首輪付きと白い閃光と停滞の異世界物語   作:紅月黒羽

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第4話 理想

 それから数日が経ちその間に私たちはこの海域を出る準備をしていた。準備といってもそんな大層なものでもなく、一応の武装とこれからの計画といった簡単なものだった。無論考えるのは簡単だがそれを成すのは困難だろう。

 それでも私はやらなくてはならない。それが今まで散っていった仲間の手向けになると信じているから。

 

「ソレデハナ、私タチガイナクナッテモオ前ガ皆ヲ守ッテクレ」

 

「勿論任セナサイナ、貴女タチガイナクテモヤッテミセルワ」

 

 しかしそうは言ってもこれほどの規模が空くとなると戦力が乏しくなるのは否めない。だがそれでも装甲空母姫はやってみせると言った。

 ならばそれを信じよう。こいつは口だけではないと私がよく知っている。

 

「タダ……ヤッパリ寂シクナルワネ」

 

「何ダ、オ前ガソンナ顔ヲスルナド珍シイナ?」

 

「皆家族ミタイナモノダカラカシラネ、離レ離レニナルノハ寂シイワネェ」

 

 いつも気さくに皆と離している姿からは想像できないほどの弱音を吐いたことに驚いたがむしろ皆のことを思っているから普段からあのように接しているのだろう。

 ただ…

 

「少シ違ウナ」

 

「?」

 

「ミタイナモノデハナイ、私タチハ家族ダ。何処ニイヨウトソレハ変ワラナイ」

 

  そう私たちは家族だ。今までもこれからもどんなことが有ろうと私たちはずっと繫がっている。

 

「フフッ、貴女ラシイ考エ方ネ。デモ私ハ言ッタ筈ヨ?邪魔ヲスルナラ容赦ハシナイッテ」

 

「ソンナ事態二シナイ様ニスルノガ私ノ仕事ダ。ナニ、心配スル必要ハナイ、絶対二成シ遂ゲテミセル」

 

「エェ、期待シテイルワ」

 

 互いに自分たちが成すことを考え最善を尽くす。それが私と装甲空母姫が誓ったことだ。こいつは私とは違う考えを持っているが仲間のことを想っていることは同じだ。そんなやつだからこそ私は信用できた、これからのことを託すことができた。

 たとえ私がいなくなろうともこいつなら私と同じような道を歩んでくれるのではないかと。そんな信用とも期待とも言えぬ感情が私の中にはあった。

 

 

 

─────

 

 

 

「ヨシ、ココダ」

 

 今までいた海域を離れここまで来るのに丸二日掛かった。普通に移動すればこんなに時間はかからないがこれほどの人数で移動しようとなると艦娘に見つかる可能性があった。

 だからできるだけ早く動きながらも細心の注意を払いながら移動していたのでここまで時間がかかってしまった。

 

「数分ノ休憩ノ後荷ホドキヲ始メル、クレグレモ艦娘タチニ感知サレナイ様二気ヲツケロ」

 

「了解」

 

 しかし目的地に着いたからと言って油断をしてはならない。数人を見張りに行かせ他の者たちも最低限の警戒だけはしておく。なるべく戦闘を避けなければ私が目指したものが壊れてしまう。

 さすがに行ってくるといってたった数日で戻るなどバカバカしいにもほどがある。

 

「……頃合イカ、皆一度集マッテクレ」

 

 ある程度作業が終わったのを見計らって皆を呼ぶ。たったこれだけの言葉ですぐに手を止め私の元へ来てくれるのは頼もしさすら感じる。

 

「部隊ト別レテ二日ガ経ッタガ改メテ皆二訊キタイ。今コノ場デ戻リタイトウ者ハイナイカ?」

 

 私からの問いに答えるものはいない、皆無言でそれを聞いている。それを理由を訊かせてほしいと解釈した私は言葉をつづけた。

 

「私二付イテクルト言ッテクレタ皆ニハスマナイガ、コレカラ先ハ恐ラク・・・イヤ茨ノ道トナルダロウ。ナニセ今マデノ自分自身ヲ否定シナガラ生キテイカナケレバナラナイノダカラナ。艦娘タチト何度モ戦イ傷ヲ負ッタコトアッタ、時ニハ仲間ヲ、家族ヲ失ッタ。ソレニヨッテ生マレタ憎シミヲ抑エナガラ生キテイクコトハ想像ヲ超エル苦痛トナルダロウ。ソレデモ私二付イテクルノカ、モウ一度訊カセテクレ」

 

「アラ、今更ソンナコトヲオッシャルノデスネ姫様ハ」

 

 ル級が微笑と共に前に出てくる。その言葉からは侮辱などは一切含まれずただ本当に思ったことを言っただけの様だ。

 

「私タチハ本来命令サレテタダソノ通リ動クモノ、シカシ姫様ハソレヲ良シトシナカッタ。自分タチノ意思デ行動シ命令サレテモ鵜呑ミニセズ考エル機会ヲ与エテクダサッタ。モシ私タチガマタ命令サレテ動イテイルト思ッタラソレハ間違イデス、皆自分タチノ意思デ貴女二従オウトシテイルノデス」

 

 ル級の言葉に同意するように集まっていた皆が私を見つめてくる。確かにもう聞いていたなお前たちがどんな気もちで私について来ようとしていたのかは。全く最近は余計なことばかり考える。まぁ、何も考えず突っ走ることよりはマシだとは思うがな。

 

「……分カッタ、デハ改メテ言オウ。コレカラヨロシク頼ム」

 

「「ハッ!」」

 

 本当に頼もしかった、こんな異端者の私に付いてきてくれることが嬉しかった。皆が私を信じてくれていることに誇りを感じた。危険な道だと分かっても途方もない苦行だとしても皆は私に付いて行くと答えてくれた。そんな彼らに報いようと絶対にこの戦いを終わらせると一段と意気づいていた。

 

 

 

 

 

 しかし私はその期待に応えられなかった。そしてあの日から私は壊れてしまった、いや戻ってしまったと言った方が正しいのだろうか。

 目的のために日々を過ごし資材を集め基地に帰ろうとしていたあのとき、あと少し私に力があったなら……。

 

 

 

―――――

 

 

 

 新しい海域にも慣れ基地もある程度整ってきていた。最近のやることといえば資材回収と基地の増強だった。基地の増強と言っているがやっているのは居住スペースの拡張だ。軍事的な改造など全くしていない。

 理由としてははぐれた深海棲艦を回収するためだ。未だに人類と深海棲艦の戦争は続いているがそうなるとどうしてもはぐれてしまったり、運よく一人だけ生き残ってしまう者もいる。それを運よくと言ってしまっていいものなのかと考えてしまうが戦争をしているならしょうがない、何事も命あっての物種だ。それらを受け入れるために拡張をしているのだが資材が中々集まらない。

 

「マダコノ辺リダトコンナモノカ」

 

 出来るだけ危険が少ないように基地の近場で集めてはいるがどうも出が悪い。なので今日は少しずつ移動しながら比較的多く出てくる場所を探しているがもっと遠くへ行かなければならなそうだった。

 しかしその分艦娘と出会う危険も増える。資材は少しずつ貯めていけばいいが、もし艦娘との戦闘になったらこちらの被害は大きいだろう。ならばここは無理をせず地道にやっていくかと考えていたが、

 

「姫、モウ少シ遠出シテミナイカ?危険ハ増エルガ今ハ一人デモ多クノ仲間ヲ助ケタイ」

 

 珍しくヲ級が自分から私に意見を申し出た。普段は物静かで余り他人と接していないヲ級だが本当は人一倍の仲間思いだということはこの場にいる者全てが知っている。

 

「シカシダナソレデハ……」

 

「私モ同意見デス。今ハ一刻モ早ク基地ヲ強化スルベキカト」

 

「ル級モカ」

 

 より良い成果を得るためにはリスクが付きまとう。しかしヲ級やル級の言っていることも分からんではない。

 

「ウム……」

 

 正直私はどちらとも決めきれずにいた。リーダーとしての立場と私情に板挟みされていた。しかしどちらかは選ばなければならない。そして私は結論を出した。

 

「ソウダナ、今ハ一刻モ早ク基地ノ増強二取リ掛カルトシヨウ」

 

 今思えばここで無理矢理にでもヲ級やル級を納得させ引き返せばよかったのだろう。しかし私は部下からの頼みという自分勝手な言い訳を作り深く進むことにしてしまった。  

 これが破滅への一歩だということに気づかないまま。

 

 

 

─────

 

 

 

 結果としては満足いくほどの資材が取れた。遠出したこともあってほとんど手付かずの穴場を見つけられることもでき十分過ぎるほどの成果だった。皆も満足した様子で和気あいあいとしている。それを見ていると自然とこちらの顔も緩んでしまう。やはりここまで来た意味はあったとそう思えた瞬間だった。

 

「コレダケ採レレバ一気二基地ガ大キクナル……!」

 

「ソウネ、チャント採レルカ心配ダッタケド杞憂ダッタヨウネ」

 

 ヲ級やル級も心の底から嬉しがっているように見える。それも仕方のないことだろう、何よりも仲間のことを大切に思っているヲ級だ、また誰かを助けられるなら彼女にとってこれ以上の喜びはないのだろう。

 

「サァ、ソロソロ帰ルゾ」

 

 さすがにこれだけの資材が採れれば十分だと考え基地に帰ろうとする。しかし一応のため頭数を確認していたときヲ級の顔色が急に悪くなっていたことに気づいた。

 

「ヲ級一体ドウシタ?」

 

「付近ノ偵察二出シテイタ艦載機カラ連絡……敵艦娘ヲ発見繰リ返ス、敵艦娘ヲ発見。敵ハ真ッ直グコチラ二向カッテキテイル!」

 

「何ダトッ!?」

 

 予想していなかったわけではない、そんな都合のいいことなどあるはずがない。そうは思っていてもつい考えていたのかもしれない、このまま何も起こらず帰れると。

 

「全艦最大戦速デ基地マデ戻レ!」

 

「姫ハ!?」

 

殿(しんがり)ヲヤル。ソレマデニデキルダケ離レロ、私モロクナ武装ナド『コイツ』シカイナイカラナ」

 

 そう言って私は私の艤装であり家族でもある『モノ』の頭を撫でた。私たちは一部の艦を除いて艤装を付けていない。ここにいる者たちは戦いを望んでいない、だから艤装を外させた。それがどれだけ危険なことなのかは皆で話し合った。そして皆納得してくれた。

 私はこの部隊のリーダーだ。ならば部下を守るのが当然の義務であり、部下の盾で在るのが私の役目だ。

 

「キタゾ!」

 

 ヲ級が敵艦載機の接近を知らせてくれた。艦載機の種類を見ると今までも何度か見ているものだが、あれは確か高性能のものだったはずだ。そこから察するに敵の練度も主力級の艦だろう、ならば時間の猶予はないすぐにでも撃ち落とさなければ退き始めたばかりの皆に追いついてしまう。

 今対空砲火ができるのは私とル級、重巡リ級、ネ級数隻。それとヲ級だけだ、あの艦載機の性能を踏まえるとどうしてもこちらの数に不安が残る。しかしやらなければならない、装甲空母姫と誓ったことをそう易々と破るわけにはいかないからな。

 

「砲撃、来ルゾ!各艦散開!マダ敵ハコチラヲ狙イキレテイナイ、的ヲ絞ラセナイヨウニ動ケ!ル級トヲ級、重巡ハ対空弾幕ヲ張レ!ダガ意識ハ回避二向ケテイロ、当タラナクテモイイカラ奴ラノ自由二サセルナ!」

 

 艦載機に続き砲撃も艦娘たちは行ってきた。この距離ではそう当たるものではないがそれでももたもたしていたら、いつ当たってしまうかは分からない。だが敵も当てるつもりは恐らくない、こちらの混乱を誘っているのかそれとも他よりも的がデカい私を狙っていたかのどちらかだろう。

 

「姫様、私モココニ!」

 

「ダメダ、私ノ次二コノ部隊ヲ率イルノハオ前ダ、ル級。今オ前ガココニ残ッテシマッテハ余計二被害ヲモタラス」

 

 歯がゆい気持ちだっただろうなル級は。もしかしたら私が死ぬかもしれないと思っていたのだろう。だから私と残り、少しでも生存率を上げようとしていた。しかしそれでは私が残った意味が無い。

 

「私ハオ前タチニコレ以上戦ッテ欲シクナイ。汚レルノハ、犠牲二ナルナラソレハ私ダケデイイ」

 

「何ヲ今更!既二私ハ汚レテイマス!ナラバ私モ残ルベキデス!」

 

 いつもは落ち着いているル級がここまで感情的になるほど私のことを危惧してくれているのは嬉しかった。しかし私からすればお前たちが傷つくことの方が自分が傷つくことよりも何倍も、何百倍も辛い。

 

「心配スルナ、望ミハ薄イガヤレルダケヤッテミル」

 

「マサカ……!」

 

 多分お前が想像していることを私はやろうとしている。しかしこれはいつか来ることだったのだ、今更それが来たところで私がすることは変わらない。

 戦争の最中でも戦わずして勝つことができるか、もしくは和解することができるのか。私が求めたいのはこの戦争を無くすことだ。戦ってしまってはそれが永遠と続く連鎖となる。なら最初からそれを断つしかないのだ。

 

「オ前タチハ私ノ希望ダ。ダカラココデ私ノ無理ニ付キ合ッテ傷ツク必要ハナイ。タトエ私ガ沈ンダトシテモオ前タチガ私ノ想イヲ継イデクレレバ私ハソレデイイ」

 

どうせこのまま話し合ってもル級は引き下がらないだろう。ならもう言葉は不要だ無理にでも行かせてもらう。

 

「姫様ッ」

 

「マダ何カ言イタイノカ?」

 

 必死にこらえるようにしているル級を見ながら私は尋ねた。

 

「ドウカゴ無事デ!」

 

 そう言うなり、ル級は既に離脱を始めていた仲間のところに戻っていった。

 ……全く最初からそう言えば良かったものを。余計な時間を使ってしまったではないか。

 

 しかし、そう言われてしまっては沈むわけにはいかないな。

 

 

 




 不完全燃焼感がありますが続けて書くと結構文字数がいってしまうので今回は分けさせてもらいました。
 それと水没王子と白い閃光はあと2、3話くらい後になるのでご了承ください。
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