ル級が離れていったあと私は艦娘たちに接近しようとした。もちろんこちらの事情など奴らはお構いなしに砲撃なり爆撃なりをしてくるが艤装のおかげで当たることはなかった。私の艤装は二足歩行の目がない代わりに異常に発達した腕がある怪物といった体だがその機動力は折り紙付きだ。何の苦も無く砲撃を避けられるほどなのだから。
ただ空となると少し勝手が悪くなる。無論機銃も備えているが精度はそれほど良くもなく数も少ない。そのためコイツだけに任せるのは少々心もとない。だからそこは私が補う。そういう仕組みだ。
しかしそれでも限度はある。いくら私が補助をするといっても主な部分は全て艤装頼りだ。ある程度近づけられれば空母は無力化できるが、それまで被弾せずに近づけることができるのかそこが問題だ。
「戦艦一隻二、空母二隻、重巡二隻ソレト軽巡一隻カ。戦艦ガ少ナイノハ幸イダガ魚雷ニハ注意セネバナ」
軽巡や駆逐といった艦の主砲なら大したダメージにはならないが魚雷だけは話が別だ。当たりどころが悪ければ一撃で致命傷になりかねない。もしそれで機動力が失われたら袋叩きになって終わりだ。
できるだけ軌道を読まれないように接近しながら私は次の行動を考えていた。
(ナルベクコチラ二注意ヲ向ケルヨウニシナケレバル級タチガ危険ダ。沈メル気ハナイガ
コチラカラ仕掛ケテ引キツケルシカナイカ?)
抵抗はしても敵意は見せない。そんなことができるのかと言われればできる気はしない。もともと私たちは敵同士だ、敵意が無いということを証明するなど無理に等しい。加え艦娘たちからすれば『姫級』である私を沈めないわけにはいかないだろう。
『姫』とつけられた深海棲艦は通常の深海棲艦と比べて圧倒的に強い。艦娘と一対一でも負けることはないだろう。だからこそ艦娘たちは余計に私を沈めようとしてくる。
だが今はそれが功を奏している。艦娘に近づくのは容易ではないが一番の目的はル級たちが逃げる時間を稼ぐことだ。それさえ達成できれば問題はない。
「ッ……ソロソロ考エ事ヲシテル場合デハナイヨウダナ」
砲弾が近くに落ちてきた。艦娘たちの精度が上がってきているようだ。こちらの方が機動力が上とはいえ慣れれば対処はできてくる。完全にこちらを捉える前に接近しなければ私はもちろん、ル級たちまで危うくなる。
「速度ヲ上ゲルゾ、最大戦速ダ」
私がそう伝えるとコイツは無言でうなずいた。口はあるから声は出せるのだろうが会話が成り立つほどの喋れるかは分からない。大体コイツが喋るときなどうめき声しか出していない。
しかしこちらの意は伝わっているので次の瞬間には一段と速度が増していった。艦娘たちまであと少しという所まで来たがこれからどうするのか正直に言って何も思いついていない。
(ヤルダケヤッテミル、トハ言ッタモノノドウスルカ……)
ただ近づいていくだけなら沈められかねないだろうし、だからと言って本格的に戦闘を始めてしまっては元も子もない。何か策の一つでも考えられればいいのだろうが、いかんせんこういう事態は初めてのことだから思考が追い付かない
(余計ニ警戒サレカネナイガコレシカ方法ハナイカ)
あまり良い案とは言えないがそれ以外に思いつかなかったので妥協するしかない。さらに速度を上げるため息を整え力を溜める。その意識をするだけでコイツは私の考えた通りに動いてくれる。
「きゃあ!?」
爆発的に速度が上がり次の瞬間には艦娘たちの横をすり抜けていた。そのとき身軽そうなヤツを少々手荒だが借りることにした。要は人質だ。そうでもしなければこいつらは私の話など聞くはずもないからだ。
「由良!」
「大丈夫です……長門……さん。私にかまわず戦艦棲姫を……」
「くっ……卑怯な!」
旗艦と思わしき戦艦が声を上げて叫ぶ。どうやら私が人質に取ったヤツの名前だったようだ。
「交渉ダ。コイツヲ殺サナイ代ワリニ私ノ部隊ヲ見逃シテホシイ。無論破レバコイツノ命ガアルカハ保証シナイ」
「なに?」
「聞コエナカッタノカ?交渉ト言ッタンダ」
我ながら舌足らずというか単刀直入というか……。確かに誰かと話すのは苦手だし、仲間と話すときも基本的に事務的なことしか話してなかったとはいえ最低限のことしか喋らない癖がこんなところにまででてくるとは。
しかし私の突拍子のない話に艦娘たちは耳を傾ける気にはなったようだ。ひとまずこれでなんとか話すことはできそうだ。
「なぜそんなことをする!貴様らは私たちの敵だろう。戦いたいのならば戦えばいい。もとより私たちはそのつもりだ!」
「マズハ武器ヲ降ロシテ話ヲ聞ケ。私ノ部隊ニハ私ト数隻ヲ除キスベテノ艦ガロクナ武装ヲシテイナイ。私タチニ戦意ハナインダ。タダ静カニコノ海デ暮ラシタイソレダゲガ我々ノ願イダ」
「笑わせる。第一それが本当という保証があるわけでもないだろう?」
「ダガ私ハ殺シテイナイ。私ノ艤装ヲ使エバ簡単二殺セルコイツヲ、ソレ以前二私一人デモコノ場二イル全員ヲ」
これは嘘ではない。確かに艦娘たちの練度は決して低くはないが勝てないわけではない。むしろ私一人で勝てるほどだ。第一、空母が二隻いる状態で私の接近をゆるしたのならそいつらはもう使えない。その時点で数の差はぐっと減る。
それにまず与えられるダメージの量が違う。私や他の『姫級』が艦娘たちからの砲撃で一撃で沈むことはまずない。それに対し艦娘からすれば私の砲撃が一発でも当たれば即致命傷だ。仮に砲撃が無くても私の艤装の力で殴るなり絞めることはできる。
「私ノ要求ハ仲間タチガ無事二離脱スルコトダケダ。私自身ハソコニ含マレテイナイ、私ヲドウスルカハ、オ前タチ次第ダ。無論私モタダデヤラレル気ハナイガナ」
「解せんな。なぜそうまでして逃げようとする。貴様らは
「私モ昔ハソウダッタ。タダ本能ノ赴クママニ艦娘タチト戦ッテイタ。シカシ私ハコノ戦イニ意味ガアルノカ、ソンナ疑問ヲ思イ始メタノダ。ソシテ、ソンナ戦イノ中デ命ヲ落トシテイク仲間タチヲ見ルノハモウ嫌ニナッタ。ダカラ私ハモウ奪ウタメデハナク守ルタメニ戦ウコトヲ決メタノダ」
艦娘たちからの反応はない。それも当然といえば当然だ。今まで訳も分からず攻めてきた相手がこんなことを言ってきたら誰だって警戒はするだろう。しかし私はそれでも敵意がないことを伝えたかった。それと同時にル級たちが逃げる時間を稼ぐためにも。
「随分立派な思想だな。しかしそれがなんになる?貴様がそうしようとしていようがいまいが結局どこかで戦闘は起こる。貴様はそれすらなくしたいというのか?」
「究極的ニハソウナルガナ。タトエドンナ壁ガ立チフサガッテモ私ハソレヲ乗リ越エル。ソシテコノ無意味ナ戦争ヲ終ワラセル」
生半可な覚悟ではない。
仲間たちを救いこの戦争を終わらせるなら自分にどんな火の粉が降りかかろうと全てを振り払って進んでみせる。
「……ふっ。戦争のない世界、確かに誰もが願うような理想だな」
なにか考えるように沈黙する艦娘。その間にも私に拘束され震えている由良に「大丈夫ダ。殺シハシナイ」と伝えた。少しは効果があったのか震えは収まり先ほどより表情は軽くなった。
「いいだろう、私たちは貴様の部隊にこれ以上攻撃をすることをやめよう。その代わり由良に手を出したら……」
「分カッテイル、自分デ言イ出シタコトヲ破ルホド落チブレテハイナイ」
良かった。
自分でも驚くほど簡単に艦娘たちは見逃してくれると言ってくれた。約束通り由良を艦娘たちの元へと返す。
今までの会話の間にもそれなりにはル級たちも距離をとれたはずだ。これならば無事に皆が帰れる。そう思っていた。
だが……
「ナッ!?」
突如ル級たちに砲撃が飛来し次々と付近に落下していく。
『長門、これでよかったの?』
「あぁ、充分だ。よくやってくれた陸奥」
目の前にいる艦娘たちではない。目を凝らせばここからに離れた場所にいる艦娘たちから放たれている。
次から次へと、砲撃はやむことなくル級たちに降り注ぐ。
「ドウイウコトダ!貴様ラハ危害ヲ加エナイノデハナカッタノカ!?」
「なにを言っている?
「マサカ……、ソンナ屁理屈デ!」
「だが貴様は他になにも言ってこなかった。それは貴様が犯した失態だ」
「クッ……!」
あくまで自分たちは契約を破ってないと言い張るのか貴様らは!
最初から私たちを沈めるためだけにあんな演技をしてまで、なぜそこまでして戦争がしたい?
私たちが人類の敵だから?艦娘と
そんなことがあってはならないあるはずがない。誰もが平和という安心して生きられる世界を望んでいるはずだ。それなのに……
『姫様!敵艦隊がコチラニ攻撃ヲ……キャァ!』
「ル級!?クソ!今スグ攻撃ヲヤメサセロ!」
「それは無理な話だな。元より私たちと貴様らは敵同士だ。それが出会ってしまえばこのようなことなるのは当たり前だろう?」
さも当然のように言ってのける長門。その間にも次々と攻撃を受ける仲間たち。そんな状況で私は動くことができなかった。
「ア、アァ……」
出てきたのは声にもならない情けない嗚咽だった。助けにいくことはできた。目の前の艦娘たちを蹴散らし今すぐにでも皆の所に向かいたかった。しかしそれ以上の無気力感に襲われ私はなにもできなかった。
力ある者が弱き者を助けるという責務があるにもかかわらず、ただ遠くから皆が沈んでいくのを見ている。
「ヤメロ、ヤメテ……ク……レ」
何とかひりだして出た言葉は懇願だった。もう
しかしその結果がこれだった。守ると誓ったものは守れず、自分のせいで仲間を殺すことになってしまった。
もう私はうなだれて廃人のように懇願することしかできなかった。
そんなとき誰かが語り掛けてきた、「それでいいのか」と。
―――――
私は装甲空母姫になんと言った。
復讐の連鎖を止める、それを成し遂げてみせるだと、笑わせる。
戦争をなくす、そんなものもう既に起きてしまった。
私はなぜこんなことをしようと思った。
意識が
結局はこうなる。
たった一度火蓋を切っただけで私たちを敵とし、虐げる。言葉が通じようと姿が似えど一度そう判断されればゼロになるまで駆逐される存在。
人間の子供でも考えるようなほんの少しの願い、希望、夢。それらは全て奴らからすれば戯言にしか聞こえない。
今更なにを言っている、攻めてきたのはそっちからだ。なら倒すしかないだろう、と。
だがそれでも。
なぜ戦意を見せなかった仲間が沈まなければならなかった!?なぜ平和を願った皆が攻撃されなければならなかった!?以前にあった出来事で勝手な烙印を押されどうして死ななければならない!?
人間は勝手だ。自分たちを守るためならどんなことでも平気でする。騙し、利用し、裏切る。そんな奴らに最初から交渉など無意味だったのだ。
そんな奴らに私たちは苦しめられてきたなどと認められるはずもない。
……あぁ、だったら私もそう生きればいいのだ。本能の赴くままに。生まれた時から決まっている運命に。人間が勝手に決めてきた私たちの想像通りに。
ならもう迷う必要はない。たダ壊し、好キに殺ス。今まデ堪エテきタモノを吐き出セ、ソシテ叫ベ。
モウ私ヲ抑エルモノハナイノダカラ!!
「アアアアァァァァアアァァア―――――ッッ!!」
そのとき
―――――
「ふん、あれほど威勢を張っていたのに壊れるのは早かったな」
「長門さんあそこまでやる必要は……」
「相手は深海棲艦だ、容赦はいらん。好きにさせれば奴らの思う壺だ、先に仕掛けられる前に潰しておいた方がいい」
「それは……そうかもしれませんが」
未だに項垂れている戦艦棲姫を見ている由良の表情は複雑だった。
確かに深海棲艦は敵だ。何の前触れもなく見境なしに破壊していく。今までも、そしてこれからもずっとそうであろう。少なくとも他の艦娘たちはそう思っていただろう。
しかし由良は、これでよかったのかと考えていた。
今まであんな交渉をしてくる深海棲艦などいなかったし、あまり戦うことにも積極的ではないように感じた。
自分たちは深海棲艦と戦うための存在と分かっていても間近で聞いていた由良には分かった。あの言葉は嘘ではないと。本当に仲間が大切でそれを守りたいだけだと。
「まぁあとは陸奥さんたちに任せれば大丈夫でしょ!粗方私たちがやることは終わったし」
「油断しないの飛龍。まだ全部倒したわけじゃないんだから」
「それはそうだけど、こうも呆気なく終わるとね~」
二航戦の飛龍と蒼龍が構えていた弓を下しながら警戒を解く。それでもどんなことが起きてもいいように最低限身構えるあたり練度が高いことが分かる。
そうはいっても目の前に敵がいる以上空母ができることは自爆覚悟の特攻くらいしかないの、で先ほど飛龍が言ったようにやれることがない。その点で言えば蒼龍も多少なりとも物足りなさを感じていた。
それはどうやら他の艦娘たちも同じようで、
「むー、私としてはまだ暴れたりないから少しくらい来てくれてもいいのだけれど」
「それには同意だが、まぁ早く終わるならそれでいいだろう。少々早いが今から一杯やるのも悪くはない」
「あっそれいいわね!もちろん私も一緒に飲んでもいいのよね?」
まだ昼頃だというのに酒の話をしているのは足柄と姉妹艦の那智だ。那智は元々かなりの酒豪だが足柄も負けず劣らずだ。大体この二人が飲んでいると酔っぱらって寝てしまうのでその後始末をするもう二人の姉妹艦はいつも手を焼いているわけだが。
いつも通りの光景。任務を終え声からの予定を親しい仲と話し合う。艦娘たちにとってはいつも通りで何気ない幸せ。だというのに由良には戦艦棲姫のことが気がかりでならなかった。
情に流されやすいといえばそうかもしれない。他人に言われたことをよく信じるタイプだし仲間からもそれでちょっかいを掛けられたこともあったが、由良にはやはり戦艦棲姫の言ったことが嘘には感じなかった。
「各自私語をするのは自由だがそろそろ仕上げに入るぞ」
長門の一声で艦娘たちの気が鋭くなる。最早人間でいうなら廃人同然だが相手は深海棲艦、ましてや戦艦棲姫だ。油断をする暇などないしこれからなにをするか分からない。
「飛龍と蒼龍は離れていろ。どのみち私たちがやるからな」
「了解です長門さん!ばーーっと派手にやっちゃってください!」
「もう飛龍!油断しないようにって言ったばかりでしょ!」
「ふっ、いいさ。ビッグ7と呼ばれた私の力、よく見ておけ!」
飛龍の調子のいい言葉に機嫌をよくしたのか微笑みを浮かべながら答える長門。彼女にとってビッグ7という称号は誇りでありなくてはならないものだ。まだ長門たちが艦娘ではなく軍艦であったとき長門型二隻は日本の象徴でもあった。それが艦娘になった今でも残っているのだろう。
「各艦、全主砲斉射!目標、敵戦艦棲姫!」
主砲を構え戦艦棲姫に狙いを定める。さすがの『姫級』でも練度の高い艦娘たちの一斉射をくらってはひとたまりもないだろう。
「てーーッ!!」
轟音とともに砲弾が発射され戦艦棲姫に向かっていく。
巨大な水飛沫が上がり長門たちに降りかかる。思ったよりも視界は悪くなったがもう敵はいないだろうと思い戦艦棲姫の残骸を確認しようとした長門だったが―――
(黒煙が見えないだと……?)
長門が装備している艤装には九一式徹甲弾が装備されている。徹甲弾とは敵の装甲を打ち破り破壊することも目的としたものだが、これ自体に炸薬は含まれておらず目標に命中しどこかしらの部分に損害を与えたときその部分から黒煙が上がることが多い。
しかしあれだけの集中砲火を浴びてどこも破壊されることなく沈むことなどあり得るのだろうか。あの艤装のどこかにも弾薬庫や機関部といったものがあるはずだ。そこだけ砲撃を受けず沈むわけがない。
ならば残る可能性は―――
(まさか!?)
幾多の戦場を乗り越えてきた長門だからこそ気がついた答え。ありえないことだが今現実で起きている以上それを皆に知らせなくてはいけない。そう考え言葉を発した長門だったが、
「皆気を付けろ、ヤツは―――」
その言葉が続くことはなかった。
何故なら―――
「遅イ」
―――――
水飛沫が晴れたときそこに立っていたのは戦艦棲姫だった。
長門が怪物によって殴り飛ばされたとき飛龍たちは一瞬何が起きたのか分からなかった。沈めたと思っていた戦艦棲姫、艤装の破片をまき散らしながら海面をバウンドするように吹き飛ばされた長門。なによりも先ほどまで廃人の様だった戦艦棲姫と目の前にいる
「モウ少シ早ク始末スレバコンナコトニハナラナカッタダロウニ。マァコレガ貴様ラノ
「長門さん!くっ……、この!」
「待って飛龍!一度体制を立て直さないと!」
「ソンナ暇ガアルトデモ?」
「なっ!?」
艦載機を出そうとしていた飛龍とそれに対し一旦離脱することを提唱しようとした蒼龍だったがいつ回り込んだのか背後を取られていた。それでもすぐさま自爆覚悟で艦載機を放って被害を負わせようとしたのは流石だったが矢を放つ直前に弓を発達した腕で握りつぶした。
絶望に染まる飛龍と蒼龍。だがそれで終わりではない。怪物は直接二人を掴みその怪力によって締め上げようとしていた。
「ぐっ…っ」
「この、離し……なさい……よ」
飛龍たちにも勿論装甲は備わっているが、飛龍と蒼龍はあくまで空母。戦艦と比べるとどうしても脆い。
そんなもの怪物の前では紙に等しい。矢筒ごと矢は砕かれ飛龍と蒼龍は苦悶の表情を浮かべる。
「二人を離せぇぇぇーーー!」
距離を詰めてきた那智と足柄が砲撃を放ちながら怪物へと向かっていく。
しかし戦艦の砲撃でも沈まない怪物にとって重巡の砲撃などうるさい蠅がいるのと変わりなかった。
やがて堪えきれなくなったのかゆっくりと那智たちに振り向き次にとった行動は、
「なんだと!?」
「ちょっと!?」
手にしていた飛龍と蒼龍を力任せに那智立ちに向かって投げた。弾丸のような速度で迫ってくる二人を那智たちは止めるすべがない。さらに那智たちも怪物に向かって速度を上げていたので避けることもできなかった。
そして鈍い音とともに四人は吹き飛ばされる。
「がぁぁっ!」
「なんて奴なのよ。こんな滅茶苦茶なことしてくれるなんて……」
悪態をつきながらも立ち上がる二人。
那智たちよりも損傷の激しかった飛龍と蒼龍は海面に打ち付けられた時点で気絶していた。那智たちも決して無事ではないが二人よりかはマシな状態だった。
しかしそこで終わるほど怪物も生易しくなかった。
那智たちが起き上がるときにはすでに両肩の主砲の照準は終わっていた。
あとはすでに満身創痍な艦娘たちにとどめを刺すだけ。
「ははっ……ほんと、怪物ね」
これが怪物が聞いた最後の言葉だった。
―――――
「そんな…皆さん…」
唯一無事だった由良は目の前の惨状を前に言葉が出なかった。
たった一瞬の出来事。不意打ちのような形とはいえ高練度の艦娘たちを倒していき、圧倒的な力を見せつけた怪物を前に由良はなにもできなかった。
皮肉にも先ほどまでの戦艦棲姫のように。
「あっ」
不意に怪物と目が合った。
殺される。
早く逃げないと。そうしないと自分も皆と同じように殺されてしまう。
しかし由良の意志とは裏腹に体がまったく動かなかった。なぜ、簡単な話だ。ただ単に恐怖で足が震えているからだ。
目の前にいる絶対的な死。その力を目の当たりにした由良にはもう、どうしようもなかった。
「ウウゥ……」
呻き声をもらしながらゆっくりと近づいてくる怪物。由良から見ればこれから自分をどういたぶろうと考えているようにしか思えなかった。
その発達した腕で千切られるのか、それともその巨大な咢で丸呑みにされるのか。想像するだけでも身震いする。
だが、
「え?」
歩みを進めていた怪物がピタッと止まった。よく見るとその視線の先には戦艦棲姫がいた。
怪物はじっと戦艦棲姫を見ていたがやがて由良に背を向け戦艦棲姫の元へと戻っていった。由良はなんで、という疑問を抱いたものの自分がもう安心だということに気づくと緊張が解けたのか糸が切れたように気絶した。
闇に落ちる寸前、砲撃音が聞こえてきたがそれ以上に怪物の叫び声が大きく聞こえた。
そして由良が完全に闇に落ちたあと陸奥たちの艦隊が壊滅するまで数分もかからなかった。
最近の悩みは地の文の表現のレパートリーが少なくてどんな風に書いたら一番しっくりくるかなって考えることなんですよねぇ。
まぁ逆にそれを考えたりうまくできたときが楽しいんですけどね。
今回は前から続いてる戦艦棲姫の苦悩や強さが伝わったりしていればいいかなと思います。