛々と怪しく輝く沙織。しかし、彼女らとはちょっと違った様子を見せる女子高生がこの場にひとりいる。
「みほさん、ちょっとお耳を貸していただけますか?」
「ふぇっ? 何、華さん?」
ふわふわと京太郎との新婚生活の妄想に浸っていたみほだったが、すこしトリップしつつも華に言われるがまま耳を貸す。
「では、みほさん……」
ごにょごにょとまるで内緒話のようにみほに話しかける華。何を話しているんだと首を傾げる3人娘。最初のうちは普通にうんうんと頷いていたみほだが、次第に顔が赤くなっていき……
「はぅ!?」
茹蛸のように真っ赤になってダウンしてしまった。
「み、みぽりんーーーっ!!」
大声を上げて沙織がみほの無事を確認しようとするが、襟を掴んで前後に揺すりまくっているのは止めを刺そうとしているようにしか見えない。肝心のみほの様子だが、「あうあう……」と言いながらグルグルお目々、おまけにタラリと一筋の鼻血をだして完全にオーバーヒートしている。
「ちょっと、華! みぽりんに何吹き込んだの!?」
ヒートアップした沙織はその矛先を華に向ける。まぁ、間違いなく彼女が原因なのでその行為は間違いではないが、肝心の華は「あらあら、どうしましょう?」とどこ吹く風。
「いや、五十鈴殿? 冗談ではなく西住殿に何を耳打ちしたんですか?」
「普通、耳打ち程度であんな風にはならないぞ……」
比較的冷静な優花里と麻子から不審の目を華に向けられても余裕の態度が崩れない華。まぁ、隠すほどのことでもないのでみほに耳打ちした内容を皆にも話すことにした。
「そうですねぇ…… みほさんが須賀君との新婚生活の妄想に浸っていたみたいなので、その続きを耳打ちしただけですよ?」
「はぁ…… 続き…… ですか?」
優花里が不思議そうな顔で華に訊き返す。華の説明を聞く限りでは至って普通の会話に思える。しかし、それだけでみほがオーバーヒートするだろうか? 沙織と優花里が頭の上に大量のハテナマークを浮かべている一方で、大洗女子学園随一の才媛の麻子はどうやらコトの流れが読めてきたようで、げんなりとした表情を浮かべつつさらに詳しい内容を華に問いただす。
「で、五十鈴さん…… 一体どんな内容を西住さんに吹き込んだんだ?」
「そうですねぇ…… 結婚したばかりのみほさんが須賀君を玄関まで出迎えるところを想像してらっしゃったみたいなので…… その続きをですね」
そこから華が語る内容は強烈だった。テレビだと間違いなくピー音がかぶさる言葉のオンパレード…… と言うか、下ネタ全開のお下品バラエティーでもこれほどの放送自粛用語の大名行列は滅多にお目にかかることがないだろう、そんなレベルである。
当然、そんな内容を聞かされて沙織、優花里、麻子の顔が見る見るうちにトマトみたいに赤くなっていく。見た目純情そうな大和撫子の華がニコニコと柔和な笑みを浮かべつつ、その口でピー音連発のお下劣話を紡ぐのだからシュールなことこの上ない光景だ。
「で、そのままお布団の中で……」
「華ぁぁぁぁぁああああ!! あんた何言ってんのぉおお!! と言うかどこでそんな言葉や話を覚えた!?!?」
いち早く正気に戻った沙織が華の胸倉を掴んで揺さぶりつつ華を詰るが、肝心の華道娘は沙織の権幕をどこ吹く風と言った感じで流す。
「何処って…… 小説とかDVDとかを見てですね……」
「うわーーーん!! 純情な華がどこか知らない遠い場所へ行っちゃったよぉぉおおおお!!」
淡々と語る華に沙織は半狂乱、中学以来の友人の見てはいけない側面を見てしまった彼女のショックはいかばかりか…… 恋愛、恋愛と常に言い続けている彼女の方がはるかに純情、と言うか初心であった。
「あうあうあうあう…… す、須賀殿は西住殿の思い人…… す、須賀殿は西住殿の思い人……」
顔を真っ赤にしてブツブツと呟きながら壁に頭を打ち付ける優花里。最初は京太郎とみほのペアで想像していたのだが、華の話を聞いているうちに自分とみほが入れ替わってしまったようだ。こやつも初心のようで煩悩を振り払おうと必死になっている。ブツブツ呟いていた内容もいつの間にか般若心経に変わっており、壁へのヘッドバットも読経のリズムを刻んでいる。何かの新興宗教のようで少し怖い。
「五十鈴さん中々やるな…… 私もまだまだ勉強不足だな……」
顔を赤く染めながらも、華に知識で負けたことを悔しがる麻子。意外にもこの方面の知識をそこそこに持っているらしい。普段はクールぶっていてもやはりお年頃の女子高生、猥談に人並みに興味はあるみたいだ。
「麻子! そんな勉強しなくてもいいの!! あと、華! そんないかがわしいモノさっさと捨てちゃいなさい!!」
「えー…… 結構お値段するんですよ、お小遣いもそこそこつぎ込みましたし……」
「一体どんだけ持ってるのよ!! 第一、あんたまだ16歳でしょ! 18歳以下お断わりの品なんか持つな!!」
「あっ、みほさん。万が一の時の為に麻縄も用意しておきますか?」
「話を聞けぇえええええええ!!!!!!」
鬼のような形相でまくしたてる沙織、それをのらりくらりと躱す華。もはや出来の悪いコントである。沙織の方は華のことを思って喚いているのだろうが、傍から見ると不良娘をガミガミと叱り飛ばす潔癖症のお母んみたいだ。
女3人寄れば姦しいとは言うが、5人寄ればもっと喧しいのだろう。そこに下ネタ方面でのツッコミ殺しの天然が混じっているのだ、ご飯会の空気は完全にカオスになってしまった。
………………………………
………………
………
夕暮れ時の信州のファーストフード店、そこの二人掛けのテーブル席で男子高校生がポテトフライを齧りながら小説を読みふけっている。
「よう、誠。待った?」
「おう、まぁそこそこ待ったぜ」
そこへ金髪の長身の別の男子高校生がやって来て、もともと居た男子高生に声を掛ける。ポテトを齧っていた彼は高久田誠、中学以来の京太郎の友人だ。
「お前も大変だよなぁ、京太郎。大洗との往復なんて無茶やってんだからよ」
「まぁ、俺が自分で言い出したことだからな。言ったことの責任は取るさ」
誠の向かいの椅子に座り、手に持っていたトレーに載っているテリヤキバーガーに齧り付く。
「うん、旨い!」
「で、その忙しい須賀殿がこんなところで油を売っていていいのか? 清澄にいる間にお姫様たちの機嫌を取らなくていいのか?」
「んー……」
ずいっと身を乗り出して京太郎に問いかける誠、それに京太郎は生返事を返す。
「いやまぁ、ちゃんと麻雀部の皆には
「俺は勘弁だぜ? 痴情の縺れで大事な親友が刺殺されるなんて展開は」
「誠、お前サスペンスの見過ぎだろ……」
呆れ顔を京太郎に「ニシシ」と悪い笑顔の誠。明らかに京太郎を揶揄って楽しんでいる。ただ、刃傷沙汰は無くても大喧嘩くらいはあり得るんじゃないかとマジで誠は考えていたりする。
「で、行き成り連絡入れてきやがって。何か問題でも起こったか?」
「いや、そんなんじゃなくてお前と駄弁りたいだけなんだがな……」
「……は?」
ほんの2時間ほど前に携帯に電話が来て、急に呼び出された誠は何か緊急の相談事かと少し身構えていたのだが…… 京太郎の口から出たのはただ駄弁りたいだけ。拍子抜けも良いところだし、そんなことでいきなり呼び出されたかと思うと少し腹が立つので返す返事も少し棘のあるモノになる。
「いや、誠。お前には悪いとは思うがな…… よく考えてみてくれ」
「なんだよ?」
「麻雀部のメンツは俺を除いてみんな女子、そして俺が短期留学しているのは県立大洗
「あー……」
「話題の振り方によっちゃセクハラになりかねないからな、結構気を使ってしゃべってるんだぞ…… たまには同性の親友と全く気兼ねしない会話がしたくて何が悪い!!」
「あー、分かった分かった。俺が悪かったからそんなにヒートアップするな」
どうどうと京太郎を宥める誠。確かに京太郎の境遇を考えれば十分同情に値する。同年代のモテない君たちが激怒しそうな贅沢な悩みだが、女子ばかりの集団の中で男子一人だけというのは存外ストレスが溜まるのだ。
「まぁ、愚痴ぐらいは幾らでも付き合うがな……」
「流石、小学校以来の親友。頼りにしてるぜ」
その後、本当にどうでもいい世間話や馬鹿話で盛り上がる京太郎と誠。世間一般の男子高校生らしい姿と言えばまさにそうだろう。会話を楽しむ2人、しかし、楽しい時間はすぐ過ぎる。
「おっと、もうこんな時間かよ。京太郎、俺、そろそろ帰るわ」
「了解、俺も帰らないとな…… 大洗の短期留学が終わったら時間に多少余裕が出来ると思うんだが……」
「おう、その時はまた一緒に飛ぶか? お前とロッテ組めば向かうところ敵なしだからな!」
そう言って暗くなりかけた空の下、軽く手をあげてサヨナラの挨拶をする誠。その背中を見送った京太郎も、自分の家に帰るべく歩き出した。
大洗運命の決勝戦まで後数日に控えた残暑厳しい初秋の夕方だった。
第9話は以上です!
次の話も日常回を予定しているのでよろしくです。
誤字脱字等あれば報告宜しくお願いします。
評価感想頂けるとすごく嬉しいです!
ではまた次回にお会いしましょう!
【豆知識】
端的に言えば当該航空機に対して指示命令が出来るかどうかです。
情報官は空港の状況に関する情報の提供は出来ますが、航空機への指示命令は出来ません。
一方で管制官は航空機への指示命令権を持っているので、航空機は管制官の指示に従う義務があります。
管制官がいる空港の事を管制空港、管制官は居らず情報官のみが居る空港をレディオ空港、両者とも居ない空港をリモート空港と言います。