ズサが行く異世界転生 作:グルバスター
(聞こえますか、ズサ?そこがあなたの暮らす新しい世界です)
(………………………………)
(ズサ、聞こえているのですか?)
(スマナイ、イササカ驚イテシマッテナ)
(そこまで驚くようなものありましたっけ?)
(コノ緑豊カナ大地ハ、確カニ地球ニモアッタノダガ、ワタシニハ、ソレトハドコカ違ウヨウニ見エル)
(この世界は10~15世紀の地球に酷似した世界ですが、あなたが地球を訪れたのは、乱開発が進行した宇宙世紀の時代………それも度重なる戦乱で一層荒廃した時期)
(ワタシタチガシタヨウナ他者ニ理想ヲ押シツケルタメノ戦争ガ、地球ヲ駄目ニシタノカモシレナイナ………)
(あなたはその時、まだ意思を持たないただのMSだったでしょう、気に病むこともないのでは?)
(ワタシタチハソウスルタメニ造ラレタノダ!!道具ニ罪ハ無イナドト言ウ人間ガイルガ、兵器ニモ同ジコトガ言エルノカ!?他ニ使イ道ナドナイトイウノニ……………、ワタシタチハソレシカデキナイガ、扱ウ人間ハ償ウコトモデキルデハナイカ……………………)
(心ができたことによって苦しむこともありますが、それを克服するのも心の力です!今は辛いかもしれませんが、いつかあなたが、心を持って良かった、と思える日が来るのを願っています)
(嬉シイコトダナ、感謝スルコトガデキルトイウコトハ。コンナ話ヲ聞イテクレテアリガトウ、女神様)
(敬称など無くともかまいませんよ、そんなに抱え込んでいたのですか?)
ズサは茶色の大地を踏みしめて、女神と言葉を交わしていた。ズサは、自身の心の中にある不安感が溶けていくのを感じていた。女神の言葉自体が、ズサの心情に与えた影響は微々たるものだったが、ズサは、女神が自分の気持ちを汲み取ろう、理解しよう、としたことによって、これまで感じていた自己のアイデンティティーの揺らぎや芽生えたばかりの心に流れ込んできたモノに対する心細さを払拭されたのである。しかし、ズサがこのようなことを理解するのはまだ先の話である。
(話を戻しますね?今のあなたの体高は、約150cmです。)
(ハ?)
(さっきも言いましたが、あなたはこの世界では亜人の一種として生きていくことを推奨します)
(イヤ、ソレハ聞イテイタガ……セメテモウ少シ………)
(1/10サイズということでキリが良かったので…………)
実は、ズサは心を得て早々に低身長コンプレックスに陥っていた。何せ通常のMSより2回り以上小柄な上に、ずんぐりした体格で、シンプルなかっこよさとは少し離れた見た目である。ズサという機体のコンセプトは、重火力MAの小型化・量産化であり、サイズを押さえてミサイルを大量搭載可能なこの機体設計は、非常に合理的といえるのだが、ズサに芽生えた心にとっては必ずしも納得できるものではなかった。
(ヌッ……………コレカラドウスレバイイノダ?)
(まずは、この世界で生きていく術を教えます)
女神が言うには、身体能力(というより機体性能)は、重量や出力が共に1/1000となったので機動性はさほど問題無し、装甲に関しても当面は大丈夫、とのこと。だが、武装はやはり威力も射程もかなり低下しているようだった。まあ、このサイズのミサイルはもはやオーパーツだ。1/10の破壊力といえどこの世界では十分過ぎる。また、ビームサーベルが4本、ギラ・ドーガ用のシールドとビームマシンガンまである。
(補給ハドウスレバ良イノダ?)
(心配ご不要!あなたのコックピットは既に、あの某ネコ型ロボットにも搭載されている原子炉に改造されているのです!という訳で何を取り込んでも一応エネルギーになりますよ、エネルギー化できなかった分でミサイルを造るのです)
(何トイウゴ都合主義……、ナラバ外付ケノ武装ハ?後、ヤハリワタシノ身長ハ伸ビナイト?)
(外付けの武装に関してはあなたの体にエネルギー供給用のコードを用意しています)
(ナルホド………………トコロデ体形ハ変化シナイト?)
(えーっと……、それはちょっとねぇ…………………、
時期が来れば、追加装備を用意できるかと)
(マァ、ワタシハ可変機デスラナイシナ…………………)
(そうですねぇ、その件については、諦めてください)
話が脱線しつつあるが、要は人間と同じように過ごせばよいということである。それどころか食事だけで全ての補給が可能というのは、かなり便利である。
(食事ハドウスレバイイ?コックピットハッチを開ケテ何カ放リ込メバイイノカ?)
(いいえ、あなたのコックピットハッチは開きません)
(何ダト?!デハ食事ハドウスル?メンテナンスハ?)
その後、女神によって告げられた事実は、ズサを大いに驚かせた。ズサの構造はかなり人間に寄せて造り換えられていた。今まで意識していなかったモノアイの下部には開閉式の燃料取り込み口が存在した。30mmバルカン砲は嗅覚センサーと化していた。そのときになって、やっとズサはこの世界に来てからずっと違和感を感じていたことに気づいた。さらに、ズサの体はある程度は自己修復できるのだという。もはや、デビルガンダムの領域である。
(何モカモ新鮮ナモノダナ……………感覚トイウノハ…………)
(人型なんですから、人間に合わせてもすぐに慣れると思いますよ………あっ、後コックピットの機能も頭部に移植されてますからね)
ズサの頭部には、生命線となる機能が満載された。ここが壊されたら、考えること、見ること、聞くこと、補給も出来なくなる。そうなってしまえば、まさしく死。
たかが、メインカメラだけでは済まなくなってしまった。胴体部分が無事であれば大抵動けるMSが、頭まで弱点となってしまった。ズサは、ソレでも良かった。
(人間ニ限リ無ク近ヅケバ、ワタシノ求メル答エガ見ツカルカモシレナイ………………………)
外も内もかなり人間臭くなってきたズサは、既に自分の中にある無駄や非合理的なモノに安心感を見出だすようになっていた。
ーーーーーーーーーーーズサが女神と別れて2日後ーー
タタタタンッ
(随分可愛ラシイ音ニナッタナ…………………)
宇宙での使用を前提としたビームマシンガンは発射音を押さえる工夫などまるで為されていない。ズサは、それを聞いたことは無かったが、あの発射時の振動からして自分が人間だったならば、手に持って使えば間違いなく鼓膜が破れるだろう、と想像していた。だが、実際にはそのようなことはなかった。
(女神ニ教エラレタ通リニスレバ、間違イナカロウ)
ズサは、角が生えたウサギのような生き物だったモノをつまみ上げた。体が所々焼け焦げている。
(擦ラセタダケデモ黒焦ゲニシテシマウ……………、ヤハリ狩リニハアナログナ道具ガ必要カ?)
ズサは最初にこの世界に降り立った地から狩りをしながら、南下していた。女神が言うには、そこにズサのように得体の知れない者でも受け入れてくれる街があるらしい。また、ズサが役に立てる仕事が何種類もあるのだという。
(動物ハ思ッタ以上ニエネルギー源トナルヨウダ………シカシ、黒焦ゲニスレバ美味クナイ、火ヲ通サナイノモ生焼ケノモ駄目ダ!ネオジオンノ人タチガ、食ッテタヨウナ肉ハ今思エバ、トテモ美味ソウダッタ…………ヤハリ焼キ加減ヲコウ…………)
ズサもエネルギーを心配する必要が無くなると、目下の悩みは食べ物がいまいち美味しくないことになった。
しかし、ズサは捌くことも血抜きすることも知らないので、焼き加減だけ何とかしても思うほど美味しくはならないだろう。まあ、ズサがアクシズで見たのは艦内BBQで、パック詰めの肉をそのまま焼いているところだけなので仕方ないのかもしれない。それも地球圏に侵攻してから撤退するまでのただの一度きりだったのだから。
(味覚ハ得テシマッテ、ワタシハワガママニナッタ気ガスル………………ダガ、ソレハ新タナ楽シミモモタラシタ)
実際、ズサは自分がエネルギー源を選り好みするようになったことをまったく後悔していなかった。今のズサにとって、楽しみを見つけることは新たな世界を見つけるのと同義であった。少し高尚なことを考えながら、足首からビームサーベルを取り出し、獲物を炙り出した。
しかし、その直後にズサの聴覚センサーが捉えたけたたましい音がズサの昼食をそのマニピュレーターから叩き落とした。ズサはその音を、女神が異世界転生に付き物だと言っていた、少女の悲鳴だと判断した。もしそうならば、助けて損は無いらしい。例えば、仲間になってくれたり、道案内してくれたりするらしい。ズサは、
(女ノ子ガ料理上手ダトイイナ)
と思いながら、声のする方向に飛び出して行った。