ズサが行く異世界転生 作:グルバスター
「ローゼア最南端の町ユジノパショラスクよ」
イレイナに案内され、着いた町は活気づいている。
人通りも多く、行き交う人々もたくさんの荷物を抱えていたが皆笑顔だった。
(ロシア訛リナ名ノ町ダナ、ロシアッポサガマルデ無ガイガ…………)
ズサが実際に口に出した言葉がイレイナに通じていたことから、この異世界の町でも宇宙世紀の共通語である英語が使われているものだと思っていたが、町の名前はロシア風である。ズサはロシア語などまるで知らないが、地球侵攻時に、パイロットたちが独特で癖のあるように感じる地名について、言及していたことを思い出した。
『か、カムッ、カムチャツキって、まったく舌が回らないぜ』
『半分も言えてないのに、噛みすぎだろ』
『ロシア語なんて、慣れてねー奴にゃ、全部早口言葉と一緒さ』
ちょっとノスタルジックになったズサだったが、異世界はそんなもんだ、と納得することにした。西洋モチーフのドラゴンが、日本語で話しかけてくるのすら珍しくもないらしい。ごちゃごちゃ考えるだけエネルギーの無駄というものだろう。
ズサが踏み入れて間もない異世界の社会に考えを巡らせている内に、ズサは、当面イレイナの家で面倒をみてもらえることになっていた。
「ズサは、命の恩人だから特別だよっ ていっても、そんなにいいとこじゃないけどね…………………あっ、迷惑だったりした!?」
「イッ、イヤ、トッ、トテモ助カルナ…………」
「そう?なら、いいけどね」
(コンナ娘ガ、犬ノ3匹ヤ4匹追ッパラウダケデ、見ズ知ラズノ得体ノ知レナイ奴ヲ家ニ上ゲテ…………コウイウノ、チョロ過ギル、テ言ウンジャア…………マァ、ワタシハ、性欲トヤラハ無イカラ、下心モ無イガ……………メインカメラニ美少女探知・分析機能ガツイタダケダシ……………ストーカーデハナイゾ、断ジテ)
ズサのAIはもはや暴走状態だが、ほとんどの記憶が戦争時のものであるズサにとって、ジオン軍人たちが語った連邦兵(一部の者だが)による軍民問わない女性への陵辱の数々は、無防備な彼女から容易に連想されてしまうものだった。だが、文字通り等身大となったズサには確信に近い疑念が沸き上がった。ジオン軍人も人間なのだ。一部の者が連邦と同じように、外道と化していたとしてもおかしくない。連邦兵が怒りと勝者の傲慢さから、野獣と化したのなら、ジオン優勢時や連邦の反撃後に逆のことが起きていないなど果たしてあり得るだろうか?ギレン・ザビの演説が頭に染み込んだ一年戦争、ジオン公国の直系組織が「袖付き」の壊滅により事実上根絶されるまで15年以上もの間恨みと憎しみを抱いての戦い、これからも続く妄執に突き動かされての戦い。状況次第で誰もが野獣になり得ると言うのは極論だが、ズサには恐ろしかった。連邦を憎んでいても、仲間に優しく、スペースノイドのため自分とともに戦ったジオン軍人たちの中に、連邦への憎しみの元凶たちと同類と化した者がいるかもしれないことが。人は変わってしまうのかもしれない。自分が、性欲に目覚めればどうなるのか。自我に目覚めたとき、戦争とそこから蜘蛛の巣のように広がる負の感情に悲しみを覚えたことだけは忘れたくなかった。
(女神ヨ、ワタシノ心ハ何ガアッテモ変ワラナイダロウカ)
『まあ、あなたは繁殖しないので性別自体ありませんから、少なくとも性欲は芽生えません』
(!!!!ビックリシタ……少シホットシタガ…………)
『性も悪いものではないのですけどね』
(女神ガ来タトイウコトハ、何カアッタノカ?)
『性別とか触覚などは未だ実現不可能ですけど、そちらの世界に送り込むものがあれば、こうして直接脳内に』
(例エバ?)
『ブースターポッドやあなたの追加装備、後あなたの体をバージョンアップしたりします』
(ソレハアリガタイ、今回ハコノ連絡ダケカ?)
『ええ、後彼女はあなたの初ヒロインですから、わかっているとは思いますが、大切にしてあげてください』
(当タリ前ダロウ………………)
『彼女は良い娘なんですが、思い込みが激しくて………それも抱え込みやすくて……………』
(ハア?…………)
『くれぐれも気をつけて…………以上です』
女神の声は途絶えた。が、ズサは、かなりテンションが上がっている。ブースターポッドとの再会できるかもしれないのだ。ぶっちゃけ最後の方の話はあまり聞いていなかった。だが、この世界は人間の転生用に造られた(創るではない)異世界であり、ズサは主人公の一人として女性(美人限定)に何故かモテモテになること、ズサにはメインカメラの性能のわりに性欲がないこと、イレイナがそれを知らない愛人気質系ヒロインであること、といった平穏とは言えない状態にある。無念のMSたちを救済する世界を造るような寛大な神は、一方でハーレムに繊細なヒロインと性別すらないハーレムの主を放り込む横着さも併せ持つようだ。人間で喩えるならば、ガンプラを素組みして、ニッパー跡も削らず、シールを場所だけ合わせて貼り付け、挙げ句ごちゃごちゃ並べて、趣味はガンプラとか言ってるようなものだ。ズサと女神は、整合性すら危ういこの世界にこれから苦しめられることとなる。
「ズサ!ここがあたしの家だよ!」
「(暫ク1人デハ、町カラ出ラレンナ……………広イ上ニ複雑ダ…………)……………世話二ナル………!」
「けっこう話すの上手になったよね!恥ずかしがり屋さんなのかな!?じゃあ、あたしには慣れてくれたの?嬉しいな……………あっ!上から目線でゴメンね?!」
「(ン?…………忙シナイ娘ダナ……)ソンナコトハナイゾ、ワタシハ感謝シテルノダ」
「本当!?じゃあ、ズサのために頑張るからね!いろいろと………」
(イロイロカ………………)
声を出すことに慣れてきたズサは、まずこの町の地図をAIに叩き込み、この世界で暮らすための情報と糧を得ることが目標となった。だが、最終的には自分が納得できる生き様を見つけるために世界を巡りたい。そのために、ここを出る時のためにイレイナに自分ができる恩返しも考える必要があるだろう。しかし、ズサは、イレイナは自分のヒロインだと聞いてもあまりぱっときてはいない。ジオンは、故郷に家族を残して戦うことばかりだったからだ。だから、ズサはイレイナに送り出されて、旅に出てときどき帰る、といった風に考えていた。
一方、イレイナは、ズサが町にいる間に仲良くなってずっと一緒にいたい、と考えていた。イレイナにとっては、白馬に乗っていなくても、緑色で金属質でも、ゴーレムみたいでも、王子じゃなくても、自分の前に颯爽と現れたヒーローである。あの犬もどき、タスク・ドッグに襲われたところで死ぬのは、ほぼあり得なくともだ。転生したのが、ズサだからかなり不自然に見えるだけで、異世界の美少女としては至極真っ当である。旅に出るなら、家も私財も打ち捨て一緒に行く覚悟である。
(えへへ…………ズサってゴーレムなのかな………?初めてあたしのこと助けてくれた人……男の人らしいけど………ふふふ)
しかし、イレイナは、ズサは考え込むと無意識に頷き続ける癖ができたのを知らずにいた。ズサは、西からやってきたゴーレムの冒険者登録希望者で、故郷を救うため戦うナイスガイ(だが、女性に対して初心)になってしまっていた。設定盛りすぎである。