求めていた物はきっと。   作:あくぜろ

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おはこんばんにちわ。あくぜろです。
こういうのは勢いが大事、ということで今回は間髪入れずに第二話行きますよー。


温かい時間

「うん、それじゃあ行こっか。ほら曜も、いつまでもむくれてないで行くよ。」

 

 果南姉ちゃんはそう言って歩き出すが、こちらとしては幾つか聞きたいことがあった。が、その質問は歩きながらでも出来るだろうし、果南姉ちゃんは結構マイペースな所があるので呼び止めても聞いてくれないだろう。そう判断して果南姉ちゃんに着いていこうと歩き出すと、相変わらず膨れっ面のままの曜がそっぽを向いたまま隣に並んでくる。

 

「……ねえ。」

 

「なんだよ?」

 

「私には何か言うこと無いの?」

 

「…………」

 

 言うこと、か。正直、言いたいことが有りすぎて何から言えば良いのか分からない。曜には謝らなきゃいけないことも沢山あるし、それ以外にも個人的に言ってやりたいことはある。だけど、やっぱり最初はこう言うべきではないのだろうか。

 

「……ただいま。それと、ごめん。」

 

「……それは何に対してのごめんなの?」

 

「三年前の事とか、この三年間の事とか、幾つか謝りたい事はあるんだけどさ。まず一番はさっき曜のこと、気づけなかったことかなって。あんなことがあったのに俺、最低だよな。」

 

 そう言うと、曜は漸くこっちを向いてくれたが、その表情は相変わらず不機嫌なままだ。その表情を見て、どうしたものだろうか等と考えていると、今度は少しだけ不安そうな顔になった曜が口を開いた。

 

「私のこと、忘れてたの?」

 

 言葉は短かったが、いや、逆に短いからこそ彼女の気持ちがよく分かった。もちろん実際は忘れてなどいる筈が無いのだが、本当の理由を言うのは少しだけ恥ずかしい。けど、言わなければ納得してくれなさそうなのも事実で、だけど言ったら殴られそう。どうしたものか。

 

「忘れてはいなかったよ。バスで目があった時も、ん?とは思ったし。ただその、何て言うかなぁ。」

 

「何?もう、はっきりしてよ。」

 

「言っても怒らないか?」

 

「内容次第。でも言わなきゃ怒る。」

 

 全く理不尽な話だ。言わなければ問答無用、言ってもそれが意にそぐわなければアウト。もはや絶望しかないのではないだろうか。しかし、このまま黙っていたら曜が痺れを切らしてしまいそうなので、仕方がない。言おう、と決意を固める。

 

「いや、昔よりずっと綺麗になってたからさ。どうしても記憶と噛み合わなかったんだよ。昔に比べて髪の色も薄くなってるし。」

 

「え、なっ、そんな綺麗にって、ーーーーーっっっ!」

 

 思った通りのことを言うと、曜は何やらぶつぶつ言いながら俯いてしまう。そんな姿を見て、あー、やっぱり怒らせちゃったかな。と思いながら殴られてもいいように、下半身に力を入れておく。が、いつまでたっても何の反応もなく、ずっとぶつぶつ言ってるだけの曜。不思議に思って声をかけようとすると、漸く俯いた顔を上げた曜は、予想に反して少し恥じらうような、そんな笑顔を浮かべていた。

 

「そっか。うん、それなら仕方ないよね。三年間も会ってなかったんだし……。あ、私の方こそ思い切り殴っちゃってごめんね。その、痛かった……よね?」

 

 さっきまでと違って笑顔で、しかも俺の心配をしてくれるところを見るに、どうやら許してくれたみたいだ。もしこれがからかっている、なんて受け取られていた日にはどんな目に逢うか分かった物じゃなかったので、とりあえず一安心だ。

 

「別に気にしてねえよ。それより手、痛めてないか?結構いいパンチだったから、下手したらお前が拳痛めてそうでそっちのが心配だよ。」

 

「えっ?あ、うん、大丈夫。……ありがとね。」

 

 照れたように礼を言う曜におう、と返事をしながら前に視線を向けるといつの間にか、ずっと前の方で歩いていたはずの果南姉ちゃんが、すぐ近くで俺たちを見てニヤニヤと笑っていた。

 

「ふふっ、良かったね、曜。ユウに綺麗だって褒めて貰えてさ。」

 

「なっ、果南ちゃん!!」

 

「あれれー?曜、顔真っ赤だよー?どうしたのかなぁ?」

 

「なんでもないっ!」

 

 二人のそんなやり取りを見て懐かしい気分になると同時に、本当に良かったと思う。三年前、二人とはほとんど喧嘩別れのような状態になってしまっていたから。ずっと後悔していたのだ。もっと笑って別れることができたのではないか、いつか帰ってきても、もう二度と前のように笑い合うことは出来ないのではないかと思って怖かった。

 

 昔から俺たちに優しくて、あの時も俺を引き留めながらも、最後には俺の背中を押してくれて、何よりこの三年間で一度だけ顔を会わせる機会のあった(・・・・・・・・・・・・・・・・)果南姉ちゃんや、三人の幼なじみの中でただ一人、最初から俺の好きにすればいいと言いながら能天気に笑ってたあの子はともかく、曜は俺が東京に行くことを勝手に決めて、ギリギリまで黙っていたことを本気で怒っていたから。それに何より、あの時涙ながらに曜が俺に言ったことは今でもはっきりと覚えてるし、きっと一生忘れないと思う。だから俺はずっと、彼女は俺を許してくれないだろうと思っていた。そんなこともあって、さっき曜に殴られた時も驚きはなくて、むしろ当然だと思った。

 

 だけど、結局曜は誰よりも優しいあの頃の彼女のままで、ただ俺のことを許して、甘やかして、中途半端に優しくしてくれるんじゃなくて、自分の気持ちを全力でぶつけて俺に正面からぶつかってくれた。それが彼女なりの優しさだと分かるから、それが何よりも嬉しくて涙が出そうになる。が、流石にいきなり泣き出すのは恥ずかしいので我慢する。

 

 しかし、こんな風に自分の周りが賑やかになるとは思っても見なかったので、色々と考えてしまう。こういう時、今ここにいないあの子なら能天気に笑い飛ばして、考えることすら馬鹿馬鹿しくさせてくれるんだろうな、と思いながら小さく笑って、果南姉ちゃんの方へ視線を向ける。

 

「ところで果南姉ちゃんはどうしてあんな所に?普段ならこの時間は実家の手伝いじゃなかった?」

 

 そう。普段ならこの時間、果南姉ちゃんは実家が営んでいるダイビングショップの手伝いをしている筈で、偶然通りかかったと言うには出来すぎているように感じたのだ。

 

「ああ、私はおじさんから今日ユウが戻って来るって聞いてたからね。だからユウを迎えに来てあげたんだよ。おじさんにも頼まれたし。」

 

 ああ、親父が教えたのか。と納得しかけるが、その答えによってもう一つ新たな疑問が生まれた。だが、俺がその疑問を口にするよりも早く、曜が口を開く。奇しくもそれは、俺が聞きたかったことと全く同じ内容だった。

 

「えっ?私は聞いてなかったけど、どうして教えてくれなかったの?」

 

「本当は曜とチカにも伝えてくれって頼まれてたんだけどね。曜はユウの顔を見た瞬間殴っちゃうような気がしてたから黙ってたんだよ。実際殴ってたし。」

 

「うっ、それは、その……。ごめんなさい。」

 

 曜がそう言ってガックリと項垂れると、果南姉ちゃんはあはは、と笑いながら言葉を続ける。

 

「まあ、実際は余計なお世話だったみたいだけどね。私も少し神経質になってたみたい。」

 

「あれ、でも千歌ちゃんは?もしかして忘れてるのかな?」

 

「んーん、チカに教えたら、あの子何も考えずに曜にも教えちゃいそうだからね。だからチカにも教えてない。」

 

「あっはは……。なんか納得出来るかも。」

 

 千歌は相変わらずそういう扱いなんだなぁ。と思いながら二人の会話に納得する。どうやら、果南姉ちゃんには俺が思っていたよりもずっと心配をかけていたようだ。本当に、昔からこういう部分では果南姉ちゃんに敵わない。改めて彼女が俺たちよりも一つ歳上の『お姉さん』なんだという事実を実感させられる。

 

「そういう訳で、チカだけ仲間外れは可哀想だからね。長旅でお疲れのユウには悪いけど、今から千歌ん家行くからねー。」

 

「えっ。」

 

 嘘だろう。千歌に会いに行くこと自体は構わないし、旅の疲れなんてものもない。だけど、あの家だけはダメだ。何故ならあの家には俺の天敵がいるから。せめて千歌を呼び出すとかそういう方向に持っていくことはできないだろうか。

 

 そんな俺の考えを読み取ったのか、隣から小声で曜が話しかけてくる。

 

「確か、昨日千歌ちゃんが今日は美渡さんは出掛けてて家にいないって言ってたと思うよ。」

 

「本当だろうな……?」

 

「うん。詳しいことは聞いてないけど、今日は友達とどこかに遊びに行ってるらしいよ。」

 

 そうか、それなら大丈夫……っていやいや、良く考えたら親父に何時頃に着くって言ってあるし、行くにしても一旦家に顔を出してからでないと無理だろう。等と考えてると、果南姉ちゃんがニッと笑ってこっちに向き直る。

 

「ちなみにおじさんには七時までに返してくれれば、ユウのことは好きにして構わないって言われてるから時間のことは気にしなくて大丈夫だよ。」

 

「流石果南ちゃん。なんて抜け目のない……。」

 

 息子が三年ぶりに帰ってくるというのにそれで良いのか親父。いや、これは親父なりの気遣いなんだろうな。きっと、俺が曜や果南姉ちゃん、そして千歌と仲直りして今後の生活が過ごしやすくなるように考えてくれてのことだろう。まったく、我が親ながら本当に不器用な人だと思う。

 

「うん、それなら行こうか。千歌だけ仲間外れにしたなんてアイツにバレた日には面倒だろうし、なんか俺も久し振りにあのアホ面が拝みたくなってきた。」

 

「そういう言い方、なんだかんだ優理も変わらないねー。後で千歌ちゃんに言いつけるよー?」

 

 などと三人でくだらない会話をして笑い合いながら歩くこと数分。左手に『旅館 十千万』と書かれた看板が見えてくる。この旅館は、俺達三人の共通の友人である高海 千歌(たかみ ちか)の家族が経営している旅館であり、ここの露天風呂から見える景色は絶景の一言に尽きる。庭では所謂ブサカワ系の大型犬、しいたけが昼寝をしており、あいつを見るのも三年ぶりか。と笑みが零れてしまう。そんなしいたけの前を通って旅館の暖簾を潜って旅館の中に入ると果南姉ちゃんが、「こんにちわー!」と声をあげる。すると、奧の方からパタパタとした足音が聞こえてくる。

 

「はいはーい。どちら様……ってあら、果南ちゃんと曜ちゃんに……もしかして、ユウちゃん?」

 

「はい、どうもお久し振りです。それと、いきなり顔を出して申し訳ありません。千歌はいますか?」

 

「あらあらー!少し見ない間に大きくなって!わざわざ東京からチカに会いに来てくれたの?ちょっと待っててね。チカー!果南ちゃん達が来てるわよー!」

 

 この人の名前は確か、高海 美歌(たかみ みか)さん。千歌のお母さんで、俺達も小さい頃からなんだかんだと良くしてもらってる人だ。その容姿は何度見ても俺達より年上とは思えないのだが、これで三人の娘を持つ母親だというのだから恐れ入る。そんな見た目は子供、実際は4○歳の美歌さんが声をあげると、奧の方からバタバタという足音が聞こえ、俺の記憶にある姿をそのまま年相応の体格にしたような、そんな幼なじみの女の子が姿を表した。

 

「あぁー、曜ちゃん、果南ちゃん、いらっしゃいー。ってあれ?曜ちゃん、誰?その男の子。」

 

「あれ、千歌ちゃんもしかして覚えてない?」

 

 最初はほわっとした笑顔を浮かべていた千歌だが俺の存在に気づくと一転、不思議そうな表情になり、目を細めながらこちらに近づいてきたかと思うといきなりこちらをじろじろと見つめてきた。

 

「んー、んん?どこかで会ったことがあるような無いような……。んー、あれ?もしかしてゆーくん?うん、やっぱりゆーくんだよね?」

 

 そんな、三年前のことは何も気にしていないかのような、どこまでもマイペースな千歌の姿は三年前から何一つ変わっていなくて。だからこそとても安心させられる。三年前、唯一笑顔で俺を送り出してくれた彼女があの頃のままでいてくれたことは、俺にとって救いとも言えることだったから。だからこそ、彼女に対して多くの言葉は必要ないと思った。

 

「おう。久し振り。元気だったか?」

 

「うわぁ、ホントに久し振りだねー。あ、みんな上がって上がってー。」

 

 お互いに必要以上に懐かしがることはせずに、簡単な挨拶を済ませるとそのまま上がるように促されたのでお邪魔します、と言いながら靴を脱いで上がらせてもらう。と、そこで自分が持っている手荷物はどうしたものかと思案するが、美歌さんが預かってくれると言うので、素直にお言葉に甘えさせて頂くことにする。

 

 そうして通された千歌の部屋。子供の頃はよく四人で集まって遊んだその部屋は、記憶にあるよりも女の子の部屋という感じの内装に様変わりしていて。だけどどこか懐かしさを感じる空間だった。俺は、部屋の真ん中に置いてあるテーブルの横に座りながら口を開いた。

 

「うーん、それにしても千歌は何も変わらないなぁ。なんか安心するわ。」

 

「えー、変わってるよぉ。背が伸びたし、色々できるようになったし、あ!後、昔よりも可愛くなったでしょ?」

 

 自分で言うか、と苦笑しながら改めて彼女を良く見てみると成る程、確かに昔に比べてグッと女性らしくなっているとは思う。最後に会った時はまだ小学生だったし、男顔負けの元気少女だった千歌は俺から見ても男の子みたいだと思わされることが良くあったが、流石に今の彼女を見てそういう感想は抱かない。そういう意味では可愛くなったと言えなくもないが、俺の視線にどうだと言わんばかりに胸を張る彼女はやはり昔のままで、そういう部分が彼女の魅力なんだろうと思う。

 

「いや、やっぱり何も変わってないよ。昔のままだ。」

 

「えー、ひどいよぉー。でもゆーくんはなんか、かっこ良くなったよね。背もすごい伸びてるし。今どれくらいあるの?」

 

 ん、身長か。今現在の正確な値は分からないが、学校で最後に行った身体測定の結果を記憶の底から掘り返す。確か……。

 

「えーっと、今年の一月の時点で176とちょっとだったかな。まだ伸びてるから、今は178位じゃないか?」

 

「178!?すごーい、スポーツ選手みたいだ!」

 

「ユウ、本当に大きくなったよね。三年前は私より小さかったのに、もう抜かされちゃってるんだもん。」

 

「うんうん。昔は身長は私と同じくらいで、顔も女の子みたいな可愛い顔してたのに今じゃすっかり男子って感じだもんね。お陰でバスで見たとき、すぐには分からなかったよ。」

 

 自分ではそこまで変わったと思っていなかったのだが、どうやら三人から見れば大分変わっていたらしい。確かに以前はどちらかというと身長が低めで、容姿も母親に似ていたから昔は良く女の子と間違われたのが、最近ではそんなことは全くなかったし、身長も三年間で約30cm程伸びた。だが、一目見ても分からない程に変わっているだろうか。

 

「不思議そうな顔してるけど、チカの言う通り本当にカッコ良くなってるよ、ユウは。ね、曜もそう思うでしょ?」

 

「うぇっ!?どうしてそこで私に振るの!?う、うーん、まあそうだね。凄く男の子らしくなったとは思う……かな。」

 

「あー、曜ちゃん顔真っ赤ー。もしかして照れてるの?」

 

「て、照れてない!もう、からかわないでよぉ。」

 

 さっきまで俺の話をしていた筈なのに、何を間違えたのかどうやら千歌と果南姉ちゃんが曜をからかう流れになっており、すっかり俺は蚊帳の外だ。女三人寄れば姦しいとはよく言ったものだと、三人の姿を見て思う。だけど本当に良かった。まさか自分がまたこうして彼女たちと笑い合うことができるとは思っていなかったから。いや、もしかしたら彼女たちなら、こうして俺を受け入れてくれると最初から分かっていたからこそ、俺はまたここに戻って来たのかもしれない。そんな相変わらずずる賢い自分が嫌になる。だが、今だけはそういうことを全て投げ捨てて、この温かい、幸せな時間を楽しむのも悪くないんじゃないのかと。そう思った。




はい。というわけで千歌ちゃんち。千歌ちゃんのお母さんの名前はオリジナルです。由来とか特になし。雑に考えて雑に名付けました。

ちょっと一話辺りの密度が薄いかなー、と思いつつも他の作者さん達の文字数を見てこんなものじゃないかとも思ってます。本当はもう一話分くらいの文量をこのお話に詰め込もうかと思ったんですが、思いの外切り良く纏まったのでここで切らせて頂きました。

読み手側としてはその辺どうなんでしょうか?僕は大体一万文字前後が一番読みやすい文量なんですけど、皆さんはどれくらいが読みやすいのでしょうか?

といったところで今回はここまで。それではまた次回!
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