数か月後 織斑宅
「・・・・・・・・・」
「一夏、一緒に出掛けるぞ。」
「分かった。」
外を眺めていた一夏は、千冬に言われて外に出る準備をする。無表情で機械じみた喋り方だったが姿を見るだけでも千冬には弟が自分の傍にいるという実感を感じることができた。
一カ月前、束はどうにかハカイダーの破壊回路の書き換えに成功した。それは、破壊対象であるISの破壊レベルを下げることだった。ISには機体の損害レベルというものがあり、今までのハカイダーはISの搭乗者ごと抹殺するように設定されていた。破壊本能自体の回避は困難だと判断した束は、ISのコアの破壊と搭乗者を殺害することだけは避けようと損害レベルがD以上になった場合は強制的に戦闘機能を停止させるようにした。苦肉の策だったが、この書き換えのおかげでダークのネットワークとは完全に遮断され、今後はギルに動向を探られる心配は無くなった。そして、今まで千冬の望んでいた一緒に暮らすための人間への擬態と戻れる方法に課題を移した。
束は、すぐに千冬を呼び出し、いくつかの案を教えた。
1.千冬の細胞から培養し、一夏の容姿に近い段階にまで調節し、表面を生きた細胞で覆う。
2.つい最近開発したばかりの形状記憶液体金属で表面を覆い、一夏に擬態させる。
選択は全部で2択に絞られているが束は双方の問題点をあげる。
1の場合、体表面の組織は生きているため人間と変わりなく接しても問題はない。更に千冬と一夏は血縁者でもあるからうまくいけば一夏に近い外見を再現することができる。但し、ダークのロボットが送られてきた場合、ハカイダーの姿に戻る際にこの表面の細胞を全部剥がす必要がある。更に一度剥がすとまた束のラボで培養した細胞で覆う必要があるため、あまりいいとは言えない。更にハカイダーにならずに戦ったとしても傷つきすぎると機械のボディが見えてしまうため、人目の付かない所でやる必要がある。
一方の2の場合は、瞬時に表面を覆いなおすことで一夏の姿に戻れる他、ハカイダーのボディの衝撃を和らげる効果があり、戦闘面では優れているが、飽くまでも金属であるため、体温は一般の人間よりも低い。つまり、握手などをした場合は怪しまれる場合がある。更に目は暗い場所や感情が昂ぶると赤く発光するためサングラスは必須だ。
他にもボディにチェンジ機能、つまり人間態への組み換え装置を取り入れ、戦闘時のみハカイダーの姿に切り替えするという案もあったらしいがそれには一からボディを組みなおす必要があるため没にしたという。
千冬は考えた末に液体金属で表面を覆う案を選んだ。この方が襲われたときもすぐに対応できるし、人目に付き難くなる。早速案は実行され、ハカイダーは一夏として織斑宅へ住むことができるようになった。但し、言葉遣いにかなり違和感があるため数日はコミュニケーションの取り方を教える羽目になったが。
商店街
「ほら、一夏。ここが昔私と一緒に来ていた商店街だぞ。」
「・・・・・そうなのか。」
千冬が積極的に紹介しているのに反して一夏は相変わらず不愛想な言葉を返す。
無論、知っているような気がする。ただ、思い出すことができない。
それが今の一夏だ。でも、そんな一夏でも千冬は傍に居てくれるだけで嬉しかった。守ることができずに失ってしまった弟が今こうして手を握って一緒に歩いてくれているのだ。その光景はどこにでもいるカップルがデートをしている光景にも見える。
「・・・・・・千冬姉、俺は昔、どんな人間だったんだ?」
一夏は無表情ながらも一緒に歩いている。呼び方は千冬がそう呼ぶように言ったわけではない。自然に呼んでいるのだ。
「・・・・そうだな。一言で言えば誰にでも優しいといった感じだな。」
「・・・・・・・そうか。」
一夏は無表情ではあるものの何か寂しそうに見えた。
「❝人間❞の頃の俺はいい奴だったんだな。」
「・・・・・大丈夫だ、私と一緒にいればきっと昔の一夏に戻れる。」
「だが、俺は機械だ。人間には・・・・」
「暗い話はやめて、あそこの喫茶店で何か食べよう!一夏、好きなものを頼んでもいいぞ!」
「まだ、味覚回路が不完全だ。それに余計なエネルギーを摂取する必要はない。」
「・・・・・・まだまだ道は遠いなぁ・・・・。」
千冬はしょんぼりしながらも一夏の手を引っ張っていく。そのとき二人は、自分たちの後ろをじっと監視している黒ずくめの男がいたというのを知る由もなかった。
「・・・・・・・・」
一夏は、喫茶店の客席から外をずっと眺めていた。そんな一夏を千冬は少し心配そうに見ていた。
「なあ、一夏。」
「・・・・・・なんだ?」
「注文は?」
「俺はいい。どうやら注文しているほど呑気にはしていられない様だ。」
「何?」
千冬は、不審に周りを見る。周りを見る限りは怪しい人物らしき者は一人もいない。
「そんな奴はどこにもいない様だが・・・」
「俺にはわかる。この店の中にいる人間は全員ロボットだ。」
「なっ!そ、そんなことがあるわけ・・・・」
「お客様、ご注文はお決まりですか?」
そこへ男性店員が気にしたのか穏やかな表情をしてやってきた。千冬は慌てて対処しようとする。
「い、いや!それがまだ決まってなくて・・・・・・おすすめは何かないか!?」
「はい、当店のおすすめは・・・・・・・ブリュンヒルデとハカイダーの蜂の巣攻めでございます。」
「はっ?」
「伏せろ!」
一夏が千冬をテーブルに伏せさせた瞬間、近くの席に座っていた客全員が一斉に謎の覆面を付けた戦闘員へと変わり、一夏に向かってマシンガンを発射した。
「逃げるぞ!」
「ハカイダーを取り押さえろ!頭部とボディが残っていればどこを壊してしまっても構わん!」
「「「「ギル!ギル!」」」」
男性店員の命令で戦闘員は逃げていく一夏たちの後を追っていく。
「何としても奴をサンプルとして持ち帰るのだ・・・・・・・ISを破壊するためのISのコアを搭載した戦闘ロボット・・・・・・もしうまく行けば我々ダークの利益になる。」
男の姿は徐々に変化していく。
「はあ・・・はあ・・・・・」
千冬は息を切らせながら一夏と共に走っていた。後方には複数の戦闘員たちが後を追ってくる。
「はあ・・・・一夏、いつから気付いていたんだ?」
千冬は走りながら聞く。一夏は落ち着いた口調で説明する。
「俺たちが街を歩いているときからだ。ダークは既に世界各地に人間に擬態できるアンドロイドを送り込んで行動に移している。あの街の中にも人間は気づかないだろうが複数の諜報ロボットが紛れ込んでいる。」
「それで私たちを見つけることができたのか・・・・・。」
「俺の破壊回路からのネットワークが遮断されても既に奴らは俺の行動を見ている・・・・・・皮肉だな。」
一夏はそう言うと足を止める。
「一夏、何をするつもりだ!」
千冬は引っ張ろうとするが一夏は動かない。
「・・・・・・ここで奴らを破壊する。あの程度のロボット共なら姿を変えなくても倒せる。」
「無茶言うな!もしものことがあったら・・・・・」
千冬が言おうとしたとき戦闘員の一人が追いついた。
「ギルル!」
「一夏!」
「・・・・・・」
一夏は無言で千冬を軽く後ろに突き飛ばし、戦闘員を蹴り飛ばす。戦闘員は反撃に移ろうとするがハカイダーは容赦なく腕を掴み、顔面を殴る。殴った瞬間戦闘員の顔は破壊され、体も同時にバラバラになってしまう。
「戦闘員に関してはコストを抑えすぎたようだな。変身する必要もない。」
一夏は次々と追って来た戦闘員たちを返り討ちにする。本来捕まえに来たはずの戦闘員たちは一夏の異常な戦闘能力に驚き、ある者は逃げ、ある者はマシンガンを撃ち、ある者は薙刀で斬りかかるも殴り飛ばされてバラバラになった。
「や、奴らはこんなに弱いのか?」
千冬はバラバラになった戦闘員たちのパーツを見ながら言う。
「これでも、一般の人間の二倍以上の力はある。俺がロボットだから弱く見えるんだ。」
『では、私はいかがかな?』
「むっ!?」
突然の声に一夏は身構えるがその瞬間、その真下から鋭い鎌が地面を突き出て現れた。一夏は危ういところでジャンプをし回避する。一夏がいた場所には巨大なオレンジ色の昆虫型ロボットが地面から這い出て来た。
『自己紹介をしよう。私はオレンジアント、ダーク破壊部隊のメンバーだ。』
「ダーク破壊部隊?」
『ダークは世界各国に破壊工作員として、戦闘員以外に我々のような上級の戦闘型ロボットが送られる。指揮官としてね。主に私は細菌兵器の実験などが担当だが・・・』
「・・・・・・目的はなんだ?」
『プロフェッサー・ギルの命令でね。君をサンプルとしてダーク本部へ連行せよとのことだ。君の能力とこれまでの戦闘データ。そして、篠ノ之束が初期に制作したISコア・・・・どれも貴重な物だからね。それにブリュンヒルデ、君も重要なサンプルだ。』
「わ、私が?」
オレンジアントの言葉に千冬は戸惑う。
『君たちが倒した戦闘員・・・・・・通称❝アンドロイドマン❞と言うのだがね、雑用には使えるのだが兵器としてはまだ売り物にはならないのだよ。そこでプロフェッサーは、人間の中では最強の部類に入る君のデータが欲しいというわけさ。それと我が組織には関係ないが君のDNAからクローンの量産に成功すれば最高の兵士にとして紛争地へ売りつければ高値で取引できるからね。』
「言いたいことはそれだけか?」
一夏は殺気に満ちた眼差しでオレンジアントを睨む。
『そう興奮しないでくれたまえ。我々はロボット、主の命令に従うのは当然の義務ではないか。』
「一夏はロボットじゃない!」
『本当にそうかね?』
オレンジアントはそう言うと右腕を一夏に向かって飛ばす。
「ぐっ!」
オレンジアントの腕は一夏の腹部に命中し、吹き飛ばされて行く。
「一夏!」
千冬は急いで追いかけようとするがかなり遠くに飛ばされたせいもありとてもだが追いつけそうにない。
「どうすれば・・・・・・ん?」
千冬が困りかけたとき、一台の無人バイクが近くに来て彼女の目の前で止まった。
ガシャーン!!!
一夏は一軒の建物に衝突し、壁を破壊した上に中で倒れていた。場所が店だったのか中では客らしき人間が複数いて、壁を破壊して落ちて来た一夏を見て動揺して逃げている者もいた。
「い、一夏さん?」
その中で従業員らしき赤髪の少女が驚いた顔で一夏を見ていた。隣には似た容姿の少年も同じ顔をしていた。
「一夏・・・・・お前・・・・・・・生きていたのか?」
少年、弾の質問を無視し、一夏は起き上がろうとする。店の外では既にオレンジアントが待っていた。一夏は自分の頭に刺さっている食器の破片を抜く。当然血は出ない。
『見たまえ。人間なら重傷の状態を君は平然と立ち上がれる。それでも君はロボットではないと言い切れるかね?』
「な、なんだ!?あの虫みたいなロボットは!?」
弾はオレンジアントに向かって行く一夏を押さえながら言う。しかし予想以上の力に弾には止められずさっき驚いていた蘭も慌てて止めにかかる。
「・・・・・・退け。」
抑え込んでいる二人に対して一夏は感情の無い一言を言う。
「何言ってんだよ!あんなロボットに敵うわけがないだろう!お前、久しぶりに出てきて早々死ぬつもりかよ!?」
「そうよ!それにそんなに破片が刺さっていたら大変ですよ!急いで手当しないと!」
「・・・・・・・・お前たち、俺のことを知っているのか?」
「「えっ!?」」
一夏の一言に二人は思わず言葉を失った。二人の後ろでは母親と祖父らしき人物も驚いた様子を見ていた。
「誰って・・・・・お前一夏だろ!?俺のこと忘れちまったのかよ!?」
「・・・・・・俺は確かに一夏と呼ばれているがお前たちのことは・・・・・・・・知っているように感じるが憶えていない。」
「そんな・・・・・・俺だよ!弾だよ!五反田弾!お前の小学生からの同級生だよ!隣にいるのが妹の蘭、みんな忘れちまったのか!?」
「そうですよ!数馬さんに鈴さんのことも!家によく遊びに来たり、店の手伝いとかしたじゃないですか!それも全く覚えていないんですか!?」
『・・・・・・・・・・・すまないがそこの人間二人。そいつは人間ではないぞ。我々と同じロボットだ。』
自分のことを無視していることが気に入らないのかオレンジアントは、二人に向かって言う。
「ふざけるな!どう見たって一夏じゃねえか!てめえこそどうかしているんじゃねえのか?ポンコツロボット!」
『・・・・・・人間風情が。私にそのようなことを言っていいのはプロフェッサー・ギルのみ・・・・・・・ここで消してくれるわ!』
オレンジアントは、口から何かを弾に向かって吐き出す。
「避けろ!」
一夏は弾を突き飛ばし、代わりに液を浴びる。液が顔に触れた瞬間、シューシューと音を上げながら表面が溶け始める。
「一夏!」
弾は思わず一夏に近づこうとするが一夏の目が赤く光り出す。
「えっ?」
溶け始めていた一夏の表皮が液体になり始め、ハカイダーの姿へと変わる。その光景に蘭は驚いていた。
『・・・・・・・』
「い、一夏が一瞬に・・・・」
『フフフッフ・・・・・やっと本性を現したかハカイダー。私の蟻酸で今度は貴様の手足を溶かしてやろう。』
『・・・・・・・ならやってみろ。』
ハカイダーは瞬時にホルスターから銃を引き抜きオレンジアントの右胸を撃ち抜く。
『何!?コイツ・・・・・・どうして私の蟻酸タンクの場所を!?」
右胸から液体が漏れ出し、オレンジアントの体を伝って地面に落ちていく。
『これで自慢の武器は使えんな。』
『私を見くびるなよ・・・・・失敗作が!』
オレンジアントは両腕と頭部を外し、ハカイダーに向かって飛ばす。ハカイダーは回避行動に移るがオレンジアントの頭部と両腕はどこまでも追いかけてくる。
『・・・・・・どこまでも追ってくるか。』
『私の体は現在実用化に向けた新型兵器の試験用にチューンアップされている!これはその機能のうちの一つだ!』
オレンジアントの両腕がハカイダーを拘束する。
『いくら破壊されたとはいえ私のボディは蟻酸発射装置よりも強力な自爆機能も兼ね備えている!』
『・・・・・・道ずれか。』
『そうだ!貴様を捕らえられなかった以上、このまま私が戻ればプロフェッサー・ギルに処刑される。だが私は誇り高きダーク破壊部隊、そのような情けない最後はせん!せめて貴様をここ葬る!』
オレンジアントはそう言うと頭部を右胸に衝突させる。頭部は残っていた蟻酸によって溶け始めるが同時に自爆装置が働き始める。
『死ね!ハカイダー!』
オレンジアントのボディは勢いよく走ってハカイダーに迫る。ハカイダーは自らのコンピュータで対策を練り始める。
(ここで爆発させれば周辺は無事ではすまない・・・・・・・ならば・・・・)
「一夏!」
そのとき、千冬がホワイト・クロウに乗って到着した。あの無人バイクは、ハカイダーを追尾して自動操縦になっていたホワイト・クロウだったのだ。
『タイミングがいいな。』
ハカイダーは千冬をホワイト・クロウから降ろすとすぐISコアを通じて電磁ムチを出す。
『フン!』
ハカイダーは電磁ムチでオレンジアントのボディを拘束し、ホワイト・クロウを走らせる。
『ホワイト・クロウ、ISコア接続!飛行開始!』
ハカイダーの指示と同時にホワイト・クロウは浮遊し、空へと飛んでいく。
「一夏・・・・・」
千冬は心配そうに空へ飛んでいくハカイダーを見る。千冬の後ろでは未だに現実を受け入れていない弾と蘭がいる。
「い、一体全体どうなっているんだ?一夏がいて・・・・ロボットになって・・・・・」
「千冬さん、これは一体・・・・・・」
「・・・・・・・実は・・・・」
「それは、私から説明しよう!」
千冬が二人に説明しようとしたとき、どこから来たのかいつの間にか一同の目の前に束が現れる。
「束!お前、いつの間に・・・・・・」
「こうなった以上知っておかなくちゃいけないことがあるからね。」
仮面ライダー555のオルフェノクはほとんどダークロボットが元ネタだったらしい。
ちなみにハカイダーはローズオルフェノクの元ネタになった。