新しい世界で俺は忍者になる! 作:ルーニー
間話:少女の憤り
「いい加減にアイツを現代社会に馴染ませるべきよ!」
親友のいうアイツ。1度私たちを誘拐から助けてくれた不可思議な同級生のことだというのは分かる。この親友は自覚はしてないかもしれないが最近はその彼の事ばかりを口にするようになっているのだから。
そして、同時に脳裏に浮かぶのは暇さえあれば修行と言って不必要に体を鍛えている姿。それも、もう1人の親友の家族が開いている道場の先生に怒られようが、掌が爛れようが、体が傷だらけになろうが、一体何に備えているんだと聞きたくなるほどに鍛えている姿だ。時代錯誤にもほどがある。
そんな彼の姿を思い出して出る結論なんて1つしかない。
「無理だと思うよ?」
自分が言うのもなんだが、人間をやめつつある(というか文字通りに壁に立ったり水に立ったり分身したり変身したり火を吹いたりできている辺り既に人間を辞めている気もしなくはないが)同級生に、先生やご両親が言ってもほとんど聞かないのに私たちが言ったところで止めるなんて思えない。というか誰が止めれるのか知りたい。
「やらないといけないの!」
私の返答が気に入らないのか、親友はバシバシと机を叩いて抗議している。大企業のご令嬢だと言うのに、普段は多少ではあるがご令嬢としての振る舞いをキチンとしていると言うのに、彼のことになると年相応になるのだ。
「このまま行けばあいつは社会不適合者になっていくのよ!そうなる前に、せめて人の名前を覚えさせる普通の人の行動ぐらいできるようにさせないといけないのよ!」
「別にそこまでして止める必要はないと思うんだけどなぁ」
別に彼のことが嫌いなわけではない。確かに自分のことを最優先にして常軌を逸した行動ばかりしているとは言え、それを除けば特に非常識であるというわけでもない。
確かに人の名前を覚えようとしないどころか毎日顔を見ているはずなのにそれすら覚えていないという失礼なことはしているが、意外や意外他人に迷惑をかけるようなことはほとんどしていないのだ。
人の名前を覚えない。会ってることすら覚えてない。そんなことをしているせいで同級生はおろか先生からすら問題児として扱われている彼。まったくその通りだと思うし、それを直そうともしない彼にはイラッとくることは確かにある。道場で捕まえるまで私たちから逃げていたと知って思わず殴ってやろうかとすら思ったこともあるのは事実だ。
けれど彼はあいさつをされたら返すし、質問をすればそれなりの回答で返してくれる。自分基準に物事を考えてる節はあるけど、それを他人に押し付けている様子はない。意外に思うかもしれないけど、最低限度の常識は持っているのだ。本当に最低限度だけれど。
「ダメよ!同級生の名前はおろか顔すら覚えてないのもそうだし、なによりいつまで経っても私たちの名前を覚えようとしないじゃないの!」
どうしてここまで執拗に矯正しようとしているのか。なんて野暮なことは聞かない。聞いたらそっぽ向くだろうし。
それに、名前を覚えられてないって怒ってるけど、多分彼は私たちの名前は覚えてると思うよ?
だって、先生に何度も注意されても覚えない中でも、私たちだけは名前を言われたら私たちだってちゃんと認識しているんだから。
「まずはあの修行中毒をなんとかしないといけないわね……。アイツ修行禁止日だと言うのに、また修行してるみたいだし」
ぶつぶつとどうやって修行させるのを止めようか企んでる親友を見て、思わずため息を吐く。
どうして修行禁止日を把握しているのかは知らないけど、正直な感想もうあそこまでいくと人格矯正以外にはどうやっても無理だと思う。けれど、彼には誘拐犯から救われたこともある手前、彼のために私も考えることにする。
さすがに、友達が社会不適合者となっていくのは阻止しないといけないとは思うしね。
初めて会話をしたのは、不覚にも親友と一緒に誘拐されてしまった時だった。
変化の術、と言って髪の長さも顔の形も体格も何もかも変える訳のわからない忍術と言っている
正直な話、私はアイツにほとんど興味がなかった。話しかけても返事は少ないし、誰に対しても興味がないのか自分から話しかけに行くこともない。たまに見かけても何かを没収されているところが多いのだからむしろかかわりたくないと思うのが普通だろう。
そのくせ成績はいいんだから腹が立つことこの上ない。アイツ普段から勉強しているようには見えないのに、どうしてか10番以内には入ってくるのが腹立たしい。
けど、言ってしまえばそれ以外では特になにかおかしなことをしているようには見えなかった。だから誘拐されたときに助けてくれたのがそんなわけのわからないやつだったことに驚いた。
だって、自由に見た目を変えられる変化の術や、もう1人の自分を作り出す分身の術、果てには壁に立つことができるなんて、どこの漫画やアニメの世界の住人なんだと言いたくなるほどにアイツは非常識だったのだから驚いても仕方ないと思う。
そんな異常性を見たからか、それ以来問題児という見方から問題行動しか起こさない馬鹿としか見えなくなった。学校で会えば逃げられて、暇な時間は全部修行の時間。休日は人間をやめるのかと言いたくなるような修行の日々。
間違いなく、人として踏み外したらいけない領域に入りかけている。
これだけじゃない。人とほとんど交流していなかったと思っていたけど、アイツは予想以上に他人に対して興味を持っていない。
同じ年ぐらいの友達なんていない。ほとんど交流していなかったとはいえ、私が覚えている限りで誰かと遊んでいたという記憶がない。というか休み時間になるとすぐにどこかに行くから何をしていたのか、まぁ今考えたら修行なんだろうけど、わからなかったぐらいだし。
なんと言っても、アイツは全く名前を憶えない。それこそ先生の名前すら憶えていない。もしかしたらもう1人の親友のお兄さんたちの名前も覚えていないんじゃないんだろうか。
何度も名前を言っても、アイツは覚える気がないのか1度も私の名前を呼んだことはない。大体同じ年なのに呼ぶときは全部小娘小娘小娘!親友は少女だってのに、なぜ自分は小娘なのかを小一時間は問い詰めたい。ちゃんと名前を呼びなさい名前を!
このままだと将来ダメになるからその生活スタイルを変えろと言っても、アイツは自分を変えようとしない。変わろうとすらしていない。なら、自分でやる気がないなら周りが変えるしかない。
もう1人の親友の家族だけではダメだ。確かに普通の子供に戻そうとはしているけれど、彼らの強さが逆に社会不適合者としての道を歩ませているんだから。
自分達だけなのだ。
「私が!アイツを真人間に変えてみせる!」
何がそこまで彼女を奮い立たせるのか。それは彼女自身も自覚がない感情であることは、1人を除いて知ることはなかった。
「ヒャッハー!修行の時間だぁあああああ!千本(木製)での手裏剣術に体力づくり影分身使って螺旋丸の練習だぁああああああ!」
そしてバカはいつも通りバカだった。
結論:主人公はクソ野郎
仕事中にかくのたのちい(^q^)