明烏   作:空を舞う海猫

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受験生の扉

後期期末テストの最終科目の答案を一番後ろの子が集めているのを呆然と眺めながら、勉強をしよう、という一大決心をした。

 

時は高校3年12月。

 

定期テストが終わるたびに毎度心の中で呟いていた言葉だが流石にやらなければまずいかもしれない。

 

なにせ、

“受験生”なのだから。

 

そう、これまで僕はそんな役職についていながらも本職を果たそうとはしてこなかった。否、避けていた。

 

空きコマに秋を感じたり、道場で弓を引いたり、図書館で本を読みふけったり…

蟻の行く手に石を置いてもいつの間にか勝手に超えているように、自分もそんなことをしていても、いつか勝手に超えるだろうと思っていたが…

今回一体いくつの赤点が成績表につくのだろうかと考えると頭が痛い。

お腹も痛い。

 

周りは帰る準備をしていた。

 

――――帰ろう。

 

一拍おいて心の中で呟く。

 

 

「帰ろう」

元部活仲間達にいつも通り声をかけられ、頷く。

 

 

 

テストからの開放感からか、何かが吹っ切れたかのように普段より会話が弾ける。

「そういえばさ、みんなの空気前と結構変わったよな。」

とクラスの違う友達の一人が言った。

「ほんとそれな、勝雪もさ―――」

確かに。テスト期間中も含め周りが少し変わったことに気づいてはいた。

 

その一。昼休み、弁当を食べ終わり誰かに構ってもらいに行こうかと席を立ったのに、普段絡みに行くほとんどの奴らが弁当と参考書に齧り付いていた。

 

その二。空きコマ、普段ならいつも僕が座っているはずの図書館内の席に見知らぬ誰かが座っていた。ついでに他の席を探したがどこも空いていなかったため、仕方なくあの自販機の横のテーブルまで行った。

 

その三。授業の合間に突如帰る準備をしたかと思えば、俺、予備校があるから、と言い残し去っていったクラスメイトがいた。隣の席だったためそいつの机の中にプリントをいれないといけなかった。

 

その四。……と続くがここで列挙したところで、現実は何も変わらないので胸の内に仕舞う。

 

だがまさか、こんなおちゃらけたメンバーで帰っているときにこの話題が上るなんて思いもよらなかった。

 

 

いつの間にか話題が各自の勉強報告になっていた。

勉強指定なさそうに見えて案外みんなしっかり受験生をしているのだ。

勉強しよう、というさっきの決心は自分の奥底にずしりと横たわっている。

 

 

受験まで後一ヶ月。

 

弓も引かず、ゲームもせず、ツイッターもやめ、(本だけは現代文の勉強だと自分に言い聞かせ読み続けたが)内に眠るありとあらゆる逃避欲を抑える受験勉強の中へ、冬休みと同時にダイブした。

 

勉強なぞ慣れれば苦ではない。

……なんて言ってみたかった。遂に言えた。

 

予備校の冬季講習を積み重ね、それ以外の空き時間は食事をとるか、自習室に篭もるか、のどちらかだった。とりあえず朝から晩まで予備校に篭りっぱなしだった。

その代わり家ではやはり本を読んだ。

本を読むのだけは譲れなかった。

 

 

その日、僕はいつも通り目を覚ました。

 

サンタやトナカイ、ハシゴをかたどったイルミネーションやらがところどころ軒先に出ている。

道に立っている春になったら綺麗な桃色に染まる木にも小さな電灯が絡みついている。

 

それを見てふっと笑ってしまった。

 

普段見慣れた小豆色の車体ではなく、クリスマスカラーでデコレーションされた車体がホームに入ってきたのには流石に驚いた。

一番前の車両には洒落たリースなんかが付いている。

 

半◯電鉄もやるなぁ…と思いながらサラリーマンと共に乗り込む。

動き出した電車内の赤と緑の広告に目を通していたら、その脇でカップルがいちゃつきだした。

朝から元気だな、と思いつつ素早くイヤホンの片端をスマホにもう片端を耳に突っ込んだ。

 

 

扉が開く。

さぁ今日も受験生を満喫しようか。

 

 

 

 

十二月二十四日。

高校三年目のクリスマスイヴが平然と幕を閉じた。

 

 

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