ズサが行く異世界転生 作:グルバスター
ローゼアの元植民地・ロマネク王国では、1年ほど前から、独立時の約束から多民族民主主義国家を創設しようとする自由軍とかつての王国を復活させたい王党派の内戦が続いていた。ただし、決着は着かない。なぜなら、有力者の大半が、ローゼアと経済・軍事でつながるロマネクの衛星国家化を望んでおり、民衆もよりよい生活を求めるよりは安定した生活をしたいと、それに同調している。そのために、せいぜい勝った方が傀儡政府となるだけの戦いに成り果てている。王党派も自由軍も彼らに憎まれては不味いので、うっかり戦いに巻き込ないようにしているのだ。
だから、辺境の地で細々とやり合っているのだ。
いい迷惑なのが、そこに住む人たちだ。ローゼアなどとの交易で栄える湊町や特産品を供出する地方都市、既に大商人たちが取り仕切る王都エルスグラードなどで暮らすブルジョアたちからは見捨てられている地域には、その日を精一杯生きている人たちがいる。
「ただ不毛なだけの地域だ………………」
「あそこで商売も行政も上手く行く訳ねぇ!あいつらは、ルールのルの字も知らねえんだ…………」
「なんであそこがロマネクなんだ?!ローゼアの連中やっぱり独立したの腹立てたに違いない………俺たちに押しつけやがったんだよ…………「神の視界に入ったことがない地」とか名付けたしさぁ!」
全部間違ってないのが、この地域の悲しいところだ。気候に恵まれず、生活も困難で、内戦の舞台にされる。そもそも教育などなされてことがなく、行政も税収不足とのダブルパンチで立ち行かない。ローゼアなど各国は、壮絶な押しつけ合いの末に、独立したばかりの交易大国なら、すぐに文句もつけれず、金持ちだからいいや、とロマネクに組み込んでしまった。最後に、この世界の創造主は、この地域に転生者用のイベントを一つも用意していない。つまりこの地にいる限り救われない。せめつて、内戦さえ終わってくれれば、といった感じである。
しかし、そんな住民たちの思いとは裏腹に今日は、両軍共にフルスロットルである。自己中な上に余計なことには必死な連中である。ブルジョアたちが、利益のためならつまらないプライドにこだわらず、国を発展させたのとは大違いである、と言える。ただ、そんな自己中な奴らが、何故いつまでも小競り合いができるのか?モチベーションでも資金面でも疑問は尽きない。
ロマネクとはかろうじて飛び地にならない、マロウ・ズィレーバ地方。小さな集落などというニュアンスの名前を地方名につけられる不毛の地。国土の約10%とGDPの実質0%を占める無秩序地帯。そのだだっ広い砂地が針葉樹林に接する場所で自由軍と王党派の決戦が行われようとしていた。自由軍は単なる暴徒化したズィレーバ急進派の人たちである。この地が本国に同情されない理由を作り出している張本人たちどある。王党派は、これまた怪しげな血統書を持ち出してきたカルトみたいな連中だ。恐らく自分たちも何のために戦っているのか、わからなくなってる者が多いと考えられている。
「我々には、神より王位を授かりし、太陽神の化身たるry」
「我々は飽くなき自由と繁栄を求めry」
くだらない割には、武器を使うので被害は出る。カルトに到っては魔法を使える者が混じっている。激しい戦いの中で痩せたじゃがいも畑がふみ荒されて行く。それぞれの親玉一派は、食べ物が尽きる前に撤退する。いい気なものである。だが、彼らもつけを払うときが来た。
「おいっ!?何だあれは?!」
突如として、針葉樹林から赤い影が飛び出して、両軍の戦場に乱入した。そして、光の剣が両軍の兵士を次々に薙ぎ倒していく。
「バカなっ!?こんな土地に魔物何ているわけッ………グゲッ!?」
「赤い騎士だ………………」
寄せ集めの軍隊はあっという間に散り散りになった。ただ残っている者たちもいた。彼らは単なる暴徒やカルト
にしては、不相応な武器をもっていた。
「くっ、ズィレーバからの強制移民プランばれていたのか?ローゼア軍か?」
「まさか!単なる魔物だ!あれは一つ目だぞ」
「身体強化魔法を込めた鎧を着ているのかもしれん!エルスグラードの古狸が口封じに差し向けたか!?」
何のことはない。聞いてもないのにべらべらしゃべっているように、他国からの批判を受けずにズィレーバを処分したいロマネクの実力者が、傭兵たちにチャンバラさせて、住民を避難という形で追い出そうとしたのだ。2組の傭兵団はなに食わぬ顔で合流し、赤い騎士、シナンジュに掛かっていった。クロスボウと攻撃魔法が四方八方から、シナンジュに向かって飛来する。やはり、普段の戦いは、手を抜いていたようだ。
「ふん、肩慣らしにちょうどよい…………」
シナンジュにとって、構造も大きさも変わった自らの体を自らの意思で動かす、初めての戦いである。それの唯一の乗り手とそれ自身は別物である。その乗り手が、いかに自らの体の如くそれを扱ったとしてもだ。シナンジュは、そのことを不満に思ったがこの世界で朽ち果てる気は毛頭ないので、乗り手、フル・フロンタルの戦闘スタイルにこだわることは無かった。
「撃ちまくれ、逃げ場を封じるんだ!」
宣言通り圧倒的な弾幕を張る傭兵団、やはり相応の能力を持っているようだ。だが、シナンジュは動じずにシールドからビームソードアックスを起動した。それも、アックスモードで、である。しかも、傭兵たちとはかなりの距離がある。シナンジュのスラスターが、羽ばたくように後ろに向けられる。シールドで頭部と胴体を覆うと同時に、前方に突進する。一瞬の後、シナンジュが立っていた地面は抉られていた。強固なシールドとアックスモードでも十分なパワーを持つビームソードアックスが、傭兵団の魔法も矢も弾き返し、焼き尽くす。高機動の戦闘を得意とし、シールドを持たずに出撃することもあるフル・フロンタルならばする機会すらない、シールドに依存した戦い方だ。シナンジュは、傭兵たちに迫り、シールドを薙ぎながら、ビームソードアックスの出力を高めた。この一撃で傭兵団の半数が丸腰となった。
「魔法とか言う次元じゃねぇぞ………………」
「どうする?!」 「こっ、降参だぁ!命だけは…」
シナンジュが、自身の戦い方に不満を持っていても、傭兵団は知るよしもない。ただ、おっかないだけである。
「頭目はいるか?そいつに用がある」
「はんっ、ボスは俺だが何だってんだ?!」
カルトっぽい自称太陽神の化身兼ロマネク王家の末裔の男が言った。斬りかかられた者の中では、1人攻撃を避けており、武器をまだ持っている。また、魔法の威力も他とは段違いのようだ。だが、シナンジュには勝てないと考えたのか、態度は不遜ながらも進み出た。あまりに奇抜な格好さえしていなければ、誰もが一線級の戦士だとわかるだろう。シナンジュは、彼に向かって言った。
「取引がしたい、おまえたちと」