明烏   作:空を舞う海猫

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銀杏道場

『こんなところにあるなんてな。』

 

手前に立つ銀杏の木を一瞥した後、古そうな木製のドアをスライドさせてドアをくぐり、受付の窓口らしき場所へ向かった。

「ごめんください。今日の午後から審査を申し込んだ者ですが」

 

「あぁ、高校生の方ですね。しばしお待ちを。」

そう言うと受付の女の人は道場へ続いているとおぼしき廊下の奥へと消えていった。

 

 

さて、お分かりだろうか。

 

御身17歳、受験生。

大学入試も迫り、普通のまともな高校生ならあくせくしながら勉強するはずの冬のはじめ。土曜日正午。

僕はとある道場にいる。

 

一体何がこのシチュエーションを生んだのか。

時は今週の火曜日に遡る。

 

 

 

 

昼休みが始まるチャイムの直後、購買へと昼ご飯を買うため急ぐ道中、廊下で偶然弟子とエンカウントしてしまった。

 

「あっ!師匠!こんにちはです!」

 

こう出会ってしまうと長話になるのはこれまでの経験から分かっている。

師匠、昼ご飯を諦める。もうやけくそである。

 

「よぉ、ここで出会ったが運のつき!この俺とまたぷっちんプリン早食い勝負しろ!」

 

「ありゃぁ、また一人称が迷子になってしまったのですか?しかもそのセリフ、主人公に何度も負け続けた敵キャラが次も負けるために戻ってきてフラグ立てるときのテンプレっすよ。しょーがないですやってやりましょう…」

 

「やったぁ弟子が勝負受けて立ってくれたイェーイ、、グフッ……白けた目で見るな弟子よ…」

 

「こうかは ばつぐんの ようだ」

 

「お主…、はてはまたこんなに短い間に成長したな?まさか俺以外に師でも作ったのか?浮気はいかんぜよ浮気は」

 

「んなわけないじゃないですか!師匠に教わった通りにツッコミとボケを脳内シュミレーションしてただけですよ」

 

「フワフワリ?」

 

「それは恋愛サーキュレーションです」

 

以前にも増してキレッキレの弟子を見れて少しばかり嬉しい。

 

「さて、そんなことは閑話休題としてですね」

 

「おっ、なにかあるのか、どうぞどうぞ」

 

「聞いてください、今まで見たことのない穴場を見つけたのですよ」

 

「あぁ、あそこかい僕も見つけたよ、居心地の良い穴だよね」

 

「何を言ってるんですか?」

 

「あ、いえ続けて…」

 

「実は、弓が引ける道場を見つけたのです!うちの学校の部員にもなかなか知られていないところで、ひっそりと佇む道場を!それで私も部活がオフの日、主に日曜日なのですがたまーに引きに行っているのであります!」

 

「ほお、でかしたな弟子よ。…あっ」

 

弟子が満面の笑みを浮かべこちらを見ている。

「えぇ師匠もぜひ。」

 

 

 

その後、誘いを断れない性の僕は、弟子に上手いこと口車に乗せられ射場に強制連行されたのであった。

昼練に来ている後輩に不審な目で見られながら弓袋に入れる弓は重かった…

 

流石に学校の弓を勝手に持って帰っては駄目だろう、誰か後輩が今僕の弓を使っているのかもしれないし…

とその場で一応言ってみたはいいものの彼女はその先を行っていた。

 

「えぇ確かに師の弓はもともとうちの同期が使ってましたけれども、気づいた瞬間すぐさま弓を替えさせましたので問題はないですっ!無駄な抵抗をされましたが…」

 

恐るべし弟子。

 

 

弓矢を家へ持って帰ったその夜弟子から例の道場の場所が送られてきた。

 

沼への誘いかな。

 

ちょっとは受験生案じろよ、と言おうかと思ったものの、私の師匠なら大学入試くらい余裕っすよね!と返ってくるのが目に見えているので心に仕舞った。

 

とりあえず行ってみるか…

と足を運んだ次第である。

 

 

 

 

さて、道場の受付の方が戻ってくると

「こちらへどうぞ、先生がお待ちです。」

と、道場の奥へと案内してくださった。

 

おそるおそる道場の控え室へと入り込む。

 

立派な道場だ。

木でできた柱には弓術に関する文句が書かれた板がかかっていたり、射法八節図解が壁に貼られている。

矢道の芝も綺麗に刈られていて管理の行き届いている様が見える。

 

まぁでも一番は道場を構成する物質の殆どが木だと言うことだ。

 

「失礼します。こんにちは。」

顔を上げると道着を着た先生らしき方が目の前にいらっしゃった。想像とは違い、優しそうな顔をされたおじいさん先生だった。

あたりを見渡すとほかにも何人かの方が談笑しておられる。

 

深みのある声で先生は言った。

「君が、今日審査を受ける子だね」

 

「はいっ」

と少し気が入って大きな声を出してしまった。

 

「よし、じゃあまずは弓に弦を張って。巻藁に入ろうか」

 

「分かりました」

 

先程から何度も繰り返される審査、とはこの道場で引いてもよい許可を得るために受けなければならない弓道の試験のようなものだ。

 

少し緊張してしまう。

きっとこのニコニコしているおじいさん先生も高段者の方なのだろう…

などと思いながら、弦を張りカケをつけ矢を取り出す。

 

弓と巻藁矢を持ち、きちんとした神棚がある本物の道場だ、と感動しながら、神棚へ向かって上体を10センチ傾け、揖。

先生は既に巻藁の方で待っておられる…

 

 

ミニ審査は巻藁二射、的前四射だった。

途中幾度か間違えたことがあったがそのたびに先生が優しく丁寧に指摘して下さったおかげで終わる頃には緊張もだいぶほぐれた。

 

審査の結果は合格。

 

「おめでとう、今日からここで弓を引けるね」

とおじいさん先生は笑顔で言ってくださった。

 

「ありがとうございます。楽しみにしています。」

 

「ちなみに君は何年生なのかな?」

 

「高校3年です。」

 

「ほぉっ、てことは受験生だね。大丈夫かな?」

と笑いながら聞かれた。

 

「あっあはは」

苦笑いしてしまう。

 

「段位は取っているのかい?」

 

「えぇ、はい、一応弐段の弓引きです。」

 

「なるほど、学生にしてはなかなか上手かったからそうじゃないかと思ったよ」

「これからも精進していこう」

と力強く言われた。

 

「はいっ」

 

おぉ、元気のいい返事だ。とニコニコしながら控えの奥へと立ち去っていった。

 

 

『すごくいい先生だった…』

 

ひとり余韻に浸りながら銀杏の匂いのする道を歩く。

 

 

ふと、目の前から歩いてくる少年が自分と同じように弓矢を肩に背負っているのに気づき、小さく会釈をした。

相手も会釈を返してくれた。

 

彼もあの道場に通っているのかもしれない。

今度道場で会うことがあれば話してみたいものだ。

 

すれ違った後、少しだけ振り返る。

弟子の見つけた、ひっそりと銀杏と共に佇む道場が秋の匂いに包まれている。

 

 




秋場面連投。

内心突っ込み入れつつノリで書いてしまいより一層ガタガタになった気がしないでもない(いや、する。)

ご一読ありがとうございました。
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