明烏   作:空を舞う海猫

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引退後初の昼練

キャンッ!・・・・・パンッ!

 

「「「よぉしっ!!!」」」

 

あたりに部員達の矢声が響き渡る。

射場と呼ぶには人はお粗末だと言うであろう、土地にコンクリートを載せ、そこにプレハブで屋根だけをつけた建物のようなもの。それがわが校弓道部の活動場所であった。

このコンクリートに立ち、28メートル先の的を射抜く。

単純なように聞こえるだろうが経験したものにしかわからない難しさ、奥底が弓道にはある。

 

引退してから初めてこの地に来た。

最後に来たときは矢道にも草が青々と茂っていて的も草に埋もれていたものなのだが。冬が近いせいか矢道は茶色い地肌が見えており少し寒々しい。

昼休みが始まって間もないがすでに男女合わせてもうすでにそこには10人程が集まっていた。

 

この弓道部は弱小だ。そもそも、わが校は進学校であり、部活動に力を注ぐ子は少ない。

弓道部と言えば、武道系でいかにも厳しい部活動として一般的に剣道や空手道といったものに並ぶのだろうが、うちはそうではない。

弓道部は運動系文化部としか思われていない。本来なら文科系運動部なのだろうが。

 

いつかの先先先先・・先輩が優しくて和気藹々とした和やかな雰囲気で新入部員を勧誘して以来、その雰囲気が壊れることはないまま代々、運動部のなかで多分トップ3に上がる緩い部活として活動している。

 

僕ははじめこの環境に抗おうとした。が、圧倒的多数派である緩い雰囲気勢に打ち負かされてしまい、飲み込まれてしまい、悶々としたまま弱小弓道部で一年を過ごしたものだった。

 

そんななか新入部員として入ってきた彼女は僕と同じ意思を持っていた。

この部活を変えたい、強くしたい、と。

彼女が入部して一年が経ったが、彼女はまだ打ち負かされても飲み込まれてもいない。僕は彼女を強く応援している------

 

「師匠!!!こんなとこまで遥々と何しに来たんすかっ」

 

一人射場から離れて突っ立っていると彼女が嬉しそうに駆け寄ってきた。

 

「遥々運動場を超えて見に来たのさ。巷で噂の弟子の射をな」

 

「弟子は感無量です!すぐさま弓を引くのでぜひご指導を!それとも師匠も弓引く?」

 

最後タメ語じゃねぇか、と内心突っ込みながら

 

「まぁ弓を引くのは遠慮しとくよ。それよか騒いでたら先輩として示しが付かないぜ」

 

おっといけないいけない、と焦る彼女。射場を一瞥した後、

 

「とりあえず射場行きましょう!」

 

と元気よく歩いて行った。

僕もそのあとを続き射場に入った。

 

射場にいた後輩達が次々と挨拶をしてくる。

その間に彼女はラグナロクを手に、射位へ立つ。

 

ラグナロクは彼女の弓の名だ。同期の男子に名付けてもらったらしいが、まぁ日本古来の武道である弓道の弓具、弓の名としてカタカナはふさわしくないのでは、というのが僕の見解だ。まぁ本人は気にしていないのであろうが。

 

その間にも足踏み、胴造り、弓構え・・・と射法八節をこなしていく。

 

 

会から離れた瞬間、弦音が、矢音が、的に中る音は聞こえ・・・なかった。

 

「あちゃぁーいやこれはまぐれっす!師匠!もいっかい見ててください!」

 

「ちょっと待った。射位でそんなに喋るんじゃない。あと今ので充分分かったから。」

 

「ふえっ、さすが師匠!ぜひそこを教えていただけませんか!」

 

「お前、足踏み、胴造りおろそかにしすぎだ。打ち起こしの時点で重心がグラグラじゃないのか。それだと毎回射も矢所も変わるだろう。違うか?」

 

「うっ。」

 

「それに引きすぎだ。妻手肘は妻手肩とまっすぐになるくらいがちょうどいいんだから。」

 

「はい・・・」

 

「んまぁ、でも変わったな。射形。良くなってきてる。」

 

「本当っすか!?やった!ありがとうございます!」

 

だがしかし単純なのは変わらないな、と思いながら「ほら、乙矢も早く引け」と急かす。

 

 

次の射では彼女が離れた瞬間、今度は矢が的に中る気持ちのいい音がした。

 

パァン!!!

 

「よしっ!!!」

 

精一杯矢声を出す。久々に出すせいか少し声がかすれた。

 

「どうでした?今の射!」

 

「まぁさっきよりはましだが、今後の課題が決まったな。引きすぎ、だ。」

 

「はぁい・・・善処します!」

 

「善処するな努めろ」

 

ひぇぇ、と言いながら彼女は矢取に向かった。

 

その後ろ姿を目で追う。後ろ姿だけでも彼女がいきいきとしているのが感じられる。

 

羨ましいと感じる。

 

何か打ち込めるものがある、ということが。眩しく思える。彼女が。

まぁ僕も高三の秋という現在を鑑みて、受験勉強という打ち込めるものが目の前にあるにはあるのだが、彼女と違い己の意思に突き動かされ打ち込むものでもない。

 

「ふぅ・・・」

小さな溜息をつき、不甲斐なく僕は秋の雲一つない高い空を見上げた。

 

パンッ!

「「「よぉし!!!」」」

 

 

 

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