ーー彼女を救うため……私は何度も……何度も……同じ<時>を繰り返した。何度も……何度も。自分が何者かすらわからなくなるほどの長い……長い<時>を繰り返した。彼女ただ1人を救う為に……けれど、なんどやっても<結末>変わらない。様々なことをした。それでも、最後には、彼女は闇に呑まれていく。悠久の輪廻の中やがて、私は一つの結論に至る。
『彼女を救う為に、彼女を殺す……』
私は【仮面】を付ける。自分の甘さを消すために。自分の弱さを消すためにーー
◇
A.P.238/2/28
私の耳がピクリと反応する。遠くで突然何かが現れた。その方向を向き、その存在の気配を感じ取る。ダーカーよりも更に密度の高い、そして強大な黒いフォトンを感じる。
「クーナ……テレパイプを置く。今すぐヒカリを連れて逃げてくれないか?とんでもない奴が現れた。」
「私も行きます。」
「ダメだ!君が行けば私達は全滅する。それほどに奴は強い。」
「ならば、なぜあなた1人で……」
「……私にはある切り札がある。しかし、君とヒカリを庇いながらだとまず使えないからな……じゃ、ヒカリのこと頼んだぞ!」
クーナが渋々頷くのを確認すると、すぐさま走り出す。風よりも速く、音すら置いていく勢いで。
黒衣の男は、自分の方へ向かってくる私の気配に気付く。そして、背中に担いでいた黒く禍々しい剣、コートエッジDをガードの姿勢で構える。直後、構えた剣に隕石が落ちたかのような衝撃が伝わる。
「……まさか、これを止めるとは思わなかったぞ?ダークファルス!」
「っ……貴様は……」
私の先手必殺の一撃が止められた。その事に一瞬驚いたが、そこからさらに男を吹き飛ばすつもりで薙ぎ払う。それを読んでいたかのように、威力を殺しながら男は距離をとった。
「仮面で素顔を隠すダークファルス……安直だが、ダークファルス
「……貴様、あの杖をどこに隠した……?」
「ほう……知っているのか……だが、教えないし探させる気も無い。お前はそのままお帰り願おうか!」
「女狐め……ならば、ここで死ね。」
【仮面】はそう言うと、挨拶代わりにソニックアロウを放つ。負けじとこちらも同じ技で返す。飛ぶ斬撃が相殺されるとともに【仮面】が間合いに詰めてくる。そして、2人の黒剣が衝突する。鈍い金属音が辺りに響き、近くの雪が巻き上げられる。間髪入れずに次の攻撃が来る。それを受け流しスタンコンサイドを放つ。【仮面】はコートエッジDでそれを弾き返す、更に黒いフォトンを纏った横薙ぎの一閃を放つ。
ーー強い。
一閃をガードした私に、【仮面】はさらにスピードを増して攻撃してくる。
戦闘が長引けば長引くほど私の力は弱くなる。そのことを、知っているかのように【仮面】は一切の反撃を許さない勢いで攻撃を繰り返す。
30分程経っただろうか、未だ【仮面】の攻撃は緩まない。それどころか、更に鋭さが増している気がする。
息も切らさず攻撃を続ける【仮面】に対し、私の方はというと、汗が顎へとしたたり一撃ごとに息が漏れるほどに疲労していた。
垂れた汗が目に入り、一瞬の隙が生まれる。
【仮面】がその隙を逃すはずも無く、さっき放った横薙ぎの一閃の倍近い黒いフォトンを纏わせた鋭い突きを放ってくる。
「しまっ……!?」
「終わりだ。」
咄嗟にブラックウィングでガードするが集中力が下がり、耐久が下がった黒剣は折れ【仮面】の剣は私の身体を深々と貫いた。
「ぐっ……うぅ……がはっ……くく……」
苦しそうに呻きながらも、私は笑みを浮かべる。
【仮面】から見れば、死の間際になりおかしくなったのかと感じるだろう。
しかし、その笑みに言い知れぬ不安を感じた【仮面】は、急いで剣を引き抜こうとした。しかし、剣は1ミリたりと動こうとしない。
「……ようやく、動きが止まったなぁ?【仮面】?」
私は、笑みを浮かべたまま右手に<とっておき>を握る。そしてそれを、目の前の【仮面】に突き立てる。刺さったそれは対象のフォトンを喰らう、例えそれが黒いフォトンであっても。
「……透刃……マイ!?創世器を創造したというのか……!くっ!」
「……ゲホッ……くっ……ようやく驚いたな。【仮面】……これで、流石のお前もすぐには動けまい。」
剣が引き抜かれた傷口や口から血を流し、真っ白な雪を真紅に染めながら笑う。
【仮面】は忌々しそうに、こちらを睨み付けながらマイを抜くとそのまま投げ捨てた。雪の上へと落ちたマイは、雪に溶け込むように姿を消した。
ーーまずいな。出血多量で意識が消えそうだ。
【仮面】が動けない事を確認すると私は、もう一つの<とっておき>を使い、ナベリウス・凍土から姿を消した。
「空間転移か……」
そう呟くと、【仮面】もまた、闇の中へと姿を消した。
◆
テレパイプを使い、先にヒカリを連れてキャンプシップに戻っていたクーナ。凍土で水琴と別れてから、一時間が経とうとしていた。
数分前から、抱っこしているヒカリがなにかを感じているのか、不安げな表情をしている。年不相応なその表情に違和感を感じるが、この娘はあの狐のような姿をしている親から生まれているのだ。親が変わっているのだから、子も少し変わっているのだろう……と勝手に納得する。
「あう!」
先程まで不安そうに黙っていたヒカリが突然、大きな声を発するとキャンプシップの中に眩い光の塊が発生し、弾けた。あまりの眩しさに目を逸らす。しばらくして光は止み、その中心には腹部に大きな剣で貫かれたような傷のある血塗れの水琴が倒れていた。
「水琴さん!?……とにかく、止血をしないと……」
慌てるクーナに対し、ヒカリはゆっくりと水琴に近づく。そして、傷口から血を掬い取るとその血を飲んだ。すると、ヒカリの身体は一気に成長し5、6歳程の少女の姿になった。
少女は、水琴の傷口に手をかざす。
「……随分とひどい有様だね……でも、救うから。絶対に1人にはさせないから。……クーナちゃん、この子は私がなんとかするから、落ち着いてね?」
「落ち着いてと言われても……」
困惑するクーナを尻目に少女は、治療を始める。かざした手から光を放ち、治療する様はまるでアークスのテクニックのようだったがレスタよりも更に肉体そのものを修復させる力が強いように感じた。
数秒という短い時間で少女は治療を完了する。
「……ん、よし♪これで、一応大丈夫。致命的な損傷はぜーんぶ治したから、あとは数日安静にしてれば、多分完治するかな。」
「……あなたは一体何者なんですか?それに今のはなんなんですか?」
「んー……何者って見てたでしょ?私はヒカリ。それ以外の何者でもないよ。それに、今のはこの子の自己再生力を上昇させただけ。」
ヒカリは、淡々と質問に応える。
「自己再生力?」
「うん、そうだよ。この子はちょっと特別だから。……っとと、もうエネルギー切れか……あぁっ、最後に!クーナちゃん!この事は、水琴にも……というかみんなにも内緒にしといてね!いずれ私の口から話すから!」
ヒカリは、そう言い残すと再び元の赤ちゃんの姿に戻ってしまった。赤ちゃんに戻ったヒカリは疲れたのか水琴の横でこてんと転がって眠り出した。
さっきまで、苦しそうにしていた水琴の顔もすっかり元に戻り、クーナはひとまず胸をなで下ろした。
水琴が戦った相手がどうなったのか……ヒカリと水琴はいったい何者なのかなど疑問は多々残っているが、今その事を考えていても仕方が無い。クーナは、ため息を吐きながらキャンプシップをアークスシップへと向かわせた。
◇
私は、暗い暗い闇の奥底へと沈んでゆく……私は、どうなったのか。生きているのか死んでいるのかさえわからない。
闇は私を侵食してくる。
後悔、怒り、哀しみ、そして絶望と虚無感。そんな感情を伴った記憶が私を満たす。
ただ1人の少女を救う為、何度も……何度も、何度も繰り返した。けれども、最後には変わらず最悪の結末が待っている。
少女は、『みんな』を救う為に自分を犠牲にする。
『笑顔でいて』と大切な人を失った男にある意味、呪いとも言える『約束』を残し少女は闇に消える。
ーー救えない。
そう救えないのだ。何度繰り返そうと、何度助けようと、少女は自分を犠牲にする。『みんな』を助けるためと1人で全部抱えてしまう。
寂しそうに、血の涙を流しながら微笑む少女の顔が目に焼き付いて離れない。
私は、ただ1人を闇の中で膝を抱えて考えることを放棄しようとした。
『絶対に一人にはさせないから!』
私1人しかいないはずの闇に、光が差す。そして、血の涙を流していた少女……いや、ヒカリが飛び込んでくる。
「なんで……」
『前に言ったでしょ!約束は絶対に破らないって。だから、まずは私がお手本を見せるのよ。水琴は一人ぼっちじゃないんだからね。ほーらっそんなとこでうじうじしてないで!早く起きなさい!』
ヒカリは、私の手を引くと光に向かって飛んだ。
『……大体、変えられない未来なんて無いのよ。……定まってる未来なんて面白くもなんともないもの。』
「ふふっ……ヒカリはそういうとこ変わらないんだな。」
『だって、本当のことだもの。それに貴女は私の最高の娘だもの。不可能も限界も関係無いわ。思いのままに頑張りなさい!』
「あぁ、わかった!」
ヒカリからのエールで弱っていた心に強い意志の炎が灯り、私の覚悟をより強固なものへと変化させる。
私は、必ず救ってみせる。自分を犠牲にしようとするただ1人の少女も、少女の救済を真に願うあの男も。
これで、大きいヒカリさんはしばらくお休みなのです。(予定)