ズサが行く異世界転生 作:グルバスター
ズサ、町ヲ闊歩スル
大国ローゼアの南部地方の交易拠点であるユジノパショラスクには商人の他にも、行商人を魔物や盗賊から守るため自警団や冒険者が拠点を置いている。郊外にもたくさんの魔物がいるため彼らは毎日のように駆除を行う。例えば個体数があまりに多く、1人でいる時に群れで襲われれば冒険者でもひとたまりもないタスクドッグは既に根絶命令が下されている。
「あの犬っころめ、何の役にも立ちやしねぇからな」
「ナルホド、タメニナッタ……アリガトウ」
「いいってことよ、何せあんたらみたいな新入りでも便りになるからな」
ズサは、町で新米の冒険者としての研修代わりにもっぱら情報収集に勤しんでいた。この冒険者が深く関わる町では、新しい冒険者には皆親切だ。例えば、利益の出ないタスクドッグ狩りは、町としてもあまり報酬を弾むわけにはいかない。武器の試し切りや初心者の訓練としても手間が掛かりすぎる。このあまり美味しくない仕事は、この町の冒険者が自主的に引き受けている(これは、冒険者ギルドが主導する冒険者のイメージアップが絡んだものだが)。それは、商人たちの大きな助けになっている。だから、新入りには情報も物資も注ぎ込む。
「先行投資トイウヤツカ、気ニイッタ」
優れた冒険者に育てば、町を離れても役に立ってくれる。著名な冒険者を輩出した町となれば箔が付くし、常駐していなくともいざという時に駆け付けてくれれば、
十分頼りになる。というより、優秀な彼らにタスクドッグ狩りのような害獣駆除をさせるよりは本来の冒険に精を出してもらえばよい。育てば良いこと尽くめな冒険者候補を騙したり、苛めたりして再起不能にしたりしてはもったいない。それに、商人たちは品物にも人にも目が利く者が多い。町ぐるみの支援ではなく、余裕のある商人がお気に入りの冒険者を取り込むようなシステムから成り立っている。
「次に会ったら、おまけしてやるよ」
「デハ、マタ」
ズサは、武具屋から出た。嵩張るギラ・ドーガ用の装備は、イレイナの家に置いてきた。だが、ズサの両腕のマニピュレーターは、代わりにいくつかの品物を持っていた。
(実ニ豊作ダ………冒険者ニハ都合ガ良イ訳ダナ)
ズサは、無料でこれだけの品物を得て、実に上機嫌だった。あまり節操なく貰うのも良くない、と考えたズサは店ごとにジャンル別で良い店を聞き込んで、名が上がった店を巡ることにした。贔屓を差し引いても、混雑しているので良い店なのは確かだろう。長い付き合いになるかもしれないなら、慎重に相手は選ぶべきである。
ズサは、店巡りを始める前にギルドで冒険者登録を済ませていた。イレイナが案内してくれたギルドでは、名前しか聞かれることはなかった。名前と容姿だけ把握しておけば何とかなるらしい。ただ、町に持ち込んだものと身体を検査した。この町には人間ではない生き物も普通に歩いていたが、それでもズサはかなり珍しいと思われたようだ。だが念入りな検査にも関わらず、ズサのミサイルハッチが開けられることはなかった。
「アタシはこれから仕事があるの…………ズサはどうする?」
「イヤ、道モ覚エテイルカラ先ニ戻ッテイル」
「そっか………………………寄り道しちゃダメだよ」
「スル所ガ無イダロウ?」
「うん、夕方には帰るから…………また後でね♪」
そして、今に至る。確かにズサは寄り道はしていない。
ギラ・ドーガの装備品を置いて出直したのだ。ズサはイレイナの約束を忘れたわけではなかったが、一度通った道をAIに記録でき、この町を網羅したい自分としては余計な心配だと思っていた。さらに、異種族には慣れた町民たちにとっても珍しいズサは、帰路で何度も話しかけられ、新入り冒険者へのサービスについて知ったことが、後押しになった。
(一通リ揃ッタシ、ソロソロ帰ルカ……………)
しかし、イレイナの家に向かうズサのモノアイに、「冒険者カード提示で、焼きたてパン無料」の看板が写りこんだ。
(モウチョットダケ……………………)
結局ズサは、そこにいた正真正銘のゴーレムの冒険者スターリングフ(ちょっとズゴックに似てる、とズサは思った)と人間の食べ物が如何に美味しいか、という話題で意気投合して話し込んでしまった。
ズサがイレイナの家に着くと、イレイナは既に帰っていたようだが様子が少しおかしかった。じっとズサの装備品を見つめている。
「遅クナッテ申シ訳「何してたの?」」
ズサの声に振り向いたイレイナの目はちょっと虚ろだった。そのまま据わった目でズサを見下ろした(イレイナの背はそう高くないが、150cmよりは高い)。
「別に怒ってないよ……………心配してたんだからね!
でも………………、まさか他の女の人とお楽しみだったり………………してないよね………………?」
「冒険者特権デ店ヲ巡ッテタダケダガ」
「まー、あたしには関係ないよね……………ズサの自由だしぃー……………」
ズサが、家主の誤解を解くのには寝る時間までかかった。ズサは、罰として与えられた部屋(昨日のうちに、{ズサ専用ドック}と張り紙をした)から出て、イレイナの部屋で寝ることになった。
実は、ズサは自我に目覚めてから寝たことがない。機械であるズサは眠気など感じない。そのため、1人で町に来るまでは夜も歩いていた。昨日は、ずっと計画を立てるのに必死だった。タイマー付きスリープモード初めての出番である。ズサは、少し顔が赤いイレイナに見つめられながら(風呂上がりで下着姿の彼女はかなり扇情的だった)、立ったままスリープモードに移行した。
(立ったまま寝るんだね……………って、ひどいよ!?
せっかく勇気を出したのに…………)
「ZZZZZZ…………起床マデ後6時間………………」
「実は起きてるんじゃないの!?うぅ、あたしって魅力ないのかな…………」
イレイナのズサ魅了計画は、いきなりイレイナの心が折れかけるという惨澹たる結果に終わった。