ズサが行く異世界転生 作:グルバスター
ズサは茂みをかき分け、かき分け悲鳴の元にたどり着いたが、そこは切り立った崖の上だった。だが、ズサにとっては大したことことではない。ズサは大気圏下では、ブースターポッドをパージして、降下することで敵地に到着するワイルドなMSだからである。むしろ中途半端に低い方が危ないくらいだ。問題は悲鳴の主は崖の下にいることだ。
(ムシロ何故アソコカラ声ガ届ク?!モシヤ今落チタノカ?!)
崖の下には人影があり、また複数の影がそれを囲んでいるようだった。
「ちょっと!!こっち来ないでよ!?」
ズサは状況を判断する前に、騒ぎのど真ん中に向かって飛び降りた。推力を調整し、落下地点を定める。
「えっ、ちょっとぉ何!?」
ズサは脚が地に着くときには、状況をだいたい飲み込めていた。
野生の動物が年端もいかぬ少女を襲っているようだ。
「グワウッ!!」 (サセン!!)
ズサは、少女に飛びかかってきた犬のような生き物を、シールドで弾き飛ばして、少女と犬もどきの群れの間に割り込んだ。
「あなた誰?一応助けてくれたのよね?」
ズサは、モノアイを動かして少女を見た。ズサは人間の美的感覚を得て間もないが、彼女はかなり整った容姿の持ち主だと判断した。肩にかかる程度の長さの金髪。驚いたような表情からはわかりにくいが、普段は人懐こい微笑を浮かべているのではないかと思わせるような顔立ち。装飾が施された細剣を握り締める白く細長い指先。ズサと違いスレンダーだが、女性としてのの成長を感じさせる体つき。まさに、美貌の少女剣士といった感じだ。ズサが一度だけ目にして、たった今、美人の指標としていたネオジオンのハマーン・カーンとはまた違うタイプの美人だということもズサは認識した。
(何故ワタシハコンナコトヲ考エテイルノダ…………、
変態ヲ通リ越シテ不謹慎ダロウ?ダガ、ヒロインハ美少女ノ法則ニハ当テハマッテイル!!彼女ガワタシニトッテノヒロインナラバ、彼女ハワタシニ美味シイ料理ヲ作ッテクレルカモシレナイ女性ダ!!!)
ズサの中に目覚めようとしていた新たな世界は、食欲によって流されて消えていった。
(サテ、コノ場ヲ切リ抜ケルニモ、フラグトヤラヲ建テルニモ、彼女ト意思疎通ヲ行ウ必要ガアルナ…………)
しかし困ったことに、ズサは未だにマイクの機能をうまく使えなかった。女神はテレパシーで通じていたが、相手が普通の人間だとそうはいかない。だが、女神と練習してみると、かなりどもってしまうことがわかった。
『これはあなたがシャイとかではなくて、単に喋り慣れていないだけですね』
女神は練習あるのみとだけ言って去ってしまった。それ以来ズサは練習などしていない。ぶっつけ本番である。
ズサの葛藤など知りもしない犬もどきたちは、ズサの登場に面食らっていたようだが、ズサが仕掛けてこないので、痺れを切らしたようだった。
「「ギャオウッッ!!」」 (!!) 「はあっ!」
犬もどきが2匹、ズサ、少女剣士が同時に動いた。ズサはシールドの陰からビームサーベルを取り出し、犬もどきを空中で両断した。少女は、飛び掛かってきた犬を軽くいなすと、鋭い斬撃をいくつも放った。犬もどきは倒れ伏し動かなくなった。
「ぐるルルルルル」「グゥーングググ」
他に何匹かいた犬もどきは唸りながら森の中に去っていった。ズサと少女だけが崖下に残されていた。
「助けてくれて、ありがとう!あたしは、最近冒険者ギルドに入った新米冒険者なんだけど………」
ズサはとりあえず頷いた。少女は続けた。
「言葉はわかる?(ズサは再び頷いた)そう、 あたしの名は、イレイナ・ヴァリアキュールよ!よろしくね」
ズサも名乗ろうとしたが、言葉にならずに掠れた音がでた。
「もしかして口が利けないの?(ズサの頭部は横に稼働しないので、代わりにモノアイを左右に激しく動かした)じゃあ、どうしたの?」
ズサはイレイナのキョトンとした顔を見て、躍起になって言葉を絞りだした。
「ク、口下手ナワワ、ワタシニ話シ方ヲレクチャーシテホスィノダ」
「もしかして、最近人の言葉を覚えた亜人の方?仕事探してたりする?あっ!名前聞いてなかったね」
「ズ、ズサダ…………アクシズ出身ノダ………」
「アクシズから来たズサ?ふぅーん、変わってるね」
イレイナはニコニコ笑っていた。この後、イレイナはズサに話し方の練習と街の案内をすると約束してくれた。
命の恩人だから、というのである。ズサとイレイナは街を目指すことになったが、今2人は崖の下である。ズサはイレイナを肩車して崖の上まで飛びあがらなければならなかった(イレイナは大はしゃぎだったが)。崖の上で力尽きたズサだったが、イレイナが分けてくれたサンドイッチ(イレイナが崖から落ちたときに形が崩れたようだがズサのなかでは最高の一品)によりV字復活し、その日の夕方に、イレイナとともに街に到着した。
ズサは、この道中で、サンドイッチのあまりの美味しさによってイレイナへ流暢に、
「コンナ整備員ガ欲シカッタ」
とMS的にはプロポーズ染みたことを言ったものの、イレイナは理解できず、ズサ自身も何を言ったか忘れてしまったので、フラグは立たずに終わった、かのように見えた。