明烏   作:空を舞う海猫

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秋の夕暮れ時下駄箱にて

チャイムが鳴る。

さながら昨夜テレビでやっていた深海から打ち上げられた深海魚のごとく、現実の世界へ引き戻された。あまりいい感覚とは言えない。僕はまだ深海で泳いでいたい。

 

が、どうやら下校時刻のようだ。

 

パタン、と本を閉じて机に置き、机の上に開けた教科書やノート、引き出しに詰まった物どもをリュックに詰め込んだ。

 

気が付けば窓の外の空は薄紫色になっている。

段々と日が暮れるのも早くなってきたなぁ、と思いながら手を動かす。すでに下校時刻から数分は経っている。もうすぐしたら見回りの先生がやってくるであろう。部活も引退したので教室にいる言い訳もできない。先生に見つかる前に早く教室を出なければ。

重たいリュックを背負い、教室の電気を消し、廊下に出て、階段を駆け下りた。

 

ドアから外へ出ると肌寒い空気が手足を掠めた。どうして半袖半ズボンという格好で今日は学校に来てしまったのだろう。もうそろそろ秋服に衣替えかな、などと思考を巡らせながら下駄箱へ急いだ。

 

以前所属していた弓道部の軍団が下駄箱に向かって歩いてきた。どうやら今部活動を終えたとこらしい。

ということは・・・と薄暗い中、目を凝らしてみると、軍団の中にやはり彼女がいた。少々部活終わりで疲れているようだが。

目が合った。その瞬間顔から疲れも吹き飛び一気に明るくなった。僕には人を癒す効力があるのかもしれない、と心の中でひとりごちてしまう。

 

「師匠!!!ややっ、ご無事でありましたか!」

 

「ご無事だよ、このご時世どんなご無事じゃないことがあるんだよ。よぉ、しばらくぶりだな」

 

えぇ、なかなか最近校内でもお会いしませんでしたね。とコロコロ笑う彼女を尻目に変わらないなぁ、と思った。

 

僕はそんなに交流が広いかと聞かれればそうでもない。

ただ単純にこの子が広いだけだ。そう、どこの学校にもいる老若男女問わず人気がある明るい女の子、それが彼女だ。

 

「弓の調子はどうだ」

 

「ラグナロク最近すこぶる調子が悪いんすよ」

 

「いやそれはお前の射が原因だろ、ラグのせいにすんな」

 

「最近寒いし・・・ってなら指導に来てくださいよ!」

 

「悪いな僕は受験生という身分であってだな」

 

「職権乱用っ!どうせまた放課後も本読んでたくせに」

 

と膨れる彼女。そうか、ばれていたか。

 

「まぁ、また気が向いたら・・・」

 

「それn回目です」

 

ズバッと切られた。弟子も成長したもんだな。と心の奥底で師匠心がほくそ笑む。

ちなみにこの師弟関係はいつの間にかできたものだ。今は長く語る必要性もないだろう。

 

「あかりー!置いてくよー!ドアしまっちゃう」

 

彼女の友達が下駄箱の外で叫んでいる。

 

「はーい!今行くから!師匠、ぜったい来てくださいよ、昼休みにでも。寂しいんだから。」

 

と少し寂しそうに微笑み、友達のもとへ駆けていった。

 

「おう」

 

そういえば夏に引退して以来、昼練にもほとんど顔を出さなかった。もちろん昼練や正規練に行き、弟子と共に弓を引きたいのは山々であったのだが自分の使っていた弓が学校のものだったため、今ではその弓が後輩へと継がれているはずで・・・と考えると弓を引きに昼練へ行くのは気が引けた。

引退後に三年生が居座っても二年生に鬱陶しがられるだけだろう、または老害とでも思われるんじゃないか、と考え出すとやはり足が遠のいた。

 

だがしかし、今は秋。引退してから三か月は経っている。

もうそろそろ顔を出しに行ってもいい頃合いかもしれない。

それに、弟子の射形も気になる。

 

靴を外履きに履き替えた僕は背中に感じる重たいリュックとは裏腹に心に軽いものを詰めて下駄箱を出た。

 

 

遠くの空の薄紫の切れ目から赤いオレンジの光が漏れていた。

 

 

 

 

 

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