人身売買の商品を運んでいた船で昼寝してたらめちゃくちゃ別嬪さんが多いところにたどり着いた。何でも『吉原』とかいうらしい。…てか腹減った、食い物ください 作:月詠の髪おろした姿可愛すぎ
自身が折檻されているくらいその部屋に一人の少年が入ってきた。
身なりはそれなりだが髪はボサボサで手入れがされていない。
天然パーマではなく、そう、寝ぐせである。
その少年の左手にはおにぎり二個にたくあん二枚があり、少年はそのままゆっくりと自分の方へと近寄ってきた。
「おーおー、こりゃまたこっぴどくやられたなーアンタ。一体何したらこんなぼこぼこにされるんだ?なんだ、あの亀吉とかいうやつの○○○が○○で○○だったー、とか。」
「…そんなこと、言っとらん。」
不機嫌そうにそっぽを向く少女だが、その顔は少しだけ赤くなっており、それを見つけた少年があきれた様にため息を吐いた。
「おいおい、この程度で真っ赤になるなよ。そんなんじゃここで働くなんざできねぇぞ?生娘に遊女なんて務まらないからな。」
「真っ赤になどなっておらん!適当なことを言うな!」
「お前鏡見てみたらどうだ?そんな言い訳できるような顔の色じゃねぇぞ?って、今は縛られて鏡も見に行けねぇな。」
「…ふん」
少年のあきれたような言葉に、少女はぶすっとした面を逸らし彼から顔を逸らした。
その様子を見た少年は軽く肩をすくめた後、持っていたおにぎりをゆっくりと床に置き、自身も少女のすぐそばにあぐらをかいて座り込んだ。
「よっこらっしょっと…」
「……」
「お前、昼間っからずっとここにいて腹減らねぇか?俺だったら腹減って自分の指でも食っちまってるな。」
「別に…腹などへっとらん。」
「そうだよな。」
そういって少年は置いてあるおにぎりになんの躊躇もなく手を伸ばし、そのまま口へと入れてもっちゃもっちゃと食べ始めた。
ついでにたくあんも口に放り込む。
「ちょうど夜食を食いたいと思ってたとこなんだよ。」
そういって指に着いた米粒をなめながら少年は悪びれる様子もなくそう口にする。
どうやら最初から少女にあげようなどとは考えていなかったようだ。
外道である。
「…ぬし、性格が悪いな。」
「何を言うか、俺の脊髄神経には慈愛が伝達されてるんだぜ?」
「……」
「そこで黙るなよ、結構つらいからさ…」
そういって若干表情を曇らせた少年。
それに対して少女は、少年にぶすったれた面を向けたまま、ふてくされた様につぶやいた。
「どうせ、ぬしがわっちの元に来たのはあの女の差し金じゃろう。大方金でも握らされて、わっちに暴行でも加えにでも来たのだ、そうだろう?」
「……」
「…殺したければ殺すがいい。わっちは、おまんらのような目をするくらいなら、死んだほうがましじゃ。」
「……」
「ここは、ここには生きてるものなどいやしない。皆生きながらにして死んでおる。ここにいる女どもは、人間として死に、ただの道具として生きておる。わっちは、わっちは道具として生きるのなんてまっぴらごめんじゃ。それなら、それならわっちは、
人間として死んだ方がましじゃ。」
そう呟いた少女に、少年はしばらく顔を少女に向けないままずーっと座り込んでいた。
しかし、ふと何かに気づいたのか軽く耳の裏をかいた後、ゆっくりと口を開いた。
「……
ごめんもう一回言ってくんない?ちょっと寝てて聞こえなかった。」
「殺せ!もう一思いに殺してくれ!!」
「わーお…殺伐…」
なんかいろいろと恥ずかしい言葉を言った挙句その話すら聞かれていなかったことをしった少女はもういっそのこと殺してほしいと縛られた身体でもがき続ける。
それを見た少年は少女が殺せー!!と騒ぎまくる姿を見て軽く引いてしまう。
「つーかさ…」
「なんじゃ?もう殺せ、わっちを殺せ。もうだれ一人わっちの話なんぞ聞いてはおらんのじゃ。あんな生き恥さらしたまま生きるなど…」
「何が違うんだ?道具として生きていくのと人間として死ぬのと?」
「聞いとったんかい!!」
思わず状況を忘れて突っ込んでしまう少女だったが、少年はそんなことお構いなしという風に話をし続ける。
「俺からしてみれば、道具として生きようが、人間として死のうが、そうかわりゃしねぇだろうが。」
「……」
「命は人間『には』平等だ。道具だろうが、人間だろうが、所詮はどっちも人間。どうせいつかおッ死んでく。死んだらそこで終わりだろ。そこに違いなんざありゃしねえ。それとも何か?人間だったら死んだ後に何か楽しいことでも待ってんのか?」
「…そんなの、わっちにだってわからん」
「わからねぇんだったらなんで人間として死にたがる?道具として生きていようがどうなるかも人間として死のうが、どうせいつかは死んで終わりになるとわかっていながら、どうしてそこまで人間として死ぬのにこだわる?」
「…そんなもの、決まっとろうが。道具として死にながら生きるより、人間のまま死んだ方が、醜くない。道具として捨てられ、みじめに殺されるより、人間のまま殺された方が、醜さがなくなる。」
「……」
それを聞いた少年はピクリと、わずかに眉を動かした。
そして、軽く頭をかいて、大きくため息を吐いた。
「なるほどな、確かに、一理あるかもしれねぇ。道具として散々使われて、最後には捨てられて一生を終えるより、人間として死んだ方が醜くはないかもな。」
「なら…」
「けどよ、
それがわかってんだったらなおのこと、俺はアンタのことが理解できねぇ。」
そういって、少年はくるりと少女の方へと身体を向けて、座ったまま、少女のことを見下ろした。
「結局てめぇが言いたいのは醜く死にたくねぇんだろ?道具として、醜く、死にながら生きていくことが、それが嫌なんだろ?だったら、だったらなんで生きようとしねぇ?なんで、生きるのをあきらめて、さっさと死のうとする?」
「……」
「人間として、生きていきたいんだろ?だったら、なんで人間として生きるのではなく人間として死ぬことを選ぶ?」
「……」
「道具だろうが人間だろうが死ぬのは同じ。なら、そいつらの違いはどこにある。死というものが二つにとって平等だというのに、唯一平等ではないものとは、いったいなんだ?」
「……」
「お前も、もうわかってんだろ?人間と道具、地上と地下で、それを見てきたお前なら。
『生き方』だよ。」
「…!」
「道具には魂も、信念もない。だが、人間にはそれがある。人間には魂があって、己が誓い、魂に立てた信念がある。そしてそれは、その人間の光となり…いつしか希望となっていき、それが人の生き様として現れる。」
「……」
「道具は、所詮言われるがままにしか動けないだろう。だが、人間は、己が誓った信念を胸に、自分のままに生きていくことができる。その生き方が、その『生き様』こそが、道具と人間を唯一二つに分けることができる、『違い』だ。」
少年がそこまで言ったのを聞き、少女はゆっくりと声のする方へと顔を向ける。
少年のその顔は、その目は
(…『人間』だ。こやつは『道具』としてではなく…『人間』として生きている。)
「もう一度聞くぜ、なんでお前は、人間として生きるのではなく、人間として死ぬことを選んでる?」
そう問いかける少年の目には、確かに光が宿っていた。
この少年は、生きるのをやめようとしていない。
己が信念を貫き通し、最後まで人間らしく生きていこうと、そういう強い意志が見て取れた。
自分とこの少年とでは、まるで違う。
人間として死のうとしている少女と、『人間として』生きようとしている少年
この違いが、少女を
ひどく苦しめた。
「ぬしにわかるわけがあるか…」
「?」
「ぬしにわかるはずがあるか!?わっちの苦しみが!!」
悔しそうに歯ぎしりをしながら、その目から、小さなしずくを垂らしながら、少女は吠える。
それは、少女が胸の内にひそめていた、隠されていた本音である。
「つい半月前まで一緒にいた両親に売られ!つい半月ほど前まで幸せに暮らしていた地上から地下へと引きずり込まれ!女として遊ばれ!道具として生きていかねばならないことが決められてしまったわっちの苦しみが、ぬしにわかるか!?」
「……」
「もうわっちに、人間としての未来などありはせんのじゃ!もうここで、道具として、醜く生きていくしかないんじゃ!!所詮男であるぬしに、わっちの苦しみなどわかるはずがない。もう、もうわっちは…人間として生きることなど不可能なのじゃ!だったら…だったらせめて!」
「わかるわけねぇだろ。バカじゃねぇの?」
自身の必死の叫び。
思わず吐露してしまった本音。
その全部を聞いていた少年が放った一言に、少女は思わず目を見開いてしゃべるのを止めてしまう。
少年は、さも当たり前のようにその言葉をつぶやいていた。
「俺はお前じゃねぇ。女でもねぇ。境遇も、生き方も、歩んできた人生も。何一つ俺たちに同じなものはねぇんだよ。」
「……」
「お前は自身の手の平にあった物をすべて失った。俺は
俺の手の平には、最初から何一つ置かれていなかった。
お前は女として吉原に流れ着いた。俺は男として吉原に流れ着いた。何一つ同じなものはねぇ。そんな奴に、すっとぼけた表情で『俺にはわかる!』なんて言葉言われても、胸糞わりぃだけだ。」
「…」
「この世に、人の苦しみをわかることなんてできる奴は一人もいねぇ。共感できる奴なら何人かいるかもしれねぇが、理解できる奴なんてこの世のどこにもいやしねぇ。いるとすればそれは、自分自身だけだ。」
「……」
「俺にはお前の苦しみも、行動も理解できるものは何一つねぇよ。共感できるもんは少なからずあるけどな。」
「共感…だと?」
そう呟いた少女を見て、少年はゆっくりと目をつむり、再び視線を少女の方へとむけなおした。
「お前、生きるのがつらくなったんだろ?」
「…!」
「もう疲れたんだろ?生きることに…。そりゃそうさ、半月前まで天国だったんだ。それが一瞬にして地獄へと変貌。並の人間なら、生きていくことすらいやになるだろうよ。俺たちみてぇなガキならなおのことだ。」
「…」
「少なくとも、俺はそうだった。」
「ぬしが…?」
「ああ」
そういうと、少年は最後の一つであるおにぎりを手に取り、少々崩れてしまった形を両掌で整え始めた。
「生きるのがものすごくつらかった。つらくて辛くて、何度も死のうと考えた。たぶん、俺が普通の人間だったら、今頃俺はここにはいなかっただろうよ。」
「普通の、人間?ぬし、一体何を言って」
「でも、結局俺は死ぬことができなかった。生きることが苦しくて、かといって死ぬことすらできない。地獄さ、まさに地獄だった。
そんなときさ、俺がここに流れ着いたのは。」
「…」
「ただの偶然だった。ここに着いたのは、本当にただの偶然だった。この吉原に着いたのも、この店に忍び込んだのも、厨房で盗み食いしたのも、そして
あの人と出会ったのも。」
「あの、人?」
「その人は、嫌がる俺を無理やりここでただ働きさせやがってな。そのせいでやりたくもない掃除やらなんやらを給料なしでやらされる羽目になった。給料が出たのなんてつい最近なんだぜ?ったく、ほんとろくなことはねぇ。」
「それはぬしが盗み食いしたからじゃ。ぬしが全面的に悪い。」
「けどな」
「おい、無視かぬし!?都合の悪い話は無視か!?」
少女のツッコミも全部ガン無視して話を続けていく少年。
少女も半ばあきらめた様に彼の話に耳を傾けづづける。
「あの人のおかげで、俺の世界に色が付いた。」
「色…じゃと?」
「ああ、色だ。それまでの俺の世界は、絶望で真っ黒だった。どこを見ても黒ばかり。人も、建物も、何もかもが真っ黒。まるでと○りのまっ黒黒巣家さ。」
「……」
「けど、あの人に会って、店長にあって、ここで働き続けて、そうこうしてたら、いつの間にか、俺の世界に色が付いた。
そうして、今度は色のついた世界を見てたらな、どういうわけか、生きるのがつらくなくなってきた。」
「……」
「あの人の笑顔を見たり、店長とバカやったり、皆で料理食ったり、店長と一緒につまみ食いしてあの人に怒られたり、そんなことをしてるうちに、俺は
『生きててよかった』と、そう思えるようになっていた。」
「……」
「大切な人ができて、何気ない日常を楽しむことができて、こうして…誰かと生きていくことができて、いつの間にか俺は、この世界を壊したくないと、この世界を守っていきたいと、この世界で、生きていたいと…そう思えるようになっていた。」
そういう少年の顔は、どことなくうれしそうで、
その目は、青空のように澄み切っていた。
「あの人に会って俺は、『生きていく』ことがどれだけ楽しいのかを知ることができたんだ。」
「いきて、いくこと…」
そう呟いた少女のその言葉を聞いたのか、少年はゆっくりと顔を少女の方へとむけた。
そして、形を整えたおにぎりを、そっと彼女の目の前へと置いていった。
「つらいかもしれねぇ、苦しいかもしれねぇ。こんなみじめな思いをするなら、あの時死んでおけばよかったと、後悔するかもしれねぇ。だが、それでも、生きるのをやめないで、必死にはいつくばって、無様に、みじめに前に進んでいけば、お前も会えるかもしれないぜ?
希望の光ってやつによ。
まあその分?今ここで死ぬよかよっぽどつらいことがあるかもしれねぇけどな。俺はどっちでも構わねぇぜ?お前が生きようが死のうがな。」
そういって少年はよっこらっしょっと!という爺臭い掛け声とともに床から立ち上がり、尻に着いた汚れを叩き落とす。
少女はしばらくの間、顔を俯かせていたが、ふいにぽつりと、つぶやくようにささやいた。
「会えるものか…そう簡単に、希望の光など、見つかるものか。」
「探してもねぇのにあきらめんなよ。それに、どうせすぐに会える。その光はアンタの予想をはるかに超えてお人よしだ。」
「…!たとえ光が見つかったとしても!それが生きていく理由になるかどうかなどわからんじゃろう!?」
「大丈夫さ、それだけの理由になりえるほど、あの人の光は大きくて暖かい。」
「た、たとえそれが生きる理由になったとしても!わっちにはもう、もう誰も…!親も、身寄りも、家族も、誰一人として…わっちの周りにはもう誰もいはしない!そんな世界で生きていこうなどと…思えるはずが…」
「居るさ。」
「…!」
そういうと少年は扉の前で立ち止まり、ゆっくりと、少女の方へと顔を向ける。
その顔は、来た時と変わらないあきれ顔。
まるで、少女が何度も何度も、生きていくことなどできはしないと理由をつけてあきらめようとしているのをあきれているかのような顔。
しかし、その顔がどうしてか、
少女には笑って見えていた。
「この地球には面白い言葉がある。それはだな
『同じ釜の飯を食った仲』ってやつだ」
「同じ、釜…」
「そこの握り飯は、二つとも俺が同じ釜で炊いたもんだ。一つは俺が、そして、もう一つはお前が食った。つまり
俺とお前は、もう他人なんかじゃねぇ、もう立派な
共犯者だ。」
「…?きょ、きょうはんしゃ?」
そこは普通親友じゃね?といいたそうな少女の顔を見て、少年は困ったようにおでこに片手を置いた。
「おう、実はその米な、俺の上司が夜食として用意しろって言って渡してきた米なのよ。だけどあんまりに腹が減ってたもんでな、どうしたものかと考えたところ、おれの頭の中に妙案が思い浮かんだんだ。そう
『折檻部屋にいる奴を共犯にして罪を半々にしよう』ってな」
「最悪じゃ!ぬしは人間などではなく悪魔の化身じゃ!この外道め!!なにやらいい話でも始めたと思ったら、すべてをぶち壊して裏切りおって!!」
「ギャハハハハ!何とでも言え、今からお前は俺と同じつまみ食い犯よ!俺はただの一言も、その握り飯をお前にやるなんてことも言ってねぇしな!自業自得とはまさにこのことよ!!」
「この腐れ外道!畜生!鬼!悪魔!ぬしをすこしでも信じたわっちが…」
「だから」
「…?」
「だから、しっかり生きろよ?お前が死んだら、俺は一人であの人にげんこつくらわにゃならん。あの人のげんこつはめっちゃ痛ぇからな。」
「!」
「飯食う時も、笑う時も、悲しい時も、うれしい時も、叱られるときも、ずっと一緒にいてやる。アンタの家族の代わりになんぞなれやしないが
俺たちはもう、同じ釜の飯を食った親友だ。
お前が叱られりゃあ俺も叱られるし、お前がうれしい時は俺もうれしいし、お前が楽しい時は俺も腹を抱えて笑ってやれる。それが、親友ってものらしいからな。」
「どうしてじゃ?」
「あ?」
うつむいたまま、震え続ける少女、その少女は、震える声で、少年の方へと語りかける。
「どうしてぬしはわっちにそこまで…?」
その言葉を聞いた少年はガシガシと頭を掻くと、再び扉の方へと向き直り、その扉を勢いよく開いた。
「んなもん決まってるだろ?
アンタのフォロー入れとかねぇと、親友のてめぇともども給料減給だからなって、店長に言われたからだよ、くそったれめ。親友なんて持ったせいで、こっちはろくなことがねぇってんだ。」
そういった少年はゆっくりと折檻部屋から出ていき、そのまま振り返ることはなく、その扉を閉めていった。
元のように、暗く、寂しいその部屋に、少年の足音が響く。
そして、いつしかその足音は鳴りやんだ。
(なぜだろう…?)
しかし
(心なしか…)
少女の瞳にはその部屋が
(先ほどよりも)
(『明るくなったように見える』)
そして、折檻部屋に閉じ込められた少女、月詠は今宵、
二つの太陽にあう。
一つは、吉原にとっても、そして己自身にとっても大切な、まぶしいほどの光を放つ大きな太陽。
そしてもう一つは
彼女だけが、その温かさを知っている、小さな小さな太陽である。
そしてついでに
「亀吉ぃぃぃぃぃ!!」
「ああん!なんだいこんな時に…ってアンタは確か日輪んとこの…!?」
紅郎が亀吉の顔面に犬の糞を投げつけ、その糞にまみれた彼女の顔面に日輪がドロップキックをかまして後日折檻部屋に入れられる原因を作った日でもある。
ペース速いのもこの小説の特徴!
もうみんなわかってんよね!