求めていた物はきっと。   作:あくぜろ

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どうも、アニメサンシャイン三周目に突入したあくぜろです。
二周した時点で一周目では気付かなかった事などにも気付けたのはいいのですが、最終回。あれだけは何回見てもやってくれたなって感じです。

元々あまり内容の方には期待しておらず、とりあえず曜ちゃんと梨子ちゃんの動いてる姿が見れればいいや位の気持ちで視聴を始めたアニメサンシャイン。
始めこそそんな気持ちで、それこそギャグアニメ感覚で見ていた僕ですが、四話時点での感想は「あれ、普通に面白いぞ」というものでした。

ノリと勢いで突っ走った感のあった無印に比べてストーリーの出来がよく、CGも綺麗で、この時点ではいい意味で期待を裏切られた形です。

それ以降も十一話、十二話と連続で泣かされたりしたことで最終回にも大いに期待してました。しかしそこで待っていたのはBパートが丸々ミュージカルという悲劇。見事に上げて落とされました。寧ろこれ狙ってやったのでは。花田さんが実は上げて落とすの大好きなサディストって言われたら信じますよ、僕は。

まあライブであのミュージカルやってくれたら少しは見直しますが。

というわけで長くなった前書きは以上です。本編どうぞ!


心の空白

 俺の家族に千歌、曜、果南姉ちゃんの三人を加えた、ちょっとしたパーティーの開始から大体一時間ほど経っただろうか。現在俺は、食べ過ぎてしまったので少し夜風に当たって来ると言って、店舗の二階部分にある自分の部屋を訪れていた。普通に店舗の外に出ても良かったのだが、ここのベランダの方がなんとなく落ち着けるような気がしたのだ。

 

 ざっと部屋の中を見渡せば、東京から俺が宅配便で送っておいた荷物やらが置かれている事によって、部屋の中はかなり散らかった状態になってしまっていることが分かる。

 

 それらを、明日片付ければいいだろうと意識の片隅に追いやり、窓を開けてベランダに出てみれば、初春のまだまだ冷たい夜風が肌を撫で付ける。久し振りの我が家から見る夜空は、東京で見るそれよりもはっきりと星が見えるような気がするが、「もしかしたら東京よりもこっちの方が空気が綺麗だし、明かりも少ないから本当に星の見え方が違うのかも。」などと考えながらベランダの柵に寄りかかって、小さく息を吐き出す。

 

 今朝起きた時は、まさか今日がこんなにも騒がしい一日になるとは思っていなかった。精々向こうを出てくる時に姉さん達が少し騒ぐ程度で、後は何事もなく今日という日が終わり、そしてまた静かで平穏で退屈な日常を送って行くのだと、そう思っていた。

 

 だが、蓋を開けてみればこの騒がしさだ。果南姉ちゃんは昔から変わらず、優しい皆のお姉さんで。千歌も昔と同じように、いつも笑顔を絶やさない愉快な奴で。そして、もう二度と一緒に笑い合うことはないだろうと思っていた曜は、出会い頭に一発殴られはしたものの、最後には笑顔で俺の事を許してくれた。三年前、きっと彼女はとても深く傷ついただろうに、それでも三年間俺の事を心配していたと言ってくれた。

 

 三人ともとても優しくて、魅力溢れる素敵な友人達だ。そしてそんな友人達に囲まれている俺は、心底幸せ者だと思う。

 

 でも、だからこそ。俺にとって、そこはとても温かい場所であると同時にとても居心地の悪い場所(・・・・・・・・・・・)だった。今ここでこうしているのだって、食事を食べ過ぎたからではなく、ただあそこに居たくなくて適当な理由をつけて逃げてきただけだ。そうでもしなければきっと、この輪の中にあって尚冷めきった自分の心を取り繕えなくなってしまっていただろうから。自分がこの集まりの主賓であり、何だかんだで皆自分の為にわざわざ集まってくれていることを理解しているにも拘わらず、あそこから逃げて来ることしかできなかった。

 

 あの輪の中がとても温かい場所であることに間違いは無くて、彼女達はそんな輪の中に俺を受け入れようとしてくれている。それに甘えてあの中に入っていくこと自体はとても簡単で、当面のことだけを考えるならその選択に間違いは無いだろう。

 

 だが、あの場所には温もりはあるかもしれないが、身を焦がすような熱さ(・・)が存在しないのもまた事実だ。あの中にいる彼女達は、その温もりだけで確かな熱を感じているのだろう。だけど俺は違う。温もりだけでは足りない。それだけでは結局、今のように心は冷えきったままだ。そしてこの温度差は何時か、何処かで致命的な食い違いを起こしてしまう。だからこそ、履き違えることは許されない。俺には彼女達と笑い合うことは出来ても、温度を共有することは出来ない。もう二度と、あんな思いはゴメンだ。

 

 だから、俺にはあの輪に触れることは出来ても、内側に入ることは出来ない。許されない。彼女達に、もうこれ以上深入りすべきではない。

 

 耳を済ませば、一階の方から楽しげな笑い声が聞こえてくる。その声を聞くことが、はっきり言って苦痛だ。あの中にいても同じように笑うことが出来ない、同じ熱を感じることの出来ない俺は彼女達とは別の世界の住人なんだと、どこまでも残酷に突き付けられる。そんな音を聴くことが堪らなく辛いのだ。

 

 そして何より皆が楽しんでいる傍らで、そういうことを考えてしまう自分自身が本当に嫌になる。俺もあんな風に普通に笑いたかった。誰かと熱を共有したかった。そんな風に考えてもそれが叶わないことは、この十五年間の人生で身に染みて分かっている。俺に普通の領域で生きるのは無理だと、ずっと前に理解してしまった。

 

 結局、俺は何のために、何をするために生まれて来たのだろう。何をやっても熱くなれない、こんな退屈ばかりの世界で生きている意味があるのだろうか。そんな風に、思考が終わりの無い負の連鎖に陥りかけた所で、不意に背後から肩を叩かれて振り返るとそこには、優しげな笑みを浮かべた果南姉ちゃんが立っていた。

 

「どうしたの?難しそうな顔しちゃって。」

 

 そう言いながら、果南姉ちゃんは俺とは反対側を向き、窓に寄りかかりながら腰を下ろす。俺は立っていて、果南姉ちゃんは座っているという違いこそあるものの、窓を間に挟んで俺と背中合わせになる格好だ。俺は、視線を外に戻しながら答える。

 

「どうもしないよ。ただ星が綺麗だなって思ってただけ。果南姉ちゃんこそどうしたのさ。」

 

「食べ過ぎたー、なんて嘘ついて逃げた誰かさんが気になってね。……その様子だと三年前から何も変わってなさそうだね。寧ろ悪化してるのかな?」

 

 全てを見透かしたような果南姉ちゃんの言葉に、一瞬ドキッとさせられるがすぐに平静を装いながら、軽く笑って答える。

 

「はは、流石果南姉ちゃん。俺が嘘ついて抜け出したの、バレてたんだな。でも、変わって無いってのは何の事さ。さっき言われた通り身長も顔つきも、三年前とは別物だと思うけど。」

 

「そうやって誤魔化さないの。相変わらず目が濁ってるから、バス停で一目見た時からユウがあの頃のままなのは分かってたよ。」

 

 完全に全てを見透かしている様子の果南姉ちゃんの言葉に、そういえば昔から果南姉ちゃんはこういう感情の機微には鋭かったな、と思いながらため息を吐く。本当は隠しておきたかったのだが、バレているのなら仕方ないだろう。

 

「はは、果南姉ちゃんの言う通りだよ。結局俺は去年から、いや三年前に内浦を出て行った時から何も変わって無い。寧ろこの三年間で東京すらもあんな退屈な場所で、どんなことだろうと俺が本気になると、全部つまらなくなるって知っちゃったからなぁ。もうこの世の全てが下らなく見えるんだ。」

 

「でも、その割に去年会った時は少しマシになってたように見えたけど。……もしかしてあの子と何かあったの?」

 

 果南姉ちゃんの言うあの子、というのが誰なのかは言うまでもない。東京で出会った、俺に新しい世界を見せてくれた女の子。そして、とても大切な人だった筈なのに、俺が傷つけてしまった相手だ。

 

 果南姉ちゃんにも去年東京で会った時に、彼女の写真を見せて大切な人だと紹介したから、果南姉ちゃんが誰のことを指しているのかは瞬時に理解できる。だがそれは今、俺が最も触れられたくない事の一つだったため、無意識の内に語調が強くなってしまう。

 

「ごめん、アイツの話はやめてくれないかな。それに関してはまだ自分の中で整理がついていないんだ。未練がましい、ってのは分かってるんだけどね。」

 

「そっか。こっちこそごめんね。少しデリカシーが足りなかったかも。」

 

「別に構わないよ。……そういえばさ、果南姉ちゃんはあの後どうしたんだ?ほら、あの時メールしても返事返って来なかったから心配してたんだよ。」

 

 あの時、果南姉ちゃん達は何か様子が変だった。だから心配になってメールを送ったのだが、今日までそのメールの返事は返ってきていない。何があったのかおおよその察しはついているのだが、確証がある訳ではない。果南姉ちゃん本人の口から真相が聞きたかった。

 

「ああ、ごめんね。こっちもバタバタしててさ、気付いた時にはもう一週間以上経っちゃってたから、今更返すのもって思ってたんだ。」

 

「そっか。所でさ、えっと、小原先輩だっけ?金髪の人。彼女、足は大丈夫だった?歌わなかった理由、それでしょ。」

 

 なんでもハッキリと言う果南姉ちゃんにしては煮え切らない感じだったので、少し卑怯なやり方ではあるが、俺の推測の答え合わせをさせてもらう為、先にこっちに推測を述べてしまう。

 

 そして、ガラス越しに座っている果南姉ちゃんの纏う気配が変わるのを感じると同時に、彼女が言葉を発する。

 

「……驚いた。鞠莉(まり)の足の事、気付いてたんだね。」

 

「ステージに立ったとき、彼女だけ重心が不自然に傾いていたんだよ。どこかを怪我してなきゃああいう傾き方はしないし、注意して見れば、無意識に足をかばっているのがハッキリと分かったから。」

 

 俺がそれだけ言って言葉を切ると、お互いの間に静寂が生まれる。何かを考えているのか、果南姉ちゃんは一言も発さずに黙り込んでいる。

 

 結局お互いが口を開かないまま、一分ほど静寂が続いただろうか。小さく溜め息を吐きながら、果南姉ちゃんが言葉を発する。

 

「臆病風に吹かれただけ、って言っても信じてくれないよね。……そうだよ。あの時、鞠莉の足はとてもじゃないけどダンスなんて出来る状態じゃなかった。なのに鞠莉は、どんなに止めても笑いながら大丈夫って言ったんだよ。でも、あのまま突き進んだら間違いなく取り返しのつかない事態になってた。……だから、歌わなかった。」

 

 そこまで言うと、果南姉ちゃんは再び口を閉ざしてしまう。

 

 こうやって、あの時の事を話し辛そうにしている辺り、きっと何かあったのだろう。だが、こんな風にウジウジしているのは果南姉ちゃんらしくないし、何より俺があの子と揉めたときの状態に似ている。この状態はまずいと思う。

 

 だからこそ俺は、ここで徹底的に彼女の傷口を抉って、あわよくば全てを吐き出させてしまおうと考えた。

 

「そっか。でも小原先輩の足は大丈夫だったとして、本人の歌いたいっていう意思はどうなったのさ?それを無視したにしてもその後は?彼女にちゃんと説明はした?あの人結構意思が強そうだったし、説明なしじゃ納得してくれないと思うんだけど。」

 

 言っている自分自身でも、とても不躾な事を言っているという自覚はある。自分にここまで言う権利が無いことも分かっている。

 

 だけどこれは必要な事だ。ここで俺が憎まれ役になることで、今後どこかで発生する悲劇を回避できるかもしれない。もしかしたら、今俺が干渉したことによって状況が悪化するかもしれないが、その場合でも果南姉ちゃんには『全て俺のせいにする』という逃げ道が生まれる。

 

 そして、このタイプの問題はどうせ放っておけば何時かは暴発する。ならば何もしないのは論外だ。幸い、俺は憎まれたり嫌われることには慣れているし丁度いい。

 

「それにさ、もう一人いたじゃん。黒澤先輩だっけ?あの人の気持ちは?果南姉ちゃんは小原先輩の為を思って歌わなかった。それによって小原先輩の怪我が悪化することは無かった。感情論を抜きにして見れば、その選択は二人にとって正しいのかもしれない。だけど残りの一人は?あの人にも、怪我を押してでもステージに上がった小原先輩と同じように、何か心に期する物があったんじゃないの?」

 

 ここまで言っても尚、果南姉ちゃんは黙ったままだ。本来の想定なら、このタイミングで怒った果南姉ちゃんが全てぶちまけてくれる筈だったのだが、思いの外根の深い問題のようだ。ここまでやっておいてなんだが、これ以上は俺も割りきれなくなって来るのだが仕方がない。そう考えて、果南姉ちゃんの方に振り向きながら、最後の一押しと言わんばかりに言葉を放つ。

 

「あの後どうしたの?多分だけど果南姉ちゃん、二人に何も話してないでしょ。そんな状態で活動を続けられるとは思えないし、結局喧嘩でもしてやめちゃったんでしょ?」

 

 そこまで言った瞬間、右の頬に痛みが走り、乾いた音が響く。わざわざ確認するまでもなく、果南姉ちゃんに頬を張られたのだと分かる。

 

 そして、振り抜いた状態の左手を下ろしながら彼女は口を開く。

 

「いい加減にして。ユウの事だから多分わざとそういう言葉を選んでるんだろうけど、もうそれが分からない程子供じゃないよ。私だって昔とは違う。過去から学んでるんだから。」

 

 そう言われて「なんだ、バレてたのか」と考えながらも思考はどこまでも冷めきっている。そういえば、何かを抱え込みがちな果南姉ちゃんには、前にも一度こういう手段を使って吐き出させたことがあった。つまりはそれを覚えていた、という事だろう。

 

「その割には昔みたいに溜め込んでるみたいだけどね。取り返しのつかないタイミングで爆発する前に吐き出しといた方がいいと思うよ?」

 

「余計なお世話だよ。その人の傷口を平気で抉るやり方、本当に昔から変わらないね。心が痛まないの?」

 

「それでいい方向に向かうなら幾らでもやるさ。幸い嫌われるのには慣れてるし、俺なら一切感情を挟まずにやりきれる。」

 

 そう。他人と熱量を共有できない俺だからこそ、人の気持ちを理解できても共感することは無いと言い切れる。以前の俺なら、場合によっては共感した気になってそこに感情を持ち込んでいただろう。だがこの三年間で俺は、自分が誰かと感覚を共有することは出来ないと学んだ。今現在、目尻にうっすらと涙を浮かべている果南姉ちゃんの姿を見ても冷静でいられることがその証拠だろう。

 

 そして共感することがないなら、後は自分が嫌われることに対する忌避感のみが邪魔になるが、幸い俺は誰かに嫌われるのには慣れている。簡単に言ってしまえば、恐らく俺という人間は誰かの傷口を無理矢理ほじくり返すという行為に高い適性を持っている。そして、それをすることでいい方向に向かうのであれば、適性を持っている人間がやるのが一番だろう。

 

「本当に、随分と悪化してるね。とにかく、もうこれ以上は何を言っても無駄だから。だからこの事についてはもう二度と触れないで。……次は、この程度じゃ済まないかもしれないから。」

 

 ハッキリと言い放たれたその言葉には、この話題に対する明確な拒絶の意思がこもっており、それを感じ取った俺の冷静な部分がこれ以上は無駄だと告げている。

 

「……分かったよ。不快な思いをさせて悪かったね。」

 

「うん。でもまあ、私の為を思ってしてくれたみたいだし、今回は許してあげる。……次は無いからね。」

 

 鋭い視線をこちらに向けながら、果南姉ちゃんが言葉を放って来るが、俺はおどけたように肩を竦めながら答える。

 

「肝に命じておくよ。必要なら容赦なくやるけどね。」

 

 俺が悪びれることなく言葉を返すと、それを受けた果南姉ちゃんは大きくため息を吐いた後、真剣な表情で続けた。

 

「ホントいい性格してるよね……。でもユウ、私はまだいいけど、あの子にはそういうの抜きにしてちゃんと向き合ってあげて。そうやって全部切り離してはぐらかすのは無しで。」

 

「向き合ってやれって誰の事さ?今までこういう事をした相手は果南姉ちゃん位だと思うけど。」

 

「そうやって誤魔化さない。ユウはそうやって冷めてる割に人の気持ちが分かる子だから言われなくても誰の事か分かってるでしょ。」

 

 一度はしらばっくれてみたが、どうやら果南姉ちゃんは既に確信を持って話をしているようで、誤魔化したことがバレてしまった。三年前ならこれで誤魔化されてくれただろうに、果南姉ちゃんは随分とこの手のやり取りが上手くなった。俺はそんな事を考えながら、部屋の中に戻っていく。

 

 話し込んでいたために忘れていたが、俺が下から上がってきてから大分経つ。そろそろ戻らないと、皆に余計な心配をかけることになってしまう。ベランダ用のサンダルを脱ぎながら、果南姉ちゃんに言葉を放つ。

 

「まあ、善処はするけど俺には少し難しいかも。何せこうして話してても、結局冷めきったままだからね。」

 

「それでも、あの子にはきちんと正面から向き合ってあげて。……あの子にはきっと、ユウが必要だから。」

 

 そんな、ふとすれば懇願とも取れるような果南姉ちゃんの言葉を受けながら、無言で部屋から出る。階下から聞こえる笑い声はやはり、あまり心地の良いものでは無かった。

 

 

* * *

 

 

 果南姉ちゃんと二人で話をしてから約一時間が経過した現在。俺は曜と二人で連れ立って、田舎特有の明かりの少ない夜道を歩いている。

 

 なぜこうなったのかといえば答えは単純で、我が家の食事会に招待した三人の内、曜だけは住んでいる場所が逆方向であるためだ。家が同じ方向にある千歌と果南姉ちゃんは、親父が纏めて車で送って行く事になったのだが、家の方向の違う曜も車で送って行くと時間がかかってしまうため、曜は俺が歩いて送って行く事になったのだ。

 

「なんか悪いな。わざわざ来てくれたのに歩かせちまって。」

 

「ううん、別に構わないよ。こうやって優理と二人で歩くのも久し振りだしね。」

 

 曜はそう言って悪戯っぽく笑いながら、俺の数歩前を歩いている。その表情はどこか嬉しそうで、整った彼女の容姿と相まってとても魅力的に見える。こんな俺と一緒でも、どうやら彼女は喜んでくれているらしい。そんな彼女は、ご機嫌な様子のままでこちらに振り向いて問いかけてくる。

 

「ねえ優理、優理はこの三年間、東京で何をしてたの?」

 

 何をしていたか、か。出来れば答えたくないし、適当に誤魔化してしまいたかった。向こうで色々やった結果、結局何もかもつまらなかったなんて言ってしまったら、俺のそういう部分(・・・・・・)に人一倍敏感な彼女はその事をとても気にするだろうから。

 

 しかし、先程釘を刺されてしまったという事実が、俺にその判断を躊躇わせる。確かに俺はあの時、善処すると答えたし、何より俺自身が彼女にはあまり嘘をつきたくない。それが三年前のある出来事による彼女への負い目か、はたまたそれ以前に彼女に抱いていた感情が原因なのかは俺自身にも分からないが、とにかく彼女には事実を伝える事にした。

 

「ん?色々やったぞ。一年の時は姉さんに振り回されてばっかりで、殆ど自分の好きなことなんて出来なかったけど、二年の時はバスケで全中まで行ったし、他にもピアノのコンクールで賞をもらったりもしたな。でも、結局全部退屈だったけどな。一番期待してた学力レベルも結局大したことなかったし、こっちより少し人が多くて騒がしい程度だったよ。」

 

 俺が何の気なしにそう言うと、曜は一度立ち止まって俺の隣に並んでくる。その表情は先程までの笑顔ではなくどこか陰のある表情で、見方によっては何かを恐れるような様子でこちらを見上げている。

 

「何も、無かったの?だって、それじゃあ優理はあの頃と何も……。」

 

「ああ。変わらないさ。何をやっても退屈ばかり、誰も俺を本気にさせてなんかくれやしない。結局今でも俺にとって世界は灰色のままだよ。本当に下らねえ。」

 

 視線を空に向けて吐き捨てるようにそう言うと、曜は何かにうちひしがれたような顔になった後、視線を地に向けてしまった。

 

 ほら見ろ、だから言いたくなかったんだ。彼女は今でもあの時の事を気にしている。誰よりも優しくて、多分誰よりも俺の事を人間扱いしてくれている彼女だから俺がこんな状態でいることが許せないのだろう。そして何より、彼女は俺がこうなってしまったことを自分のせいだと思っている。だから彼女には本当のことを伝えたくなかった。本当の事を伝えたら、彼女はこうして自分を責めてしまうだろうと思っていたから。

 

 ───そして、俺自身もそんな彼女に向き合うのが怖かったから。

 

 そんな俺の胸の内を知ってかは分からないが、曜が視線をこちらに向けながら口を開く。

 

「ねえ優理。私はあの時の事、まだ忘れてないよ。私が優理に言った言葉も、それを聞いた優理がどんな顔をしてたか、今でも覚えてる。だから私ね、頑張ったんだよ?」

 

 気が付けば、俺達はお互いに足を止めていた。そんな中で曜は、まるで何かにすがり付くような視線で言葉を続ける。

 

「私ね、この三年間で色々な事を沢山勉強したし、飛び込みは全日本の強化指定選手にも選ばれたんだ。だからさ、今の私なら優理の世界に色を着けてあげられると思うんだ。……だからお願い。お願いだからそんな、そんな何もかも全部諦めたような言い方をしないで。私を、そんなつまらなそうな目で見ないで!お願い、だから……!」

 

 最後には涙を流しながらこちらにすがり付いてくる彼女を見て、やはりと苦虫を噛み潰したような気分にさせられる。

 

 確かに俺はあの時の曜の言葉で、自分が普通ではない事を確信したし、それ以来全てが退屈で下らないと考えるようになったのは事実だ。しかし、俺がそうなったのはあの時の彼女の言葉があったからではない。それが無くとも、遅かれ早かれ俺はこうなってしまっていただろう。切っ掛けこそ違えど、俺はどこかで必ず自分の異常性に気付いていた。違いがあるとすれば、それが遅いか早いかの違い位だろう。

 

 だけど、今の彼女は自分のその言葉に必要以上の責任を感じて、その責任感に自ら押し潰されてしまっている。そしてそれはきっと、俺が三年前にここには何もないと言って東京に行ってしまった事によって、この三年間蓄積する一方だった筈だ。

 

 その結果彼女は、俺という存在に必要以上に固執して、俺が心の底から彼女を認め、彼女をその責任から解放してやらなければ前に進めない状態になってしまっている。

 

 ───結論から言って。渡辺曜という少女はこの三年間で、人として取り返しの付かないレベルで壊れてしまっていた(・・・・・・・・・)

 

 俺をあの頃の、全てに失望する前の状態に戻さない限り、彼女にとっての努力は全て俺という規格外に並ぶ為だけの物となり、そこに至ることが出来なければ、それらは全て無意味な物となってしまう。そういった類いの、云わば呪いのような物が彼女を何重にも縛り付けてしまっている。そんな状態だ。

 

 だけど俺は自分が普通ではないが故に、自分の胸にすがり付いて涙を流す女の子に、黙って胸を貸すことしか出来なかった。

 

 彼女がこの三年間で必死に努力をであろう事は分かる。二度と会うことがないかもしれないのに、それでも俺の世界に色を着ける為に、俺に並ぼうと本気で努力したのだろう。

 

 だが、それでも俺には分かる。分かってしまう。彼女では足りないと、彼女ではまだ自分の領域に踏み込めていないと、俺の冷静な部分はどこまでも冷酷に、はっきりとその事実を理解してしまっている。

 

 だから、俺は彼女にかける言葉を見つけることが出来なかった。幾ら言葉を探しても、彼女をこの馬鹿げた呪いから解放してやれる言葉が思い付かなくて。

 

 月と星々が照らす夜道には、ただ少女のすすり泣く声だけが響き渡っていた。

 

 




このガキ、一日の内に何回女泣かせてんだよ……。

ラ!の二次創作界隈で、原作キャラにここまで重い設定を付け加えたアホが今だかつていただろうか。恐らく居ないはず。

僕の描写するヒロインは大体こんな感じでどこかぶっ壊れています。
なので、自分の好きなキャラをヒロインにするくせに、その好きなキャラを作品内でぶっ壊すとか言う訳の分からない事になっています。

なぜそんなことをするかと言えば、なんかしらの闇やら地雷要素のないヒロインだと、チョロすぎちゃって書いててつまらないんですよね。そういうヒロインと主人公が向き合うことで心が繋がっていく、その過程で色々なことを仕込めますし、イベントも起こし放題。つまり最強。(謎理論)

今後あまりにひどい事をするつもりはありませんが、世の中舐めてる天才野郎には女性関係だけはハードモードをくれてやろうと思っています。

僕ワンサマとか難聴兄貴みたいな主人公が基本的に嫌いなんですよ。


といったところで今回はここまで。また次回お会いしましょう。それでは。



P,S:今回から文章のフォーマットを少し変えました、それにともなって過去三話の修正を行いました。少し内容も変わっているので、余裕のある方は目を通して頂けると幸いです。
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